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受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
一般財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は,住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から,刑事政策に関する懸賞論文を募集しています。令和元年度の論文題目は「青少年犯罪の予防,罪を犯した青少年の社会復帰における若者の役割について」であり,この題目は,本年4月下旬に開催される京都コングレスに先立つ,京都コングレス・ユースフォーラムのテーマの一つとなっております。論文の募集は令和元年5月に開始され,同年7月31日をもって締め切られました。
応募いただいた論文については,各審査委員による厳正な個別審査を経て,令和元年10月4日に開催された審査委員会で,受賞者が選定されました。その結果は,次のとおりです。
優秀賞(1名) | 本田 廉(国立大学法人旭川医科大学医学部医学科 2年) | |
論文題目 | 「医学生・薬学生による薬物教育プロジェクト導入の利点について」 | |
佳作(3名) | 松井 翼(龍谷大学法学部法律学科 4回生) | |
論文題目 | 「青少年犯罪の予防にみるメンタリング活動の展望」 | |
余語 郁哉(ドイツ連邦共和国ミュンヘン大学大学院法学部修士課程) | ||
論文題目 | 「非行少年の要保護性解消と少年司法におけるダイバージョン─少年法廷の可能性─」 | |
横地 一真(三重大学人文学部 3年) | ||
論文題目 | 「SNSを利用した新しいともだち活動の形」 |
以下に,優秀賞を受賞した論文(全文)及び佳作を受賞した論文(要旨)を掲載いたします。
令和元年度受賞作品
優秀賞 | 「医学生・薬学生による薬物教育プロジェクト導入の利点について(本田 廉)」 |
佳作 | 「青少年犯罪の予防にみるメンタリング活動の展望(松井 翼)」 |
佳作 | 「非行少年の要保護性解消と少年司法におけるダイバージョン─少年法廷の可能性─(余語 郁哉)」 |
佳作 | 「SNSを利用した新しいともだち活動の形(横地 一真)」 |
優 秀 賞
医学生・薬学生による薬物教育プロジェクト導入の利点について
本田 廉
1.はじめに
薬物の乱用は人生に大きな悪影響を及ぼす。例えば,薬物乱用は脳や循環器・呼吸器への障害を引き起こすなど,人体に害をもたらし,死に至る可能性もある。また,薬物を手に入れるために窃盗や詐欺などの犯罪に手を染める他,学業不振による学校中退や労働に対する意欲減退により周囲との人間関係の破壊や社会的な地位を失う恐れもある。さらには,薬物の最たる特徴である「依存性」と「耐性」により,薬物の使用量や回数が増加する悪循環に陥り,自分の意志のみで止めることが難しくなる(1)。現在わが国では,法律により麻薬や覚せい剤などの薬物は原則禁じられており,薬物の所持や製造には厳しい罰則がある。例えば大麻では,輸入や栽培に対して7年以下の懲役,所持や譲渡に対しては5年以下の懲役が科される。しかし,厚生労働省の統計からその検挙数を見てみると,平成19年(15,175人)と比べてわずかに減少はしているものの,平成22年からは14,000人前後で推移している。薬物使用歴について,全国14施設のダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center; DARC)利用者164人を対象とした調査によると,利用者の多くが10代のうちに薬物を経験しており,シンナーなどの有機溶剤は15.2歳,大麻で19.8歳,覚せい剤で20.0歳だった(2)。このことから,好奇心が旺盛で仲間意識が強い10代での薬物使用についての経験の有無が薬物乱用のきっかけであり,現状の青少年の薬物問題を解決するためには,より革新的な薬物教育を導入することで,10代での薬物経験を減少させることが重要であると考えた。
2.青少年の薬物の現状
