日本刑事政策研究会
受賞者発表
刑事政策に関する懸賞論文募集の結果について
 財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社との共催による平成22年度の刑事政策に関する懸賞論文募集は,平成22年5月に開始され,同年8月末日をもって締め切られました。
 本年度の論文題目は「満期釈放者の処遇について」でしたが,応募論文は,各審査委員による厳正な個別審査の後,平成22年12月1日に審査委員会が開催され,その結果,次の受賞者が選定されました。
優秀賞(1名) 安部 祥太(青山学院大学大学院法学研究科公法専攻博士前期課程 1年)
論文題目 「満期釈放者の処遇
 〜必要的仮釈放審査制度と教育特化型PFI 施設の導入〜」
佳作(3名) 篠木 勘司(立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻専門職学位課程 3年)
論文題目 「満期出所者等に対する就労支援
 ──企業に対するインセンティブの付与」
松田 浩道(東京大学 法科大学院 3年)
論文題目 「新しいプロボノ活動としての更生保護支援」
野尻 仁将(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程 3年)
論文題目 「全ての者に保護観察を付与するための制度の提唱
 ─満期釈放者に対する保護観察の必要性を出発点に─」
 なお,受賞者に対する表彰式は,平成23年1月14日,法曹会館において行われ,優秀賞には,当研究会から賞状及び賞金20万円が,読売新聞社から賞状と賞品がそれぞれ授与され,また,佳作には,当研究会から賞状及び賞金5万円が授与されました。
 以下に,優秀賞を受賞した論文(全文)及び佳作の論文(要旨)を掲載いたします。
平成22年度表彰式
平成22年度受賞作品
優秀賞満期釈放者の処遇
 〜必要的仮釈放審査制度と教育特化型PFI 施設の導入〜
(安部 祥太)」
佳作満期出所者等に対する就労支援
 ──企業に対するインセンティブの付与
(篠木 勘司)」
佳作新しいプロボノ活動としての更生保護支援(松田 浩道)」
佳作全ての者に保護観察を付与するための制度の提唱
 ─満期釈放者に対する保護観察の必要性を出発点に─
(野尻 仁将)」
優秀賞
満期釈放者の処遇
〜必要的仮釈放審査制度と教育特化型PFI 施設の導入〜
安部 祥太
はじめに
 満期釈放者は仮釈放者に比べて,刑事施設への再入率が格段に高い等の問題が指摘されている。本稿では満期釈放者と仮釈放者の釈放後の差異を比較するとともに,満期釈放者処遇に関して「必要的仮釈放審査制度」と「教育特化型PFI施設」の導入を提言することとする。
出所受刑者の実際
 まず,満期釈放者と仮釈放者の差異を比較する。平成21年版『犯罪白書』によると,出所受刑者の5年以内の刑事施設への再入率は,仮釈放者では32.2%であるのに対して,満期釈放者では55.1%である。罪名別にみると,満期釈放者では,5年以内の再入率が,窃盗で65.5%,覚せい剤取締法違反で62.7%と相対的に高く,窃盗では,出所年を含む2年間で半数近い者が再入所となっている。一方,仮釈放者では,5年内の再入率は,覚せい剤取締法違反で43.0%であり,窃盗で40.3%である1
 このような特徴をもつ満期釈放者であるが,出所受刑者のうち満期釈放者が占める割合は年々増加している。平成18年の出所受刑者の出所事由をみると,合計3万600人の出所受刑者のうち47.4%(1万4503人)が満期釈放,52.6%(1万6081人)が仮釈放であった2。ところが法務省統計矯正統計統計表2008年年報によると,平成20年は合計3万1680人の出所受刑者のうち49.8%(1万5792人)が満期釈放であり,50.0%(1万5840人)が仮釈放となっている。また,平成21年には合計3万213人の出所受刑者のうち50.7%(1万5324人)が満期釈放であり,49.2%(1万4854人)が仮釈放となり,ついに満期釈放者が仮釈放者を上回る結果となった3
