日本刑事政策研究会 罪と罰
受賞者発表
平成15年度懸賞論文入賞者決定!

 財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社との共催による平成15年度の刑事政策に関する懸賞論文募集は,平成15年4月に開始され,同年8月31日をもって締め切られました。
 平成15年度の論文題目は「少子高齢化と刑事政策」でありましたが,この応募論文は,各審査委員による厳正な個別審査の後,同15年11月28日に審査委員会が開催され,その結果,次の受賞者が選定されました。

優秀賞 安 成訓(明治大学大学院 博士前期課程)
佳作 政田 貴志(龍谷大学 法学部3年)
佳作 出雲 孝(中央大学 法学部3年)
佳作 村田 恵理(東京都立大学 法学部4年)

 なお,受賞者に対する表彰式は,平成15年12月8日,法曹会館において行われ,優秀賞には,当会から賞状及び賞金20万円が,読売新聞社から賞状と賞品が授与され,また,佳作には,当研究会から賞状及び賞金5万円がそれぞれ授与されました。


前列左から出雲 孝氏(佳作)
政田 貴志氏(佳作)
前田理事長
江幡会長
安 成訓氏(優秀賞)
村田 恵理氏(佳作)
後列左から読売新聞社事業開発部 近藤次長
読売新聞社事業開発部 次郎丸部長
鶴田常任理事
吉田評議員
森首席調査官

 以下に,受賞した論文(要旨)を掲載いたします。

  
平成15年度受賞作品
優秀賞日本の高齢犯罪者の矯正処遇(安 成訓)」
佳作高齢者の犯罪〜超高齢社会にむけての刑事政策〜(政田貴志)」
佳作学校跡地施設等活用による高齢犯罪者対策(出雲 孝)」
佳作高齢者虐待(村田恵理)」

