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犯罪白書
最近の犯罪動向と犯罪者の処遇 ―平成29年版犯罪白書から―
粟 田 知 穂
はじめに犯罪白書は,犯罪の防止と犯罪者の改善更生を軸として,刑事政策の 策定とその実現に資するため,犯罪動向と犯罪者の処遇の実情を分析・ 報告している。平成29年版白書(以下「本年版白書」という。)も,ルー ティン部分において,平成28年を中心とした犯罪動向及び犯罪者の処遇 の実情を統計資料に基づいて概観した。以下,本稿において,その要点 を紹介する(なお,法令名については,略称を用いている。)。
1 最近の犯罪動向
(1) 刑法犯
ア 認知件数
平成28年における刑法犯の認知件数は,99万6,120件(前年比9.4%減)であった。罪名別では,窃盗(構成比72.6%)が最も多く,次いで,器物損壊(同10.1%),詐欺(同4.1%)の順であった。刑法犯の認知件数は,平成14年に戦後最多の285万4,061件に達したが,平成15年に減少に転じて以降,14年連続で減少し,平成28年は,戦後初めて100万件を下回った。認知件数の減少の主な要因は,刑法犯の7割以上を占める窃盗の認知件数が減少し続けたことにあるが,窃盗を除く刑法犯の認知件数も,平成17年から減少しており,平成28年は27万2,972件であった(図1(白書1-1-1-1図)参照)。
なお,平成26年5月に自動車運転死傷処罰法が施行される以前の「刑法犯」,すなわち(一般)刑法犯に危険運転致死傷・過失運転致死傷等を合わせた認知件数も減少を続けており,平成28年は147万8,570件であった。
イ 検挙人員と検挙率
平成28年における刑法犯の検挙人員は,22万6,376人(前年比5.4%減)であった。罪名別では,窃盗が過半数(構成比51.0%)を占めており,次いで,暴行(同11.4%),傷害(同9.7%),横領(遺失物等横領を含む。)(同8.9%)の順であった。刑法犯の検挙人員は,平成16年(38万9,297人)をピークとして減少し続けている。
平成28年における刑法犯の検挙率は33.8%(前年比1.3pt 上昇)であった。刑法犯の検挙率は,平成13年に戦後最低を記録した(19.8%)が,平成14年から回復傾向にあり,平成26年以降再び上昇している。
ウ 主な罪名別の特徴
窃盗の認知件数は,平成14年に戦後最多の237万7,488件を記録した後,減少し続け,平成28年は,戦後最少の72万3,148件(前年比10 .5%減)であった。検挙率は,平成14年から上昇に転じ,平成28年は28.9%(同0.9pt 上昇)であった。
殺人の認知件数は,平成16年から減少傾向にあり,平成28年は895件(前年比4.1%減)と戦後最少を記録した。検挙率は,安定して高い水準にあり,平成28年は100.7%であった(検挙件数には,前年以前に認知された事件に係る検挙事件が含まれることがあるため,このように検挙率が100%を超える場合がある。)。強盗の認知件数は,平成15年に昭和26年以降で最多の7,664件を記録した後,平成16年から減少傾向にあり,平成28年は2,332件(前年比3.9%減)であった。検挙率は,平成17年から上昇傾向にあり,平成28年は80.5%(同1.6pt 上昇)であった。
強姦の認知件数は,平成15年に2,472件を記録したが,その後は減少傾向にあり,平成28年は989件(前年比15.3%減)であった。検挙率は,平成14年に62.3%と戦後最低を記録したが,その後は上昇傾向にあり,平成28年は98.1%(同2.6pt 上昇)であった。
強制わいせつの認知件数は,平成15年に1万29件を記録した後減少し,平成22年からは増加傾向にあったものの,平成26年から減少に転じ,平成28年は6,188件(前年比8.4%減)であった。検挙率は,平成14年に35.5%と昭和41年以降最低を記録したが,その後は上昇傾向にあり,平成28年は68.0%(同6.9pt 上昇)であった。
図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移
注1 警察庁の統計による。
2 昭和30年以前は,14歳未満の少年による触法行為を含む。
3 昭和40年以前の「刑法犯」は,業過を含まない。
4 危険運転致死傷は,平成14年から26年までは「刑法犯」に,27年は「危険運転致死傷・過失
運転致死傷等」に計上している。
2 昭和30年以前は,14歳未満の少年による触法行為を含む。
3 昭和40年以前の「刑法犯」は,業過を含まない。
