日本刑事政策研究会 罪と罰
受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
 財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は,住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から,刑事政策に関する懸賞論文を募集しています。
 平成23年度の論文題目は「性犯罪者に対する有効な再犯防止対策の在り方について」であり,その募集は平成23年5月に開始され,同年8月末日をもって締め切られました。
 応募いただいた論文については,各審査委員による厳正な個別審査を経て,平成23年12月2日に開催された審査委員会で,受賞者が選定されました。その結果は,次のとおりです。
佳作(3名) 五明 昇祐(関西大学法学部 3年)
論文題目 「犯罪者の個人情報を公開する法律・条例に関する憲法学的アプローチ」
中根 倫拓(中央大学大学院法務研究科 3年)
論文題目 「性犯罪予防の実効性─親告罪の問題点からの考察─」
野尻 仁将(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程 3年)
論文題目 「性犯罪者の再犯対策としての「内的改善策」の連続性及び利用機会の確保」
 なお,受賞者に対する表彰式は,平成24年1月17日,法曹会館において行われ,佳作を受賞された方々には,当研究会から賞状及び賞金5万円が授与されました。
 以下に,佳作を受賞した論文(要旨)を掲載いたします。
平成23年度表彰式
平成23年度受賞作品
佳作犯罪者の個人情報を公開する法律・条例に関する憲法学的アプローチ(五明 昇祐)」
佳作性犯罪予防の実効性─親告罪の問題点からの考察─(中根 倫拓)」
佳作性犯罪者の再犯対策としての「内的改善策」の連続性及び利用機会の確保(野尻 仁将)」
佳作
犯罪者の個人情報を公開する法律・条例に関する憲法学的アプローチ
五明 昇祐
要旨
 米国では,性犯罪被害防止の観点から性犯罪前歴者の個人情報を一般市民に公開することを定めたメーガン法が制定され,連邦最高裁により合憲との判断が下されている。我が国において,性犯罪者の個人情報を公開することを定める法律・条令を制定する場合の憲法上の問題点を検討する。
 我が国の最高裁は,「前科及び犯罪経歴は人の名誉,信用に直接に関わる事項であり,前科等のあるものもこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」としている。このようなプライバシー権が侵害されるおそれがある場合の審査基準としては,一般的に厳格な合理性の基準を用いるべきとされている。この基準に照らし,@登録対象犯罪の限定,A公表の制限,B登録義務期間の制限が合憲性の担保となると考える。
 登録対象犯罪については,強姦罪の再犯率が高いこと,性犯罪の被害者は,子どもであっても成人女性であっても,心身ともに後遺症を抱えることも多いことを踏まえると,「子ども」が被害者となった犯罪に限定すべきではない。他方,痴漢については証拠上の問題を指摘する声もある。そこで,強姦・強制わいせつという重大な性犯罪,常習性のある痴漢を対象とすべきであると考える。
 公表の制限については,米国の多くの州では性犯罪者を3段階に分類し,個人情報の提供の有無,範囲が定められている。我が国においても,これを前提とし,さらに,提供相手に応じて提供する情報の範囲を区別し,悪用されるおそれの高い情報の提供範囲は厳格に制限すべきである。また,情報の提供を受けた者に対して,その情報の利用に関し,性犯罪者から女性・子どもを守るという目的のみに用いるものとし,目的外の利用を禁止し,それらに違反した場合の罰則規定を設けるべきである。
 登録期間については,性犯罪者に生涯の登録を義務付けることは行きすぎであり,登録期間に制限を設けることが必要である。
 我が国においても,宮城県や大阪府をはじめとして性犯罪前歴者の個人情報を公開・管理する条例が検討されているが,既に憲法におけるプライバシー権などの問題が浮上し,条例が成立したとすれば,米国同様に訴訟が起こされるのは不可避であると思われる。改めて,憲法上の問題としても議論を進めるべき時ではないだろうか。

(関西大学法学部 3年)

