日本刑事政策研究会 罪と罰
受賞者発表
平成19年度懸賞論文入賞者決定!

 財団法人日本刑事政策研究会は,読売新聞社との共催により,毎年度,刑事政策に関心を持つ学生の皆さんを対象として,懸賞論文の募集を行っています。
 第21回目となる平成19年度においては,「犯罪者の処遇における国民の参加はいかにあるべきか」を論文題目として募集を行いました。募集は,平成19年8月末日をもって締め切られ,同年11月29日に開催された審査委員会において,審査委員による慎重な審議が行われた結果,次のとおり,受賞論文が選定されました。

優秀賞(1名) 古川 直彰 (明治大学大学院 法学研究科 博士前期課程 1年)
論文題目 「医療観察法対象外の触法精神障害者の処遇における国民参加についての可能性の検討」
佳作(3名) 浜崎 昌之(日本大学大学院 法学研究科 博士前期課程 2年)
論文題目 「犯罪者の施設内処遇における企業参加のあり方について」
岡川 亮(明治大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程1年)
論文題目 「虐待親の処遇における国民の参加」
佐藤 舞 (英・ロンドン大学キングスカレッジ大学院 法学部博士課程 1年)
論文題目 「裁判員制度―国民の参加はいかにあるべきか」

 なお,受賞者に対する表彰式は,平成19年12月13日,法曹会館において行われ,優秀賞には,当研究会から賞状及び賞金20万円が,読売新聞社から賞状と賞品がそれぞれ授与され,また,佳作には,当研究会から賞状及び賞金5万円が授与されました。
 受賞者の皆様には,心からお祝い申し上げます。
 以下に,優秀賞を受賞した論文全文及び佳作の論文要旨を掲載します。


  
平成19年度受賞作品
優秀賞医療観察法対象外の触法精神障害者の処遇における国民参加についての可能性の検討(古川 直彰)」
佳作犯罪者の施設内処遇における企業参加のあり方について(浜崎 昌之)」
佳作虐待親の処遇における国民の参加(岡川 亮)」
佳作裁判員制度―国民の参加はいかにあるべきか(佐藤 舞)」

優秀賞
医療観察法対象外の触法精神障害者の処遇における国民参加についての可能性の検討
古川 直彰
一.はじめに
 過去,我が国のみならず,欧米各国においても精神障害者は偏見と差別にさらされてきた歴史があり1,特に罪を犯した精神障害者2については,2001年の大阪池田小学校児童殺傷事件によって大きく注目され,現在においても「危険である」や「再犯を繰り返す」といった認識が,少なからずなされているのが事実である3
 他方で,近年は罪を犯した精神障害者の処遇制度自体に対しても批判の目が向けられている。なかでも,触法精神障害者4についてみてみると,心神喪失または,心神耗弱とされたにも関わらず,不起訴処分後等のケアが十分とはいえないなど,「我が国の触法精神障害者の処遇制度に問題があることは疑問の余地がない」5とされてきた。
 その結果,触法精神障害者問題の方策として,2003年に触法精神障害者の社会復帰に重点が置かれることとなった「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下:医療観察法)が成立することとなった6。しかしながら,医療観察法によって処遇される触法精神障害者の対象は限定されており,こと医療観察法対象外の触法精神障害者への対策,特に社会復帰に向けてのケアについては進んでいるとは言い難く,いまだ発展途上と言わざるを得ない。
 そこで,医療観察法対象外の触法精神障害者の処遇には,その社会資源(グループホーム・福祉ホーム等)の乏しさや,我が国には触法精神障害者に関しての保安処分制度が存在しない,というような現状からみても国のみの力だけでは限界があると考え,これまで以上に国と国民が協力していく必要があるのではないかと考えた。
 以上により,医療観察法対象外の触法精神障害者についても,不起訴処分後,又は刑務所・医療刑務所等からの出所後に,適切な治療を受けさせること,及び,孤独感や閉塞感を抱かせることのないように,相談機関や社会復帰に向けたトレーニング機能・マネジメント体制を,国と国民の協力体制の下,地域社会全体で整備していくことが必要であると考える。
 しかし,そのためには触法精神障害者を受け入れる側である国民の理解と協力が必要不可欠となってくる。
 よって,本稿においては,医療観察法対象外の触法精神障害者に関する現在の制度の問題点を指摘し,彼らの処遇に関する国民参加の可能性について検討していくこととする。

