日本刑事政策研究会
トップページ > 懸賞論文:最新の受賞作品
受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
 一般財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は、住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から、刑事政策に関する懸賞論文を募集しています。
 令和5年度の論文題目は「犯罪被害者等のための施策の充実に向けた新たな取組について」であり、論文の募集は令和5年5月に開始され、同年8月31日をもって締め切られました。
 応募いただいた論文については、各審査委員による厳正な個別審査を経て、令和5年12月1日に開催された審査委員会で、受賞者が選定されました。その結果は、次のとおりです。
優秀賞(1名) 松井 凛奈(成蹊大学法学部法律学科4年))
論文題目 「ふれあいを重視したDV被害者とその子どもへの新たな支援施策」
佳作(3名) 毛利 英暉(南山大学法学部法律学科3年)
論文題目 「子どもの性犯罪被害の「打ち明けにくさ」とその緩和のための取り組み」
山田 笹来(関西学院大学法学部法律学科4年)
論文題目 「被虐待児童の権利保障と家族再統合に向けた集合住宅型施設の導入」
高嶺 真帆(琉球大学大学院法務研究科法務専攻3年)
論文題目 「ニュージーランドにおけるFamily Group Conference を活用した被害者と加害者(少年)の対話の可能性
─刑の執行段階における心情等聴取・伝達制度の導入を受けて─」
 優秀賞には、当研究会から賞状及び賞金10万円が、読売新聞社から賞状と賞品がそれぞれ授与され、また、佳作には、当研究会から賞状及び賞金5万円が授与されました。
 以下に、優秀賞を受賞した論文(全文)及び佳作を受賞した論文(要旨)を掲載いたします。
令和5年度受賞作品
優秀賞ふれあいを重視したDV被害者とその子どもへの新たな支援施策(松井 凛奈)」
佳作子どもの性犯罪被害の「打ち明けにくさ」とその緩和のための取り組み(毛利 英暉)」
佳作「被虐待児童の権利保障と家族再統合に向けた集合住宅型施設の導入(山田 笹来)」
佳作ニュージーランドにおけるFamily Group Conference を活用した被害者と加害者(少年)の対話の可能性
─刑の執行段階における心情等聴取・伝達制度の導入を受けて─
(高嶺 真帆)」
優秀賞
ふれあいを重視したDV 被害者とその子どもへの新たな支援施策
松井 凜奈
はじめに
 令和5年5月12日、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律(以下、「DV 防止法」という)が成立した。このようにDV(ドメスティック・バイオレンス)に関する法体制は今もなお変化し続けているが、DV 防止法の認知度が低いことに加え1、依然として配偶者からの暴力事案等の検挙件数は高止まり傾向にある2。また、令和2年から流行している新型コロナウイルスの影響により緊急事態宣言が発令されると、DV が深刻化したことが報告されている3。DV は、今なお解決が求められる重大な問題である。
 また、懸念すべき点はさらにある。DV のある家庭に育つ子どもの問題である。子どもの身体への直接的な攻撃がない場合でも、加害者と一緒に暮らす子どもは暴力現場を目撃する可能性が極めて高い4。自分の大切な人が暴力を振るわれている姿を頻繁に目撃する恐怖やストレスによって子どもに与えられる心理的ダメージは深刻であり、様々な影響や症状がもたらされている5
 本稿の目的はこのようなDV の被害者とその子どものために必要な新たな施策を考察するものである。以下では、わが国での被害者支援の現状及びその問題点について紹介・検討した上で(1・2)、ふれあいを重視した新たな施策支援の提案をしたい(3・4)。