 満期釈放者が仮釈放者と比較して再入率が高い理由として,適切な帰住先がない,引受人がいないといった円滑な社会復帰のための条件が整っていないことが挙げられるほか,仮釈放者には付される保護観察が満期釈放者には付されないこと,行刑態度が良い者が優先的に職業訓練を受けるために,行刑態度が好ましくないために満期釈放になる者については職業訓練を受けられず,出所後に就職するにも不利であることなどが考えられる。満期釈放者は,これら悪条件を揃えた中で刑期の満了とともに保護観察官や保護司による指導・援助を受けないまま厳しい社会復帰を強いられることとなり,その結果,犯罪をせずには生きていけず,累犯者としての道を歩むことになってしまう者が多いように思う。これらは主に制度的問題点であり,検討し改善する必要に迫られている。
 また,現在の法制度の問題点の一つに,仮釈放許可処分が下されにくい状況がある。いわゆる仮釈放の硬直化現象であるが,これは,犯罪被害者への配慮の必要性の高まり,厳罰化の流れ,過剰収容等による懲罰対象行為の増加,帰住先確保の困難性,仮釈放中の者の犯罪4に対する世論感情等が複合的に反映しているといえるだろう。さらに,制度自体の問題点として,仮釈放の審査基準が曖昧であることが挙げられる5。透明性と客観性を備えた仮釈放審査基準を早急に確立するべきだろう。

満期釈放者処遇に関する方策
 では,満期釈放者が社会内に適合できるようにするためには,どのような施策が必要なのだろうか。仮釈放制度を考察する際に検討されるものとして,必要的仮釈放制度がある。これは,刑期の一定割合を経過すれば必ず仮釈放の処分をして保護観察に付すものである6。しかしながら,これには,仮釈放制度の趣旨との整合性や,仮釈放に馴染まない受刑者に仮釈放を認めることの当否,判決との整合性などの問題がある。そこで,本稿では,全ての受刑者が一律に仮釈放審査を受けられるように法整備することを提案する。実務での運用において,職員の裁量が介入することで施設による格差が生まれることのないよう,受刑者が当然に仮釈放審査を受けられる必要的仮釈放審査制度を導入するというものである。全ての受刑者が対象となるため,審査の全過程を地方更生保護委員会が行うことは困難であろう。現在実施されているような,職員による前段階的審査は不可欠だが,現在以上に地方更生保護委員会と職員が協働することが重要となる。地方更生保護委員会の数や人員には限りがあり,他方で,刑事施設から地方更生保護委員会へ受刑者を押送し審査を行うことは非現実的であるため,例えば,受刑者・刑事施設職員・地方更生保護委員会委員の三者がテレビ電話を通じて面接する等を検討する余地もあろう。加えて,刑事施設職員への人権教育等を更に実施することや,仮釈放審査基準の明確化と客観化を実現することなども必要となろう。
 次に,受刑者に対して一定期間7経過後に仮釈放審査を実施した後の制度について述べる。仮釈放審査後の受刑者は,三類型に分類することができる。すなわち,(a)審査にて許可を得て仮釈放される者,(b)仮釈放の見込みはあるが,現時点での仮釈放には不適合な者,(c)仮釈放に馴染まないと判断された者である。
 まず,(a)は最も現行制度に近いものである。審査の後,釈放前の指導へと移行し,仮釈放後に保護観察に付される。
 次に,(b)に当てはまる受刑者には,審査にて不十分と判断された要素を伝えた上8,刑事施設職員が新たな処遇計画を立てる際にはこれに関与させ,仮釈放に向けて自ら主体的に努力させながら施設内での生活を送らせることで,意欲的な処遇生活を実現させるものである。この場合,受刑者は,その時点では未だ仮釈放許可基準に達していないため,仮釈放に向けた経過観察制度ともいえる。そのため,必要的仮釈放審査は一度だけではなく,複数回受けられるよう制度設計をしなければならない。前述の新たな処遇計画を進めていくことにより対象者の問題点が改善し,次回の仮釈放審査にて仮釈放許可基準を満たした場合には,釈放前の指導へと移行し,仮釈放後に保護観察に付す。
