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受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は,住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から,刑事政策に関する懸賞論文を募集しています。平成24年度の論文題目は「刑事司法上の資源の適正な配分と効果的な刑事政策の実現」であり,その募集は平成24年6月に開始され,同年8月末日をもって締め切られました。
応募いただいた論文については,各審査委員による厳正な個別審査を経て,平成24年11月7日に開催された審査委員会で,受賞者が選定されました。その結果は,次のとおりです。
佳作(4名) | 丸山 恭司(関西学院大学大学院経営戦略研究科先端マネジメント専攻博士課程後期課程 2年) | |
論文題目 | 「民との協働としてのPFI刑務所 VFM向上に向けた提言」 | |
ア 真奈(志學館大学法学部法律学科 2年) | ||
論文題目 | 「効率的刑事司法実現の条件」 | |
田内 清香(法政大学大学院法学研究科法律学専攻修士課程 1年) | ||
論文題目 | 「新たな刑事司法制度として社会奉仕命令の提言」 | |
野尻 仁将(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程) | ||
論文題目 | 「拘禁代替手段としての非拘禁的措置による「適正化」」 |
以下に,佳作を受賞した論文(要旨)を掲載いたします。
平成24年度受賞作品
佳作 | 「民との協働としてのPFI刑務所 VFM向上に向けた提言(丸山 恭司)」 |
佳作 | 「効率的刑事司法実現の条件(ア 真奈)」 |
佳作 | 「新たな刑事司法制度として社会奉仕命令の提言(田内 清香)」 |
佳作 | 「拘禁代替手段としての非拘禁的措置による「適正化」(野尻 仁将)」 |
佳作
民との協働としてのPFI刑務所
VFM向上に向けた提言
VFM向上に向けた提言
丸山 恭司
要旨
わが国には,民間事業者が運営に関与するPFI刑務所が4カ所ある。その中には,電子タグによる監視で施設内独歩を認めるなど開放的処遇を実現し,地域社会と連携し,被収容者の社会復帰に向け先駆的に取り組んでいる。しかし,PFI刑務所の運営には,平成21年に会計検査院から給食費の算定で指摘を受けたように公民連携が求められるPFI事業の性格に起因する課題が浮き彫りとなっている。わが国に先行しPFI刑務所を設置した英国では,英国会計検査院がPFI刑務所を検証し,さらなる改善に向け「精緻な業績評価基準による評価」と「ベスト・プラクティスの水平展開」を求めている。さらに,PFI刑務所に独立の専門官を常駐させ強力なモニタリングを実施し,その結果を4段階にランク付けして公表し,モニタリング結果の有効活用を図っている。これに対し,わが国では,刑事施設ごとに刑事施設視察委員会が設置されているものの,被収容者の処遇改善に関する意見がほとんどで刑務所全体のマネジメントまで意見が及んでいない。
PFIでは,VFM,つまり「支払に対して最も価値の高いサービスを供給する」ことが求められ,そのためには要求水準,モニタリング及び支払メカニズムが確実に連動しなければならない。また,モニタリングには,財源と成果(アウトカム)に関連させた分析が不可欠である。財源とアウトカムは,インプット,プロセス及びアウトプットで連関し,経済性,効率性,達成度及び有効性で分析される各指標で客観的に測定されねばならない。
わが国の刑務所は,世界的にも少人数で運営され,事故件数は少なく,優れた施設運営を行っている。今後は,英国での経験を参考に刑務所運営の各プロセスについて業績指標を導入し,各指標を独立した専門家が検査し,PFI刑務所間の差異を把握し,改善点は底上げを図り,良い実践の水平展開を図ることが期待される。
(関西学院大学大学院経営戦略研究科先端マネジメント専攻博士課程後期課程 2年)
佳作
効率的刑事司法実現の条件
ア 真奈
要旨
より低コストで合理的な刑事政策制度の実現を図るために,刑事司法制度が一般の社会制度に連動していることが重要であり,そのことが特定の犯罪者に限らず刑事司法制度全般にわたるとともに,犯罪者自身においても主体的に問題解決に取り組むような仕組みが重要であると思う。そのあり方を検討したい。まず,一般の社会制度に連動した刑事司法制度の例として「医療観察制度」と「高齢障害受刑者支援」の二つの制度を挙げる。効率的刑事司法制度の実現のためにはこれら二つの施策の場合に「心神喪失等の触法者」,「高齢障害者」が対象として限られているところを,対象を拡大して,可能な限り広い範囲の犯罪者について,社会復帰に役立つ既存制度につなぐ作用を刑事司法制度の中で確立していくということが必要である。そのために必要な条件をまとめると次のようになる。(ア)刑事司法手続きに再犯防止の観点を明確化し,刑罰に加え一般制度への橋渡しを中心として再犯防止のために向かうことを促す働きを制度の中に確立する。(イ)犯罪前歴者の問題に対応するための機関,団体が十分でない場合に省庁が連携してその増設,振興策を講じることを義務化する。(ウ)一般制度(医療機関・自助組織)に橋渡しする際に,その動機付けを高めるため,矯正施設・保護観察所が独自にプログラムを導入することも必要である。
