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犯罪白書
窃盗事犯者と再犯 ─平成26年版犯罪白書から─
冨田 寛
岡田 和也
守谷 哲毅
はじめに岡田 和也
守谷 哲毅
平成26年版犯罪白書(以下「白書」という。)では,再犯防止対策の充実を図るとの観点から,「窃盗事犯者と再犯」と題して特集を組み,各種統計資料や特別調査の結果等に基づき,窃盗事犯者の実態や再犯状況等を分析し,窃盗事犯者の再犯防止対策について検討している。本稿 では,その要点を紹介するが,紙幅の都合上,白書の本文記述や図表の一部を要約していることをお断りしておく。なお,本稿中,白書の記述・分析内容を超える部分は,筆者らの私見である。
1 窃盗事犯の動向
(1) 認知件数・検挙率
窃盗は,例年,刑法犯の認知件数の過半数を,一般刑法犯の認知件数の7割以上をそれぞれ占めており,国民が最も被害に遭いやすく,身近に不安を感じる犯罪の一つである。
窃盗の認知件数は,平成8年から戦後最多を記録し続け,平成14年(237万7,488件)をピークとして減少に転じた後,11年連続で減少しているが,その軌跡は刑法犯の認知件数の推移とも符合しており(本誌39頁参照),窃盗事犯の増減が我が国の犯罪情勢に大きな影響を与えてい る。平成25年の窃盗の認知件数(98万1,233件)は,昭和48年以来40年ぶりに100万件を下回ったが,軌を一にするように,刑法犯の認知件数も平成25年(191万7,929件)は昭和56年以来32年ぶりに200万件を切るに至った。窃盗の検挙率は,平成13年に戦後最悪の15.7%を記録した後,上昇に転じ,平成18年以降は26〜27%台で推移している。
これらの犯罪情勢の好転・悪化には様々な事情が複合的に影響しており,窃盗事犯の増減要因を一概に論ずることは困難であるが,窃盗事犯の増減には我が国の雇用情勢も影響していると思われる。すなわち,窃盗は利欲的な犯罪の典型であり,犯行の動機・背景には何らかの経済的 事情が介在していることが多く,特に侵入窃盗,自動車盗,車上ねらい,ひったくりの各手口は,検挙人員に占める無職者の割合が極めて高い1。この点,バブル経済期以降の完全失業率は,平成4年から上昇し,平成14年には過去最悪となる5.4%を記録し,同年までの10年間で2倍以上 に上昇したが,その後は低下傾向にあり,その軌跡は前記の各手口の認知件数の推移とおおむね符合しており,雇用情勢の変化が窃盗事犯の増減にも関係しているものと考えられる2。
もっとも,完全失業率は,平成15年に低下に転じた後も,リーマン・ショックに象徴される世界的な金融不安に伴って一時的に上昇しており,その間も窃盗の認知件数が一貫して減少していることからすれば,その背景事情として,窃盗を含む犯罪抑止に向けた各種の施策や取組が一定の功を奏しているものと考えられる(図1参照)3。
図1 認知件数の推移と各種施策の実施時期
我が国の犯罪情勢が急速に悪化していた平成14年〜平成15年の時期を中心に,各種の街頭犯罪対策や侵入犯罪対策(前記D〜G)が講じられ,車両関連の窃盗事犯対策(前記@C)等とも相まって,窃盗の大半の手口の認知件数の減少や検挙率の上昇にも一定の影響を及ぼしたものと思 われる4。その一方で,万引きの認知件数については,近年漸減しつつあるとはいえ,依然として高止まりの傾向にあり,特に高齢者(65歳以上の者)による万引きについては,その対策が喫緊の課題となっている。
(2) 検挙人員
窃盗は,例年,一般刑法犯の検挙人員において最も高い割合を占めている(平成25年は52.9%)。窃盗の検挙人員は,平成13年から平成16年(19万5,151人)にかけて大幅に増加したが,その後は減少傾向にあり,平成25年(13万8,947人)は戦後最少を記録した。
手口別の特徴では,侵入窃盗の検挙人員(平成25年は9,063人)は,約9割を男子が占め,4割以上が29歳以下の少年・若年者であり,また無職者が5割前後を占めている。
これに対し,万引きの検挙人員(平成25年は8万5,464人)は,約4割を女子が占め,侵入窃盗と比べて女子の割合が顕著に高い。万引きの検挙人員は高年齢化が顕著であり(図2参照),職業別の構成比でも,学生・生徒等の割合が平成11年までは4割以上を占めていたが,平成25 年(17.7%)は平成6年と比べると半減しており,その一方で,年金等生活者(年金や家賃等の収入による生活者)の割合が上昇傾向にあり,平成25年(19.5%)は統計数値のある平成8年(4.0%)の約5倍となった(図3参照)。
