日本刑事政策研究会 罪と罰
受賞者発表
平成20年度懸賞論文入賞者決定!

 財団法人日本刑事政策研究会は,読売新聞社との共催により,毎年度,刑事政策に関心を持つ学生の皆さんを対象として,懸賞論文の募集を行っています。
 第22回目となる平成20年度においては,「親族を被害者とする犯罪への対応について」を論文題目として募集を行いました。募集は,平成20年8月末日をもって締め切られ,同年11月20日に開催された審査委員会において,審査委員による慎重な審議が行われた結果,次のとおり,受賞論文が選定されました。

佳作(4名) 金馬 惇子 (関西学院大学大学院 司法研究科 3年)
論文題目 「家族内暴力への対応について―現行DV防止法の問題点を中心に」
松田 浩道(東京大学 法学部 4年)
論文題目 「児童虐待の根絶へ向けて―システム的対応の発想へ」
小柴 麻友子 (三重大学 人文学部 3年)
論文題目 「DV加害者更生のための対策について」
江口 沙也加 (三重大学 人文学部 3年)
論文題目 「介護殺人発生の背景とその対策について」

 なお,受賞者に対する表彰式は,平成20年12月4日,法曹会館において行われ,当研究会から賞状及び賞金5万円がそれぞれ授与されました。
 受賞者の皆様には,心からお祝い申し上げます。
 以下に,受賞した論文の要旨を掲載します。


平成20年度受賞作品
佳作家族内暴力への対応について―現行DV防止法の問題点を中心に(金馬 惇子)」
佳作児童虐待の根絶へ向けて―システム的対応の発想へ(松田 浩道)」
佳作DV加害者更生のための対策について(小柴 麻友子)」
佳作介護殺人発生の背景とその対策について(江口 沙也加)」

佳作
家族内暴力への対応について―現行DV防止法の問題点を中心に
金馬 惇子
要旨
 DVは,「夫婦喧嘩」として扱われていた暴力が顕在化し,「犯罪」として認知された犯罪である。DVにおいては,加害者は逮捕される可能性は他の暴力犯罪よりも低く,刑事罰を受けないことが多い。その上,被害者の身近に加害者がいるため,再発の虞が高く,しかも,「家庭」という密室で行われるため,行為がエスカレートし,死という最悪の事態を生みかねない。また,被害者と加害者の関係性は犯罪後も永続的に存在する。このようなDVの特殊性から,DV独自の対応策が必要になってくる。
 現行法上,DV防止法がDV対策の中心的役割を果たしているが,審理方法が不十分など問題は多く,しかも,管轄が家庭裁判所ではなく地方裁判所であるため,家裁調査官に審判後の動向を調査させるなど裁判所が臨機応変に対処できない。また,加害者への対応策はない。DVの根本的な解決策は,DVが犯罪であることを加害者に認識させることである。にもかかわらず,DVを刑事事件として訴追しなければ,DVは犯罪という実感を加害者に与えられない。
 この点,アメリカにおいては,警察では,DVを犯罪として立件するため,DV事件において現行犯逮捕要件を緩和,また,義務的逮捕を定める法制度を置く州がある。検察では,専門家を集めて,DV専門部をつくることで,DVに積極的に対応している州がある。また,ワシントンの裁判所では,民事,刑事両面から一挙にDV問題を解決すべくDVコートをつくり,一家族一裁判官を望ましい体制として整えている。
これらの制度を日本で導入するためには,日米の様々な制度の違いからすれば,警察においては,義務的逮捕,検察においてはDV専門部,裁判所においては,保護命令の管轄とDVの刑事事件を家庭裁判所の専属管轄にすることで,DV事件を民事・刑事両面から解決すると同時に,一家族一裁判官の体制をも実現しうるのではないだろうか。
(関西学院大学大学院 司法研究科 3年)