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佳作
性犯罪予防の実効性─親告罪の問題点からの考察─
中根 倫拓
要旨
 我が国の性犯罪者処遇プログラムは,犯罪原因論に基づき,性犯罪を起こすに至った原因を発見し,矯正するためのものであるが,その原因については犯罪心理学の見地から本人の内面的側面を重視しすぎた嫌いがある。法と経済学の手法によれば,実際に犯罪に及ぶという判断は,性犯罪により得られる効用が不効用を上回るとの予測に基づく。不効用は,法的・社会的制裁の大きさにその確率を乗じたものに,その他の負担・費用等が加算されて算出される。これを算出する上で最も重要な要素は,告訴率である。性犯罪者は警察に通報しなさそうな女性を標的にするとの調査結果もあり,告訴されるか否かが性犯罪実行の大きな要素といえる。
 再犯防止のためには不効用を効用よりも大きくする必要があり,そのための最善策は,非親告罪化であると考える。
 親告罪の規定は,性犯罪者に被害者が告訴しないとの見込みを与え,性犯罪を助長しており,また,刑事裁判の有無の決定を委ねることにより被害者に性犯罪者からの報復の不安を与えている。性犯罪者が同一手口を繰り返す傾向を有し,告訴がなければ新たな被害者を生みかねない。また,理論的にも,性犯罪を親告罪とすることには,集団強姦等との均衡の観点からも,国家訴追主義の観点からも,正当な根拠を欠くものと考える。告訴率向上のための社会意識の変化も望まれるが,それには時間がかかる。非親告罪化により性犯罪を防止するのが最善であり,また,その対象については,児童を被害者とする事件に限らず,成人女性一般を含むべきと考える。
 他方で,非親告罪化により,被害者の名誉侵害のおそれが生じるのも否定できない。そこで,非親告罪化にあたってはワンストップセンターの拡充や性犯罪を裁判員裁判の対象外にする法改正を行うなどのプライバシー保護に配慮した対策も並行的に議論される必要があろう。

(中央大学大学院法務研究科 3年)

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佳作
性犯罪者の再犯対策としての「内的改善策」の連続性及び利用機会の確保
野尻 仁将
要旨
 性犯罪は,危害の程度が大きく,再犯性も高い犯罪である。そのため,性犯罪者に対する有効な再犯対策を講じることは重要である。
 性犯罪者の再犯対策は,大きく,性犯罪者情報の取得・管理や電子監視などにより再犯の発生を抑制・回避する「外的抑制策」と,治療・処遇により性犯罪者の再犯リスクの改善・除去を行う「内的改善策」に分けられる。前者が犯罪実行の機会・可能性を封じ込めるものの,必ずしも性犯罪者の再犯問題に対する根本的な解決策とはならないのに対し,後者が再犯問題それ自体の解決を意図している点で,両者はその方向性を異にしている。一般に再犯リスクがなくなった者に「外的抑制策」を講じる必要性はないと解されることから,性犯罪者の再犯対策は,「内的改善策」が主として用いられ,「外的抑制策」は副次的に用いられるのが適当である。
 「内的改善策」としては,現在,刑事施設における「性犯罪再犯防止指導」と保護観察における「性犯罪者処遇プログラム」(以下「プログラム」と総称する)が行われている。「内的改善策」の実効性を高めるに当たっては,以下の方策が考えられる。
 現在,刑事施設と保護観察の「プログラム」の間では,情報の共有が常に適切に行われているわけではない。そのため,両者の間で一貫性のある「プログラム」を策定し,矯正と更生保護の別なく連続的に「プログラム」を実施できるようにすることで,「内的改善策」の質的な向上を図るべきである。
 また,現在の「内的改善策」の対象者は,刑事施設に入所した受刑者,仮釈放者及び保護観察付執行猶予者等に限られ,対象範囲は必ずしも広くない。適用範囲を拡大し,「内的改善策」の量的な増大を図るべく,未決拘禁者などの被疑者や満期釈放者も「プログラム」の対象者とすべきである。そのために,これらの者の「プログラム」への参加を可能とする任意的「プログラム」利用制度を創設し,さらに,「プログラム」への参加・完了を起訴猶予・保釈の条件とする制度の導入をも検討すべきである。

(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程 3年)

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選評
 今回のテーマは「性犯罪者に対する有効な再犯防止対策の在り方について」という,比較的マスコミ等でも取り上げられる機会の多いテーマであったためか,例年より多い28通の応募がありました。
 海外で行われている位置情報確認制度や性犯罪者の情報登録・公開制度等に偏ることなく,幅広い視点から,性犯罪者に対する再犯防止対策を論じた論文が多かったことは好感が持てました。ただ,論文としての構成力や説得力に欠けていたり,現在実施されている制度の内容等を誤解して論じているものも散見されました。刑事政策の論文においては,統計的な数字や現在行われている制度の内容の正確な理解の上に自分の考えを展開することが重要です。
 また,既に学者等によって十分に論じられている内容を要約したような論文もありましたが,本懸賞論文は学生を対象としたものですので,多少内容が荒削りであっても,斬新な視点や自分で考えた独自の内容のものが高い評価を受ける傾向にあると思います。もちろん,政策論ですから,結論としての妥当性もある程度は必要です。
 今回残念ながら,優秀賞に該当する論文はありませんでしたが,佳作を受賞した論文は,いずれも独自の視点から本テーマへのアプローチを試みたものであり,審査委員がほぼ一致して高い評価をつけたものです。
 受賞した方々の努力に敬意を表しますとともに,次回の懸賞論文にもたくさんの力作が応募されることを期待します。

(法務総合研究所長 清水治 記)

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