 最後に(c)について述べる。本稿にて提言する「必要的仮釈放審査制度」は,全ての受刑者が仮釈放審査を一律かつ定期的に受けることができる制度であるが,(c)に該当する者,つまり暴力団関係者や施設内での問題行動が多い者など明らかに仮釈放に馴染まないと判断し得る者もおり,それらの者は仮釈放審査を受けても,結局は不許可となって,満期釈放となってしまうと考えられる。そこで,こうした者については,仮釈放に代わり,再犯防止を図るための特別な処遇を考える必要がある。ここでは,PFI施設における教育・職業訓練に特化した処遇を検討したい。教育特化型PFI施設へ収容すべき受刑者は,(c−1)前述の通り,仮釈放に馴染まないと判断された者,(c−2)前述(b)の経過観察的仮釈放の対象となりながらも,一定回数以上許可が下りなかった者,とすべきであろうが,さらに,(c−1)については,(c−1−(1)) 更生意欲があり,社会復帰を望むが,問題があり(例えば,累犯者であることなど),仮釈放に馴染まないと判断された者と,(c−1−(2))更生する意欲を著しく欠く者(暴力団構成員で離脱意志のない者や犯罪を生業とする生活を改める意志のない者等)に分類することができるだろう。
 次に,(c)の者を収容する教育特化型PFI施設で行う処遇の具体的な内容について検討する。無職者の再犯率が有職者に比べ高水準であり,無職者の再犯率は有職者の約5倍である9ことから,社会復帰のためには就労が非常に重要となる。現在よりも充実した就労支援が可能であるとの視点こそ,本稿がPFI施設を検討する最大の理由である。具体的な就労方法であるが,例えば,PFI施設に出資している民間企業へ,同施設の出所者が就職できるような就労ルートを確立することが考えられる。これは,山口県美祢市の美祢社会復帰促進センターで技能を身に付けた受刑者が,出所後に出資会社である日本ユニシスのグループ会社に就職できるよう制度化した「再犯防止プログラム」10を参考としている。また,教育特化型PFI施設に収容されている間にも,前述した必要的仮釈放審査制度の対象となるが,仮にそれでも仮釈放を許されることなく刑期を満了した場合には,保護観察を付されることなく社会へ戻されることになるので,現在の満期釈放と差異がないと思われる。現行の釈放前の指導は当然不可欠だが,これらの者に対し保護観察を付すことも検討する必要があるだろう。
 ここで,教育特化型PFI施設に収容される(c)について,分類ごとに処遇内容を述べる。教育特化型PFI施設が最も有効となるのは,まず(c−1−(1))及び(c−2)に該当する者である。前述の通り,これらの者は社会復帰を望んでいる。ここに分類された理由として,累犯者であること,身元引受人がいないこと,帰住地がないこと等が考えられる。これらの者に対しては,職業訓練が最も有効な処遇方法となるだろう。社会復帰を望み,犯罪を行わずに生きていく意欲のある者であるから,重点的に職業訓練や就労支援指導等の就労に結び付けるための処遇を実施すべきである。なお,(c−2)については,どの段階で通常の刑事施設から教育特化型PFI施設へと移行するかが問題となる。(c−2)は,一定回数以上審査で許可が下りなかった者を想定しているものであるが,各受刑者の罪状や刑期,更生具合,社会復帰後の生活基盤の有無等の諸事情を勘案し,基準となる回数を決定することになろう。いずれにしても,許可が下りぬまま刑期を満了する場合や,刑期の終盤で教育特化型PFI施設に収容する場合,教育特化型PFI施設の意義が薄れることになる。そのため,基準となる回数は過度に多くならないよう設定すべきである。また,(b)から(c)へと分類を変更することができることから,(c)から(b)へと分類を変更することも可能であろう。仮釈放に馴染まないとして(c)に分類され,教育特化型PFI施設に収容されたが,行刑態度が非常に良好であるといった場合には,(c)から(b)へと分類を変更することも検討しなければならない。
 最も処遇が困難なのが(c−1−(2))に該当する者である。これらの者は,そもそも更生意欲を欠いていて,職業訓練等を進んで受ける可能性は到底見込めない。中には,「受刑は箔がつく」と考えている者さえもいると聞く。このような(c−1−(2))に該当する者に対しては,改善指導を徹底する必要がある。既存の特別改善指導としては,特に暴力団離脱指導や被害者の視点を取り入れた教育が中心となるだろう。当然,職業訓練や就労支援指導も必要だが,犯罪を生業としない意識を芽生えさせることが最優先である。