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佳作
児童虐待の根絶へ向けて―システム的対応の発想へ
松田 浩道
要旨
 児童虐待問題を巡っては,新たな構成要件の追加による犯罪化を含む積極的な刑事法的対応を求める主張と,厳罰化を危惧し,治療命令などにより虐待してしまう親への心理的援助を求める主張とが対立している。しかし,実際の事例を分析すると,加害者に対する刑罰や心理的援助だけでは対応しきれない極めて多様な要因が複雑に絡み合って虐待が起きていることが分かる。刑事対応は緊急事態に対し強制力の発動により児童の安全を確保できる点に積極的意義を有するが,長期的な問題解決のためには限界がある。そのため,問題の本質的解決のためには,多様な原因を統合的に把握し,多くの主体が連携するシステム的対応の発想が不可欠である。
 そこで本稿では,刑事法・心理的援助・環境改善の3つの側面からなる対応モデルを提唱し,それぞれの側面からの対応と連携のあり方を考察する。
 (1)刑事法的アプローチは,児童相談所や警察が中心となり,法的な強制措置を強みとして主に事後的な対応をとる。
 (2)心理的援助アプローチは,医師や臨床心理士が中心となり親子のストレス緩和,家族関係修復などを図る。ここでは,子育て支援のボランティアや民間団体,NPOなども虐待の事後的ケアと予防とに重要な役割を果たす。
 (3)環境改善アプローチは,社会福祉士や民間団体などが主体となり貧困・雇用問題,子育て環境の改善などを行い,事後的援助と予防の双方から援助する。政策を改革する際は,主権者たる国民,政治家,メディアも重要な役割を担う。
 最も重要なことは,それぞれの対応が有機的に連携することである。困難な事例には,児童相談所職員,精神科医,臨床心理士,警察官などを交えた会議体を構成し,情報共有の上,一致した方針のもとで対応すべきである。
 児童虐待に限らず,犯罪が極めて複雑な要因の連鎖から生じる以上,今後刑事政策を論ずる際は,広く全体的視野を持った問題提起が不可欠である。
(東京大学 法学部 4年)

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佳作
DV加害者更生のための対策について
小柴 麻友子
要旨
 ドメスティック・バイオレンス(DV)は年々被害者からの相談件数が増えている。DVの多くは婚姻間であり,平成18年の配偶者による殺人・傷害及び暴行事件の検挙件数2,239件のうち,加害者が夫であるものは2,082件(93.0%)であった。この点で,DVは親族間の犯罪の典型であるといえる。
 日本では,2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が施行された。この法律は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的としているが,被害者支援に重点を置いており,加害者への対策としては更生への調査研究の必要性があげられているものの,明確にはされていない。
 DVは古くから存在していたが,夫が妻に暴力をふるうのはある程度は仕方がない,「法は家庭に入らず」といった社会通念もあり20世紀後半に入るまで社会問題化されなかった。そのため,現時点においても自分の暴力を暴力と認識していないDV加害者もいる。たとえ,法的措置によって刑罰を受けたとしても加害者が自らの加害を認識せずにいたとすれば,DVの根本的解決にならず,後にDVが再発する可能性がある。したがって,すべてのDV加害者に自分の暴力の責任を認識させ,再発防止を図るためにDV加害者への更生のためのアプローチが必要である。「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」に関する現在の日本の取組の現状を確認した上で,DV加害者更生のための有効なアプローチとして加害者更生プログラムの制度化を提案する。
(三重大学 人文学部 3年)

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佳作
介護殺人発生の背景とその対策について
江口 沙也加
要旨
 日本においては急速な高齢化に伴って要介護者が増加傾向にある。被介護者はできることなら自宅で家族からの介護を受けたいと望む傾向が強く,家族である配偶者や子供が被介護者の望みを受け入れて介護をすることが多い。しかし,それ以前に介護経験のない家族介護者にとっては,介護に関する精神的・身体的負担は想像を絶するものとなる。その結果,家族のために献身的に介護を行ったために,介護者自身のストレスに対処できず,殺人という最悪の結果を招いてしまうこともある。勿論,家族介護者が介護に限界を感じた場合には,在宅介護サービスや介護施設を利用することも可能ではあるが,希望するすべての人が十分なサービスを受けられるわけではない。さらに,被介護者の様態によっては常に介護を求められる状況にもなり,介護者が勤めに出ることさえ困難になることもある。介護殺人は単に個人に責任があるのではなく介護に関する社会構造にも責任がある。
 したがって,介護殺人への対策としては,第一に在宅介護サービスや介護施設の利用を希望者に行き渡らせることが重要である。介護者への負担を少しでも取り除くことができれば,介護者が追い詰められる心配は減るであろう。第二に介護経験のない介護者に対して介護の基礎知識を知らしめる機関を創設することも期待される。また,第三に介護休業法をより充実させ,利用しやすい状況を作り上げることで,介護者の経済的不安を取り除くことが必要である。そして,第四として,最も重要であると考えられるのが,地域による囲い込みである。介護者の負担に気が付きやすいのは近隣の住民である。また,以後も要介護者は増加する一方で,それを支える若い世代は減少していることから,行政サービスに十分な期待はできない。それ故に,介護を地域の問題として考え互いに支えあう状況を作ることが,介護殺人への最大の対策となると考えられる。
(三重大学 人文学部 3年)

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