1.日本の被害者支援とその問題点
 現在、わが国ではたとえば次のような支援が行われている。
 第一に、婦人相談所による支援である。同所は各都道府県に必ず一つずつ設置されており、DV 防止法に基づく配偶者暴力相談支援センターの機能を担う施設の一つである。一時保護については、婦人相談所が自ら行う又は婦人相談所からの一定の基準を満たすものに委託して行っている6
 第二に、DV 相談プラスである。新型コロナウイルス感染症の流行により、既存のDV 相談対応体制では十分な対応ができない可能性もあることから内閣府が令和2年4月20日に開設した。多様なニーズに対応できるよう、24時間の電話相談対応やWEB 面談対応、SNS やメール相談も行っている。
 第三に、母子生活支援施設による支援である。当施設は、配偶者のいない女性又はそれに準ずる女性と子どもの自立促進のためにその生活を支援している。利用理由で一番多いのはDV であり7、母子を保護するとともに、就労、家庭生活及び児童の教育に関する相談及び助言を行う等の支援を行っている8
 このようにDV 被害者支援は、日々変化を続け、様々な施策がとられているところであるが、なお、問題があるように思われる。
 まず、一つ目の婦人相談所は、一時保護に消極的な点で批判されている。一時保護がなされない理由としては、一時保護決定の基準が明確ではないことや厳しすぎることがあり、具体的にはシェルターネットの過去の調査において、「過去に身体的暴力があった場合でも緊急性がないから一時保護をしない・相談窓口によって対応が大きく異なる場合がある・入所させる方向ではなく拒否の理由を挙げられることが多い」等の情報が寄せられている9。DV 被害を受けて苦しみながらも勇気を持って相談した被害者がこのような状況に立たされてしまうことは問題であろう。他方で婦人相談所において保育士が配置されているのは半数以下にとどまる等、子どもに対する支援が不十分であるため、子どもへの配慮の観点から入所を諦めてしまう例もある10。子どもへの被害が大きいにも拘わらず、このような状況で子どものいる家庭がそれゆえに保護されないのは問題である。この問題は後述する三つ目の問題とも関連する。
 二つ目のDV 相談プラス等の相談窓口は、このような窓口が一本化されていない点に問題があるように思われる。実際に筆者がインターネットで厚生労働省の電話相談窓口を参照したところ、同サイトには7つのダイヤル先が記載されており、一目で自分がどこへ相談することが適切なのかの判断に加え、大まかな相談後の流れや見通しが分かりにくかった。精神的に追い込まれている被害者にとっては、なおさらであろう。これは相談することに対する負担要素の一つになると感じた。
 三つ目の母子生活支援施設は、施設の職員のDV への理解が少ないことから11、母子双方に必要不可欠となるDV から離れる方向へのソーシャルワークができていないという問題を指摘できる。母子が同じ枠組みで安心して生活できるよう、精神的なケアを含めた包括的で総合的な支援が必須となる12
 以上のことを要するに、わが国のDV 支援においては、被害の開示・被害者の保護・被害者の支援の3つの段階でそれぞれ問題が残っているといえる。

2.DV 被害者(隠れた被害者)の見つけにくさ
 令和2年度の内閣府の調査によると、配偶者からDV 被害を受けた人の47.4% が誰にも相談しなかったと回答している13。このようにDV の被害が開示されにくい理由には、次の二つのものが考えられる。第一に、加害者からの精神的支配や、夫婦間の出来事であるからという認識によって、被害者自身がDV 被害を受けていると認識していないことである。実際、令和2年度の内閣府の調査では、平手で打つことや足で蹴る等が暴力に当たらない場合があると回答した理由について「夫婦喧嘩の範囲だと思うから・相手の間違いを正すために必要な場合があると思うから」が上位を占めており、夫婦間の出来事であるという認識によってDV 被害として相談されていないことが明らかになっている14。第二に、DV 被害を受けていても報告できない環境や状況下で暮らしていることである。以下、それぞれ解決のための検討をしてみたい。