優秀賞
日本の高齢犯罪者の矯正処遇
安 成訓
 日本の人口構造は世界にも類例をみないほどの勢いで,急速に高齢化している。このように高齢人口は急速に増えているのに比べて,個人や社会がこれを受け入れる準備のできていないところに問題の深刻さがある。日本社会の急速な少子高齢化は,刑事政策の分野にも例外なくその影響を及ぼしており,なかでも,とくに行刑施設内の受刑者の高齢化が著しい。高齢犯罪者は実数においても人口比である犯罪発生率においても増加していることが指摘されており,「矯正統計年報」によると,平成14年12月31日現在における受刑者中60歳以上の者は受刑者全体の10.3%を占め,行刑施設内の受刑者の高齢化傾向を裏付けている。
 超高齢社会を目前にし,「Aging Japan」に対する準備がどの時期よりも強調される現時点で,高齢犯罪者と刑事政策の分野,なかでも,とくに矯正処遇においての新しい関係を設定する作業は至急な課題である。高齢犯罪者と矯正処遇においての新しい関係を設定するときに考えるべきことは,まず,高齢受刑者への養護的・福祉的な矯正処遇の配慮に対し,国民一般の理解がどこまで得られるかである。それから,社会における犯罪の増減いかんにかかわらず,現にいる受刑者を人間としてどう扱うかを基本とし,その上で反社会的行動にとりつかれている者をもどうするかが,刑務所のありようでなくてはならない。 この2つの点を念頭におき,この新しい関係を設定する課題の対策として,以下の案を提示する。
 第一に,高齢受刑者の分類と収容の基準として,年齢だけを用いるのではなく受刑者個人の特性に配慮した処遇が望ましい。第2に,行刑施設及び設備の改善が求められる。第3に,医療サービス及び施設の改善が求められる。第4に,高齢受刑者のための特別プログラムの用意が求められる。
 上記の案を考慮に入れ,高齢受刑者に対する矯正処遇の先端を実施している尾道刑務支所と府中刑務所と同類の刑務所の増設,あるいは一般刑務所の一部をこのように改良することが現実的方策の一つとして考えられる。
(明治大学大学院法学研究科公法学(犯罪学)専攻 博士前期課程)
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佳作
高齢者の犯罪〜超高齢社会にむけての刑事政策〜
政田 貴志
 我が国の人口高齢化は,世界でも類を見ない程の速度で進行し,将来世界最高の水準にまで進行すると言われており,迅速かつ確実に高齢化対策を講じなければならない。その中で,高齢者犯罪や高齢受刑者の増加も著しく,刑事政策の分野においても数々の課題を解決する必要がある。
 高齢者犯罪に特徴的なのは,軽微な財産犯が圧倒的に多く,強盗犯や強姦犯などは他の年齢層に比べて少ない,という事である。つまり,高齢者の犯罪は体力や機敏な動きを必要としない行為に偏っている。
 また,高齢犯罪者・高齢受刑者の中には,老衰現象や疾患を有する者が数多く含まれている。彼等に対しての特別な処遇に関する法制度は十分整備されているのか。特別な処遇は如何なる基準で,どのようにして行われているのか。広島矯正管区の尾道刑務支所を例に取り,処遇の現状と課題を検討する。
 高齢受刑者の大きな課題のひとつに高齢累犯者処遇の問題がある。彼等は軽微な犯罪を何度も繰り返しては受刑している。高齢累犯者の中には10回以上の受刑を経験している累犯者も多い。この「犯罪と受刑の悪循環」に陥るのは彼等の社会生活の中に原因を見いだす事ができる。また,さらに何度も受刑していくうちに刑務所生活に慣れ,刑罰の効果が期待できなくなる。そうして彼等は社会生活と完全に乖離してしまう。このような悪循環をいかにして正常化させることができるのか。更生保護の段階において,社会復帰の可能性があると考え,それを検討する。
(龍谷大学法学部法律学科3年)
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佳作
学校跡地施設等活用による高齢犯罪者対策
出雲 孝
 近年,犯罪者の年齢構成において,高齢者(60歳以上)が増加するという現象が起こっている。かかる年齢構成の変化は,従来の行刑システムの流れに影響をもたらし,高齢犯罪者対策という新たな問題を形成しつつある。
 高齢犯罪者の多くは,@経済的な動機,A人間関係の希薄性,B社会復帰の困難性という特徴を有している。これらは,犯罪者としての特徴というよりも,むしろ,現代の高齢者が広く抱えている諸問題の現れであると言えよう。ゆえに,社会福祉的な観点から,これらの諸問題を解決する必要が生じてくる。
 一方で,少子化に起因する廃校が増加し,この廃校を社会福祉政策の一環として再利用する試みがなされている。例えば,東京都多摩市では,市民参加を踏まえた廃校再利用の積極的な計画立案が進められており,その中には高齢者を対象とした経済的・精神的援助を企図しているものがある。かかる政策の方向性は,まさに,高齢犯罪者対策が目指すべきものと一致しており,その中間施設として幾つかの利点があると考えられる。第一に,学校跡地施設で職業紹介・職能訓練を受ける事によって,経済的な困窮を解消する事ができる。第二に,学校跡地施設で若者やボランティア団体の人々と出会うことにより,孤独感や生き甲斐の無さを解消する事ができる。第三に,これらの段階的な活動を通じて,スムーズな社会復帰を行う事ができる。
 したがって,学校跡地施設等活用による高齢犯罪者対策は,行刑システムの補助的位置付けとして,十分にその効果を望む事ができると考えられる。
(中央大学法学部法律学科3年)
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佳作
高齢者虐待
村田 恵理
 我が国では,近年急激な高齢化が叫ばれており,今後も更なる高齢化が見込まれている。
その為,高齢者と犯罪の関わりについても様々な視点から研究が進められている。しかし高齢者虐待については,社会福祉分野においては現時点で実数も暗数も多く,今後も増加しうるとして研究が進められているにも拘わらず,一般的認識は低く,その対策についての議論も殆ど為されていない。
 高齢者虐待の凡その定義として,身体的虐待,世話の放任,情緒的/心理的虐待,金銭的虐待,性的虐待が挙げられる。家族,親族,介護専門職員ら介護を行う主体其々が虐待者となる可能性を有しているが,介護の現場となる自宅,介護施設は閉鎖的空間である場合が多く,表沙汰になりにくい傾向が強い。
 虐待を如何に予防し,如何に早期の段階で介入するか。施設内処遇については現行の民法の成年後見制度や厚生労働省のチェック機能以上に,更に厳しい基準,積極的な立入検査等を規定すべきである。自宅内,施設内共に虐待の発生の原因は様々だが,相談窓口を含めた介護サービスの圧倒的な不足が介護者のストレスとなっている事は共通しており,それらの更なる整備も要求される。
 社会福祉行政による施設以外にも,高齢者虐待を防止する為の法律の制定,民間の高齢者虐待防止組織を始めとする関係諸機関との協力,特に法執行機関による緊急通報の的確な処理,虐待者の隔離システム等の確立も予防・早期介入において必要である。
 そして,それら組織的な施策以上に重視されるのは,我々が安易に抱きがちな思い込み−−介護は女の仕事,家庭の問題であり,他人の手を借りるのは親不孝といった考え−−を払拭する事であり,それらが如何に要介護者を抱える家庭を追い詰め,孤立させているかを知る事である。様々なメディアを通して介護や高齢者虐待についての関心を高め,誰もが直面しうる問題であり,周囲の人間が虐待の通報を含め,様々な形で手を差し伸べうるという認識を少しづつでも広めていく事も,予防・介入のまず第一歩であろう。
 高齢者虐待の存在は未だ一般的ではないが,我々誰もが介護者としてまた被介護者としてその当事者になる可能性を秘めている。試行錯誤しながらも高齢者虐待について適切な対策を考えていく事は,我々が現在,未来の生活を安全にかつ心豊かに過ごす為の一つのカギであり,今後更にその重要性が増していくことは間違いない。
(東京都立大学法学部法律学科4年)
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