 つまり,教育特化型PFI施設での処遇は,現在刑事施設において行われている職業訓練や改善指導を集中的に実施するものになる。処遇内容が教育に特化することは,応報や厳罰を望む被害者感情や国民感情と相反する可能性があるが,満期釈放者の再犯防止に焦点を当てるならば,必要不可欠であろう。また,教育特化型PFI施設に収容された者は,(c)から(b)へと分類を変更された者を除き,釈放までこの施設で処遇を受けることになる。(c−1−(1))及び(c−2)に該当する者は,更生意欲のある者であるが,これらの者が社会により適合できるよう,教育特化型PFI施設では刑務所色を排した処遇をすべきである。これもPFI施設を採用する理由の一つである。具体的な処遇方法は綿密な政策的研究が必要であろうが,例えば,(c−1−(1))及び(c−2)に該当する者が収容される居室をマンションの一室のような構造にする等は可能であろう11。また,教育に特化した処遇を施すことは,処遇生活の中で社会復帰に向けた意欲を喚起することへ繋がる可能性もある。その中で地元企業との連携等を通じて,自己尊重精神を高めることができれば,より効果的で充実した処遇生活を送ることが可能である。

むすび
 満期釈放者の問題点と就労・教育の必要性から,満期釈放者の処遇について述べた。提言は,全ての受刑者を対象にした必要的仮釈放審査制度を導入し,審査後について三類型に分類するものである。三類型とは,(a)現行の仮釈放制度,(b) 仮釈放に向けた経過観察制度,(c)教育特化型PFI施設における教育的処遇制度,である。現在PFI方式の刑事施設は4か所存在するが,いずれもa級で処遇が容易と見込まれる者を対象としている。この点,あえて仮釈放に馴染まないと判断された者をPFI施設で教育することの困難性や批判が存在することは承知している。また,帰住地や引受人の問題は本稿の提言により直接解決できるものではない。さらに,刑事施設内にも押し寄せる高齢化問題の解決方法にもならない。しかし,希望的観測ではあるが,PFI方式により地元企業の協力を得ながら更生し,満期釈放者が再び犯罪を行う可能性を減らすことで,帰住地等の問題にも何らかの影響を及ぼす可能性も否定できない。著者が過去に参観した刑事施設等(10施設)では,周辺住民の理解が得られているという場所も少なくなかった。地域の理解と協力を得やすいという点で,また国の負担軽減という点で,PFI方式はこれからも注目されるべきである(過去に参観したPFI施設では,施設近隣に出資企業の従業員が移住することにより経済が活性化したため,地域住民は施設に協力的な態度を見せているという)。関係諸機関は国民の協力を得られるよう啓蒙活動等をより一層行い,教育特化型PFI施設による処遇を実施していくべきことを提言し,本稿のむすびとする。

  1. 平成21年版『犯罪白書』法務省法務総合研究所 53頁(7−2−3−6図)
     「出所受刑者の5年内累積再入率(出所事由別・罪名別)」
  2. 法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会
     第12回会議(平成20年2月4日開催)議事録1頁
  3. 法務省統計矯正統計統計表 2009年年報(2010年7月30日公表)
     表09−00−67「出所受刑者の執行した刑の態様別 出所事由」
  4. 『読売新聞』2005年2月5日付 2005年2月4日,愛知県安城市で仮釈放から9日目に乳幼児を刺殺した事件。この被告人は後に同年7月25日に行われた公判にて証人の女性を法廷で殴り,傷害罪の有罪判決を受けている。
  5. 山岸信雄「改善更生と再犯防止〜更生保護制度の見直し〜」立法と調査 261号(2006年)31頁
  6. 法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会