図2 万引き 検挙人員の年齢層別構成比の推移
図3 万引き 検挙人員の職業別構成比の推移
また,微罪処分により処理された窃盗の検挙人員のうち万引きの検挙人員の占める割合(平成25年は74.2%)は最も高く,万引きの微罪処分率5は,平成11年以降4割台で推移しており(平成25年は42.9%),万引き以外の窃盗の場合(同23.8%)と比べて顕著に高いことが特徴である。
2 対象者の特性から見た窃盗事犯者の動向
犯罪対策閣僚会議が決定した「再犯防止に向けた総合対策」では,対象者の特性に応じた指導・支援の強化が重点施策の一つとされており,窃盗は,同総合対策が掲げる対象者のうち「少年・若年者」,「高齢者」及び「女子」といった各類型において,一般刑法犯に占める検挙人員の 割合が最も高い犯罪である。そこで,以下,対象者の特性の観点から,窃盗事犯者の動向を概観する。
(1) 少年
平成25年における少年の窃盗の検挙人員(3万3,321人)は,平成6年と比べて約6割減少しており,少年人口の減少(20年間で約3割減)と比べても大幅に減少している(図4@参照)。窃盗の検挙人員に占める少年の割合も,平成25年(24.0%)は平成6年と比べて半減した。もっ とも,窃盗は,少年の一般刑法犯検挙人員の約6割を占めており,少年非行の代表格であることに変わりはない。
図4 少年人口・高齢者人口と窃盗の検挙人員の人口比の推移
窃盗の検挙人員に占める少年の割合が高い手口は,オートバイ盗,自動販売機ねらい,自転車盗,ひったくり,自動車盗,車上ねらいである6。万引きの検挙人員に占める少年の割合は,平成14年までは4割台〜5割台で推移していたが,平成25年(19.6%)は平成6年と比べ半減した(図 2ア参照)。もっとも,少年の窃盗の検挙人員の中では,万引きが過半数を占めている。
平成25年における窃盗の検察庁終局処理人員に占める家庭裁判所送致の割合(30.5%)も,平成6年と比べ半減しているが,全罪名での家庭裁判所送致の割合(平成25年は7.9%)と比べると,依然として高い。
窃盗の保護観察処分少年の保護観察開始人員は,平成15年をピークに減少傾向にあるが,平成25年における保護観察処分少年の総数に占める窃盗の割合(38.3%)は,平成6年の約1.5倍であった。
平成25年における窃盗の少年院入院者の人員は,平成6年と比べ3割以上減少したが,少年院入院者の総数に占める窃盗の割合は依然として最も高く,特に男子(平成25年は33.3%)は女子(同16.9%)に比べて顕著に高い。
(2) 若年者
若年者7の窃盗の検挙人員は,平成16年をピークに減少傾向にあり(平成25年は1万7,803人),窃盗の検挙人員に占める若年者の割合も低下傾向にあるが(同12.8%),少年ほどの大きな変化はない。また,窃盗は,例年,若年者の一般刑法犯検挙人員の約4割を占めている。
窃盗の検挙人員に占める若年者の割合が最も高い手口は,侵入窃盗であり,ひったくり,自転車盗,自動車盗も,少年に次いで若年者の割合が高い8。若年者の窃盗の検挙人員の中では万引きの割合(平成25年は41.6%)が最も高いが,その割合は各年齢層の中では若年者が最も低い。
若年者の窃盗の起訴人員は,男女共に減少傾向にあるが(後掲図6参照),男子は,窃盗の起訴人員に占める若年者の割合が最も高く(平成25年は26.8%),起訴猶予人員(同24.6%),保護観察付執行猶予者の保護観察開始人員(同34.2%),初入者(受刑のため初めて刑事施設に入所する者。同31.2%)においても,おおむね同様の傾向にある。
(3) 高齢者
平成25年における高齢者の窃盗の検挙人員(3万4,060人)は,平成6年の約4.5倍となり,高齢者人口の増加(20年間で約8割増)をはるかに上回る勢いで増加している(図4A参照)。高齢者は,平成25年の窃盗の検挙人員に占める割合(24.5%)が最も高く,その割合は平成6年と比べ約5.4倍にまで上昇した。