4 危険運転致死傷は,平成14年から26年までは「刑法犯」に,27年は「危険運転致死傷・過失
運転致死傷等」に計上している。
詐欺の認知件数は,平成17年に昭和35年以降で最多の8万5,596件を記録した後,平成18年から減少に転じたが,平成24年からは増加傾向にあり,平成28年は4万990件(前年比4.0%増)であった。検挙率は,平成16年に32.1%と戦後最低を記録した後,平成17年から上昇に転じ,平成23年から26年までの低下を経て,平成28年は45.3%(同0.7pt 上昇)であった。
振り込め詐欺を含む特殊詐欺は,全体では,平成28年は認知件数,検挙件数共に,前年より増加(それぞれ2.4%増,8.7%増)したが,振り込め詐欺以外の特殊詐欺では,認知件数が前年より大きく減少(49.3%減)し,検挙件数は前年と同じであった。また,平成28年は,振り込め詐欺以外の特殊詐欺の被害総額が前年より大きく減少(63.0%減)したことに伴い,特殊詐欺全体としての被害総額も,約389億円に減少(前年比17.3%減)した(なお,「キャッシュカード手交型」の特殊詐欺におけるATM からの引出(窃取)額を含めると約408億円)。振り込め詐欺の認知件数は,平成21年(7,340件)に前年(2万481件)より大きく減少(64.2%減)したが,平成24年から増加し続けており,平成28年は平成23年(6,233件)の約2.2倍であった。また,振り込め詐欺の被害総額は,平成23年から27年まで増加を続け,平成28年は前年よりわずかに減少したものの,平成22年(約82億円)の約4.3倍であった。
傷害の認知件数は,平成12年に急増し,平成15年には3万6,568件まで増加したが,平成20年以降は2万件台で推移し,平成28年も2万4,365件(前年比3.2%減)であった。
暴行の認知件数は,平成18年以降おおむね高止まりの状況にあり,平成28年は3万1,813件(前年比2.2%減)であった。
(2) 特別法犯
平成28年における特別法犯の検察庁新規受理人員は,40万2,200人(前年比3.3%減)であった。このうち道路交通法違反が31万819人であり,特別法犯全体の77.3%を占める。
道交違反(道路交通法違反及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反をいう。以下同じ。)を除く特別法犯の検察庁新規受理人員は,平成13年から増加した後,平成20年から減少傾向にあったが,平成26年,27年はわずかに増加し,平成28年は8万9,281人(前年比3.8%減)であった。
このうち,交通犯罪,薬物犯罪については後記4で詳しく述べる。
その他の特別法犯で増加が目立つのは,廃棄物処理法違反,入管法違反,児童買春・児童ポルノ禁止法違反等である。平成28年の廃棄物処理法違反の検察庁新規受理人員は6,835人であり,前年比で2.3%増加した。平成28年の入管法違反の検察庁新規受理人員は4,251人であり,前年比で5.9%増加した。また,平成28年の児童買春・児童ポルノ禁止法違反の検察庁新規受理人員は2,713人であり,前年比で5.9%増加した。
2 犯罪者の処遇
(1) 検察
平成28年における検察庁新規受理人員の総数は,111万6,198人であり,前年より6万7,943人(5.7%)減少した。平成28年における検察庁終局処理人員は112万4,506人(前年比5.6%減)であり,その内訳は,公判請求8万7,735人,略式命令請求26万4,934人,起訴猶予63万5,593人,その他の不起訴6万6,126人,家庭裁判所送致7万118人であった。公判請求人員は,平成17年から減少傾向にあり,平成28年は前年より5,195人(5.6%)減少した。
(2) 裁判
裁判確定人員は,平成12年(98万6,914人)から毎年減少し,平成28年は,32万488人(前年比4.0%減)となっており,過去10年間でおおむね半減している。同年の有期懲役(5万1,824人)の全部執行猶予率(有期懲役人員に占める全部執行猶予人員の割合)は,59.5%であり,一部執行猶予付判決が確定した人員は855人であった。また,同年の無罪確定者は104人(裁判確定人員総数の0.03%)であった。
平成28年の通常第一審における終局処理人員を罪名別に見ると,地方裁判所では窃盗が1万1,306人(構成比21.6%)と最も多く,次いで,覚せい剤取締法違反9,089人(同17.4%),道交違反6,421人(同12.3%),自動車運転死傷処罰法違反5,470人(同10.5%)の順であった。簡易裁判所では窃盗が4,733人(同83.4%)と最も多い。うち一部執行猶予付判決の言渡しを受けたのは1,007人であり,罪名別では覚せい剤取締法違反がその大半の913人,その他に窃盗29人,大麻取締法違反23人等であった。