まずは我が国の青少年の薬物乱用についての現状を確認する。警察庁のデータによると検挙された犯罪少年の推移は,覚せい剤事犯では平成21年に257件だったが,平成25年までに半減し,その後はわずかな増減を繰り返している。大麻事犯では,平成23年〜26年にかけて検挙された少年の数が3桁を割っていたが,平成27年から急激な上昇がみられ,平成30年では429人と大幅に増加しており,特に高校生や有職少年といった学職に関わらず増加傾向が見られる。麻薬事犯では,平成24年ごろから検挙数は10人前後で推移している。最後に,毒物及び劇物取締法違反のうちのシンナー等の摂取・保持により検挙された少年数は平成20年に476人であったのに対して,平成28年で13人,翌29年で9人とここ10年のうちに大きく減少している(3)。3.薬物教育の現状と問題点
薬物乱用防止教育が制度化されたのは1989年の学習指導要領からであり,以来「ダメ,ゼッタイ型」の薬物教育が行われてきた。これは,警察官や麻薬取締官が学校を訪問して,薬物についての知識や薬物依存による身体への害を強調して伝える授業であった。しかし,これでは薬物に対する知識を与えるだけ,もしくは恐怖心を与えるだけの教育になってしまい,子供の危険行動を減らすことへと結びつきにくい。これについては,松本氏の論文を引用すると,薬物乱用防止講演に対する生徒の感想の中で,9割の生徒が理想的・模範的な回答をしたのに対して,1割の生徒は「人に迷惑をかけなければ,薬物で自分がどうなろうとその人の勝手だと思う」という反応を示していることからも明らかである(4)。さらに,彼が行ったインターネット調査の結果では10代・20代の1割が薬物乱用に対して肯定的・容認的な回答をしていたことから,潜在的な薬物乱用ハイリスク群が生徒の中に1割は存在すると結論付けている。一方で,近年では従来の知識普及型の教育から実践型の予防教育が普及し始めている。薬物乱用のきっかけとなりやすい10代は周囲の影響を受けがちなため,どのように仲間からの誘いを断るかロールプレイをするなどの対処スキルを学ぶ実践的な教育が広まりつつある。ここでは,知識だけではなく自分の意思を伝えられる社会スキルを習得することを目標にしている。薬物乱用に関する指導を行っている学校は,平成23年には小中高のすべてで95%を超えており,特に小学校では平成8年(20.4%)と比べて劇的に増加している(5)。しかし,ここ数年の青少年の薬物乱用では,大麻での検挙数の増加がみられる。この要因としては,授業で習う薬物の知識が難しいことや中学生の中にはすでに薬物使用経験がある生徒もいることが挙げられるため,近年の実践型の薬物教育をさらに改善する必要があると私は考えた。
薬物の害については,前提となる自身の身体に関する知識を持たない状況で薬物の種類や症状を教えているため,薬物を使用してどのように身体が変化するかを理解しにくいのではないだろうか。また,飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査(嶋根ら,2016)(6)によると,中学生の段階で全生徒のうち0.5%はいずれかの薬物の経験があることから,薬物乱用防止教育を受ける生徒の中にも薬物の経験がある生徒がいる可能性が高い。しかし,薬物乱用に対する治療を行っている団体があると知る機会は少ない。以上の問題を踏まえて,青少年の薬物に関する問題点に対する解決策として私が提案するのは,「医学生・薬学生が実習の一環として,中学生に薬物教育を行うプログラムをつくる」ことである。(ただし,以後は医学生・薬学生はまとめて医薬学生と呼ぶこととする。)
4.医薬学生が薬物乱用教育をすることで
この授業の利点はまず,中学生に対して,警察官や麻薬取締官ではなく,医薬学生が行うことである。これにより,ヒトの人体に対する知識を伝えることで,自分の身体に対する関心が増すことにより,薬物の身体への害について理解が深まると考える。例えば,東京薬科大学で行われた「小学生に対する薬教育」では,大学生が小学生に理解してもらえるように工夫したテキストやパンフレットの作成を行い,インターネットTV 会議のシステムを用いて,薬理学の教員が大学の実習室でラットにアルコールなどの薬物を作用させるところを生徒に見せるという,小学生でも興味を持ちやすいように工夫した授業を行っていた(7)。次に挙げられる利点は,授業をした経験が乏しい大学生が出前授業をすることで,生徒たちは普段の授業と異なる雰囲気に対して興味を抱くことである。星野氏による教育実習生による授業の指導技術を分析した論文によると,経験が乏しい教育実習生が授業を行ったところ,授業に対する児童のアンケート結果からは,スライド・写真への高評価や教室がいつもと違う,先生の印象から,授業が楽しかったと答える生徒がほとんどだったという結果が得られている(8)。このような感想を踏まえると,警察官や麻薬取締官といった大人が授業をするのではなく,年が近い大学生がすることによって学生に親しみを感じやすくなり,授業に対しても好意的になるのではないか。