ニ.現状分析
 平成17年に,検察庁において不起訴処分に付された被疑者のうち,心神喪失者と認められた者は370人,心神耗弱者と認められた者は375人おり,通常第一審において心神喪失を理由として無罪になった者は1人,心神耗弱を理由として刑を減軽された者は65人であった。
 罪名別にみてみると,医療観察法の対象となる殺人や放火といった罪を犯し,心身喪失・心神耗弱とされ,不起訴又は無罪や刑の減刑が確定した者は計420人いた。それに対して,窃盗や詐欺等の医療観察法の対象外となる罪を犯した心神喪失者,心神耗弱者は計391人おり,この391人は医療観察法にのっとったシステムではなく,従来どおりのシステムで処遇されることになる7
 従来どおりのシステムにはまず,司法機関から釈放されて,引き続きなされる精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下:精神保険福祉法)による都道府県知事への通報という形で,医療の現場につなぐ措置入院8がある。これは,自傷,他害のおそれのある者を精神病院で治療することを目的とする制度である。しかし,措置入院については,一般の患者と同じ医療施設で治療が行われているため,重度の触法精神障害者や軽度の触法であっても治療抵抗性で対応の難しい措置患者が入院すると,その病棟は看護者も他の入院患者も動揺し,通常の治療環境が壊れてしまい多大の労力を要求されることになり,措置入院患者を多数入院させて十分に対応できる病院は民間のみならず,国公立でもなく9,その結果,十分な治療はされにくく,数ヶ月で退院し,犯行を繰り返す事例も少なくないということが指摘されている10
 また,裁判で心神耗弱が認められて実刑判決を受けた場合は,刑務所等の矯正施設に収容されることになる11。しかし,通常の刑務所はもちろんのこと,たとえ医療刑務所に収容されたとしても,「医療刑務所はあくまで受刑施設であるため,懲役や懲罰が存在し,精神医療を提供する場としては理想から程遠い環境にあるのが現状である」12。そして,矯正施設からの出所後のケアについても,「精神障害者の社会復帰施設の数は地域によってかなりの差があり,とても希望する利用者全てが利用できる状況にはない」13。一方,医療刑務所を出所後に治療を継続するために精神保健福祉法第26条により措置入院とされるケースもあるが,上記のように措置入院はいくつかの問題を抱えており,そのケアは万全とはいえない。
 そして,なによりも驚くべきことに心神喪失者・心神耗弱者とされた触法精神障害者の罪名別犯行後の処遇・治療状況をみてみると,医療観察法対象外の触法精神障害者だけをとってみても,「入院せずに,治療もしない者」と「不明の者」が合計51人いることである14。公的に心神喪失者・心神耗弱者とされていながら,その後の動向の観察及び治療に関して何ら手立てが講じられえないのは,刑事政策という観点からばかりでなく治療という観点からも問題があると思われる。

三.具体策の提案 ―触法精神障害者の処遇における国民参加の可能性についての提案―
 現状分析でもみてきたように,従来の触法精神障害者に関する制度はいくつかの問題点を抱えており,被処遇者にとっても,恵まれた環境に置かれているとは言い難い。ここでは,その環境を改善するためにも国民はどのように関わっていくことができるのか,その可能性を検討していきたい。

