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最近の犯罪動向と犯罪者の処遇
―平成30年版犯罪白書から―
鈴 木   望
はじめに
 犯罪白書は,犯罪の防止と犯罪者の改善更生を軸として,刑事政策の策定とその実現に資するため,犯罪動向と犯罪者の処遇の実情を分析・報告している。平成30年版犯罪白書も,ルーティン部分(第1〜第6編)において,平成29年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を統計資料に基づいて概観した。以下,本稿において,その要点を紹介する(なお,法令名については,略称を用いている。)。

1 最近の犯罪動向
(1)刑法犯
ア 認知件数
 平成29年における刑法犯の認知件数は,91万5,042件(前年比8.1%減)であった。罪名別の構成比では,窃盗(71.6%)が最も多く,次いで,器物損壊(10.1%),詐欺(4.7%),暴行(3.4%)の順であった。刑法犯の認知件数は,平成14年に戦後最多の約285万件に達したが,翌年以降,毎年減少し続け,戦後初めて100万件を下回った前年に続き,平成29年も戦後最少を更新した。認知件数の減少の主な要因は,刑法犯の7割以上を占める窃盗の認知件数が減少し続けたことにあるが,窃盗を除く刑法犯の認知件数も,平成17年から減少し続けており,平成29年は25万9,544件であった(図1(白書1-1-1-1図)参照)。
 なお,刑法犯に危険運転致死傷・過失運転致死傷等を合わせた認知件数も減少を続けており,平成29年は136万8,355件(前年比7.5%減)であった。


図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移


 注 1 警察庁の統計による。
    2 昭和30年以前は,14歳未満の少年による触法行為を含む。
    3 昭和40年以前の「刑法犯」は,業務上(重)過失致死傷を含まない。
    4 危険運転過死傷は,平成14年から26年までは「刑法犯」に,27年以降は「危険運転致死傷・過
      失運転致死傷等」に計上している。