     第12回会議(平成20年2月4日開催)資料
     『「その他の社会内処遇及び中間処遇の在り方」の検討事項』など
  7. ここでいう「一定期間」だが,最初の仮釈放審査を行う時期としては,例えば,仮釈放が可能になった時点も想定できるし,刑期の半分が過ぎた時点でも想定されよう。
  8. 審査にて不十分と判断された要素を伝える主体としては,刑事施設職員や地方更生保護委員会委員等が考えられるが,全ての受刑者が審査を受けることと,今後の処遇計画を共有し主体的な努力を促す必要があることから,刑事施設職員が相応しいであろう。
  9. 特定NPO法人 全国就労支援事業者機構HP内「保護観察中の再犯率,平成19年」
    図より 保護観察中の再犯率:有職者7.4%に対し無職者34.5%
  10. 『読売新聞』2007年10月18日付
  11. (c−1−(2))に該当する者についても,処遇生活への意欲や行刑態度,社会復帰後の生活設計等が改善され,かつ,所属暴力団等との関係が断絶され,身元引受人や社会復帰後の生活基盤が確保されたと認められる場合には,(c−1−(1))に分類し直して,このような居室へ収容することも検討すべきであろう。
(青山学院大学大学院法学研究科公法専攻博士前期課程 1年)


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佳作
満期出所者等に対する就労支援
──企業に対するインセンティブの付与
篠木 勘司
要旨
 満期出所者の再犯可能性が高いのは,仮出所者に比べ出所後のフォローが行き届かない点にある。様々な施策の一層の整備・拡充により満期出所者の支援をより積極的に行う必要がある。
 再犯に至るきっかけは,多くが経済的困難であり,満期出所者の中でも自立困難な高齢者や障害者については福祉との連携により生活を安定させることが再犯防止につながる。
 しかし,勤労の意思と能力のある満期出所者は,就職し安定収入を得ることが再犯防止に資する。そこで,就労支援が最重要の施策となる。
 現在もトライアル雇用や身元保証制度等の就労支援策を導入しているが,これらは企業側に積極的メリットが見られず,満期出所者等の採用は,企業の「義侠心」に頼るものとなっている。厳しい経済環境下においては,企業にもインセンティブの付与が必要である。
 第一に金銭的インセンティブが考えられるが,社会に迷惑をかけた満期出所者等の就職に,公金による多額の奨励金等は社会の理解を得るのは難しい。
 第二に官公庁等での入札資格における加点が考えられる。満期出所者等が就職することが多い建設業等では有効なインセンティブとして働くと期待される。
 第三に満期出所者等の雇用実績を障害者法定雇用率に反映させることは考えられないか。これは満期出所者等を障害者として扱うものではないし,障害者の雇用確保の趣旨は当然尊重されるべきである。しかし,法定雇用率未達成に対する納付金の対象が中小企業にまで広がりつつあり,パート等の短時間労働者についても法定雇用率の対象となるなどその対応を各企業が迫られている現在,満期出所者等の雇用を何らかの形で法定雇用率達成に一部でも反映させることができれば,障害者の雇用が困難な業種に対しても,満期出所者等の雇用促進の機会につながり得る。
 就労支援策は満期出所者のみが対象となるものではないが,仮出所者等に比べ出所後の支援が限られている以上,その就労支援はより重要である。企業へのインセンティブの付与は必ずしも金銭的支出を伴うものだけではなく,様々な方策を検討すべきである。

(立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻専門職学位課程 3年)

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佳作
新しいプロボノ活動としての更生保護支援
松田 浩道
要旨
 満期釈放者の再入所状況は,5年以内の累積再入率で仮釈放者が窃盗40.3%,覚せい剤取締法違反43.0%であるのに対し,満期釈放者では窃盗65.5%,覚せい剤取締法違反62.7%と,再犯に陥りやすい傾向にある。この原因として,(a)社会的孤立,(b)就職難,(c)再犯というメカニズムが考えられる。
