日本刑事政策研究会 罪と罰
受賞者発表
平成14年度懸賞論文入賞者決定!

 財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社との共催による平成14年度の刑事政策に関する懸賞論文の募集は,平成14年4月に開始され,同年8月31日をもって締め切られました。
 平成14年度の論文題目は「犯罪予防活動とプライバシー」でありましたが,この応募論文は,各審査委員による厳正な個別審査の後,同年11月25日に審査委員会が開催され,その結果,次の受賞者が選定されました。

佳作 黒澤 睦(明治大学大学院 法学研究科博士後期課程2年)
佳作 柴田 守(専修大学大学院 法学研究科修士課程2年)
佳作 島 大輔(慶應義塾大学 法学部法律学科4年)
(五十音順)

 なお,受賞者に対する表彰式は,同年12月11日法曹会館において行われ,当会から賞状及び賞金5万円がそれぞれ授与されました。


前列左から柴田 守氏(佳作)
江幡理事長
神谷会長
黒澤 睦氏(佳作)
島 大輔氏(佳作)
後列左から読売新聞社事業開発部 福田部員
読売新聞社事業開発部 近藤次長
読売新聞社事業開発部 次郎丸部長
上田常任理事
吉田評議員
佐藤首席調査官

 以下に,受賞した論文(要旨)を掲載いたします。

  
平成14年度受賞作品
佳作ビデオ監視とプライバシー(黒澤 睦)」
佳作生活安全警察とコミュニティセキュリティカメラシステム(柴田 守)」
佳作公的機関による防犯カメラシステムとプライバシー(島 大輔)」

佳作
ビデオ監視とプライバシー
黒澤 睦
 監視カメラは,犯罪を予防し,犯罪の危惧感を減少させ,犯罪後の早急で適切な処置をとる手がかりとなり,捜査や裁判の資料となり,私たちの生命・財産等を守ってくれる有効な手段と考えられている。しかし,同時に,肖像権,プライバシー権,表現の自由,思想・信条の自由,より大きくは行動の自由や人間の尊厳の侵害等の大きな問題があるとされる。
 現在は,国民的な議論が十分になされないまま,あらゆる場所で監視カメラが導入されている。監視カメラの有効性を活用するとともに私たちのプライバシー権等をできる限り保障するためには,内部規定にとどまらず,国民が監視カメラ制度の是非を検討することができるように,法律の制定が必要である。また,監視カメラがなし崩し的に導入されてきてしまっている現状にあっては,個別事例における裁判等による事後的コントロールだけでなく,明確な許容(制限)規定を創設して,監視カメラに対する一般的な権利・利益侵害の可能性を低減させる必要がある。立法にあたっては,警察については,犯罪捜査だけでなく犯罪予防・鎮圧活動に対しても,法律の射程が及ぶようにすべきである。また,犯罪発生前のいわゆる犯罪予防目的の監視行為であっても,裁判所による事前の審査を必要とすべきである。公共空間のビデオ監視については,私人であっても法律の射程に入れられるべきである。
 法律で規定すべき具体的な基準の内容については,@プライバシーの尊重・適正手続の保障(憲法31条)・犯罪防止の実効性確保の観点から,ビデオ監視が行われている旨の告知がなされなければならないこと,Aプライバシーないし個人情報の保護の観点から,録画された情報の管理・利用について特に厳格に規定すべきこと,が重要である。
(明治大学大学院法学研究科博士後期課程2年)
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佳作
生活安全警察とコミュニティセキュリティカメラシステム
柴田 守
 警視庁は,「犯罪被害の未然防止と犯罪の予防」を主たる目的として,コミュニティセキュリティカメラシステムの導入を検討している。同システムは,英国の犯罪減少計画閉鎖回路テレビのシステムを参考に,公共空間に防犯ビデオカメラを設置し,専用受信センターにて受信し,録画するシステムである。
 防犯ビデオカメラを設置し,受信・録画することは,モニターされる人々のプライバシー権・肖像権を侵害する。そうしたことから,まずその設置・利用に関し,生活安全警察の防犯活動上,許容されるかが問題となる。人的な防犯活動を補完するうえで謙抑的に導入されるべきであろう。設置・使用基準に関しては,大阪地裁平成6年判決の掲げた要件により権利の侵害の有無等が個別具体的に判断されるべきである。また,設置する以前には住民の意見を尊重するべきである。また,録画・保存,捜査機関への提供につき,特に捜査機関への保存画像の提供は,逮捕状請求や公判における証拠として採用されることから,一層厳格になされねばならない。この点,捜査のための写真撮影の法的性質を新たな強制処分とする立場からは,憲法31条・35条を制約として裁判によって個人の利益と社会の利益とが考慮されなければならないと考える。最高裁判所昭和44年判決,その延長線上の東京高裁昭和63年判決は支持される。
 最後に,計量犯罪学などにより犯罪の予測が進み,生活安全警察による犯罪予防活動が今まで以上に期待される。また,「生活安全条例」などもその促進を助けるだろう。生活安全警察の犯罪予防活動は,地域住民の不安感等に対応した,地域住民のニーズによらなければならない。そうするためには,生活安全警察と地域住民とが一層連携することが望まれる。
(専修大学大学院法学研究科修士課程2年)
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佳作
公的機関による防犯カメラシステムとプライバシー
島 大輔
 現在,非常に増加しつつある犯罪に対し,犯罪予防の試みとして警察により,犯罪多発地域にスーパー防犯灯や防犯カメラが設置されつつある。しかし,たとえ犯罪防止目的であろうとも,防犯カメラによる監視・録画を行う以上,我々のプライバシーを侵害するおそれがありうる。
 このような試みは,警察が平成12年に制定した「安全・安心まちづくり推進要綱」に基づく「環境設計による安全・安心まちづくり」施策によるものである。これは米国において,いわゆる「環境犯罪学」における様々な理論の発展に基づいた具体的施策として現在行われている「CPTED」,すなわち「環境設計による犯罪予防」による様々な試みを参考にしているものである。
 CPTED,そして環境犯罪学は犯罪の事前の予防に重点を置き,地域や建物を構造上,犯罪を行いにくいように作り変えることを目的とするが,そのような環境設計を行うと,いずれ社会の「要塞化」を招き,市民が閉塞感の強い生活を強いられるという批判がある。この「要塞化」によって我々のプライバシーが侵害される可能性は十分にあり得る。「環境設計による安全・安心まちづくり」についても同様である。また,「安全・安心まちづくり推進要綱」についても,録画された画像の処理などが不明確であったり,そもそも法律ではないといった問題が存在し,濫用のおそれもあり得る。
 高等裁判所のものではあるが,犯罪発生の高度な蓋然性,証拠保全の必要性・緊急性,方法の相当性といった要件を挙げた判決があり,「要塞化」を避けるにはこの要件で妥当と思われるが,一度侵害されたプライバシーは回復困難なことを考えれば,濫用に対し法律による強い歯止めをかけることが必要ではないだろうか。犯罪予防策を円滑に進めるためにも,濫用を防ぎ市民の信頼を得ることは必要である。
 (慶應義塾大学法学部法律学科4年)
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