イ 検挙人員と検挙率
 平成29年における刑法犯の検挙人員は,21万5,003人(前年比5.0%減)であった。罪名別の構成比では,窃盗が約半分(50.8%)を占めており,次いで,暴行(12.0%),傷害(9.8%),横領(遺失物等横領を含む。)(8.3%)の順であった。刑法犯の検挙人員は,平成16年(約39万人)をピークとして減少し続けている。
 平成29年における刑法犯の検挙率は35.7%(前年比1.9pt 上昇)であった。刑法犯の検挙率は,平成13年に戦後最低(19.8%)を記録したが,平成14年から回復傾向にあり,一時横ばいで推移した後,平成26年以降再び上昇している。
ウ 主な罪名別の特徴
 【窃盗】認知件数は,平成14年をピークに減少し続け,平成29年は,戦後最少を更新し,65万5,498件(前年比9.4%減)であった。検挙率は,平成14年から上昇に転じ,平成29年は31.2%(同2.3pt 上昇)であった。手口別構成比を見ると,認知件数では自転車盗(31.3%)が最も高く,検挙件数では万引き(36.8%)が最も高い。
 【殺人】認知件数は,平成16年から減少傾向にあり,平成28年は戦後最少の895件であったが,平成29年はわずかに増加し,920件(前年比2.8%増)であった。検挙率は,安定して高い水準にあり,平成29年は101.1%であった(検挙件数には,前年以前に認知された事件に係る検挙事件が含まれることがあるため,検挙率が100%を超える場合がある。)。
 【強盗】認知件数は,平成16年から減少傾向にあり,平成29年は1,852件(前年比20.6%減)であった。検挙率は,平成17年から上昇傾向にあり,平成29年は82.1%(同1.6pt 上昇)であった。手口別構成比では,路上強盗(27.2%)が最も高く,次いで,コンビニ強盗(13.2%),住宅強盗(7.9%)の順であった。
 【傷害】認知件数は,平成20年以降,2万件台で推移しており,平成29年は2万3,286件(前年比4.4%減)であった。
 【暴行】認知件数は,平成18年以降おおむね高止まりの状況にあり,平成29年は3万1,013件(前年比2.5%減)であった。
 【脅迫】認知件数は,平成24年に急増し,その後も増加傾向にあり,平成29年は3,851件(前年比4.1%増)であった。
 【詐欺】認知件数は,平成17年に8万5,596件を記録した後,平成18年から減少に転じたが,平成24年からは増加傾向にあり,平成29年は4万2,571件(前年比3.9%増)であった。
 特殊詐欺全体では,平成29年は認知件数・検挙件数共に,前年より増加(それぞれ28.7%増・3.9%増)した。特に,振り込め詐欺の認知件数は,平成24年から増加し続けており,平成29年は1万7,926件(前年比31.8%増。平成23年の約2.9倍)であった。振り込め詐欺の被害総額は,平成23年から平成27年まで増加を続け,平成28・29年と減少しているものの,平成29年は約318億円(前年比10.8%減。平成22年の約3.9倍)であった。振り込め詐欺以外の特殊詐欺は,認知件数・検挙件数・被害総額共に前年より大きく減少(それぞれ47.9%減・49.2%減・48.9%減)した。特殊詐欺全体としての被害総額も,約335億円に減少(前年比14.0%減)した(なお,「キャッシュカード手交型」の特殊詐欺におけるATM からの引出(窃取)額を含めると約395億円。)。
 【強制性交等・強制わいせつ】刑法改正(平成29年7月13日施行)により,(ア)従来の強姦が強制性交等に改められ,被害者の性別を問わなくなり,かつ,性交(姦淫)に加え肛門性交・口腔性交をも対象とされるとともに,法定刑の下限が引き上げられ,(イ)監護者わいせつ・監護者性交等が新設され,(ウ)強姦等の非親告罪化等がなされた。
 強制性交等(前記改正前は強姦・準強姦であり,前記改正後は強姦,準強姦,準強制性交等及び監護者性交等を含む。)の認知件数は,平成15年に2,472件を記録し,その後は減少傾向にあったが,平成29年は増加し1,109件(前年比12.1%増。なお,前記改正による対象拡大の点に留意する必要がある。)であった。被害者の性別は,女性が1,094件,男性が15件であった。このうち,監護者性交等の認知件数・検挙件数は,それぞれ16件・13件であった。
 強制わいせつ(前記改正前は準強制わいせつを含み,前記改正後は準強制わいせつ及び監護者わいせつを含む。)の認知件数は,平成15年に1万29件を記録した後減少し,平成22年からは増加傾向にあったものの,平成26年から減少に転じ,平成29年は5,809件(前年比6.1%減。なお,前記改正による対象縮小(口腔性交・肛門性交が強制性交等の対象行為となった。)・拡大(監護者わいせつの新設)に留意する必要がある。)であった。このうち,監護者わいせつの認知件数・検挙件数は,それぞれ18件・12件であった。
(2)特別法犯
 平成29年における特別法犯の検察庁新規受理人員は,37万7,503人(前年比6.1%減)であった。このうち道路交通法違反が28万7,349人であり,特別法犯全体の76.1%を占める。
 道交違反(道路交通法違反及び保管場所法違反をいう。)を除く特別法犯の検察庁新規受理人員は,平成20年から減少傾向にあり,平成26・27年はわずかに増加したものの,平成28・29年と減少し,平成29年は8万8,981人(前年比0.3%減)であった。
 特別法犯の中で増加が目立つのは,入管法違反,児童買春・児童ポルノ禁止法違反,犯罪収益移転防止法違反,関税法違反等である。平成29年の各法違反の検察庁新規受理人員は,入管法違反が5,010人(前年比17.9%増),児童買春・児童ポルノ禁止法違反が3,074人(同13.3%増),犯罪収益移転防止法違反が2,473人(同34.2%増),関税法違反が701人(同13.1%増)であった。