3.DV 被害の開示のために
 の問題に対する解決策は二つある。身近な場所ですぐにSOS サインが出せる環境にすることと、相談窓口を分かりやすくすることである。この点について、イギリスのカンブリアにて行われている支援が参考になる。警察が郵便・宅配配達員を動員し、虐待の兆候に目配りをするよう要請する他、加害者が自分の携帯電話をチェックしていることを恐れている女性のために、DV 関連サイトには見えない「Bright Sky」というアプリを普及させ、そのサイトを通じて情報の支援を提供している15。この例を参考に解決策を提案する。
 一つ目の身近なSOS サインは、前者の支援策を参考にする。家に直接訪問することができる郵便・宅配配達員に対して家庭内で行われるDV を発見するための注目すべき箇所を事前に学んでもらうことで、暗数の減少及び早期発見に繋がると考えられる。また、わが国には配偶者暴力相談支援センターの設置はあるものの、相談所へ出向くには少し構えてしまうため、もっと身近なスーパーや商業施設、子どもの送り迎えで利用する幼稚園等に隔週や決まった曜日で配偶者暴力相談支援センターのスタッフ等が出向き、家庭の諸事情に関する相談窓口を提供すべきである。これにより今までよりもっと気軽に些細なことでも相談できるようになるため、案数の減少にも効果があると考えられる。
 二つ目の相談窓口は、後者の支援策を参考にする。まずは、アプリの形にするかはともかく、「どんな些細なことでも相談できる何でも窓口」という年齢性別国籍を問わず、誰でも気軽に迷ったら第一に相談できる大きな窓口を設置すべきである。これにより、被害者の精神状態が深刻な状態であってもすぐに相談できる窓口の判断がつくため、被害が隠れにくくなると考えられる。もちろん窓口を一本化すると逼迫の恐れがあるため、「子ども(18歳以下)用の何でも窓口」「大人用の何でも窓口」という大きな括りで分類し、相談者に寄り添った一目で分かる相談窓口にすることもありうる。また、相談後の大まかな流れも必ず窓口が記載されている箇所に記載し、相談者の負担を少しでも減らすべきである。
 このように日常生活の延長で相談できる体制を作ることにより、人と人がふれあい、横のつながりができるため、DV 被害開示の礎になると思われる。

4.「母子」の支援のために
 被害者の保護・支援の段階においては母子を分離させない支援が重要であるように思われる。現段階では、一定年齢の男児を分離する等の制約がある施設や、そもそも施設の子どもに対する支援が不十分であることから入所を諦める等、子どもが付随的な存在とされ人権が尊重されにくく16、母子が退所後に一緒に生活する未来を見据えた良い支援になっているとは言い難い。この問題に対して交流を重視した支援策を二つ提案する。母子の絆を維持する支援と、子ども食堂の活用である。