最後に挙げられる利点は,薬物乱用患者を治療することを目的としている医薬学生が授業を行うことで,薬物を使用してしまった経験をもつ生徒に対しても治療への手を差し伸べることができる点である。具体的には,医療関係学生が薬物乱用患者への治療を行っている施設や薬物相談窓口などを訪問し,そこで行われている取り組みについて学んでくる。これにより,薬物乱用経験者がどのような対応・治療を受けられるかも生徒との授業の中で説明することができると思う。先ほども述べた通り,薬物乱用教育を受けている中学生の中には,すでに薬物経験をもつ生徒がいてもおかしくはない。そのような彼らに対して,薬物乱用者が受けられる治療などのサポートの実情を説明することは,薬物の依存から抜け出せずにいる若者に治療を通じた更生への手段を示すことができると思う。特に,現状の薬物乱用防止教育では,薬物乱用は犯罪で未然に防止する必要があるという姿勢であり,薬物に対する治療を紹介することは矛盾を抱えてしまいかねない。また,患者の医療情報などのプライバシーの問題から,現状の画一的な薬物乱用教育では取り上げることが難しい。厚生労働省が発行しているパンフレット(1)を見ても,相談窓口機関の一覧が細かく記載されているが,薬物乱用治療者に対してどのような治療をしているかについては記載されてはいない。従って,薬物乱用治療の紹介などの警察官や麻薬取締官が授業で取り上げにくい内容についても取り扱うことができることは,医薬学生が薬物授業を行うことの利点であると考えた。
5.具体的な実習内容の提案について
医薬学生は,プロフェッショナリズムや社会と医療の関わりを学び,倫理観を高めるために,1・2年時に保健福祉現場へ実習に行き早期医療体験をすることが多い。平成19年に自治医科大学が行った調査では,日本全国の80大学医学部(当時)のうち81%が保健福祉現場での実習を導入しており,その導入学年については1学年が49%であった(9)。そこで,この実習に加えて地域の学校をグループごとに訪問して,将来自らが専門家になる薬物についての授業をするのである。全国の医学部・薬学部で行うとすると,医学部は国公私立合計で9,420人(10),薬学部の6年制は国公私立合計で11,502人,4年制では1,538人(11)なので,1学年に医薬学生は22,460人である。仮に1グループ4人(司会,時間管理,写真投影や司会補助で換算)で全国の中学校で出前授業を行うとすると,単純計算で学生側は約5,600グループになり,全国の中学校は平成29年度で学校数が10,325校(12)であるから,1グループで2つの学校を回ることになる。(ただし,この計算はクラスの数などを考慮していないため,実際にどのように割り当てるかは生徒数などを考える必要がある。)
授業の一連の流れは,基本的に文部科学省がホームページで掲載している薬物乱用防止教室推進マニュアル(13)に記載されている防止教育・講演会開催の手順に従い,学生が関われる点で学校と協力して行う。例えば,教務主任や保健主事が主導して医療関係学生と日程やテーマについて企画し,学校側ではあらかじめ保健の授業中に薬物乱用のビデオの鑑賞や当日配布するパンフレットなどの資料や使用する機材を準備する。そして,薬物乱用防止教育実施日に学生と教員で事前の最終確認をしたうえで,教員の補助を受けながら授業を行い,授業後には教員が振り返りなどの事後指導をすることとする。一方で,授業内容については,医療関係の学生らしく人体についての説明から行い,実際に動物実験などをみせることで薬物の害についての理解を深める。また,薬物乱用治療を行っている施設についての説明をすることで,薬物依存に対して治療という手段があることを知ってもらう。
