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受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
一般財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は,住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から,刑事政策に関する懸賞論文を募集しています。平成25年度の論文題目は「刑事政策における刑事司法機関と様々な機関・団体との連携・協力」であり,その募集は平成25年5月に開始され,同年8月30日をもって締め切られました。
応募いただいた論文については,各審査委員による厳正な個別審査を経て,平成25年11月21日に開催された審査委員会で,受賞者が選定されました。その結果は,次のとおりです。
優秀賞(1名) | 大屋 未輝(新潟大学大学院保健学研究科博士後期課程1年) | |
論文題目 | 「刑事政策に社会福祉士・精神保健福祉士を 活用した嘱託支援モデルの必要性」 |
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佳作(3名) | 今井 愛美(三重大学人文学部法律経済学科3年) | |
論文題目 | 「非行少年の社会復帰支援に関する諸団体の連携」 | |
ア 真奈(志學館大学法学部法律学科3年) | ||
論文題目 | 「犯罪者の社会内処遇での多機関連携の在り方について」 | |
田内 清香(法政大学大学院法学研究科法律学専攻修士課程 2年) | ||
論文題目 | 「高齢犯罪者に対する検察の被疑事件の処理段階 における検察と社会福祉法人との連携の提唱」 |
以下に,優秀賞を受賞した論文(全文)及び佳作の論文(要旨)を掲載いたします。
平成25年度受賞作品
優秀賞 | 「刑事政策に社会福祉士・精神保健福祉士を活用した嘱託支援モデルの必要性(大屋 未輝)」 |
佳作 | 「非行少年の社会復帰支援に関する諸団体の連携(今井 愛美)」 |
佳作 | 「犯罪者の社会内処遇での多機関連携の在り方について(ア 真奈)」 |
佳作 | 「高齢犯罪者に対する検察の被疑事件の処理段階における検察と社会福祉法人との連携の提唱 (田内 清香)」 |
優 秀 賞
刑事政策に社会福祉士・精神保健福祉士を
活用した嘱託支援モデルの必要性
活用した嘱託支援モデルの必要性
大屋 未輝
はじめに
近年,罪を犯した者の中には,高齢・障害の問題を抱えた対象者(以下「対象者」という。)が増加しており,疾病が重複した事例も存在している。また,医療・保健・福祉領域のニーズが必要な対象者が存在していながらも,刑事政策上,これを十分に担う専門職が配置されているとは言えない状況にある。本稿では,現時点の刑事政策をより機能的にするために医療・保健・福祉の専門職(以下「社会福祉士及び精神保健福祉士」という。)を幅広く導入する「刑事政策に社会福祉士・精神保健福祉士を活用した嘱託支援モデル」(末尾添付資料参照,以下「支援モデル」という。)を考案し,円滑な支援体制の構築に焦点化しつつ,刑事政策の中に医療・保健・福祉の必要性を踏まえて考察していくこととする。
第1節.なぜ,今,刑事政策に医療・保健・福祉の視点が必要なのか
まず,第1節では,平成24年版犯罪白書1)のデータを「引用」して,以下の日本の刑事政策上の対象者の実態について考察し,刑事政策の中の医療・保健・福祉の必要性について述べる。刑法犯の検挙数は,平成16年の128万9,416人をピークに平成17年から減少傾向にある。平成23年の検挙人員は98万6,068人である。一般刑法犯の検挙人員の年齢層別構成を見てみると,平成23年は60歳以上が7万83人,65歳以上が4万8,637人を占めている。平成4年と平成23年の一般刑法犯検挙人員の人口比率を年齢層別に考察すると,65歳以上の高齢者の人口比の伸びは約6.3倍となっており,高齢者による犯罪者の人口比の伸びは明らかであるといえる。一方,平成23年の一般刑法犯の検挙人員総数30万5,631人のうち,精神障害者及びその疑いのある者は3,091人である。罪名別で見ると検挙人員総数中に占める精神障害者及びその疑いのある者の比率は放火22.4%,殺人14.3%であった。これは一般刑法犯の全体からも軽視できない状況である。また,平成23年度の入所受刑者2万5,499人のうち,精神障害を有すると診断された者は2,485人(9.7%)である。この内訳は知的障害272人(1.1%)・神経症性障害502人(2.0%)その他の精神障害1,711人(6.7%)である。