 この問題に対し,(1)総合的就労支援対策の拡張,(2)更生保護施設の多様化といった提唱がなされているが,これらを現実化するためには,更生保護と再犯防止策の重要性に対する社会的認知度を上げ,偏見を取り除いてゆくとともに,新しい資金調達の方法を考案することで,更生保護に関わる主体のコストを低下させる方策が必要とされているといえよう。
 韓国では,「喜びと希望の銀行」の取組みにより,元受刑者の更生に対する経済的支援が実現している。本稿は,これを参考に,弁護士事務所によるプロボノ活動の理念に結びつけることを提唱する。すなわち,元受刑者の社会復帰のために資金を融資する機構を作り,そこに弁護士事務所がプロボノ活動として資金を提供する方法である。これは,「企業の社会的責任」に対応して「法律家の社会的責任」として位置づけうるし,さらには,弁護士事務所のブランドイメージを向上させることにつながり,弁護士事務所にとっての「ビジネス戦略」としての意味を持ちうる可能性を持っていると考えられる。
 もっとも,本稿が提唱する弁護士事務所によるプロボノ活動が現実化するためには,一般国民の理解と後押しが中核的な意味を持つ。ブランドイメージの向上は,更生保護の重要性を一般国民が認めることで初めて実現するからである。本稿の提案は,国民一人一人が,再犯を防止し国民の安全と安心を守るには社会的排除は逆効果であり,むしろ元受刑者への社会復帰支援が必要である,ということを受け入れることで初めて実現するものといえるだろう。

(東京大学 法科大学院 3年)

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佳作
全ての者に保護観察を付与するための制度の提唱
─満期釈放者に対する保護観察の必要性を出発点に─
野尻 仁将
要旨
 刑事政策上の重要課題である再犯防止に対する関心は,近年,益々高まっている。しかしながら,近年の再犯に関する動向を見る限り,再犯防止への関心の高まりが,再犯率等の減少に反映されているとは言い難い。特に満期釈放の再入率は仮釈放者に比べ格段に高い傾向にあることから,満期釈放者の再犯を防止するための対策を施すことが急務となっている。
 そもそも,仮釈放者と満期釈放者の再入率の顕著な差は何に起因するのであろうか。その要因の1つに,仮釈放制度の制度的矛盾があると解される。現行の仮釈放制度には,「仮釈放者に関する制度的矛盾」と「満期釈放者に関する制度的矛盾」の2つの矛盾が存在している。前者は,改善更生が容易な者ほど早く仮釈放され,その分だけ長く保護観察官による指導・援護を受けられるのに対して,社会的援助がより必要と解される更生困難者ほど仮釈放が遅くなり,その結果,保護観察期間は短くなるという矛盾を指すものである。他方,後者は,仮釈放者が多少なりとも社会内処遇を受けられるのに対し,仮釈放者よりも多くの援助が必要とされる満期釈放者には社会内処遇の機会が設けられていないという矛盾を指す。このうち,後者の矛盾が,満期釈放者の再入率の高さの一因になっていると解されるのである。このことは,同時に,満期釈放者に適切な社会内処遇の機会を付与することさえできれば,満期釈放者の再入率を今より減少させる余地があることを示すものでもある。
 以上のように,満期釈放者の再犯防止と社会復帰の促進には,施設内処遇と社会内処遇を適切に連携させることが不可欠であり,そのためには,全ての者に保護観察を付与するための制度の導入が望まれる。そのような制度としては,「満期釈放者に対し保護観察を義務付ける制度」,「必要的仮釈放制度」,「分割刑制度」,「刑の一部執行猶予制度」があるが,全ての者に保護観察の機会を与えるという観点から見た場合,「必要的仮釈放制度」の導入を行うことが最も妥当であると考える。

(一橋大学大学院法学研究科博士後期課程 3年)

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