このような授業を行うことについては課題もある。文部科学省が出しているデータをみると,医学部・薬学部が大都市周辺に偏っており,面積が大きく中小規模の学校数が多い地方だけでこの取り組みを行うことは難しい。このため,大都市圏の学生が地方に実習へ行くなど,全国規模での学生の移動が必要になってくる。また,警察官や麻薬取締官といったプロではなく学生が授業を行うため,学校側も生徒の扱いを含めて運営などについては,学生を補助しなくてはならなくなる。加えて,従来の大学生の実習は決まった期間に決まった場所で行われるが,授業を行うとなると学校側との日程調整や施設への取材といった授業外の活動が増えるため,学生にとっても負担が大きくなってしまう。
6.医薬学生が薬物依存についての知識を深めることで
このように,医薬学生が授業をすることは学生に大きな負担となるという課題があるが,学生にとっても利点があるのではないかと考える。教育内容の基幹となる医学生(14)・薬学生(15)のモデル・コア・カリキュラムを見てみると,どちらにも共通して,適切な聴き方や質問により患者の個別的背景を理解し,問題点を把握する能力を獲得することや患者と家族の精神的・身体的苦痛に十分配慮し,患者が抱える問題点を抽出・整理すること,患者情報の守秘義務などが重要視されていた。実際に,医薬学生が生徒へ伝える内容や伝え方について考え,生徒の前で授業をすることで,将来患者さんとの間で必要なコミュニケーション能力を高めることができるのではないか。また,薬物乱用治療施設へ行って,状況を学び,質問をすることで,現場でしかわからない薬物への理解を深め,患者の感情を配慮して適切な質問をする能力を養うことができる。さらに,自身で学んだ内容を踏まえて薬物の授業をすることで,適切な患者の情報の取扱い方に配慮する能力を高めると考える。このような能力を高めた若者が将来の医療関係者になることによって,医療職についたときに薬物乱用者を診察・治療する際には,より患者に親身に寄り添った対応ができるのではないか。このような医療職者を増やすことが薬物乱用者の治療に好影響をあたえ,社会復帰への一歩を助けるのではないだろうか。
おわりに
従来の薬物教育についてみてみると,薬物乱用を未然に防止することに焦点が当てられてきたため,身体への薬物の害を強調した授業が主になってしまい,身体と薬物の関係についての理解や薬物に手を染めてしまった生徒に対するケアは疎かであった。ここで,医薬学生が薬物教育をすることで,より医療に関係する薬物の知識を伝えられるほか,生徒が授業に対して関心を持ちやすいという利点があるはずだ。加えて,授業することで得られた知識や体験は,将来臨床の現場で患者さんを診る際にとても役に立つ経験ではないか。さらに,薬物治療に対して深い理解がある医療関係者を増やすことは,薬物治療のさらなる発展や患者の社会復帰の促進につながると考える。(国立大学法人旭川医科大学医学部医学科2年)
参考文献
- (1) 麻薬・覚醒剤乱用防止運動ポスター 厚生労働省・都道府県 https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/pamphlet_01a.pdf(2019年7月13日閲覧)
- (2) 嶋根卓也,三砂ちづる,近藤恒夫,岩井喜代仁 自助施設を利用する薬物依存者における薬物使用歴について 第15回日本疫学学会学術総会 2005
- (3) 平成30年における少年非行,児童虐待及び子供の性被害の状況 警察庁 http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hikou_gyakutai_sakusyu/H30.pdf(2019年7月13日閲覧)
- (4) 松本俊彦 求められる薬物乱用防止教育とは?〜「ダメ,ゼッタイ」だけではダメ〜
- (5) 内田美宇 現代社会における薬物乱用とその対策について
- (6) 嶋根卓也,大曲めぐみ,北垣邦彦,他 飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査 平成28年度厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業:H27- 医薬A- 一般-001) 2016