平成28年の裁判員裁判対象事件の第一審における判決人員は1,104人であり,そのうち,無罪が12人,死刑が3人,無期懲役が24人であった。また,有期懲役のうち,217人が全部執行猶予(うち125人が保護観察付)で,3人が一部執行猶予であった。
(3) 矯正
平成28年における入所受刑者の人員は,2万467人(前年比5.0%減)と戦後最少であった。総数では,平成19年から減少し続けているが,女性では,平成5年から平成18年まで増加し続け,平成19年に若干減少し,その後はおおむね横ばいで推移している。
平成27年の入所受刑者の罪名別構成比では,男女共に,窃盗が最も高く(男性32.1%,女性45.4%),次いで,覚せい剤取締法違反(男性26.2%,女性36.8%)であった。なお,女性の入所受刑者の罪名別構成比は,昭和53年以降,覚せい剤取締法違反が最も高かったが,平成24年以降,窃盗の構成比が最も高くなり,次いで,覚せい剤取締法違反,詐欺の順である。
平成28年末現在の刑事施設における被収容者の収容人員は,5万5,967人(前年末比4.3%減)であり,収容率(既決)は69.6%(同2.8pt 低下)であった。収容定員を上回る状態が続いていた女性の収容率(既決)も,平成23年から低下し始め,平成28年は91.4%であった。
(4) 更生保護
保護観察付全部執行猶予者の保護観察開始人員は,平成13年から減少傾向にあり,平成28年は3,034人(前年比12.3%減)であった。平成28年の全部執行猶予者の保護観察率(全部執行猶予言渡人員に占める保護観察付全部執行猶予言渡人員の比率)は,8.9%と,前年より1.1pt 低下した。
仮釈放者の保護観察開始人員は,平成28年は1万3,260人(前年比2.3%減)であった。出所受刑者の仮釈放率は,平成23年から上昇を続けており,平成28年は57.9%(前年比0.2pt 上昇)であった。
3 少年非行の動向と非行少年の処遇
少年による刑法犯の検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)は,平成16年から減少し続けており,平成28年は4万103人(前年比17.6%減)であった。少年人口比(10歳以上の少年人口10万人当たりの刑法犯検挙人員)も,同様の傾向が見られ,平成28年は347.1(同72.3pt 低下)であった。少年による刑法犯の検挙人員の罪名別構成比では,窃盗,遺失物等横領の順に高く,これら2罪名で全体の71.3%を占める。
少年保護事件の家庭裁判所新規受理人員も,減少傾向にあり,平成28年は8万1,998人であった。少年鑑別所入所者の人員も,平成16年から減少している。
少年院入所者の人員は,最近20年間では,平成12年(6,052人)をピークに減少傾向にあり,平成28年は2,563人(前年比6.6%減)であった。
保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付されている者)の保護観察開始人員は,平成3年から減少傾向にあり,平成28年は1万6,304人であった。少年院仮退院者の保護観察開始人員は,平成15年から減少傾向にあり,平成28年は2,743人であった。
4 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇
(1) 交通犯罪
平成28年における交通事故の発生件数は49万9,201件,負傷者数は61万8,853人であった。交通事故の発生件数と負傷者数は,いずれも平成17年から減少し続けており,死亡者数も,平成4年(1万1,452人)をピークとして,それ以降,減少傾向にあり,平成28年は3,904人であった。平成28年における危険運転致死傷の検挙人員は593人(致死事件45人)であり,そのうち無免許危険運転致死傷の検挙人員は55人(致死事件0人)であった。
平成28年における道交違反の取締件数は,675万7,569件(前年比4.5%減)であった。そのうち,送致事件(非反則事件として送致される事件)の取締件数は,30万8,116件(同6.5%減)であった。送致事件の取締件数は,平成11年まで100万件を超えて推移していたが,平成12年からは毎年減少している。特に平成28年の酒気帯び・酒酔いは2万6,423件であり,平成9年(34万3,593件)の10分の1以下である。
