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受賞者発表
平成13年度懸賞論文入賞者決定!
平成13年度「刑事政策に関する懸賞論文(題目:社会の変化と刑事司法)の応募論文は,各審査委員による厳正な個別審査の後,平成13年10月19日,法曹会館において審査会が開催され,審査の結果,次のとおり入賞者が決定しました。
当研究会では来年度も同じ論文募集を行う予定ですので御期待下さい。
優秀賞 | 山内 由梨佳 | (東京大学 法学部3年) |
佳作 | 井出 眞理子 | (龍谷大学 法学部4年) |
佳作 | 黒澤 睦 | (明治大学大学院 法学研究科博士後期課程1年) |
佳作 | 齋田 統 | (関西大学大学院 法学研究科博士後期課程2年) |
平成13年11月29日 法曹会館において表彰式が行われました。
上記懸賞論文入賞者に対する表彰式等が平成13年11月29日,日本刑事政策研究会の神谷会長,江幡理事長,坂井常任理事,読売新聞社の谷矢事業開発部長,同近藤開発部次長,その他同研究会評議員・会員等の参列の下,法曹会館で行われ,優秀賞の山内氏ほか3名の方には日本刑事政策研究会賞として賞状と賞金が授与されました。
平成13年度刑事政策に関する懸賞論文表彰式 平成13年11月29日 於法曹会館
前列左から | 井出 眞理子氏(佳 作) 江幡理事長 神谷会長 山内 由梨佳氏(優秀賞) 黒澤 睦氏(佳 作) |
後列左から | 一人おいて 読売新聞社事業開発部 谷矢部長 読売新聞社事業開発部 近藤次長 坂井常任理事 |
平成13年度受賞作品
優秀賞 | 「情報化時代に対応したハイテク犯罪取締体制(山内由梨佳)」 |
佳作 | 「更生保護と市民参加〜新しい官民協働体制の構築〜(井出真理子)」 |
佳作 | 「『事件』当事者のニーズと刑事司法(黒澤 睦)」 |
佳作 | 「責任無能力の抗弁について(齋田 統)」 |
優秀賞
情報化時代に対応したハイテク犯罪取締体制
山内 由梨佳
ハイテク犯罪の特徴は,匿名性,無痕跡性,無差別攻撃性及び越境容易性であり,コンピュータに残っているログ等のデータが瞬時に移転・消去されやすいので,@ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)におけるトラフィックデータの保存・保全・開示のルール化,A捜査機関によるリアルタイムの追跡,が犯人を追跡する上での捜査の課題となる。捜査機関のISPに対する問い合わせをルール化する上では,特定情報の開示命令にしたがうことを義務づけ,顧客のプライバシー保護との調整を図り,ISPの守秘義務に一定範囲の免責を制度化すべきである。通信データの保存義務については,ISPの負担とのバランスをとるために,保存期間を制限すべきである。保存されたデータの差押えでは,ISP顧客のプライバシーの保護との適正な権衡を保ち,証拠となるデータと無関係なものを除外したデータに限定して差押えするという制限規定を作っておくべきである。
リアルタイム追跡のためには,迅速な対応を可能にする捜査機関の設立が必要である。アメリカのFBI国家インフラ防護センターで行っている日々高度化するハイテク犯罪に迅速に対応しうる人材の育成,対抗技術の開発,官民対話の充実を見習うべきである。
国家において,ハイテク犯罪取締体制の確立は不可欠であると同時に,ISPはじめ私人と協力して行う新たな形の刑事政策が求められている。
佳作
更生保護と市民参加〜新しい官民協働体制の構築〜
井出 真理子
日本の更生保護は,行政と民間ボランティアとの協力という独自の官民協働体制を採ってきた。しかし,現在の更生保護ボランティアは,既存の組織に所属する必要があるため,多くの人にとって参加しにくく,その結果市民にとって馴染みの薄い存在となっている。自由な市民参加を実現させるため,共通の問題を持っている者同士が支え合い,問題解決を図る共同治療体という概念が有効であり,さまざまな人が参加できるように門戸を広げる必要がある。そして,活動の場所は行政が提供し,日常の運営は市民に任せるコミュニティーハウスを設立し,これを地域に開かれたものとすれば,周辺住民の理解も生まれるであろう。また,行政による医療関係者,福祉事務所のケースワーカーなどの専門的知識を有する人材を配置することにより,市民ボランティアでは不十分な専門性を補うことができる。
行政と市民のノウハウを組み合わせた新しい官民協働体制が望まれる。
佳作
『事件』当事者のニーズと刑事司法
黒澤 睦
従来,刑事司法の当事者は被疑者・被告人と国家とされ,刑事訴訟は,その両者の対立構造という図式で捉えられてきた。このような中,被害者等通知制度や犯罪被害者保護関連二法等が具体化され,刑事司法に被害者の観点が大きく取り入れられた。しかし,被害者に刑事司法の当事者として主体性が認められているとは言えない。これには,害悪を受けた「事件」当事者の全員の回復・関係修復を目指す修復的司法という考え方が,非常に示唆に富む。「事件」当事者のニーズを大きく分けると,@回復・関係修復的ニーズとA処罰・応報的ニーズの2種類がある。前者には,修復的司法がふさわしく,和解や仲裁というような方法がとられ,刑事訴訟との調整という点では,代替的考慮(不起訴,公訴取消,手続打切り等),非代替的考慮(量刑考慮)という形態が考えられ,また,純粋な修復的司法論とは異なるが,犯罪被害者給付金制度の拡充,刑事制裁としての損害賠償命令や社会奉仕命令の導入が望まれる。これに対し,後者には,私人訴追や付帯私訴等の制度が必要になるであろう。
佳作
責任無能力の抗弁について
齋田 統
犯罪を行った精神障害者の処遇やシステムの在り方をめぐる議論が様々なところでなされ,欧米諸国においてもこれまで試行錯誤が繰り返され,アメリカでは精神障害者であっても罪を問う傾向が強まっている。「責任無能力の抗弁」は,刑罰に値する者を決する限定機能を有する一方で精神障害者の社会的差別を引き起こす可能性もある。アメリカにおける責任無能力の抗弁の廃止に関する議論を基にすると,当該抗弁の廃止は,@刑事裁判制度のイメージアップA犯罪を行った精神障害者の汚名を減少しB精神的問題をもった人の処遇を容易にすることが明らかとなった。日本において同一に扱うことになると,精神障害を持つた人の無罪放免は少なくなるかも知れないが,真に必要なのは,処遇を必要とするすべての人のためのより良い社会復帰のための治療のプログラムである。精神障害者を刑事法的に治療的に取り扱う制度的受け皿の整備とともに,精神障害の人もそうででない人も同じように刑事責任が判断される刑法の改正を含めた議論が必要である。