一般刑法犯検挙人員に占める窃盗の割合も,高齢者は総数(全年齢)と比べて顕著に高く,特に女子高齢者は,約9割が窃盗であり,しかも万引きが約8割と際立って高い(図5参照)。また,平成25年の万引きの検挙人員に占める高齢者の割合(32.7%)は最も高く,特に女子高齢者の割合(37.8%)は,平成6年と比べ約4倍に上昇した(図2参照)。
図5 一般刑法犯 検挙人員の罪名別構成比
高齢者の窃盗の起訴人員も,男女共に増加し続けているが,起訴人員の高年齢化は女子の方が顕著である(図6参照)。女子は,20年間で,高齢者の起訴人員が約44倍に増加し(平成25年は1,860人),窃盗の起訴人員に占める高齢者の割合(同29.5%)も約9.5倍にまで上昇しており,平成22年以降は高齢者の割合が最も高い。他方,高齢者は,窃盗の起訴 猶予人員においても,男女共に大きく増加しており,例年,窃盗の起訴猶予率9は,各年齢層の中で高齢者が最も高い(平成25年は63.3%)
図6 窃盗 年齢層別の起訴人員(男女別)・女子比の推移
窃盗の保護観察付執行猶予者の保護観察開始人員は,男女共に,高齢者の割合が上昇傾向にある。平成25年における女子高齢者の人員は,平成16年と比べ2倍に増加しており,高齢者の保護観察付執行猶予者に占める女子の割合(女子比)も,窃盗(平成25年は46.4%)は,窃盗以外(同7.4%)と比べて顕著に高い。
高齢者の入所受刑者は,例年,窃盗による入所者の割合が最も高く(平成25年は55.9%),特に女子高齢者の場合(同87.3%)は,男子高齢者(同50.9%)よりも顕著に高い。窃盗の入所受刑者は,男子の場合は,年齢層が上がるにつれて再入者(入所度数が2度以上の入所受刑者)の割合が高くなる傾向にあり,男子高齢者の約8割が再入者である。これ に対し,女子の場合は,各年齢層を通じて初入者の割合が最も高く,女子高齢者でも初入者が約半数(同49.8%)を占める。また,女子は,初入者・再入者共に,男子に比べて高齢者の割合が高く,特に女子の初入者は,平成25年の高齢者の人員(133人)が平成16年と比べて約5.5倍に増加し,高齢者の割合も約4.6倍にまで上昇した(図7参照)。
図7 窃盗 初入者の年齢層別構成比の推移
(4) 女子
女子の窃盗の検挙人員は,窃盗罪に罰金刑が導入される前の平成17年(6万0,462人)をピークに減少傾向にあるが(平成25年は4万2,873人),窃盗の検挙人員に占める女子の割合(女子比)は平成16年以降3割台で推移している(平成25年は30.9%)。女子は,一般刑法犯検挙人員に占 める窃盗の割合(同78.1%)が男子(同46.2%)に比べて顕著に高く,とりわけ万引きの割合は,女子(同64.4%)が男子(同24.1%)の約2.7倍である。万引きの検挙人員の女子比は,平成10年以降4割台で推移している(同41.4%)。
女子の窃盗の起訴人員は,平成9年以降増加傾向にあり,特に罰金刑導入後の平成18年から大幅に増加し,平成20年以降はおおむね高止まりの傾向にある。検挙人員の女子比がおおむね横ばいであるにもかかわらず,平成25年における起訴人員の女子比は,平成6年と比べ約3.7倍に まで上昇した(図6A参照)。また,罰金刑導入後の平成18年〜平成19年にかけて,窃盗の女子の起訴率10(図8参照)や起訴人員の有罰金前科者率11も大きく上昇し(後掲図11参照),他方で,女子の窃盗の起訴猶予率は大きく低下しており(図8参照),罰金刑導入が女子の窃盗の 起訴人員の増加,とりわけ万引き事犯者が大半を占める女子高齢者(図5参照)の起訴人員の増加に大きく影響したものと考えられる12。
図8 窃盗 女子の起訴・不起訴人員等の推移
窃盗の入所受刑者の人員は,男子が平成18年をピークに減少傾向にあるのに対し,女子は同年以降も増加傾向にあり,平成25年における窃盗の女子入所受刑者の人員(884人)は,平成6年の約4倍であった。窃盗の入所受刑者に占める女子の割合(女子比)も,平成12年以降一貫し て上昇しており,平成25年の女子比(11.7%)は平成6年の約3.4倍となった(図9参照)。女子の入所受刑者の総数に占める窃盗の割合も,平成14年以降一貫して上昇しており,平成24年以降は窃盗の割合が最も高い(平成25年は41.9%)。
図9 窃盗 入所受刑者の人員(男女別)・女子比の推移
3 窃盗事犯者の再犯・再非行の動向
窃盗は,他の罪名と比べ,再犯に及ぶ者の割合が高い犯罪である。そこで,以下では,処遇の段階ごとに,窃盗事犯者の再犯・再非行の動向を概観する13。