平成23年度末,厚生労働省社会・援護局は高齢・障害による支援が必要な対象者について矯正施設の退所後,直ちに障害福祉サービス等へつなげるために,地域生活定着支援センターを47都道府県全てに設置している。平成21年度から,矯正施設入所中から退所後まで相談支援を行う等,地域生活定着支援事業(24年度において,地域生活定着促進事業)が実施され,対象者が矯正施設を退所した後,障害福祉サービス等を適切に受けられる様にコーディネイトが提供されてきている。しかし,これらの支援にも課題が存在している。地域生活定着支援センターは矯正施設の退所後,帰住地等がある一般調整と帰住地等のない特別調整を区別して,都道府県によっては特別調整を優先しており,全ての対象者に必要な支援が行き届いていない可能性について懸念される。
今後,対象者の支援については,幅広い協働・連携を基に漏れなく実施していくことが求められている。この担い手としては,昨今,矯正施設・保護観察所にも採用されている社会福祉士及び精神保健福祉士が適切ではないかと考える。
第2節.社会福祉士・精神保健福祉士とはいかなる専門職なのか
第2節では,第1節で挙げた,社会福祉士及び精神保健福祉士について,それぞれ,いかなる専門職であるのか,これらを法的に位置づける社会福祉士及び介護福祉士法,精神保健福祉士法の視点から述べる。社会福祉士とは,昭和62年に制定された社会福祉士及び介護福祉士法に基づいた国家資格である。同法の第2条には,社会福祉士の定義として,同法の第28条の登録を受け,社会福祉士の名称を用いて,専門的知識及び技術をもつて,身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むことに支障がある者の福祉に関する相談に応じ,助言,指導,福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者(第47条において福祉サービス関係者等という。)との連絡及び調整その他の援助を行うこと(第7条及び第47条の2において相談援助という。)を業とする者として定義されている。社団法人日本社会福祉士会によると,平成25年3月末の時点で,全国には16万612人の社会福祉士が登録されており,47都道府県に設置される社会福祉士会には3万5,140人の社会福祉士が在籍していることが報告2)されている。
一方,精神保健福祉士とは,平成9年に制定された精神保健福祉士法に基づいた国家資格である。同法の第2条には,精神保健福祉士の定義として,精神保健福祉士とは,第28条の登録を受け,精神保健福祉士の名称を用いて,精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって,精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け,又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律平成17年法律第123号第5条第17項に規定する地域相談支援をいう。第41条第1項において同じ。)の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ,助言,指導,日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うこと(相談援助という。)を業とする者として定義されている。公益社団法人日本精神保健福祉士協会によると,平成25年3月末の時点で,全国には5万8,770人の精神保健福祉士が登録されており,1県を除く,46都道府県に公益社団法人日本精神保健福祉士協会の支部が存在しており9,035人の精神保健福祉士が在籍していることが報告3)されている。
第3節.社会福祉士・精神保健福祉士の嘱託支援モデルの導入について
第3節では,第2節で挙げた社会福祉士及び精神保健福祉士について,刑事政策の中で専門職として位置づけ,どのように支援展開させていくのか,近年,推進されてきている刑事司法制度の改革の概要について刑事政策の5つの領域から述べる。第1に犯罪発生の領域,第2に捜査・処理の領域,第3に裁判・審判の領域,第4に矯正の領域,第5に更生保護の領域とする。第1の犯罪発生,第2の捜査・処理において,この段階から社会福祉士及び精神保健福祉士が対象者のアセスメントを実施していくことが必要である。アセスメントの方法は2001年,世界保健機関(WHO)が出した国際生活機能分類(International Classification of Functioning Disability and Health: ICF)が適切であると考える4)。国際的に標準化された生活機能分類を基に対象者の障害の状態をアセスメントすることによりこの領域の支援が的確に実施でき,他の領域・他の地域との連携を標準化できる利点があると考えられる。このアセスメントの存在は,警察の逮捕時点・検察送致後,対象者を理解する上でも有効と考えられる。現状では,警察官や検察官の行う取り調べの際に障害特性を理解する上で,個別に応じた配慮が十分に提供されることは難しい状況にある5)。このため,犯罪発生時点の対象者の状態を理解する上で早期に社会福祉士及び精神保健福祉士が介入して,アセスメントを基に評価していくことは,刑事訴訟法の手続きをより適正に行う上で機能的な役割を果たすものと考えられる。