2 犯罪者の処遇
(1)検察
 平成29年における検察庁新規受理人員の総数は,105万5,327人(前年比5.5%減)であった。罪種別の構成比を見ると,過失運転致死傷等及び道交違反がその約7割を占めている。平成29年における検察庁終局処理人員は106万3,320人(同5.4%減)であり,その内訳は,公判請求8万3,988人,略式命令請求24万5,529人,起訴猶予60万6,256人,その他の不起訴6万5,438人,家庭裁判所送致6万2,109人であった。公判請求人員は,平成17年から減少傾向にあり,平成29年は前年より4.3%減少した。
(2)裁判
 裁判確定人員は,平成12年から毎年減少し,平成29年は,29万9,319人(前年比6.6%減)であり,過去10年間でおおむね半減している。有期懲役判決が確定した人員(4万9,167人)について,全部執行猶予率(有期懲役人員に占める全部執行猶予人員の割合)は59.5%であり,一部執行猶予付判決が確定した人員は1,525人であった。また,無罪確定者は130人(裁判確定人員総数の0.04%)であった。
 平成29年の通常第一審における終局処理人員を罪名別に見ると,地方裁判所(4万9,592人)では,窃盗(構成比21.8%)が最も多く,次いで,覚せい剤取締法違反(同17.3%),道交違反(同12.5%),自動車運転死傷処罰法違反(同10.6%)の順であった。簡易裁判所(5,332人)では,窃盗(同83.6%)が最も多かった。平成29年に一部執行猶予付判決の言渡しを受けた人員は1,508人であり,罪名別では,覚せい剤取締法違反(91.0%)がほとんどを占め,次いで,窃盗(2.9%),大麻取締法違反(1.8%)の順であった。
 平成29年の裁判員裁判対象事件の第一審における判決人員は966人であり,そのうち,死刑が3人,無期懲役が20人,無罪が20人であった。また,有期懲役のうち,209人が全部執行猶予(うち108人が保護観察付)で,4人が一部執行猶予(全員が保護観察付)であった。
(3)矯正
 入所受刑者の人員は,平成19年から減少し続け,平成29年は1万9,336人(前年比5.5%減)と戦後最少を更新した。同年末現在の刑事施設における被収容者の収容人員は,5万3,233人(前年末比4.9%減)であり,収容率(既決)は66.9%(同2.6pt 低下)であった。
 平成29年の入所受刑者の罪名別構成比では,男女共に,窃盗が最も高く(男性32.2%・女性46.5%),次いで,覚せい剤取締法違反(男性26.7%・女性36.7%),詐欺(男性10.4%・女性5.9%),道路交通法違反(男性4.9%・女性1.8%)の順であった。入所受刑者の年齢層別構成比では,男女共に,40歳代が最も高く(男性27.4%・女性28.5%),女性は男性と比べて高齢者の構成比が高かった(男性10.9%・女性19.7%)。
 平成29年における出所受刑者は,2万3,086人(前年比4.1%減)であった。平成29年には,一部執行猶予受刑者362人(一部執行猶予の実刑部分刑期終了79人,仮釈放283人)が出所した。
(4)更生保護
 仮釈放者の保護観察開始人員は,平成29年は1万2,760人であった。出所受刑者(仮釈放,一部執行猶予者の実刑部分刑期終了,又は満期釈放により刑事施設を出所した者に限る。)の仮釈放率は,平成23年から上昇し続けており,平成29年は58.0%(前年比0.1pt 上昇)であった。
 保護観察付全部執行猶予者の保護観察開始人員は,平成13年から減少傾向にあり,平成29年は2,595人であった。同年の全部執行猶予者の保護観察率(全部執行猶予言渡人員に占める保護観察付全部執行猶予言渡人員の比率)は,8.0%(前年比0.9pt 低下)であった。
 平成29年に仮釈放となって保護観察が開始された者のうち一部執行猶予者は283人であった。また,一部執行猶予の実刑部分刑期終了により出所した者79人全員が保護観察付一部執行猶予者であり,これらの者を含み,同年に保護観察が開始された保護観察付全部・一部執行猶予者のうち保護観察付一部執行猶予者は248人であった(仮釈放,保護観察付一部執行猶予者の保護観察開始人員は,事件単位の延べ人員である。)。