(1) 検挙人員(再犯者率,同一罪名有前科者率)
窃盗の検挙人員のうち,再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者)の人員は平成19年から漸減しているが,それ以上に初犯者の人員が大きく減少しているため,窃盗の検挙人員に占める再犯者の割合(再犯者率)は,平成10年から一貫 して上昇しており(平成25年は48.0%。図10@参照),また,一般刑法犯総数の再犯者率(同46.7%)よりも高い。とりわけ,侵入窃盗の再犯者率(同67.4%。同図A参照)は,乗り物盗(同39.1%)や非侵入窃盗(同47.9%)と比べても,顕著に高い。前記のとおり,侵入窃盗の検挙人員 は少年・若年者が4割以上を占めているところ,再犯防止の観点からは,再犯者の予備軍でもある初犯者,とりわけ少年・若年者に対する処遇が特に重要と考えられる。
図10 窃盗 検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移
成人の一般刑法犯検挙人員に占める同一罪種(警察庁の区分による)の前科を有する者(同一罪種有前科者)の割合は,窃盗(平成25年は20.6%)の方が,窃盗以外(同10.2%)よりも顕著に高い。手口別で見ると,窃盗の成人検挙人員に占める窃盗前科を有する者の割合(同一罪 名有前科者率)は,侵入窃盗(同36.2%)の方が,万引き(同21.0%)よりも高い。もっとも,万引きの同一罪名有前科者率は,平成6年の約3.8倍にまで上昇していることに留意する必要がある。
(2) 起訴人員(有前科者率,有罰金前科者率)
窃盗の起訴人員に占める有前科者(前に罰金以上の刑に処せられたことがある者)の割合(有前科者率)は,平成20年から上昇傾向にあり,男子(平成25年は61.8%)の方が女子(同49.1%)よりも高いが,女子の有前科者率は大きく上昇している。また,窃盗の起訴人員の有罰金前 科者率11は,女子(同22.9%)の方が,男子(同12.8%)よりも高く,罰金刑導入前の平成17年(3.4%)と比べて約6.7倍にまで上昇した(図11参照)。
女子の窃盗の起訴人員は,男子と比べると,罰金以上の前科がない者(初犯者)の占める割合が高く,依然として過半数を占めているが(図11参照),罰金刑導入に伴って女子の窃盗の起訴率が上昇し,特に女子高齢者の起訴人員が急激に増加しており,近年は女子高齢者の割合が最 も高いこと(図6A参照),女子高齢者の一般刑法犯検挙人員は万引きが8割以上を占め(図5参照),女子の万引きの検挙人員の中でも高齢者の割合が最も高いこと(図2イ参照)に加え,万引きの成人検挙人員の同一罪名有前科者率が大きく上昇していることを併せ考慮すると,再 犯防止の観点からは,女子の万引き事犯者,特に女子高齢者に対しては,犯罪傾向が進む前の,より初期の段階において,その特性や問題性を踏まえた指導・処遇を行うことが極めて重要と考えられる。
図11 窃盗 女子の起訴人員中の初犯者・有前科者の人員等の推移
(3) 保護観察付執行猶予者(保護観察付執行猶予の取消率)
窃盗の保護観察付執行猶予の取消率14(平成25年は28.5%)は,窃盗以外の場合(同20.6%)よりも高いが,その比率は低下傾向にあり,平成16年と比べ約3割低下している。保護観察終了時の有職・無職の別で見ると,窃盗の保護観察付執行猶予の取消率は,無職の者(平成25年は 47.1%)の方が,有職の者(同12.9%)よりも顕著に高いが,その比率も低下傾向にある(平成16年と比べ約3割低下)。
窃盗の保護観察執行猶予者の取消・再処分率15(平成25年は33.8%)は,平成23年以降は,覚せい剤取締法違反(平成25年は39.4%)に次いで他の罪名よりも高い。窃盗の保護観察執行猶予者の取消・再処分率は,10年間のスパンで見ると低下傾向にはあるが,窃盗の仮釈放者や保護観察 対象少年の取消・再処分率(図13・図14参照)と比べると,依然として高い。
(4) 受刑者(執行猶予期間中の再犯による入所者,出所受刑者の再入率)