- (7) 宮本法子 キャンパスを出た「小学生に対する薬教育」 薬学図書館56(3) pp210-215 2011
- (8) 星野昭彦 教育実習生による授業の指導技術の分析T 千葉大学教育学部研究紀要.第1部23巻 pp123-133 1974
- (9) 地域医療白書第2号 これからの地域医療の流れ 自治医科大学 X地域医療を担う人材育成 1.医学教育の現状 pp127-133 2007
- (10) 大学別医学部入学定員一覧 文部科学省 www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/_icsFiles/afieldfile/2019/01/11/1410521_4.pdf(2019年7月15日閲覧)
- (11) 薬科大学(薬学部)学科別一覧(平成30年度) 文部科学省 www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/_icsFiles/afieldfile/2018/08/08/1352588_5.pdf(2019年7月15日閲覧)
- (12) 文部科学省統計要覧(平成30年度)www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/002b/1403130.htm(2019年7月15日閲覧)
- (13) 薬物乱用防止マニュアル〜教育委員会における取組事例〜 文部科学省 www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/_icsFiles/afieldfile/2018/08/17/1401907_03_1.pdf(2019年7月28日閲覧)
- (14) 医学教育モデル・コア・カリキュラム 平成28年度改訂版 www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/_icsFiles/afieldfile/2017/06/28/1383961_01.pdf(2019年7月14日閲覧)
- (15) 薬学教育モデル・コアカリキュラム- 平成25年度改訂版- 文部科学省 www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/_icsFiles/afieldfile/2015/02/12/1355030_01.pdf(2019年7月15日閲覧)
佳作
青少年犯罪の予防にみるメンタリング活動の展望
松井 翼
要旨
犯罪や非行への国民の関心は高く,そうした世論を受けて,少年法などの厳罰化が繰り返されてきた。しかし,彼らのほとんどは社会に戻ってくる。罪を犯した少年や若者といった青少年が罪を犯さず,社会に復帰し定着するためには,彼らと年齢の近い若者の役割が重要だ。彼らにとっての立ち直りのモデルや相談相手となることは,更生や社会復帰に役立つだろう。そこで,日本においては発展しなかったメンタリング活動の発展を図ることを提起したい。メンタリング活動とは,成熟した年長者と若年者の一対一の関わり合いを指す。日本においてもBBS 会のOne to One 活動がメンタリング活動に当たるとされるが,ほとんど行われていないのが現状だ。しかし,国際的な政策評価グループであるキャンベル共同計画の報告によると,メンタリングには非行防止などに有意にポジティブな効果が確認されており,別の報告では,非行への公的機関の介入は二次的逸脱を招く恐れがあり,より非公式的な介入が望ましい事が示唆されている。その点,メンタリング活動にはラベリングの危険が少ないことからも,保護司との連携を図りながら,積極的に活用していくべきであろう。その際には,従来のように対象を二号観察の少年に限るのではなく,必要であれば一号観察の少年や,若年層をも対象とすることが望ましい。
また,日本でメンタリング活動が発展してこなかったのには,BBS会側の問題もあると考える。実際にBBS 会に所属する筆者の視点からは,活動をいかに楽しく有意義なものにするかに終始し,非行防止という最大の目的に注力できていない活動や会員も少なくないと感じる。それがBBS 会にOne to One 活動を任せられない一因になっているのであれば,BBS 会の意識変革は急務必須だろう。保護司やBBS 会などの若者,さらには社会全体で支え合い,青少年が非行や犯罪に走らずに済む社会を目指さなければならない。