 一つ目の支援は、シンガポールの例を参考に検討する。シンガポールは、アジア各国の中でもDV 被害率が10% に満たない国のうちの一つである17。四大民間シェルターのうち三つでは、被害者の子どもが男子であっても、母親に精神面や身体的な面に問題がなければ分離支援せずに母子ともに受け入れており、いずれにもFamily room が準備されて、様々なサポートやイベントを通して支援している18。わが国でも母親がDV 被害によって自尊心が失われ、その影響で子どもは母親を必要としている時にかまってもらえない等、本来親から受けるべき十分な愛情を受けて育っていないことがあるため、この支援を参考に、母子を切り離すことなく支援を行い続けることが最適であると考える。母親に対する支援としては、資格支援や職業提供による社会復帰への手助けと心理面へのアプローチとしてカウンセリングを行う他、自分自身が活躍できる場を提供することによって自信を取り戻させることがあると考える。例としては、子ども達が「自分自身が愛されている・存在している」と実感できるイベントをスタッフとも協力しながら母親達自身が計画していくことである。誕生日やクリスマス、ハロウィン等の大きなイベントに限らず何でもない日もスタッフや母親達の発想次第で何かの記念日にしていくことで、本来の母子の関係をしっかり構築しながら、子どもは母親からたくさんの愛情を受けることができる。また、他人と協力して物事を作ることによって社会性を高めることができる。このことに加えて子どもに対する支援としては、前向きになれるよう自分の考えや感情を母親だけでなくスタッフとも話せる時間を最初は必ず毎日設け、母親の様子も見ながら徐々にスタッフの役割を母親へ移行することで、より良い母子関係に繋げることができると考えられる。そして、このスタッフは当然ながらDV について十分な教育を受けていることが必要である。こうして母子をDV 被害者としてともに支援することで、母子の良い関係性を築きながら自尊心や社会との関わりを作り、自立を助ける環境を整える。このように一時避難所であっても子どもを付随的存在として捉えることなく、同じ枠組みで安心して生活できるよう支援し続けることが、母子にとって最適な環境であると考える。
 さらに二つ目は、退所後の自立を見据えた支援を行うため、こども食堂の活用のような施設外で地域社会との関わりを持てる制度を導入することである。こども食堂等を例にすれば、DV 被害者の子どもとして施設に保護されている子どもが、普段は関わっていない多くの子どもと食や様々なコミュニケーションを通して楽しみながらふれあうことにより、前向きになれるような気持ちの変化や社会性等の教育にも繋がっていくと考えられる。その際には、こども食堂のスタッフがDV に関する知識を学んでおく必要もあるだろう。
 以上二点の解決策は、1の婦人相談所に関する問題で指摘した、支援してもらえないケースに対する解決策と繋がってくる。支援してもらえない政策上の理由が明確ではないため即座に解決することは難しいが、母子を分離させない支援とこども食堂のふれあいを重視した支援を活用することにより、ある程度被害者の集まる場所が定まるため施設数や人件費等の社会資源も抑えられる。そして何よりふれあう機会が多くなることで横のつながりができ、狭い環境だけで自分自身やDV 被害と向き合うことなく母子ともに多くの仲間とふれあいながら一緒に支援を受けられるため、社会性を身に付けられることはもちろん、もし退所後にDV 被害が再発した場合でもDV 被害を伝えやすく、発見しやすい環境で生活できるようになると考えられる。