第3の裁判・審判では,平成21年5月から実施されている裁判員制度では,裁判員が対象者の障害特性を理解した上で量刑を判断していく必要がある。裁判員となる一般市民が公判中の限られた時間の中で医療・保健・福祉の専門用語や障害特性を理解することは困難な点が多いと考えられる。必要に応じた公判中の対象者のコミュニケーションを確保するためにも,社会福祉士及び精神保健福祉士を通訳機能として介入させていくことは,有効的な支援になると考えられる。一方,不起訴処分(刑法第39条第1項・第2項)に付された対象者は,その後移行する可能性のある,平成17年7月より施行されている心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下「医療観察法」という。)では,裁判所の鑑定入院命令(第31条第1項)により鑑定入院に至る6)。第1の犯罪発生及び第2の捜査・処理の段階から,社会福祉士及び精神保健福祉士がICFのアセスメント・評価を行うことで,その結果が継続的に利用できることとなる。
第4の矯正,第5の更生保護においては,前述のとおり,既に社会福祉士及び精神保健福祉士の有資格者が配置されている実態もある。しかし,未だ非常勤の配置や限られた領域の配置である。矯正施設のプログラムの実施・評価や保護観察の更生支援は,今後より一層,臨床現場に従事している社会福祉士及び精神保健福祉士との協働が望まれる。たとえば,医療観察法の指定医療機関等で活用されている共通評価項目(5カテゴリー17項目の構造化された評価),地域関係者との間で開催されるケア会議(Care Program Approach),緊急時の対応を計画する危機介入プラン(Crisis Plan),認知行動療法のセルフモニタリング(Self Monitoring),物質使用障害予防プログラム(Substance Use Disorder Prevention Program)等7),これらの支援メニューを対象者へ柔軟に一般化させることで,第4の矯正,第5の更生保護の領域においても他機関と協働型の手厚い支援計画の立案が実現するものと考えられる。
この施策を実施する具体案は,前述の社団法人日本社会福士会や公益社団法人日本精神保健福祉士協会との連携・協力が不可欠になる。双方の団体には,各都道府県の協会及び支部が存在しており,これらを有効活用していくことが望ましい。第2節では,平成25年3月末現在では,社会福祉士3万5,140人が47都道府県の社会福祉会に,精神保健福祉士9,035人が,1県を除く各都道府県の協会及び支部に在籍していることを述べたが,これらの人材を柔軟に導入することで,各領域において臨機応変,臨床現場で培った経験・技術を刑事政策の中に活かすことができるのではないかと考えられる。
第4節.期待される効果と課題
第4節では,第3節で挙げた,社会福祉士及び精神保健福祉士が具体的に介入した場合における,その効果と課題について述べる。筆者が考案した支援モデルを実施したと仮定すると3つの視点で効果を見込むことができる。1つ目は,臨床現場に従事する社会福祉士及び精神保健福祉士を刑事政策に活用(相談援助)することにより,既存の障害福祉サービス等の受給調整を行うだけに止まらず,刑事政策の入口から出口までの期間に障害特性や個別性に応じた支援計画等7)が具体的に立案される。事件発生・捜査段階から検討・作成されることで,刑事施策のいずれの段階においても重要な資料となる。また,これらは,将来的に各地域の福祉サービス関係者等(例:指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設・相談支援事業者)が介入する際,共通理解を促す情報ツールとなるため,地域生活定着支援センターの介入の有無に関わらず,切れ目なく円滑に障害福祉サービス等の利用計画の作成,地域生活への移行に向けた支援が実現できると考えられる。
2つ目は,医療・保健・福祉との連携構築が全国的に明確化できるということである。医療・保健・福祉の領域は幅広いため,柔軟に他機関と連携していくことは容易ではない。しかし,社団法人日本社会福士会や公益社団法人日本精神保健福祉士協会と協働することにより,幅広い臨床現場に属する社会福祉士及び精神保健福祉士を広域に活用することが刑事政策上,可能となる。また,対象者の居住地・住所地・現在地に応じて,刑事施策上,既に採用されている社会福祉士及び精神保健福祉士や地域生活定着支援センター,各地域の福祉サービス関係者等(例:指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設・相談支援事業者)との新たな支援体制を広範囲に運用していくことが可能になると考えられる。