(龍谷大学法学部法律学科4回生)
佳作
非行少年の要保護性解消と少年司法におけるダイバージョン─少年法廷の可能性─
余語 郁哉
要旨
少年非行については,いわゆる「遊び型」犯罪が依然として多数を占めていることや,再犯を重ねるに連れて再犯率が高まることなどが言われているため,軽度や初犯の少年非行に対して有効な対策が求められる。少年法は,少年の可塑性や個別的な問題解決などを理由に,少年に成人の刑事手続とは異なる取扱いを用意し,必要に応じて教育的な働きかけを行う。手続上の保護的措置によって要保護性が解消すれば,保護処分を課すことなく終局することが可能であり,その際,実質的には正規処分に代わる措置を講じることになるため,それにはダイバージョンの機能も内在する。よって,司法的処遇は,非行少年の要保護性解消とダイバージョンの活用という点で意義を持つ。
この点,若者による非行防止や非行少年の立ち直り支援の一環として,いわゆる友達活動が行われている。社会的絆に乏しく,視野狭窄に陥っている少年に他のいくつかの価値観を提示し,ライフチャンスを増やすことは重要であり,モデルロールとしての役割は教育的措置に資するところが大きい。よって,少年司法に係る若者の役割は,非行少年の要保護性解消に見出せる。
それらを踏まえ,本稿では「少年法廷」について検討した。米国で始まったこの施策は,青少年が関与するダイバージョン措置として用いられ,学習理論と社会化という文脈から「仲間」の影響が考慮されている。その上,少年法廷は,一般の青少年の犯罪抑止を図る法教育やコミュニティにおける修復的司法のような政策目的からも評価できる。そこで,我が国では試験観察に実施できる余地があると考え,少年法25条2項3号の活用を拡大することを提案した。すなわち,現在補導委託先として利用されているボランティア団体を活用し,若者という社会資源を取り込むということである。ただし,少年法廷の導入にあたり,我が国の少年法理念に沿った形への修正と少年の不利益性への対処の必要性を指摘した。
(ドイツ連邦共和国ミュンヘン大学大学院法学部修士課程)
佳作
SNSを利用した新しいともだち活動の形
横地 一真
要旨
少年非行の再非行少年率が増加傾向にある日本において,その多くが保護観察処分に付されており,その処分を受けた少年の再処分率は低いものとなっているので,保護観察処分の効果は大きい。その一方で,保護観察処分において主として少年と関わっていく保護司は高齢化が進んでいるため,少年との年齢的ギャップが大きい。また,ネット・メディアの発達により少年達の人間関係に対する意識も変化してきている。そして,LINE を活用したいじめ等の相談窓口の事例である「ひとりで悩まないで@長野」を参考に,SNS を利用したより効果のある新しいともだち活動についての提言を行った。提言内容は,既存の一対一で行われるともだち活動を残しながら,複数人でチームを組んで一人の少年に対してSNS を通じた交流を行なっていくというものである。
この新しいともだち活動による利点は2点ある。
1点目は交流の場所や時間にとらわれない交流が可能になることで,一早い問題の発見が可能になる点だ。保護司は面会を通じて遵守事項が守られているか等の確認を行っているが,少年達と会っていない間に何が起こっているかの把握は難しい。そこで,BBS が中心となって少年と友達のように交流を行う中で問題の芽をいち早く発見し,保護観察内での対応につなげていくことが可能になる。
2点目は少年達が多様な価値観に触れることが可能になることで,人間関係が狭くなりすぎないようにすることが可能になる点だ。メディア等の発達がかえって同質の者との交流のみをかえって強めることになっているのだが,非行少年が新しい人間関係を作るのに必須になる多様な価値観に触れることに慣れることができる。
この新しいともだち活動を取り入れていくことが,少年達がさらに自立し,社会に出ていくことにも,保護観察処分の効果を高めることにもつながると考える。
(三重大学人文学部3年)