おわりに
 DV 被害者の支援には「周りの人が被害を見つけること、気楽に相談できる環境にあること、母子ともに支援すること、母子ともに横のつながりを持つこと」が重要であろう。被害者支援は国だけが行うのではなく、みんなで手を差し伸べ、ふれあいながら支えていくことが大切だと考える。多くの人々がDV に関する知識を学び、SOS がすぐに出せる場所を増やし、早期発見のできる環境を作ること、そして、発見後は支援が円滑に受けられるよう様々な機関が連携した上で母子の関係性も重視し、それぞれに最適な支援を提供する必要がある。全てのDV 被害者が一刻も早く平和で幸せな環境で暮らせる日々を目指し、DV 被害者支援政策は進化し続けていくべきである。


(成蹊大学法学部法律学科4年)

    1 内閣府「男女間における暴力に関する調査報告書」(2020) 21頁以下参照。
    2 令和4年度版 犯罪白書 第1編 第1章 第1節 8頁参照。
    3 岡村晴美「連載企画「新型コロナ」から日本の社会を考える 第31回」住民と自治2023年3月号 38頁参照。
    4 ランディ・バンクロフト ジェイ・G・シルバーマン『DV にさらされる子どもたち 新訳版 親としての課題者が家族機能に及ぼす影響』(2022) 48頁参照。
    5 森田ゆり「ドメスティック・バイオレンス家庭に育つ子どもたち インパクトとリカバリー」国立女性教育会館研究ジャーナル (2010) 23頁以下参照。
    6 内閣府男女共同参画局 配偶者からの暴力被害者支援情報「婦人相談所」に関するWebサイトより。https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/02.html
    7 野坂洋子「暴力のある家庭環境で育った子どもへの支援」現代福祉研究 第17巻(2017) 36頁参照。
    8 内閣府男女共同参画局 配偶者からの暴力被害者支援情報「母子生活支援施設」に関するWeb サイトより。https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/ soudankikan/04.html
    9 NPO 法人 全国女性シェルターネット(第23回シンポジウム2020)資料「日本のDV 対策の現状 ここがおかしい。」(2020) 2頁以下参照。
    10 小川真理子 小口恵巳子 柴田美代子「日本とシンガポールにおけるDV 被害を受けた母子への支援と法制度に関する一考察」アジア女性研究 第29号( 2020) 39頁参照。
    11 NPO 法人 DV 防止ながさき 中田慶子「DV 被害を受けた女性や子どもたちに必要な支援─ステップハウスの運営や自立支援事業に関わって─」(2019) 17頁参照。https://www.gender.go.jp/kaigi/kento/shelter/siryo/pdf/2-2.pdf
    12 野坂洋子・前掲注[7] 34頁以下参照。
    13 内閣府・前掲注[1] 33頁以下参照。
    14 内閣府・前掲注[1] 20頁参照。
    15 UN Women 作成の「COVID-19(新型コロナウイルス)女性と女の子に対する暴力」(2020)を参照。  https://www.weps.org/sites/default/files/2020-05/COVID-19%20and%20VAW%20%28japanese%29%20FINAL%20v%2013%20May%202020.pdf
    16 小川真理子ほか・前掲注[10] 37頁以下参照。
    17 北中千里「アジアにおける「ジェンダーに基づく暴力」の実態と対策─アジア・シェルターネットワークによる調査から」国際ジェンダー学会誌 第15巻 (2017)31頁以下参照。
    18 小川真理子・小口恵巳子・柴田美代子「DV 被害を受けた母親と子どもへの支援に関する実証的研究─日本とシンガポールの実績を通して」KFAW 調査研究報告書(2020) 44頁以下参照。

佳作
子どもの性犯罪被害の「打ち明けにくさ」とその緩和のための取り組み
毛利 英暉
 
 我が国では、大手芸能事務所の創業者による男児への性犯罪被害が明らかになり、また、子どもが日常的に通う教育現場での性犯罪被害が連日のように報道されるなど、子どもの性被害への対策や支援が急がれる。一方で、各種の調査を基に我が国の子どもの性犯罪被害の実態を見ると、犯罪化されていない子どもの性被害が相当数存在することが見て取れる。子どもの性犯罪被害が犯罪化されないということは、加害者が罰せられないのみならず、子どもが適切な支援を受ける機会をもたないことにつながり、特に子ども時代の被害はその後の人生に大きな影響を及ぼすものであり、適切な支援へのアクセシビリティを確保することが必須となる。そこで、性犯罪被害児が支援に行き着かない要因として、自己の性犯罪被害の「打ち明けにくさ」の存在があると考える。性犯罪被害者をはじめとして多くの犯罪被害者に共通する被害者であることの社会的な烙印がこの「打ち明けにくさ」の正体であると考え、適切な支援や刑事司法へのアクセスを阻害する社会的な烙印を排除するため、権利教育と包括的性教育の並立実施、性犯罪被害児救済機関の設置を新たな取り組みとして提案する。権利教育と包括的性教育の並立実施により、性犯罪被害児が自己の性被害を打ち明ける心理的な環境を整え、それと共に身近な人に打ち明けられない環境にある性犯罪被害児であっても自己の性被害を自ら打ち明けることができる性犯罪被害児救済機関を設置し、社会的な環境を整えることにより、いかなる状況に置かれていたとしても、性犯罪被害児が自己の性犯罪被害を打ち明け、適切な支援につなげることが期待できる。
 性犯罪被害児が自らの心理的・社会的な課題から自分で適切な支援を受ける途を回避するという現状を重く受け止め、刑事司法・適切な支援へのアクセスを確保できるよう、以上のような取り組みを推進すべきである。

(南山大学法学部法律学科3年)