3 少年非行の動向と非行少年の処遇
 少年による刑法犯の検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)は,平成16年から減少し続けており,平成29年は3万5,108人(前年比12.5%減)であった。少年人口比(10歳以上の少年人口10万人当たりの刑法犯検挙人員)も,同様の傾向が見られ,平成29年は307.2(同39.9pt 低下)であった。少年による刑法犯の検挙人員の罪名別構成比では,窃盗と遺失物等横領の2罪名で全体の70.5%を占める。
 少年保護事件の家庭裁判所新規受理人員も減少傾向にあり,平成29年は7万3,353人(前年比10.5%減)であった。少年鑑別所入所者の人員も,平成16年から減少し続け,平成29年は7,109人(同11.8%減)であった。
 少年院入院者の人員は,最近20年間では,平成12年(6,052人)をピークに減少傾向にあり,平成29年は2,147人(前年比16.2%減)であった。
 保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付されている者)の保護観察開始人員は,平成11年以降減少し続け,平成29年は1万4,465人(前年比11.3%減)であった。少年院仮退院者の保護観察開始人員は,平成15年から減少傾向にあり,平成29年は2,469人(同10.0%減)であった。

4 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇
(1)交通犯罪
 平成29年における交通事故の発生件数は47万2,165件,負傷者数は58万850人であった。交通事故の発生件数と負傷者数は,いずれも平成17年から減少し続けており,死亡者数も,平成4年(1万1,452人)のピーク後,減少傾向にあり,平成29年は,昭和23年以降最少の3,694人(前年比210人減)であった。
 平成29年における危険運転致死傷の検挙人員は653人(前年比10.1%増)であり,うち致死事件は32人であった。
 平成29年における道交違反の取締件数は,650万232件(前年比3.8%減)であった。そのうち,送致事件(非反則事件として送致される事件)の取締件数は,平成11年まで100万件を超えて推移していたが,平成12年からは毎年減少し,平成29年は28万4,643件(同7.6%減)であった。同年の酒気帯び・酒酔いは2万7,195件と前年よりも2.9%増加したが,それでも,平成期最多である平成9年の10分の1以下の水準を保っている。
(2)薬物犯罪
 覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,平成13年以降減少傾向にあったものの,平成18年からおおむね横ばいで推移し,毎年1万人を超える状況が続いており,平成29年も1万284人(前年比3.0%減)であった。
 いわゆる危険ドラッグに係る犯罪(医薬品医療機器法違反,麻薬取締法違反,交通関係法令違反等)の検挙人員は,平成24年に急増して以降増加を続けていたが,平成28年から減少に転じ,平成29年は651人(前年比29.2%減)であった。
 それに代わる形で急増を続けているのが大麻取締法違反であり,平成29年の検挙人員は,4年連続で増加し続け,昭和46年以降最多の3,218人(前年比18.2%増)であった(図2(白書4-2-1-4図)参照)。少年による大麻取締法違反の検挙人員も,同様に増加し続け,平成29年は292人(同41.7%増)であった。
 平成29年における薬物の押収量を見ると,覚せい剤が1136.6kg(前年比25.3%減),乾燥大麻が270.5kg(同69.4%増),大麻樹脂が21.9kg(前年の押収量は1.0kg),ヘロインが70.3kg(前年は押収なし)等であった。
(3)暴力団犯罪
 暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の刑法犯検挙人員は,平成15年から減少傾向にあり,平成29年は1万393人(前年比14.7%減)であった。同年の刑法犯検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,4.8%であった。罪名別では,傷害(2,095人),窃盗(1,874人),詐欺(1,813人),暴行(1,043人)の順に多く,全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,恐喝(45.5%),賭博(45.4%),暴力行為等処罰法違反(40.0%),逮捕監禁(36.2%)で高かった。

