日本刑事政策研究会 罪と罰
受賞者発表
平成12年度の受賞作品
佳作
犯罪者処遇における心理療法的プログラム
井出 眞理子
 凶悪犯罪の対応策として厳罰を叫ぶ世論の動きは,現状を踏まえれば当然とも解せられるが,犯罪者の人権に関わるだけに慎重にならざるを得ない。原点に戻って犯罪者処遇の基本理念を考えた上で,21世紀に求められる新しい処遇の在り方を模索してみた。
 処遇の基本理念が社会復帰であることに争いはない。しかし,犯罪者の多くが幼い頃に辛い体験をし,心に深い傷を負っていることは余り知られていない。彼らが情動的問題を抱えたまま社会に戻り,再び犯罪に手を染めることも少なくない。米国の非営利団体「アミティ」 は,治療共同体という概念をつかって,心理療法的プログラムを処遇に具体化させようと試み,再犯について成果を上げている。我が国においては,BBS会,保護司等の市民レベルの活動の経験が,処遇での心理療法的プログラムを導入する際の参考となろう。21世紀の刑事処遇が加害者の「被害性」など心理面でより充実したものであるものであるならば,犯罪者が本来の意味での更生を果たすだけでなく「被害の鎖」を絶つことにもなり,ひいては誰もが住みやすい社会を創ることになるのではないだろうか。
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佳作
加害者の心を支え再社会化を促進するために
河本 純子
 近年,被害者支援の問題に関心が高まり,特に犯罪被害による心の傷が注目されている。しかし,加害者に対する厳罰の声こそあれ,犯罪者の多くが恵まれない生育歴を持ち,被虐待の経験を有し,心に傷を負っている点については従来余り触れられずにきた。犯罪者に真の贖罪の気持ちを抱かせ,再社会化を成功させるためには,過去の心の傷を癒し,行為と結果を自己の人生の中に統合することが必要である。アメリカには集団心理療法の考え方に基づき犯罪者の心の傷を癒し社会復帰を支援する市民団体があり,再発防止に効果を上げている。
 日本における市民の刑事政策への関与は,保護司を始めとする篤志家によるものがあり,明治以来の歴史ある保護司の活動は,豊かな人間理解の力量を持つ人材を育成しているものとして評価される。未来の刑事政策の目標は,保護司に限らず全ての人が犯罪者とともに生きる姿勢を備えることができるよう理解を深めることにある。
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佳作
日本型参審制構築のための提言
今野 広樹
 1999年に司法制度改革審議会が設置される等,刑事司法に対する国民参加システムの制度設計の課題は現実的色彩を濃厚にするに至っている。刑事司法における国民参加システムには陪審制と参審制があるが,我が国の刑事司法環境の特質などを考慮し,21世紀の刑事司法における原則形態として参審制を導入すべきと考える。ただし,例外的に死刑に相当する否認事件等については,一種の陪審的参審制が望ましい。参審制は陪審制的な国民参加が望ましい事件については,参審員の選任や構成の面で民主制を十分に配慮すれば良く,専門性が重要な国民参加が必要とされる事件の場合は,高度の専門家の利用による専門性の強化が可能である。このように,参審制は極めて柔軟かつ多様な活用ができるので,21世紀の刑事司法に対する国民参加の制度設計を,陪審制より参審制を中心に検討すべきである。
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佳作
少年司法制度における刑の宣告の混合
齋田 統
 処罰年齢の引き下げや重大犯罪に対する管轄権の移転等を内容とする少年法改正論議が起きており,少年司法と刑事司法の関わりを考える時がきている。厳罰主義というと,しばしばアメリカの少年司法制度が引き合いに出されるが,厳罰主義へと向かったアメリカにおける少年司法から,少年司法と刑事司法の関わりについて考えた。
 少年司法制度の歴史及び目的から新しい選択肢として,社会の安全と少年犯罪者のニーズの妥協策として生み出されたのが,少年の制裁に停止された成人の制裁を結合する刑の宣告の混合規定である。当該規定は少年司法制度の理念を維持しつつ,少年犯罪者に社会復帰へのセカンド・チャンスを与えるものである。我が国においても少年法の基本理念の維持については異論がない。アメリカが厳罰主義を経て辿り着いたこの刑の宣告の混合は,あるべき少年司法制度と刑事司法制度の関わりを示唆しているのものと思う。

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佳作
コミュニティ・ポリーシング
時藤 仁美
 現代は都市化が急速に進んだことで社会が流動化し,構成員の匿名性が大幅に増大し,また価値観の多様化等の理由により個人の繋がりに欠け,国民と警察との距離も大きくなってきている。それが犯罪増加の一つの要因として指摘されたことにより,アメリカでコミュニティ・ポリーシングと称する警察運営に関する議論が生じた。明治以来の交番制度を有する日本でも地域警察を重視しようという動きがある。地域警察官の活動を「失われたコミュニティ」再生の一手段として用いる必要がある。
 しかし,全警察官の約4割を占めている地域警察部門は,若年警察官の教育的機能を担っており,独立した部門として位置付けるためには人事上の課題を有している。また,住民等の協力,地域社会の犯罪防止機能の活性化を支援する役割も重要であるが,警察の不祥事が連続して表面化したことが警察の様々な活動に対する国民の非協力をもたらしている。今こそ,警察全体で積極的にコミュニティ・ポリーシングに取り組み,国民の信頼を取り戻すことができるよう努力していかなければならない。

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