3つ目は,社会福祉士及び精神保健福祉士を嘱託することで,刑事政策を運営する法務省の費用面及び,対象者の人権擁護に対しても配慮することができる可能性がある。2つ目と同様,幅広い専門職を広域に活用することを想定すると,莫大な予算措置が必要となる。しかし,嘱託することにより,これらが現実的な施策となる。また,社会福祉士及び精神保健福祉士が刑事政策の支援を行う上では,職業倫理として人権擁護に配慮することは当然の義務であり,あえて嘱託という立場で介入することにより,この領域での支援の中立性を保つことができると考えられる。
一方で刑事政策上,外部から社会福祉士及び精神保健福祉士を導入することで課題も挙げられる。1つ目は,社会福祉士及び精神保健福祉士の全てが司法領域の支援を提供できるわけではないということである。特に刑事政策に関しては,今後,積極的に学習する機会が必要であり,刑事政策に通じた医療・保健・福祉の専門職の人材育成について検討していく必要がある。2つ目は,刑事政策の支援に介入する上で,事前の同意や承諾・費用弁償についてどの程度協議されていくのかが課題である。実際に支援モデルで示した形式で社会福祉士及び精神保健福祉士が介入すると,早急にこの問題について明確化されることが前提となる。また,双方の団体から理解を得られたとしても,各都道府県協会・支部の間で合意が得られるとは限らず,医療・保健・福祉の臨床現場の職務と併せて,嘱託を請け負うことを想定すると,勤務する所属先の許可を含め,現実的に課題も多く存在している。
むすび
本稿では,日本の刑事政策の課題である犯罪者の高齢化,障害を抱える者に対する新たな施策として,社会福祉士及び精神保健福祉士を活用した嘱託支援モデルの必要性について述べた。このような取組は,これからの刑事政策の改革に不可欠な視点であり,より円滑な手続き・処遇を行う上で対象者に応じた適材適所,外部の専門職を導入していくことが有効的ではないかと考えられる。しかしながら,今回示した支援モデルの実施には,前述のとおり,課題も多く,これらについては早急に刑事政策を管轄する法務省と,医療・保健・福祉行政を管轄する厚生労働省が積極的に連携して,双方の現場レベルでの人材交流・嘱託支援が柔軟に行われるような,協働型のシステム構築を模索していく必要があるのではないかと考えられる。- 1)法務省法務総合研究所編。「平成24年版犯罪白書─刑務所出所等の社会復帰支援─」。6〜8頁。165〜167頁。171〜173頁。210頁
- 2)社団法人日本社会福祉士会。(http://www.jacsw.or.jp)
- 3)公益社団法人日本精神保健福祉士会。(http://www.japsw.or.jp)
- 4)近藤克則著。「テキスト医療・福祉マネジメント」。ミネルヴァ書房。11〜22頁
- 5)内田扶喜子。谷村慎介。原田和明。水藤昌彦。「罪を犯した知的障がいのある人の弁護と支援─司法と福祉の協働実践─」。現代人文社。99〜106頁
- 6)社団法人日本精神科病院協会/財団法人精神・神経科学振興財団.「司法精神医療等の人材養成研修会教材集」。96〜99頁。319〜329頁。394〜397頁。525頁。
- 7)一般社団法人支援の三角点設置研究会。「障害者地域支援相談支援のためのガイドライン第2版─申請から退院までの支援の流れが分かる事例集」。独立行政法人福祉医療機構社会福祉振興助成事業。17〜22頁。27〜32頁。37〜43頁
(新潟大学大学院保健学研究科博士後期課程1年)
佳作
非行少年の社会復帰支援に関する諸団体の連携
今井 愛美
要旨
現在少年院に在院し,出院を控えた少年の96.8%が,「出院後は仕事や学業を行い,規則正しい生活を送りたい」と考えている一方で,非行時の少年の職業について最も多いのは学生・生徒ではない無職者である。また,少年院仮退院者の再処分率は,無職者が有職者に比して高いことから,少年院を出院するまでに少年の就労先を確保することが重要である。そこで,本論文では非行少年の社会復帰に必要な就労確保のために,矯正施設に対して他の団体が行うべき支援について提言を行った。非行少年の社会復帰に関しては現在,法務省と厚生労働省が共同で開始した刑務所出所者等総合的就労支援対策を基に,少年院では職業相談や協力雇用主制度の活用等が,非行少年を入所対象者とする沼田町就業支援センターでは就農支援実習等が行われている。しかし,現行の就労支援には施設間の連携不足や支援内容及び支援対象が限定的である等の問題が存在する。この点について,スウェーデンのKRAMIプロジェクトでは,日本と異なり生活全体を支援内容とした親族以外の複数の第三者による支援活動が行われていることから,日本にもおいても支援内容の拡大や支援者の多様化・複数化を図る必要がある。