(1)受入施設
 まず,措置入院解除後,刑務所・医療刑務所等からの出所後にすぐに直面する問題として,住居の確保がある。
 精神保健福祉法41条では,保護者に措置解除の場合の引取義務を課しているが,我が国は従来から家族というものに大きく依存してきたこともあってか,実際に保護者となっている者の8割以上は親か兄弟姉妹である。しかし,その引受人となるべき親の年齢が60歳以上である者が63.8%で,家族の収入は年収300万円未満の者が30%を超えている。さらに,日常生活については不眠,抑うつ,食欲不振などの健康上の不調を訴える者も相当数みられるのが実情であるなど15,引受人となる家族の負担は計り知れない。また,これから先に向けても,近年問題となっている高齢化社会や格差社会といったことを背景として,触法精神障害者についても同様に,親の高齢化や金銭的な問題がさらに進んでいくことが容易に予想され,今以上に家族が引受人となることが困難になってくると思われる。
 そこで,家族が引受人になることが困難な場合,又は,医療刑務所等から満期釈放された場合についてだが,現在の我が国においては,精神障害犯罪者用の特別な住居は存在せず,また,一般の精神障害者が利用するグループホームや福祉ホーム等の福祉施設にいたっても,地域によってばらつきがあるため,ましてや触法精神障害者ともなると,彼らを受け入れるような施設は無いに等しい。
 この点,障害犯罪者対策が進んでいるといわれているイギリスでは精神障害犯罪者用として,ホステルがある。これは保護観察所が自治体のソーシャル・サービス部や慈善団体等と連携して対応するもので,対象者が安心して地域で暮らすことができる環境が整えられている16
 イギリスのこの制度を参考にして,日本でもそのような施設を作るべきである。そして,その施設のスタッフとして,医師等の専門家はもちろん必要であるが,触法精神障害者が一般人とのコミュニケーションをとる感覚を身に付ける訓練をするためにも,彼らの日々の身の回りの世話をする等の直接的な関わりあいをもつスタッフに,しっかりとしたセキュリティ態勢の下,一般の主婦等を採用してみてはどうであろうか。

(2)継続的な投薬治療
 次に,言うまでもなく精神障害者には治療が必要であり,その精神障害者の有効な治療策の一つとして服薬があるが,精神科の薬,抗精神病薬というのは症状が無くなっても飲み続けなければならず,やめてしまうと症状が再発してしまう可能性が高くなるにも関わらず,精神障害者は本人の疾病否認や病識欠如,病気が治癒したと勝手に思い込む等の理由により,服薬をやめてしまう者が多いという17。加えて,現在の我が国の地域精神医療は非常に貧困な状況であることもあって,なかなか継続的な投薬治療をしていくことが難しい状況にある。
 そこで,その対策として,イギリスのCPNを参考にしてみてはどうであろうか。CPNとは,「我が国の訪問看護に類似するが,病院には全く所属せず,地域の保険当局RegionalHealthAuthorityに所属して,地域の患者を専門にフォローしている」18地域精神科看護士(CommunityPsychiatricNurse)のことで,触法精神障害者の場合は,CPN1人当たりにつき10名程度に限定している。また,「CPNには患者にデポ剤19を注射しに行く権限も持たされており,特に服薬の中断が問題となることが多い触法精神障害者の再発防止には効果を発揮している」20という。
 投薬治療をしないことによって病気が悪い方向へと向かい,その結果として再び罪を犯す,という悪循環を抑えるためにも,我が国においても,適切な診察の下に,ある程度はイギリスのCPN制度のようなものを取り入れてもいいのではないか。
 そのためにも,病院の精神科で勤務経験のあるような看護士の参加,また,触法精神障害者の地域住民の理解も必要不可欠となってくると考える。

(3)心理社会療法における国民の積極的参加
 次に,心理社会療法における国民の積極的参加を提案する。
 まずは,心理社会療法の代表的なものとしては生活技能訓練(SocialSkillsTrainings:以下SST)が挙げられる。SSTとは,対人関係を主とした生活技能(SocialSkills)を身につけるための訓練のことで,「対人的状況において自分の目的を達成し,相手から期待した反応を引き出すような効果的な行動を,指導者の援助の下に,体系的に学習する認知行動療法」21と定義され,その具体的な訓練の内容は,現実の社会においてありえそうな場面を想定して,触法精神障害者の生活技能(他人との付き合い方,何かしらの問題に直面した場合の解決法等)を磨いていくものである。
 一般社会において,最も大事なことの一つとして人間関系の構築があるが,良い人間関係を構築できないと,孤独感や閉塞感を感じることとなってしまい,その結果,症状の悪化,ひいては再犯の助長につながっていってしまうと考える。そこで,触法精神障害者が社会復帰に向けて良い人間関係を構築し,少しでも健常者と共に普通に生活できるようにするためにも,SSTには一般の国民にも積極的に参加してもらい,あくまでも一般市民の感覚で触法精神障害者とコミュニケーションをとってみてはどうであろうか。
 また,触法精神障害者が社会に復帰した後も,不満を吐露したり,悩みを相談したりすることができるような相談所のようなものを,ボランティアなどの協力によって作っていく必要もある。
 触法精神障害者には住居の確保などの物理的な援助も必要ではあるが,心理面でのケアも決して欠かすことができないのである。

