日本刑事政策研究会 罪と罰
受賞者発表
平成21年度懸賞論文入賞者決定!

 財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞の主催による平成21年度の刑事政策に関する懸賞論文募集は,平成21年4月に開始され,同年8月末日をもって締め切られました。
 本年度の論文題目は「不況下における社会情勢を背景として,罪や非行を犯した者の社会復帰に向けての地域社会の理解と協力,更には,民間企業・ボランティア等の刑事政策への協力を得るための具体的施策について」でしたが,応募論文は,各審査委員による厳正な個別審査の後,平成21年11月11日に審査委員会が開催され,その結果,次の受賞者が選定されました。

佳作(3名) 古川 愛 (早稲田大学 法学部 4年)
論文題目 「触法知的障害者の社会復帰における地域社会・民間企業・
 ボランティアの連携を推進するための施策について」
松田 浩道 (東京大学 法科大学院 2年)
論文題目 「地域社会のためのコミュニティプリズン」
辻 裕希 (三重大学 人文学部 3年)
論文題目 「犯罪者の社会復帰に向けての就労支援と社会奉仕活動」

 なお,受賞者に対する表彰式は,平成21年12月3日,法曹会館において行われ,当研究会から賞状及び賞金5万円がそれぞれ授与されました。
 以下に,受賞した論文の要旨を掲載いたします。


平成21年度受賞作品
佳作触法知的障害者の社会復帰における地域社会・
 民間企業・ボランティアの連携を推進するための施策について
(古川 愛)」
佳作地域社会のためのコミュニティプリズン(松田 浩道)」
佳作犯罪者の社会復帰に向けての就労支援と社会奉仕活動(辻 裕希)」

佳作
触法知的障害者の社会復帰における地域社会・
民間企業・ボランティアの連携を推進するための施策について
古川 愛
要旨
 昨年から始まった未曾有の経済危機によって、非正規雇用労働者の解雇問題が顕在化する陰で、非正規雇用に従事する障害者の多くが真っ先に首を切られている。セーフティネットにひっかからなかった知的障害者は生活苦から罪を犯し,「福祉の最後の砦」、刑務所に入所することになる。
 こうした知的障害者は受刑者全体と比べて再犯率が高く、処遇の問題点が指摘されてきた。その一つとして矯正教育時に正しい障害認定がなされていないため、福祉的支援につながらないまま、刑務所に入る前の環境と何ら変更のない状態で社会に出て、結局再犯につながっている現状が挙げられる。しかし、収容過多やそれに伴う職員の業務負担の問題を抱える刑事施設において、矯正教育や保護担当者による触法知的障害者の社会復帰のための専門的な処遇プログラムを行うことには限界がある。したがって、触法知的障害者の社会復帰には、これまで以上に地域社会・民間企業・ボランティアが矯正施設と連携していく必要があるのではないだろうか。
 そこで私は、社会復帰の拠りどころとなる自立のための支援を官民協働で矯正段階から実施していくべきであると考える。具体的には、(1)イギリスの英国トヨタの自動車整備士育成プログラムをモデルとした刑事施設内での官民協働の就労支援、(2)山口県美祢社会復帰促進センターで実施されている「反犯罪性思考プログラム」をモデルとした市民ファシリテーターによる認知行動療法、(3)地域の市民後見人による出所後の触法障害者の見守り、を提案したい。
 罪を犯した知的障害者を支援するということは本人の社会復帰というばかりでなく、新たな被害を生みださない再発防止という意味でも社会全体の課題である。上記のような具体的施策を通じて地域住民が知的障害者に直接接して、彼らが罪を犯す社会的背景を知ることで、知的障害者が不審者と間違われるなどの社会的トラブルを防ぐことを期待できるであろう。

(早稲田大学 法学部 4年)


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佳作
地域社会のためのコミュニティプリズン
松田 浩道
要旨
 経済不況という社会情勢の中,いかにして罪を犯した者の社会復帰に対する地域社会の理解を得て,民間企業やボランティアの協力を得ることができるだろうか。本稿では,この問題に対し,地域社会のためのコミュニティプリズンという大まかな方向性を示しつつ,複数の具体策を提言していく。
 従来,刑事施設と一般社会の交流,そして被収容者の生活のノーマライゼーションを核とするコミュニティプリズン構想はあくまでも被収容者の人権保障のために提唱されてきた。しかし,経済不況という現在の社会情勢を考慮に入れたとき,被収容者の人権の観点のみにこだわるのは実現可能性の観点から難がある。そこで,被収容者の利益のみならず,地域社会にとっての利益の観点に注目する。
 第一に,社会復帰の促進は再犯率の抑制につながり,司法機関や刑事施設の負担軽減により税金の節約につながることに加え,社会不安が除かれ,社会生活に安心をもたらす。第二に,地域社会と密接に関わる刑事施設,特にPFI刑務所は地元に雇用機会と税収増をもたらし,経済を活性化する効果がある。
 このようなコミュニティの側の利益まで積極的に射程を拡張してコミュニティプリズンの実現を目指すことにより,地域社会の理解と協力を図っていくべきである。そのための具体策として,1刑事施設からの情報発信(情報開示と宣伝活動),2地域社会への経済的利益の確保(雇用と需要の拡大,地域通貨の導入),3従事する人々のやりがい(社会貢献プログラム等,成功事例の全国への普及),という3つの観点から提言を行っていく。
(東京大学 法科大学院 2年)

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佳作
犯罪者の社会復帰に向けての就労支援と社会奉仕活動
辻 裕希
要旨
 昨秋のアメリカ発の金融危機により日本経済は深刻な打撃を受け,景気の悪化は犯罪者の社会復帰にも悪影響を及ぼし始めている。犯罪者が社会復帰を果たす際には,安定した生活を営む基盤となる就労の確保が重要であり,これは,保護観察中での職の有無が再犯率を大きく分けることからも明らかである。しかし,犯罪者は「刑務所帰り」といった烙印を貼られ,社会的な偏見を受けやすいことから職を得ることが容易ではなく,不況下ではそれが一層困難なものとなる。そのような状況では従来からの協力雇用主の協力による就労先の確保が益々欠かせなくなるが,現状では不況の影響でその協力雇用主の協力が得られにくくなっている。
 このような状況を踏まえると,犯罪者の就労を支援するにあたっては,一般の者と比べて特別な配慮が必要であるといえる。しかし,経済状況が今なお十分に回復していない現在において,犯罪者に対する就労支援策のみを充実させた場合,就労の確保により犯罪者の再犯を防止し,改善更生を図ることは,治安維持にも役立つと説明しても,一般市民の理解を得ることは容易ではない。したがって,犯罪者の社会復帰を促進する支援策の充実と並行して,犯罪者の社会復帰に対する一般市民の理解を深めるための対策が必要となってくる。
 本稿では,犯罪者の社会復帰を促進するため,受刑段階からの雇用情勢に合わせた就労支援策の強化と,犯罪者の社会復帰に対する一般市民の理解を得るための方策として,社会奉仕活動を検討したい。受刑段階から協力雇用主のニーズに配慮し,受刑者の就職援助や,企業が求める教育と研修を施設内で実施していけば,円滑な就労が望め,出所後就労先の確保がより確実になると考える。また,社会奉仕活動を通じて地域社会に何らかの利益をもたらすことができれば,犯罪者に対する社会的な偏見の除去も促進され,犯罪者の円滑な社会復帰にも寄与すると考える。

(三重大学 人文学部 3年)

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