そこで,非行少年の社会復帰のためには沼田町就業支援センターのような非行少年を対象とし,生活全体を支援する就業支援センターの全国展開が必要であると考えられるが,現在の日本の財政状況では困難である。そこで,矯正施設に代わって民間団体が就業支援センターの設立を担うことを提案した。また,センターは少年に対し就業支援実習や復学・進学支援を行うほか,地域のボランティア団体や保護観察所,協力雇用主等との連携を深め,地域住民へ非行少年やセンターについての理解の促進を図ることも必要である。このように全国的に出院後の少年を支援するセンターが展開することは,再犯率の低下に効果があると考える。
(三重大学人文学部法律経済学科3年)
佳作
犯罪者の社会内処遇での多機関連携の在り方について
ア 真奈
要旨
本稿では,保護観察など犯罪者の社会内処遇における多機関連携の在り方について,類縁の医療観察制度,要保護児童対策地域協議会などとともに論考する。わが国のこれらの制度と,英国の多機関公衆保護協定(MAPPA)とよばれる多機関連携の推進組織とを比較すると,犯罪者の社会内処遇における多機関連携を進める上で重要な点は次の4点であるだろう。すなわち@多機関連携が必要なケースについて必ず十分な形で行われるように,対象の範囲,連携調整機関,要請に基づき参加すべき機関,連携の方法等について明確に法令で規定すること,A個別事案の指導,処遇に係る多機関連携を幅広い機関の参加に基づいたものとするために,関係機関の代表者又は実務者による全体的な連絡会議を開催すること,B保護観察等の指導監督期間終了後の対応として,特に市民レベルでの再犯防止の介入が多機関の専門職員によって促され,支援されていくこと,C必要な対象犯罪者に対し必要な方法によって適切に多機関連携による処遇が行われているかどうかについて見守る第三者委員会による評価の仕組みを整備することである。このうち,Bの指導監督期間終了後の再犯防止の継続は,わが国の犯罪者の再犯防止施策の上で特に大きな課題である。これについてもMAPPAの枠組みの中で取り入れられているCOSA(支援と責任のサークル)の活動から示唆を得ることができる。性犯罪者の再犯防止を地域の一般の人々がボランティアとして加わり,支える試みであるCOSAは,そのボランティアを専門職員がサポートして,責任ある性犯罪者の再犯防止の体制がとられている。日本においても,保護司など一般市民が関わる犯罪者の更生保護に専門職員が永続的に一定の関与を行う仕組みを作ることで,刑事手続から離れても一般の人間関係の中で結果として再犯防止が図られることになる。よって,そこまでを含んだ多機関連携の形が必要であると思われる。
(志學館大学法学部法律学科3年)
佳作
高齢犯罪者に対する検察の被疑事件の処理段階
における検察と社会福祉法人との連携の提唱
における検察と社会福祉法人との連携の提唱
田内 清香
要旨
高齢者犯罪は増加の一途を辿っており,早期の対策が必要である。高齢犯罪者の多くは軽微な財産犯であり,そのうち,初犯者については,起訴猶予などの措置による事件処理がなされる場合が多いが,それだけでは,生活の困窮を起因とする再犯の防止にはならない。そのため,検察の被疑事件の処理段階において,高齢財産犯の初犯者の場合には,事件の軽微などだけで判断せずに,非行少年と同様に要保護性に着目し,従来の起訴猶予よりも,高齢犯罪者の環境調整を講ずる必要性がある。この環境調整を行う機関を検察と民間の社会福祉法人との連携によって実現することを提言する。そもそも,検察による起訴猶予処分とは,起訴便宜主義ともいう。起訴便宜主義の意義の中には,わが国の検察官の職務に,刑事政策的配慮が求められている。そうだとすると,軽微な高齢財産犯を対象とする検察の被疑事件の処理段階における刑事政策的な配慮を踏まえた対策には,社会福祉法人との連携が考えられる。これは,検察と連携した社会福祉法人が,被疑事件の処理段階における起訴猶予処分前に,検察からの依頼を受け,高齢犯罪者の必要な環境調整を行い,その後に,検察官が犯罪後の情況たる環境の変化を考慮したうえで,高齢犯罪者を起訴猶予処分として釈放することである。
検察の被疑事件の処理段階において,検察と関係機関たる社会福祉法人との連携が図られることは,高齢犯罪者を個別的な社会内処遇へと導くことができ,社会復帰が促進され,改善更生が果たされることになる。そのため,新たな高齢者犯罪対策として,この連携が早期に検討・導入されることが望まれる。
(法政大学大学院法学研究科法律学専攻修士課程 2年)