(4)職業訓練
 一般社会へと戻っていくに当たって,就労が最も大事なことであり,同時に最も難しいことでもある。そこで,上記の(1)〜(3)のようなケアを経た上で,最終的には触法精神障害者が自立していくために,実際に一般企業への職業訓練といった形で,一時的に受け入れていくシステムを作ってみてはどうか。
 差別や偏見の目が,少なからず残っている一般社会において,就労しにくいことを原因の一つとして,窃盗や詐欺といった罪を犯してしまった触法精神障害者も多いのではないかと思う。そこで,社会復帰の重要な課題である就労の機会を得るためにも,彼らなりに就労可能である仕事を発見させてあげることが,まずは必要だと考える。
 そのためにも,一般企業の協力の下に,様々な業種の中からある程度の期間実際に働かせてもらい,触法精神障害者に仕事のおもしろさや必要性を認識させてあげてみてはどうであろうか。
 実際の現場で働いてみることは,有意なことであるし,なによりも受け入れる国民の側にとっても触法精神障害者とはどのような存在なのかという経験をすることによって,彼らへの理解が深まっていくと考える。
 そして,この職業訓練の結果,仕事に就くことができ,精神的にも金銭的にも少なからず自立したことによって社会復帰が助長され,そのことが再び犯罪に手を染めることを防ぐことができたならば,一般企業としても積極的にこのシステムに関わってきてくれるのではないかと考える。

四.まとめ
 本稿が対象としている触法精神障害者は,殺人や強盗を犯した医療観察法の対象者とは違い,詐欺や窃盗などの比較的軽微な罪を犯した者であることからみても,実際に今回提案した処遇プログラムに参加する国民にしても,多少は安心して参加することができると考える。
 また,これに参加しない国民であっても,心神喪失や心神耗弱とされ罪に問われず,かつ医療観察法の処遇システムにはよらない者でも,しっかりとアフターケアをしていくような制度が存在するという事実から,触法精神障害者は何のケアもなされておらず危険であるという悪しきイメージや反感を少しでも抑えることが期待できるのではないか。さらには,触法精神障害者のみならず,それ以外の精神障害犯罪者,はたまた罪を犯していない精神障害者への偏見・差別も軽減され,精神障害者がそのような理由から罪を犯すことが,少しでも減少する可能性が出てくれば良い。同時に,被処遇者としても早期に一般市民と触れ合うことにより,多少は社会復帰を容易にする可能性を高められることができると考える。
 他の先進国に比べても,我が国においては,従来より精神障害犯罪者への対策という点においては遅れをとってきたこともあり,一般的な国民感情として,罪を犯したのにその責任は問われず,何の治療もせずにまた社会へと戻っていくような状況を,おかしいと思うことは仕方が無いことかもしれない。しかし,その状況を徐々にでも変えていくことが触法精神障害者,それ以外の精神障害者のみならず,国民全体にとって絶対に必要である。そのためにも,国がイニシアティブをとり,もう一度深く研究・議論を重ねていき,まずは国民からの理解を得ていくためにも,本論文で提案したような国民をも巻きこんだ処遇システムを検討してみてはどうであろうか。