窃盗の入所受刑者のうち,執行猶予期間中の再犯により入所する者の人員は,男子が減少傾向にあるのに対し,女子は増加傾向にあり,特に女子高齢者の人員(平成25年は126人)は10年間で6倍にまで増加した。執行猶予期間中の再犯による窃盗の入所受刑者に占める高齢者の割合 も,女子高齢者(同32.7%)は,男子高齢者(同12.0%)と比べて顕著に高く,10年間で約4倍に上昇した。
窃盗による再入者(再入に係る今回の罪名が窃盗である者。前刑の罪名は窃盗に限らない。)に占める同一罪名再入者(前刑の罪名と再入の罪名がいずれも窃盗である者)の割合は,男女共に上昇傾向にあるが,女子の方が大きく上昇しており16,また最近10年間では女子(平成25年は87.7%)の方が男子(同74.3%)よりも一貫して高い。
窃盗の出所受刑者の2年以内累積再入率17は,満期釈放者(平成24年の出所受刑者では34.8%)の方が仮釈放者(同15.3%)よりも一貫して顕著に高い(図12参照)。窃盗の満期釈放者の2年以内累積再入率は,緩やかな低下傾向にあるが,窃盗以外の満期釈放者(平成24年の出所受 刑者では23.3%)と比べると,依然として高い。窃盗の仮釈放者の2年以内累積再入率は,平成19年までは低下傾向にあったが,同年以降は15%台で推移しており,窃盗以外の仮釈放者(平成24年の出所受刑者では8.8%)と比べると,依然として高い。
出所時の年齢層別で見ると,最近10年間における窃盗の2年以内累積再入率は,満期釈放者・仮釈放者共に,29歳以下の者(平成24年の出所受刑者では各29.6%,12.0%)の方が,高齢者(同各36.1%,17.9%)よりも一貫して低い傾向にあり,若年者の方が比較的可塑性が高いことをうかがうことができる。
図12 窃盗 出所受刑者の2年以内累積再入率の推移
(5) 仮釈放者(仮釈放の取消率,取消・再処分率)
窃盗の仮釈放の取消率18(平成25年は6.4%)は,窃盗以外の場合(同3.3%)よりも高いが,その比率は低下傾向にあり,平成16年と比べ約4割低下している。保護観察終了時の有職・無職の別で見ると,窃盗の仮釈放の取消率は,無職の者(平成25年は13.4%)の方が,有職の者(同 2.7%)よりも顕著に高いが,その比率も低下傾向にある(平成16年と比べ5割近く低下)。
窃盗の仮釈放者の取消・再処分率19(平成25年は6.6%)は,他の罪名よりも一貫して高いものの,平成16年と比べ約4割低下している(図13参照)。
図13 仮釈放者の取消・再処分率の推移(総数・罪名別)
(6) 保護観察対象少年(保護処分の取消率,取消・再処分率)
窃盗の保護観察対象少年の保護処分の取消率20は,保護観察処分少年(平成25年は17.8%)・少年院仮退院者(同19.6%)共に,窃盗以外の場合(同各12.6%)よりも高く,10年間のスパンでも,おおむね横ばいで推移している。窃盗の保護観察対象少年の取消・再処分率21(平成25年 は保護観察処分少年20.8%,少年院仮退院者25.7%)も,他の罪名より一貫して高い(図14参照)。前記のとおり,仮釈放の取消率や取消・再処分率は大きく低下しているのに対し,窃盗の保護観察対象少年の保護処分の取消率や取消・再処分率については,仮釈放ほどの変化が認められないことに留意する必要がある。
図14 保護観察対象少年の取消・再処分率の推移(総数・罪名別)
4 前科のない万引き事犯者の実態と再犯状況(特別調査)
法務総合研究所では,窃盗事犯者の実態や特性等の詳細を明らかにし,再犯防止対策を検討するための基礎資料を提供すべく,全国を対象として,平成23年6月中に窃盗の有罪裁判が確定した者(実人員2,421人)について特別調査を実施している。このうち,白書では,調査対象 事件22について罰金に処せられた者(罰金処分者),前科23のない万引き事犯者及び前科のない侵入窃盗事犯者の各実態と再犯状況を中心に取り上げているが,本稿においては,紙幅の関係上,前科のない万引き事犯者に絞って,その概要を紹介する。
(1) 実態
ア 特性
調査対象者のうち,前科のない万引き事犯者の総数は546人であり,男子が317人(58.1%),女子が229人(41.9%)であった。年齢層別に見ると,男子は若年者(犯時少年を含む。)が多いのに対し,女子は,50〜64歳の者が最も多く,50歳以上の者が過半数を占めた(図15参照)。
図15 前科のない万引き事犯者 年齢層別構成比
犯行時の居住状況では,男女共に,住居のある者が多いが,男子は,女子と比べて,住居不定や単身居住者,交流のある近親者もいない単身居住者の各割合が顕著に高い(図16参照)。