図2 大麻取締法違反等 検挙人員の推移


 注 1 厚生労働省医薬・生活衛生局の資料による。ただし,平成19年までは,厚生労働省医薬食品
      局,警察庁刑事局及び海上保安庁警備救難部の各資料により,20年から27年までは,内閣府
      の資料による。
    2 大麻,麻薬・向精神薬およびあへんに係る各麻薬特例法違反の検挙人員を含む。
    3 警察のほか,特別司法警察員が検挙した者を含む。


 暴力団構成員等の特別法犯検挙人員は,平成24年から毎年減少しており,平成29年は7,344人(前年比6.7%減)であった。同年の特別法犯検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,11.8%であった。罪名別では,覚せい剤取締法違反(4,693人)が最も多く,全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,暴力団対策法,暴力団排除条例,自転車競技法の各違反(いずれも100.0%)で高かった。
(4)サイバー犯罪
 不正アクセス行為(不正アクセス禁止法11条に規定する罪)の認知件数は,最近10年間では増減を繰り返しており,平成29年は1,202件(前年比34.7%減)であった。ネットワーク利用犯罪(インターネットを利用した詐欺や児童買春・児童ポルノ禁止法違反等,コンピュータ・ネットワークを不可欠な手段として利用した犯罪)の検挙件数は,平成22年から増加傾向にあり,平成29年は8,011件(前年比7.6%増)であった。中でも,児童ポルノに係る犯罪の検挙件数は平成20年から増加し続け,平成29年は1,432件(平成19年の約7.5倍)であった。
(5)児童虐待・配偶者間暴力・ストーカー等に係る犯罪
 児童虐待に係る事件(児童虐待防止法2条の規定する児童虐待により犯罪として検挙された事件)による検挙件数・検挙人員は,平成26年から4年連続で増加しており,平成29年は1,116件・1,153人と平成20年(304件,316人)の約3.7倍・約3.6倍であった(図3(白書4-6-1-1図)参照)。
 平成29年の配偶者暴力防止法違反の検察庁新規受理人員は,81人(前年比32人減)であった。同年において,被害者が被疑者の配偶者(内縁

図3 児童虐待に係る事件 検挙件数・検挙人員の推移(罪名別)


 注 1 警察庁生活安全局の資料による。
    2 「殺人」及び「保護責任者遺棄」は,いずれも,無理心中又は出産直後の事案を含まない。
    3 「強制性交等」は,平成28年以前は平成29年法律第72号による刑法改正前の強姦をいい,29年
      は強制性交等及び同改正前の強姦をいう。
    4 「その他」は,未成年者略取,児童買春・児童ポルノ禁止法違反,児童福祉法違反等である。