(2) 薬物犯罪
覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,平成13年以降減少傾向にあったものの,平成18年からおおむね横ばいで推移し,毎年1万人を超える状況が続いており,平成28年も1万607人であった。覚せい剤の平成28年の押収量は,1521.4キログラムと,前年の約3.5倍であった。
いわゆる危険ドラッグ(規制薬物(覚せい剤,大麻,麻薬・向精神薬,あへん及びけしがら)又は指定薬物(医薬品医療機器等法2条15項に規定する指定薬物)に化学構造を似せて作られ,これらと同様の薬理作用を有する物品をいい,規制薬物及び指定薬物を含有しない物品であることを標榜しながら規制薬物又は指定薬物を含有する物品を含む。)に係る犯罪の検挙人員は,平成24年に急増して以降増加を続けていたが,平成28年は920人(前年比23.1%減)であった。
それに代わる形で急増しているのが大麻取締法違反であり,平成28年の検挙人員は2,722人(前年比25.6%増,3年連続増加)であった。
(3) 暴力団犯罪
暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の検挙人員(刑法犯及び特別法犯(平成15年までは交通関係4法令違反を除き,平成16年以降は交通法令違反を除く。)に限る。)は,平成元年から平成15年まで3万人台で推移していたが,平成16年からは3万人を下回り,平成28年は2万50人(前年比7.4%減)であった。罪名別では,覚せい剤取締法違反が最も多く,次いで,傷害,詐欺,窃盗,暴行の順であった。平成28年における全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,全体で6.9%であり,罪名別に見ると,刑法犯では,賭博,恐喝,逮捕監禁で高く,特別法犯では,自転車競技法違反,覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反で高い。
(4) サイバー犯罪
不正アクセス行為(不正アクセス禁止法11条に規定する罪)の認知件数は,最近10年間では増減を繰り返しており,平成28年は1,840件(前年比10.3%減)であった。ネットワーク利用犯罪(インターネットを利用した詐欺や児童買春・児童ポルノ禁止法違反等,コンピュータ・ネットワークを不可欠な手段として利用した犯罪)の検挙件数は,平成22年から増加し続けていたが,平成28年は7,448件と前年からわずかに減少した。
(5) 児童虐待・配偶者間暴力・ストーカー等に係る犯罪
本年版白書は,加害者と被害者とが家族や交際相手等の一定の関係にあったことが多く,捜査機関による認知が困難であったり,再被害の防止等に特段の配慮を要することが多い犯罪について,「児童虐待・配偶者間暴力・ストーカー等に係る犯罪」を表題とする独立した章を設けた。
全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数は,平成27年度は10万3,286件であり,平成23年度(5万9,919件)の約1.7倍である。また,児童虐待に係る事件(児童虐待防止法2条の規定する児童虐待により犯罪として検挙された事件)による検挙件数,検挙人員は平成26年から3年連続で増加しており,平成28年は1,041件,1,071人と平成19年(300件,323人)の約3.5倍,約3.3倍であった(図2(白書4-6-1-2図)参照)。
図2 児童虐待に係る事件 検挙件数・検挙人員の推移
注1 警察庁生活安全局の資料による。
2 「殺人」及び「保護責任者遺棄」は,いずれも,無理心中又は出産直後の事案を含まない。
3 「その他」は,未成年者略取,児童買春・自動ポルノ禁止法違反,児童福祉法違反等である。
2 「殺人」及び「保護責任者遺棄」は,いずれも,無理心中又は出産直後の事案を含まない。
3 「その他」は,未成年者略取,児童買春・自動ポルノ禁止法違反,児童福祉法違反等である。
平成28年の被害者が被疑者の配偶者(内縁関係を含む。)であった事案の刑法犯検挙件数については,平成28年は7,450件であり,平成19年(2,794件)の約2.7倍であった。また,配偶者暴力防止法違反の検察庁新規受理人員は113人で,前年比5人増であった。