以上

1 山口幸博「精神障害者の犯罪を考える」261頁 鳥影社(2004年)
2 精神障害者とは,「統合失調症,精神作用物質による急性中毒又はその依存症,知的障害,精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律5条)こととする。
3 粥川裕平「精神医学の立場と触法精神障害者問題」法律時報74巻2号43〜47頁(2002年)
4 触法精神障害者とは,刑罰法令に触れる行為をしたが,精神障害を認められて検察官によって不起訴とされた者や,裁判において刑の減免を認められた精神障害者を指すこととする。
5 吉川和男「触法精神障害者問題―英国から学ぶ新たな制度の提案―」捜査研究604号18頁(2004年)
6 2003年に成立した医療観察法とは,殺人,放火,強盗,強姦,強制わいせつ(いずれも未遂を含む),傷害致死,傷害(軽微なものを除く)といった重大な他害行為をした当時に,心神喪失又は心神耗弱を認定されて不起訴処分となった者,心神喪失により無罪となった者,心神耗弱により刑を減刑された者に対し,病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,もってその社会復帰を促進するものである。特に,社会復帰の面では充実が計られており,「地域社会における触法精神障害者の処遇をコーディネイトし,触法精神障害者の社会復帰を促進するため,保護観察所に精神保健福祉に関する専門的知識を有する「社会復帰調整官」が新設された。」 佐藤園美「触法精神障害者の地域処遇―「社会復帰調整官」の役割についての一考察―」長野大学紀要 第27巻4号9頁(2006年)
7 平成18年版『犯罪白書』 3−4−2−1表
8 措置入院は,@警察官の精神保健福祉法第24条による通報A検察官の精神保健福祉法第25条による通報B保護観察所の長の第25条の2による通報C矯正施設の長の第26条による通報の各場合に,精神保健指定医2名以上による精神保健診察が行われ,各指定医の診察結果が措置該当で一致すれば,精神保健法第29条により国公立病院か各都道府県における指定病床を持つ精神科病院において措置入院患者として受け入れることとなっている。
9 長尾卓夫「触法精神障害者と措置入院制度の問題点」(触法精神者の処遇をめぐる諸問題第1部第2章7)123頁 信山社(2005年)
10 井上俊宏「触法精神障害者の追跡調査」こころの科学75号87頁(1997年)
11 平成16年度において,医療観察法対象外の触法精神障害者で,実刑・身柄拘束を受けた者は19人いる。 平成17年版『犯罪白書』 資料2−16
12 吉川・前掲注(5)20頁
13 佐藤・前掲注(6)15頁
14 平成17年版『犯罪白書』 資料2−16
15 ぜんかれん保健福祉研究所編「精神障害者・家族の生活と福祉ニーズ‘93(T)―全国家族調査編―」財団法人全国精神障害者家族会連合会(1993年)
16 緒方あゆみ「精神障害犯罪者の社会内処遇―日本型CPA制度の検討―」同志社法学56巻6号858頁(2005年)
17 新宮一成・角谷慶子編「精神障害者とこれからの社会」ミネルヴァ書房33〜34頁(2002年)
18 吉川・前掲注(5)22〜23頁
19 デポ剤とは,精神分裂病などの病気に効果的な注射剤で,通常の注射は数時間くらいしか体内に存在しないが,デポ剤は1回の注射で2週間から1か月間,効果を発揮する。薬を飲むことを拒否したがる者に効果的である。
20 吉川・前掲注(5)23頁
21 新宮・角谷編前掲注(17)44頁

(明治大学大学院 法学研究科 博士前期課程 1年)


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佳作
犯罪者の施設内処遇における企業参加のあり方について
浜崎 昌之
要旨
 近時のわが国の犯罪者の処遇で最も重要な課題の一つは,再犯を防止するために出所者を定職に就かせることである。
 これまでの処遇において,刑務作業が就職させるために有益な処遇だとされてきたが,実際にはそうであるとは言い切れない実態がある。その原因の一つとして考えられるのが,施設内の矯正の部門と出所後の就職の部門といった担当部署が,明確に区分されていることが挙げられる。
 そこで私は,刑務作業の場にこそ国民の一員たる企業,特にこれまでほとんど処遇に参加してこなかった大企業が直接的・積極的に参加すべきことを提案したい。そして,どのように参加するかについて,私は,イギリスのナショナル・グリッド社を参考に,受刑者を施設内で訓練し,それを終了したものには出所後の雇用を100%保証するというプログラムを導入すべきだと考える。
 このプログラムを導入するのにあたって,刑事施設側・わが国の厳罰化の風潮・企業側のメリットといった面を考えなければならない。刑事施設側からは,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律90条が定められていることから,また,厳罰化の風潮に対しては,刑期が長くなることで技術指導に必要な時間が満たされることから,導入の可能性がある。そして,最も重要な企業側からのメリットについて,技術者を安価で養成できる点で経費削減につながるとともに,近時高まりつつある企業の社会的責任における社会貢献にもつながるものとして,導入の可能性がある。今後,社会貢献は,企業運営を左右するほどに重要なものとなる。そこで,すでに社会貢献の一つとして技術指導が行われていることから,もう一歩進んで就職への道を用意することは十分に可能であると考える。
(日本大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程2年)