図16 前科のない万引き事犯者 居住状況別構成比
犯行時の婚姻状況について見ると,男子は,女子と比べて,婚姻歴がない者の割合が顕著に高く,未婚者や配偶者と離死別した者が約7割を占めている(図17参照)。
犯行に至った背景事情においても,男子は,「家族と疎遠・身寄りなし」や「近親者の病気・死去」といった家庭的要因を背景とする比率が高かった。
このように,男子の万引き事犯者の中には,家族を含む周囲との対人関係が喪失・希薄化し,社会での居場所を失い,社会的に孤立していると思われる者が多数いるものと考えられる(社会的孤立型)。
図17 前科のない万引き事犯者 婚姻状況別構成比
次に,犯行時の就労状況について見ると,男子は,無職者(学生・生徒及び主婦・家事従事者を含まない。)が6割以上を占めるのに対し,女子は,主婦・家事従事が約4割を占める(図18参照)。無職者の無職理 由では,男子は,「就職難」や「勤労意欲なし」が過半数を占めるのに対し,女子は,年金等の受給により「就労の必要なし」の者の割合が最も高く,また「精神疾患」の割合が男子と比べて顕著に高い(図19参照)。
図18 前科のない万引き事犯者 就労状況別構成比
図19 前科のない万引き事犯者 無職者の無職理由別構成比
犯行時の経済状況では,安定収入のない者の割合は,男子(38.9%)の方が女子(9.4%)よりも高く,資産のある者の割合は,女子(64.8%)の方が男子(42.7%)よりも顕著に高い。借金・債務がある者の割合は,男子(36.5%)の方が女子(24.7%)よりも高かった。
犯行に至った動機・背景事情においても,男子は,30歳以上の年齢層で「空腹」を動機とする者の比率が高く,また,「住居不安定」,「収入減」,「就職難」,「辞職・退学」といった経済的要因のほか,「無為徒食・怠け癖」といった性格的要因を背景事情とする者の比率が高い。
このように,男子の万引き事犯者の中には,経済状況が不良で生活困窮に陥っている者が多数いるものと考えられる(生活困窮型)。
これに対し,女子は,同居人のある者が大半を占め,婚姻継続中の者の割合が最も高く24,経済状況においても,主婦・家事従事の者や就労の必要がない者の割合が高いなど,一見すると,比較的安定した生活環境にある者が多いようにも思える。しかしながら,犯行に至った動機・ 背景事情を見ると,女子は,64歳以下の年齢層で「盗み癖」を,50歳以上の年齢層で「ストレス発散」を動機とする者が少なくなく,また,男子と比べて,「配偶者等とのトラブル」や「親子兄弟等とのトラブル」といった家庭的要因を背景とする者の比率が高い。このように,女子の 万引き事犯者に関しては,男子とは異なる問題性を抱えている者が多いことに留意する必要がある。
次に,心身の状況について見ると,検挙時の疾患の有無では,検挙時に身体疾患又は精神疾患(その疑いがある旨の診断を含む。)のあった者の割合は,女子(23.6%)の方が男子(13.2%)よりも高く,特に精神疾患の割合は,女子(17.5%)の方が男子(8.2%)よりも顕著に高い。
過去に精神疾患の既往歴がある者の割合も,女子(19.2%)の方が男子(10.5%)よりも高い。診断名では,男女共に,鬱病等の気分障害(男子14人,女子26人)が最も多いが,次いで,男子はアルコール依存症(7人)が多いのに対し,女子は摂食障害(11人)が多かった。
犯行に至った背景事情においても,男子では,「習慣飲酒・アルコール依存」を背景とする者が少なからずおり,女子では,各年齢層を通じて「体調不良」を背景事情とする比率が高く,30歳代では「摂食障害」の比率も比較的上位にあった。
このように,全体に占める割合は高くないとはいえ,男女共に,心身,特に精神面に問題を抱えている者が少なからず存在し,刑事処分とは別に,何らかの医療的・福祉的な措置が必要となる可能性のある者が少なからず存在する(精神疾患型)。
以上のほか,若年者の特徴としては,犯行に至った動機・背景事情において,男女共に,「換金目的」や「不良交友」の比率が高く,また,男子の若年者においては,「無為徒食・怠け癖」を背景事情とする者の比率が最も高かった(若年者)。