佳作
被虐待児童の権利保障と家族再統合に向けた集合住宅型施設の導入
山田 笹来
 
 令和4年版犯罪白書によると、児童虐待に係る事件の検挙件数・検挙人員は年々増加し、高止まりしている。また、児童虐待に関する相談件数が増加し続けていることにより、児童相談所の業務は非常にひっ迫している。そのため、被虐待児童が家庭復帰し、家族との生活を再開させる家族再統合までのプロセスでは、まだ十分な被害者支援が行われているとはいえない状況である。また、現状の家族再統合に向けた支援の過程で、被害から回復する権利や元の生活に戻る権利、成長発達権、学習権などの、被虐待児童が有する諸権利が侵害される可能性がある。そこで、被虐待児童の権利保障を図りながら安全な家族再統合に向けての支援を行う「家族再統合施設」の導入を提言する。
 「家族再統合施設」は、家庭復帰を認められた被虐待児童とその家族が入所する集合住宅型の施設であり、ここでは、家族再統合を目指す複数の世帯が生活を送る。「家族再統合施設」では、被虐待児童と保護者の生活が突如再開されることにより生じる問題点を解消するため、主に@医師の定期的な訪問診療およびカウンセラーによる定期的なカウンセリング、A児童福祉司による定期的な指導・面談、B学習指導員による学習補助、C一時保育、D施設スタッフの24時間の常駐による支援を行う。
 「家族再統合施設」における支援は、再被害やネグレクトを防ぎ、もし再被害やネグレクトがあった場合でも迅速な保護が可能であるため、被虐待児童が有する権利を保障することができるという利点がある。また、保護者に対する指導が中心である現状の家族再統合後と異なり、被虐待児童に対しても手厚い支援を行うことができる。そして、これらの支援は居住地である施設内で行うため、保護者が指導を拒否するという問題が解消され、被虐待児童の権利保障をより確かなものとする。

(関西学院大学法学部法律学科4年)

佳作
ニュージーランドにおけるFamily Group Conference を活用した被害者と加害者(少年)の対話の可能性
─刑の執行段階における心情等聴取・伝達制度の導入を受けて─
高嶺 真帆
 
 「刑の執行段階における心情等聴取・伝達制度」が導入されたことにより、申出のあった被害者からその心情等を聴取し、心情等を受刑者等に伝達することが可能となった。さらに、被害者は、心情等を伝達した際の受刑者等の反応を知ることができるため、加害者と被害者との間で一定の意見交換の機会が生まれる可能性がある。
 本稿では、その対象を少年に絞り、意見交換の機会を活かすための方策として、修復的司法の発祥の地であるニュージーランドの「Family Group Conference (以下「FGC」という。)」を取り上げる。FGC 実施の責任を負うのは、子ども庁の職員である少年司法コーディネーターであり、その主な役割は、@被害者とのファーストコンタクトを取ること、A FGC 開催前の被害者支援(被害者の心理的安全性の確保等)、BFGC 開催後の被害者支援(フォローアップ等)、C警察や民間の被害者支援団体等と連携し二次被害を防ぐことである。
 日本においても、こども家庭庁や少年鑑別所の法務教官などをコーディネーターとして養成することで、多様な人材を集め、事案ごとに適切なコーディネーターを配置し、充実した被害者支援を行うことができると考える。日本におけるコーディネーターの役割として、特に重要なのは、対話前後の支援をすること(前述のABに相当)、二次被害を防止すること(前述のCに相当)であろう。具体的には、コーディネーターは、対話の準備段階において、被害者と話し合い、その個別的なニーズに応え、対話後においても、被害者に十分なフォローアップを継続的に行うべきである。また、二次被害防止への配慮は欠かすことができないため、コーディネーターは、被害者支援センター等との連携を図るべきである。
 このように、心情等聴取・伝達制度により、被害者と少年が対話をするニーズが生じた場合に、FGC における被害者支援の経験を活用した制度を構築することが可能ではないだろうか。その対話の機会は、被害者支援に大きく資するものであることから、「被害者の選択肢の一つ」として提案したい。

(琉球大学大学院法務研究科法務専攻3年)