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佳作
虐待親の処遇における国民の参加
岡川 亮
要旨
 近年,児童虐待のニュースがマスコミによって多く取り上げられるようになってきた。児童虐待に関する相談件数の推移を見ると,平成7年には2722件,その10年後の平成17年度は約34000件で10倍以上と,急激に増加している。
 児童虐待が急増し,その再発を防止できない原因は2つ考えられる。第1に,親子の核家族化による孤立である。祖父母の代が家庭にいないことで,良い意味での監視がされない。また子育てについて教わることがあまりないのである。第2に,虐待親に対するケアが行われてこなかったことが挙げられる。虐待を受けた子どもに対しては,児童相談所が介入し,施設内での保護がなされ,その後も継続的に心理的アプローチによる治療などが行われている。しかし他方,虐待をした側,虐待親に対しては,MCG(Mother and Child Group)などの心理的な療法が任意では行われているものの,その制度が普及しているとは言い難い。アメリカでは虐待親に対してケア受講命令が裁判所から付される。それに対し,日本では虐待親に治療を強制するような制度はみられない。
 そこで上記の原因2つを解決するために次の提案をする。まず第1に虐待親に治療を強制する制度を提案する。これは刑の執行猶予や服役後の仮釈放に際して保護観察に付すとともに,保護観察中の特別遵守事項として,ケアプログラムの受講を命じる制度である。また虐待親が刑事事件として訴追されずに起訴猶予や不起訴になった場合は,家庭裁判所が虐待親に対するケアプログラム受講命令を言い渡すものである。そして第2に地域に配属されている民生委員(児童委員)を有効に活用する制度を提案する。児童委員の担う役割の一環として虐待親である親について,MCG受講中から様子を継続的に見ていくことにする。そうすることで,親子が社会から孤立することを防ぐのである。
 今までの日本における児童虐待に対する対応は,「児童福祉」の観点に立脚し,児童のみを保護や治療の対象としてきた。しかし児童のみを主眼においた保護・治療では,児童虐待の根本的な解決につながらない。「児童福祉」から「家族福祉」へパラダイムの転換の必要性があると言える。これまでは虐待を受けた子どもについての研究が多く行われてきた。しかしこれからは,虐待親側の研究が進むことに期待したい。
(明治大学大学院法学研究科公法学専攻博士前期課程1年)

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佳作
裁判員制度―国民の参加はいかにあるべきか
佐藤 舞
要旨
 平成16年5月に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)」が公布され,平成21年5月までの裁判員制度導入が確定している。裁判員制度とは,国民の刑事裁判への直接参加を意味し,国民が犯罪者の有罪・無罪及び量刑を決める制度である。導入の背景には,国民の意見(「法律の専門家ではない人たちの感覚」1)を裁判に反映させることにより,裁判員法第1条に掲げられているように,司法に対する国民の「理解の増進」と「信頼の向上」が期待されている。
 最高裁,法務省,日弁連などの司法関連機関はパンフレットやメディアを通じて,裁判員制度の仕組みやコンセプト等を盛んに国民に提供している一方で,国民は量刑や刑事制度等の犯罪全般に関する情報を入手できていないのが現状である。知識の乏しい国民の意見を裁判の過程に取り入れることへの正当性に関してはほとんど議論されていない。例えば,裁判員は死刑又は無期の懲役などに当たる罪に係る事件を対象とする2にもかかわらず,国民は死刑制度その他の刑事政策に関して十分な知識を持ち合わせているとは言えない。「専門家ではない人たちの感覚」が実際の刑事政策・制度に関して無知である,または歪んだものであっても,国民の意見は無条件に反映されるべきものであろうか。本稿は,犯罪に関する国民の知識に焦点を当て,その上で,国民の意見を量刑・刑事政策に取り入れることによる危険性及び利益の双方について論じる。筆者は,国民の意見が司法に反映されるならば,国民は正しい知識に基づいて裁判に関わるべきであり,間違った知識が存在するならば国民の誤解を正すことが,本当の意味での司法に対する国民の理解の増進及び信頼の向上につながると考える。

1 最高裁判所・法務省・日本弁護士連合会「私の視点,私の感覚,私の言葉で参加します」(2007)p3 。 www.kensatsu.go.jp/kakuchou/aomori/oshirase/17611200706210/sinbol.pdf
2 裁判員法第2条一項参照。

(英・ロンドン大学キングスカレッジ大学院法学部博士課程1年)

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