また,女子高齢者の特徴としては,前記の女子特有の問題性に加えて,他の年齢層と比べ,犯行に至った背景事情において,「近親者の病気・死去」や「家族と疎遠・身寄りなし」の比率が高かった(女子高齢者25)。
イ 前歴
前歴26の有無では,男女共に,窃盗前歴のある者が大半を占めるが,その割合は女子の方が高い(図20参照)。窃盗前歴の回数では,男子は1回のみの者が最も多いのに対し,女子は2回の者が最も多い。また,窃盗前歴のある者のうち,窃盗の微罪処分歴を有する者の割合は,女子 (86.6%)の方が男子(70.5%)よりも高かった。窃盗前歴の手口は,男女共に万引きが圧倒的に多い。
図20 前科のない万引き事犯者 前歴の有無別構成比
前歴のある者のうち,少年時に前歴を有する者の割合は,男子(22.2%)方が女子(9.0%)よりも高いのに対し,65歳以上に至って初めて検挙された前歴を有する者の割合は,女子(12.3%)の方が男子(7.4%)よりも高く,いわゆる高齢初犯者は女子の方が多いことをうかがわせる。
ウ 科刑状況
調査対象事件についての科刑状況では,男女共に,罰金に処せられた者が大半を占めるが,懲役に処せられた者も15.9%を占め,うち1名(女子)は懲役の実刑に処せられている。男女別では,男子の方が懲役に処せられた者の割合が高い(図21参照)。
図21 前科のない万引き事犯者 科刑状況別構成比
(2) 再犯27の状況
前科のない万引き事犯者のうち,再犯(窃盗に限らない。)に及んだ者の割合(再犯率)は27.1%であり,窃盗の再犯に及んだ者の割合(窃盗再犯率)は24.9%であった。
女子高齢者の窃盗再犯率は,各年齢層の中で最も高く,また男子高齢者よりも高かった(図22参照)。
図22 前科のない万引き事犯者 男女別・年齢層別再犯率
男子の窃盗再犯率は,交流のある近親者もいない単身居住者(34.3%)の方が,同居人のいる者(19.3%)や交流のある近親者がいる単身居住者(23.5%)よりも高く,また安定収入のない者(31.6%)の方が安定 収入のある者(18.4%)よりも高かった。男子の再犯率は,安定就労の者(15.1%)の方が無職者(31.2%)よりも低い傾向にある。
これに対し,女子の窃盗再犯率は,配偶者と離死別等した者(39.1%)の方が,婚姻歴のない者(17.0%)や婚姻継続中の者(23.9%)よりも高かった。
動機・背景事情では,男子の窃盗再犯率は,「生活困窮」や「空腹」に該当する者(各34.0%,37.7%)の方がこれらに該当しない者(各18.9%,20.3%)よりも高く,また男子の再犯率は,「無為徒食・怠け癖」 や「不良交友」に該当する者(各38.1%,45.5%)の方がこれらに該当しない者(各24.0%,25.4%)よりも高かった。
これに対し,女子は,前記の各動機・背景事情と窃盗再犯率又は再犯率との間に明確な関連は認められず,むしろ「近親者の病気・死去」に該当するか否かで有意差が認められた。とりわけ女子高齢者の窃盗再犯 率は,「近親者の病気・死去」に該当する者(77.8%)の方がこれに該当しない者(29.8%)よりも高かった。
窃盗前歴の有無では,窃盗前歴のない者の窃盗再犯率が最も低く,窃盗前歴の回数が増加するにつれて窃盗再犯率が高くなっている(図23参照)。窃盗再犯率は,窃盗の微罪処分歴のある者(28.9%)の方が微 罪処分歴のない者(17.4%)よりも高い。また,男子の再犯率は,少年時に前歴のある者(43.3%)の方が成人後の前歴しかない者(24.8%)よりも高かった。
図23 前科のない万引き事犯者 窃盗前歴の有無・回数別再犯率
調査対象事件の起訴後,一定の期間までに窃盗再犯を行った者の累積人員の比率(窃盗累積再犯率)を年齢層別で見ると,若年者と高齢者は,他の年齢層と比べて,いずれも早い段階で窃盗の再犯に及ぶ傾向が認められた(図24参照)。特に若年者の窃盗累積再犯率は,6か月未満まで は他の年齢層と比べて最も高いが,その後の上昇は緩やかになり,15か月未満経過後は各年齢層の中で最も低かった。
図24 前科のない万引き事犯者 窃盗累積再犯率
窃盗再犯を行った者の再犯期間を男女別で見ると,男女共に,6か月未満までの間に窃盗累積再犯率が急速に上昇し,窃盗再犯を行った者のほぼ半数に達していた。また,4か月未満経過後の窃盗累積再犯率は,女子の方が男子よりもやや上回っている状態が続いていた。
おわりに