次に,犯罪者が既存の社会制度を活用して,再犯を回避しながら生活するためにも,そのための主体的取組みを促す制度となっている必要がある。そのためには,主体的アイデンティティの獲得を促す形が望ましいと考えられる。現在,国会で審議されている社会貢献活動の導入も,犯罪者の主体性を喚起する用具とし得る可能性があり,受刑者側等の提案を受け入れるような形で主体性を喚起する仕組みを作ることも一法ではないかと思われる。
(志學館大学法学部法律学科 2年)
佳作
新たな刑事司法制度として社会奉仕命令の提言
田内 清香
要旨
日本の財政状況は,深刻な状態が続いている。加えて,刑事施設の既決者の収容率も高水準を保ち,刑事施設の過剰収容は改善するに至っていない。そのため,刑事司法制度側から,これらの現状を打破する新たな司法制度として社会奉仕命令を提言する。社会奉仕命令は,自由の時間の剥奪と作業の義務という刑罰における制裁・応報としての機能と,犯罪者の改善更生を通じて社会復帰を図るという予防・処遇としての機能がある。また,諸外国でも社会奉仕命令が導入され,その目的は,(1)拘禁刑の弊害の回避,(2)刑事施設の経費削減,(3)過剰収容の緩和等である。
現在,日本では,刑事制裁としての社会奉仕命令は存在していないが,(1)家庭裁判所(試験観察中の補導委託),(2)少年院(院外教育活動),(3)保護観察所(短期保護観察の課題指導)などの刑事司法の各段階で,福祉活動を中心に奉仕活動が試行されている。
試行された社会奉仕活動報告を元に,拡大的活用として,活動対象者を様々な年齢層にまで拡大した福祉施設等の奉仕活動を内容とする社会奉仕命令を提言する。これらの施設での活動を通して,犯罪者は慈愛の精神が育成され,他者との信頼関係を構築し,やがて社会参加への意欲が湧くと考えられる。
しかし,社会奉仕命令には今後の検討課題として,(1)法的位置づけ,(2)刑罰としての枠組み,(3)実施体制が挙げられる。
このように社会奉仕命令には,検討課題が存在するが,社会奉仕命令を法制度化することは,現行法制度における刑罰の重さの違いによる刑罰間の間隙を埋め,刑罰制度に弾力性を持たせる可能性がある。そして刑事施設内の収容人数を減らすことで,犯罪者に適切な個別処遇がなされ,更生の実現にも繋がり,社会復帰が促進される。加えて,刑事施設の過剰収容を解消し,日本の財政状況をも改善させる手段として社会奉仕命令を導入させるべきであろう。
(法政大学大学院法学研究科法律学専攻修士課程 1年)
佳作
拘禁代替手段としての非拘禁的措置による
「適正化」
「適正化」
野尻 仁将
要旨
「被収容人員の適正化」と「資源配分の適正化」とは,刑事司法の長年の課題とされてきた。わが国においても2つの「適正化」の実現は今日的な課題であり,「適正化」のための効果的な方策が求められている。2つの「適正化」を実現するに当たっては,非拘禁的措置の拘禁代替手段としての利用が有効である。非拘禁的措置は,拘禁的措置よりもコストが安いことから,非拘禁的措置の利用は,「資源配分の適正化」の要請に適うと解される。また,非拘禁的措置は,拘禁代替手段として活用することにより,施設収容率を低下させることができる。したがって,拘禁代替手段としての非拘禁的措置の利用は,「被収容人員の適正化」にも資するといえる。
しかし,非拘禁的措置の利用には問題点も存在する。非拘禁的措置の利用が2つの「適正化」の要請に適合的なのは,非拘禁的措置が拘禁代替手段として用いられる場合に限られる。拘禁代替性を欠く非拘禁的措置の利用は,「被収容人員の適正化」の要請を満たさないだけでなく,「資源配分の適正化」を害することにもなりかねないのである。この点に関し,諸外国においては,ネット・ワイドニングの危険が現実化し,非拘禁的措置の拘禁代替性が損なわれる場合があるとも指摘されている。ネット・ワイドニングは,非拘禁的措置の利用による「適正化」の実現の上で大きな障害となる。したがって,「適正化」の実現のために非拘禁的措置を導入するに当たっては,非拘禁的措置を拘禁代替手段と位置づけて導入するだけでは十分とはいえず,その代替性を確保するための措置を講じる必要があるというべきである。
非拘禁的措置の拘禁代替性を確保するためには,判決前調査制度や二段階判決制度などの導入が検討されるべきである。これらの制度の導入により,ネット・ワイドニングの発生を防止し,非拘禁的措置を2つの「適正化」のための有効な方策として活用することができると考える。
(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程)