平成28年のストーカー規制法違反の検挙件数は769件で,平成23年(205件)の約3.8倍であった。平成28年の同法による警告及び禁止命令等の件数は,それぞれ3,562件,173件であり,特に警告の件数は,平成24年から著しく増加している。ストーカー行為をしている者による殺人,傷害等,刑法その他の法律(他法令)による検挙件数も,平成28年は1,919件であり,平成23年(786件)の約2.4倍であった。
(6) 女性犯罪・非行
女性の刑法犯検挙人員は,平成17年は戦後最多の8万4,175人であったが,その後減少に転じ,平成28年は4万6,256人(前年比6.1%減)であった。検挙人員の女性比は,昭和50年代以降はおおむね2割前後で推移している。女性の刑法犯の検挙人員について,年齢層別に見ると,高年齢化が男性より顕著であり,平成28年の高齢者(65歳以上の者)の割合は34.1%であった(男性は17.3%)。女性の検挙人員の少年比は,平成2年には57.2%を記録したが,平成14年以降は低下し続けており,平成28年は8.6%(前年比1.9pt 低下)であった。同年における女性の刑法犯の検挙人員を罪名別に見ると,窃盗の占める割合が高いが,女性は,男性に比べて万引きの占める割合が高く,特に女性高齢者の検挙人員の約8割が万引きであった。
女性入所受刑者の人員は,平成5年から平成18年まで増加し続けていたが,平成19年以降おおむね高止まりの状況にあり,平成28年は2,005人であった。入所受刑者総数に占める女性比については,平成12年以降上昇を続けていたが,平成28年はわずかに低下した。
女子の少年院入院者の人員は,平成13年までは増加傾向にあったが,その後は減少傾向にあり,平成28年は194人(前年比5.4%減)であった。なお,女子の少年院入院者は,男子に比べて,保護者等からの被虐待経験があるとする者の割合が高い。
(7) 高齢者犯罪
高齢者による刑法犯の検挙人員は,平成20年まで著しく増加し,その後は,他の年齢層と異なって高止まりの状況にあるところ,平成28年(4万6,977人,前年比1.4%減)は平成9年の約3.7倍であり,全年齢層の20.8%を占める。平成28年の高齢者の刑法犯検挙人員の人口比(高齢者人口10万人当たりの刑法犯検挙人員)は135.8と平成9年の約2.1倍であるが,他の年齢層の検挙人員の人口比よりは相対的に低く,20歳代と比べると半分以下である。
高齢者による刑法犯の検挙人員を罪名別に見ると,高齢者の刑法犯検挙人員の約7割を占める窃盗は,平成24年まで著しく増加していたが,その後はおおむね横ばいで推移し,平成28年は3万3,979人(前年比1.3%減)である。また,傷害及び暴行の検挙人員は著しく増加しており,平成28年は両罪で5,823人(前年比5.4%増)であり,平成9年の約17.4倍であった。重大事犯である強盗の検挙人員も増加傾向にある。
高齢者の入所受刑者の人員は,最近20年間で大幅に増加しており,平成28年は平成9年の約4.2倍の2,498人であった(図3(白書4-8-2-2図@)参照)。また,高齢者は,入所受刑者全体と比べて再入者の割合(再入者率)が高く,平成28年の再入者率は70.2%であった。
図3 高齢者の入所受刑者人員(入所度数別)・高齢者率の推移
注1 矯正統計年報による。
2 入所時の年齢による。
3 「高齢者率」は,入所受刑者総数に占める高齢者の比率をいう。
2 入所時の年齢による。
3 「高齢者率」は,入所受刑者総数に占める高齢者の比率をいう。
(8) 精神障害のある者による犯罪等
平成28年における精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)の刑法犯検挙人員は,4,084人(精神障害者2,463人,精神障害の疑いのある者1,621人)であり,罪名別では窃盗が最も多く,次いで傷害・暴行であった。また,同年における刑法犯検挙人員の総数に占める精神障害者等の比率は,1.8%であり,罪名別では,放火(20.3%)及び殺人(14.8%)において高かった。
5 再犯・再非行
刑法犯により検挙された者のうち,再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者)について見ると,再犯者が平成18年(14万9,164人)をピークとして漸減状態にあり,平成28年は11万306人であったのに対し,初犯者が平成16年(25万30人)をピークとして減少を続け,平成28年は11万6,070人となったことから,再犯者率(検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は上昇を続けており,平成28年は48.7 %(前年比0.7pt 上昇)であった。