関係を含む。)であった事案に係る刑法犯検挙件数は,平成20年(2,895件)の約2.7倍に当たる7,738件(前年比3.9%増)であり,その約9割の事件における被害者は女性であったが, 殺人(157件)について,男性が被害者である事件が70件あった。
 平成29年のストーカー規制法違反の検挙件数は926件(前年比20.4%増。平成23年の約4.5倍)であった。同法改正により,平成29年6月から,都道府県公安委員会は,警告の存在を要件とせずに直接禁止命令等をすることが可能となった(警告前置の廃止及び緊急禁止命令等)。平成29年において,同法による警告及び禁止命令等の件数は,それぞれ3,265件(前年比297件減)・662件(同489件増。うち緊急禁止命令等が267件)であった。ストーカー行為をしている者による殺人,傷害等による検挙件数は,平成24年以降高水準で推移しており,平成29年は1,699件(前年比11.5%減。平成23年の約2.2倍)であった。
(6)女性犯罪・非行
 女性の刑法犯検挙人員は,平成17年に戦後最多(8万4,175人)を記録した後減少に転じ,平成29年は4万4,408人(前年比4.0%減)であった。検挙人員の女性比は,昭和50年代以降はおおむね2割前後で推移しており,平成29年は20.7%であり,窃盗(31.0%),殺人(24.1%),偽造(23.2%),放火(22.5%)について,女性比が高かった。同年における女性の刑法犯検挙人員を罪名別に見ると,窃盗が約4分の3(万引き60.9%,万引き以外の窃盗15.3%)を占めている。
 女性入所受刑者の人員は,平成19年以降おおむね横ばいで推移していたが,平成28年から減少し,平成29年は1,892人(前年比5.6%減)であった。入所受刑者総数に占める女性比は,平成12年以降上昇し続けていたが,平成28年から低下傾向にあり,平成29年は9.8%であった。女性の入所受刑者の罪名別人員では,窃盗の増加が著しく,平成24年以降,窃盗が覚せい剤取締法違反を抜いて最も多くなっている。
 女子の少年院入院者の人員は,平成13年までは増加傾向にあったが,その後は減少傾向にあり,平成29年は148人(前年比23.7%減)であった。非行名別に見ると,窃盗(33人),覚せい剤取締法違反(25人),傷害・暴行(24人)の順に多かった。
(7)外国人犯罪
 来日外国人による刑法犯の検挙件数は,平成17年(3万3,037件)のピーク後に減少し続けていたが,平成29年は前年よりも1,969件(21.8%)増加し1万1,012件であり,罪名別では,窃盗(構成比63.2%),傷害・暴行(同9.8%),遺失物等横領(同6.5%)の順に多かった。窃盗については,平成18年(2万3,137件)から減少し続けていたが,平成29年(6,955件)は前年よりも27.6%増加した。傷害・暴行については,近年増加傾向にあり,平成29年は1,082件(前年比6.3%増。平成20年の約1.3倍)であった。
 来日外国人による特別法犯検挙件数は,平成16年のピーク後に減少し,平成25年からの増減を経て,平成28年から2年連続で増加し,平成29年は5,994件(前年比17.8%増)であった。罪名別に見ると,入管法違反の構成比が66.6%と最も高い。
 平成29年における来日外国人被疑事件(過失運転致死傷等及び道交違反を除く。)の検察庁新規受理人員を国籍等別に見ると,中国(構成比30.5%),ベトナム(同22.2%),韓国・朝鮮(同7.9%),フィリピン(同6.8%),ブラジル(同5.9%)の順に多かった。
(8)精神障害のある者による犯罪等
 平成29年における精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)の刑法犯検挙人員は,3,260人(精神障害者2,002人,精神障害の疑いのある者1,258人)であり,罪名別では,窃盗が最も多く,次いで傷害・暴行であった。また,同年における刑法犯検挙人員の総数に占める精神障害者等の比率は,1.5%であり,罪名別では,放火(18.7%)及び殺人(13.4%)において高かった。