刑法犯により検挙された成人のうち有前科者(道路交通法違反を除く犯罪の前科を有する者)についても,有前科者が平成19年から減少し,平成28年も前年比3.3%減の5万6,321人であったのに対し,刑法犯の成人検挙人員総数も減少していることから,有前科者率(刑法犯の成人検挙人員に占める有前科者の人員の比率)も,平成9年以降ほぼ一定しており,平成28年は28.9%であった。罪名別では,刑法犯全体と比べ,恐喝,強盗,詐欺の有前科者率が特に高い。
平成28年の入所受刑者人員2万467人のうち,再入者の人員は1万2,179人(前年比4.9%減)であり,再入者率は59.5%であった。女性の再入者は966人であり,再入者率は男性と比べると低い48.2%である。また,入所受刑者の就労状況別・居住状況別構成比を見ると,初入者に比べて再入者の方が,無職者・住居不定の者の占める比率が高く,平成28年の再入者のうち72.9%が無職者で,22.6%が住居不定の者であった。
出所受刑者(仮釈放又は満期釈放により刑事施設を出所した者)の再入所状況について見ると,平成24年の出所受刑者の5年以内再入率(各年の出所受刑者人員のうち,出所年を1年目として,5年目の年末までに再入所した者の人員の比率)は,38.3%であり,そのうち2年以内に再入所した者は,全体の18.6%であった(図4(白書5-2-3-6図)参照)。また,満期釈放者は,仮釈放者よりも再入率が高く,入所度数が多い者は,少ない者に比べて再入率が高かった。罪名別では,覚せい剤取締法違反,窃盗の再入率が高かった。
図4 出所受刑者の出所事由別再入率
注1 法務省大臣官房司法法制部の資料による。
2 前刑出所後の犯罪により再出所した者で,かつ,前刑出所事由が満期釈放又は仮釈放の者を
計上している。
3 「再入率」は,@では平成24年の,Aでは19年の,各出所受刑者の人数に占める,それぞれ
当該出所年から28年までの各年の年末までに再出所した者の人員の比率をいう。
2 前刑出所後の犯罪により再出所した者で,かつ,前刑出所事由が満期釈放又は仮釈放の者を
計上している。
3 「再入率」は,@では平成24年の,Aでは19年の,各出所受刑者の人数に占める,それぞれ
当該出所年から28年までの各年の年末までに再出所した者の人員の比率をいう。
平成18年から27年の各年の出所受刑者について,2年以内再入率の推移を見ると,平成18年以降わずかながら低下傾向にあり,平成27年の出所受刑者の2年以内再入率は18.0%(前年比0.6pt 低下)であった。年齢層別の2年以内再入率は,65歳以上の高齢者層において,他の年齢層よりも一貫して高く,平成27年は23.2%(前年比2.8pt 上昇)であった(図5(白書5-2-3-9図@,5-2-3-10図A)参照)。
再非行少年率(少年の刑法犯検挙人員に占める再非行少年(前に道路交通法違反を除く非行により検挙(補導)されたことがあり,再び検挙された少年)の人員の比率)は,平成10年から毎年上昇を続けており,平成28年は,37.1%であった。平成24年の少年院出院者について,5年以内の再入院率は16.5%,再入院・刑事施設入所率は22.4%であり,平成27年の少年院出院者の2年以内再入院率は11.0%,再入院・刑事施設入所率は11.8%であった。
図5 出所受刑者の2年以内再入率の推移(出所事由別・年齢層別)
注1 法務省大臣官房司法法制部の資料による。
2 前刑出所後の犯罪により再出所した者,かつ,前刑出所事由が満期釈放又は仮釈放の者を
計上している。
3 「2年以内再入率」は,各年の出所受刑者の人員に占める,出所年の翌年の年末までに再入所し
た者の人員の比率をいう。
4 Aの「年齢層」は,前刑出所時の年齢による。再入者の前刑出所時年齢は,再入所時の年齢及び
前刑出所年から算出した推計値である。
2 前刑出所後の犯罪により再出所した者,かつ,前刑出所事由が満期釈放又は仮釈放の者を
計上している。
3 「2年以内再入率」は,各年の出所受刑者の人員に占める,出所年の翌年の年末までに再入所し
た者の人員の比率をいう。
4 Aの「年齢層」は,前刑出所時の年齢による。再入者の前刑出所時年齢は,再入所時の年齢及び
前刑出所年から算出した推計値である。
6 統計上の犯罪被害
平成28年における人が被害者となった刑法犯の認知件数及び男女別の被害発生率(人口10万人当たりの認知件数)は,認知件数が78万7,929件,男性の被害発生率が854.5,女性の被害発生率が399.2と,いずれも平成19年と比べて減少・低下している。
(法務総合研究所研究部総括研究官)