5 再犯・再非行
 刑法犯により検挙された者のうち,再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者)について見ると,再犯者が平成18年(14万9,164人)をピークとして漸減状態にあり,平成29年は10万4,774人であったのに対し,初犯者が平成16年(25万30人)をピークとして減少し続け,平成29年は11万229人となったことから,再犯者率(検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は上昇を続けており,平成29年は48.7%であった。
 刑法犯により検挙された成人のうち有前科者(道路交通法違反を除く犯罪の前科を有する者)についても,有前科者が平成19年から減少し,平成29年も前年比4.0%減の5万4,088人であったのに対し,刑法犯の成人検挙人員総数も減少していることから,有前科者率(刑法犯の成人検挙人員に占める有前科者の人員の比率)も,平成9年以降ほぼ一定しており,平成29年は28.7%であった。罪名別では,刑法犯全体と比べ,恐喝,強盗,詐欺の有前科者率が特に高い。
 平成29年に起訴された者の犯行時の身上を見ると,全部執行猶予中の者が7,121人(うち1,193人が保護観察中),一部執行猶予中の者が8人(全員が保護観察中),仮釈放中の者が682人,保釈中の者が246人であった。
 平成29年の入所受刑者人員1万9,336人のうち,再入者の人員は1万1,476人(前年比5.8%減)であり,再入者率は59.4%であった。女性の再入者は928人であり,再入者率は男性と比べると低い49.0%である。また,入所受刑者の就労状況別・居住状況別構成比を見ると,初入者に比べて再入者の方が,無職者・住居不定の者の占める比率が高く,平成29年の再入者のうち72.4%が無職者で,21.9%が住居不定の者であった。
 「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月犯罪対策閣僚会議策定)では,刑務所出所者の2年以内再入率(各年の出所受刑者人員のうち,出所年を1年目として,翌年の年末までに再入所した者の人員の比率)について,過去5年の平均値(20%)を基準として,平成33年までに20%以上減少させるという数値目標が設定されているところ,2年以内再入率は2年連続で低下しており,平成28年の出所受刑者の2年以内再入率は17.3%(前年比0.6pt 低下。基準値比2.7pt 低下)であった(図4(白書5-2-3-9図)参照)。年齢層別の2年以内再入率は,65歳以上の高齢者層において,他の年齢層よりも一貫して高いものの,出所年によって変動が大きく,平成28年は20.6%(前年比2.6pt 低下)であった。
 出所受刑者の再入所状況について見ると,平成25年の出所受刑者の5年以内再入率は38.2%であり,そのうち約半数の者が2年以内に再入所している。満期釈放者は,仮釈放者よりも再入率が高く,入所度数が多い者は,少ない者に比べて再入率が高かった。罪名別では,覚せい剤取

図4 出所受刑者の出所事由別再入率の推移


 注 1 法務省大臣官房司法法制部の資料による。
    2 前刑出所後の犯罪により再入所した者で,かつ,前刑出所事由が満期釈放等又は仮釈放の者を計上している。
    3 「再入率」は,各年の出所受刑者の人員に占める,出所年を1年目として,@では2年目
      (翌年)の,Aでは5年目の,それぞれ年末までに再入所した者の人員の比率をいう。


締法違反,窃盗の再入率が高かった。また,平成20年の出所受刑者の10年以内再入率は,満期釈放者では56.5%,仮釈放者では35.7%であるが,そのうち,それぞれ約9割,約8割の者が5年以内に再入所している(図5(白書5-2-3-6図)参照)。
 再非行少年率(少年の刑法犯検挙人員に占める再非行少年(前に道路交通法違反を除く非行により検挙(補導)されたことがあり,再び検挙された少年)の人員の比率)は,平成10年から毎年上昇を続けていたが,平成29年は,35.5%(前年比1.6pt 低下)であった。平成25年の少年院出院者について,5年以内の再入院率は15.1%,再入院・刑事施設入所率は21.6%であり,平成28年の少年院出院者の2年以内再入院率は10.2%,再入院・刑事施設入所率は10.7%であった。

6 統計上の犯罪被害
 平成29年において,人が被害者となった刑法犯の認知件数は71万9,621件,男女別の被害発生率(人口10万人当たりの認知件数)は,男性774.4・女性372.2であり,いずれも平成20年の約2分の1以下である。
 平成29年において,生命・身体に被害をもたらした刑法犯の被害者数

図5 出所受刑者の出所事由別再入率


 注 1 法務省大臣官房司法法制部の資料による。
    2 前刑出所後の犯罪により再入所した者で,かつ,前刑出所事由が満期釈放又は仮釈放の者を計上している。
    3 「再入率」は,@では平成25年の,Aでは平成20年の,各出所受刑者の人員に占める,それぞれ
      当該出所年から29年までの各年の年末までに再入所した者の人員の比率をいう。


は,2万7,490人(うち死亡者710人,重傷者2,644人)であり,財産犯(強盗,窃盗,詐欺,恐喝,横領及び遺失物等横領)の被害総額は,約1,352億円(うち現金被害額約815億円)であった。

(法務省法務総合研究所研究部室長研究官)
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