以上,近年における窃盗事犯の動向や前科のない万引き事犯者の実態と再犯状況について,その要点を紹介したが,白書では,これらの内容に基づき,窃盗事犯者による再犯を防止するための方策として,以下の4点を指摘している。
一点目は,刑事処分の早い段階での処遇等の重要性である。特に万引き事犯者については,高年齢化が顕著であるところ,窃盗事犯者が高齢化する中で,高齢者の資質や特性から,その問題性の改善や社会復帰に係る指導等が一層困難となっており,犯罪傾向の進んでいない28, より初期の段階における適切な指導・処遇が極めて重要となっている。
二点目は,窃盗事犯者の特性等を踏まえた処遇の在り方である。窃盗事犯者の実態と再犯状況を見ると,その問題性に応じて,「生活困窮型」,「社会的孤立型」,「精神疾患型」,「若年者」及び「女子高齢者」といった類型を認めることができる。ここでの類型化は,性別,年齢,生活状 況,心身の状況,動機・背景事情等に着目し,留意すべき問題性その他の特性等の観点から複数の類型に概念化したものであるが,類型ごとに共通する問題性等を考慮した上で,窃盗事犯者に対する処遇を効果的に行う必要がある29。
例えば,「生活困窮型」に対しては,早い段階から安定した生活環境に向けての支援,勤労意欲や能力を高めるための就労支援のほか,生活態度に関する指導等を行うことが重要である。「社会的孤立型」に対しては,他人とのコミュニケーション能力に乏しい者に対するカウンセリング等の心理面や医療面での支援のほか,地域社会に おいて本人を取り巻くサポート体制を再構築し,地域社会内に再統合していく方策が必要となる30。「精神疾患型」に対しては,気分障害,摂食障害,アルコール依存等の病状に応じ,医療機関に適切につなぐ必要があり,自治体を含めた関係諸機関の間で適切な連携を図ることが求められる。 「若年者」については,比較的可塑性の高い年齢層である一方で,早い段階で窃盗再犯に及ぶ傾向が認められ31,また不良交友を背景事情とする者の再犯率も高いことからすれば,早期の段階できめ細かな介入を行い,不良交友の解消に向けた指導や就労支援等の多面的な働き 掛けを行うことが重要である。「女子高齢者」については,窃盗再犯率が極めて高く,起訴人員が大幅に増加していることからしても,早期の段階で適切な働き掛けを行う必要があるが,家族等との人間関係を把握・調整し,心理的なサポートを含め,家族間調整に向けた自治体や地 域社会の専門家,保護司等によるサポート体制を構築し,福祉的支援を行うことも重要である。
三点目は,窃盗事犯者に対するプログラムの必要性である。現状としては,窃盗に特化した統一的な処遇プログラムはなく,各刑事施設の創意工夫によって窃盗の再犯防止指導が行われているのが実情であるが,これまでの取組の成果も踏まえつつ32,認知行動療法に基づいた標準的 なプログラムを開発するとともに,前記の窃盗事犯者の特性や問題性に応じた類型ごとのプログラムを追加することについても検討していくことが望まれる。もっとも,窃盗事犯者は多数に及び,その問題性等も多様であり,各施設における指導者や指導場所等を十分に確保しなけれ ば,これを速やかに実現することは困難であって,人的・物的両面での体制整備が不可欠である。
四点目は,関係機関間の連携強化である。窃盗事犯者に対しては,就労支援や住居確保のための対策が重要であるが,それらの対策を円滑に進めるためには,関係機関間での連携が必要となる。また,窃盗事犯者を起訴猶予処分とする場合においても,事案に応じて,更生緊急保護の 円滑な活用を含めた検察庁と保護観察所,自治体等との連携強化が求められる。加えて,精神疾患型のように医療的措置を講じる必要のある者に対しては,自治体や地域包括支援センター,医療機関等との多機関連携が今後一層重要になってくるものと思われる。
最後に,今回の白書における特集が窃盗事犯者に対する効果的な再犯防止策を検討する上での一助になれば幸甚である。
(法務総合研究所室長研究官)
注
1 平成25年の検挙人員に占める無職者(但し,主婦,学生・生徒等及び年金等生活者を除く。)の割合は,窃盗総数で31.8%であり,手口別では,侵入窃盗46.3%,自動車盗46.5%,車上ねらい45.7%,ひったくり42.7%であった。
2 大竹文雄・小原美紀「失業率と犯罪発生率の関係─時系列および都道府県別パネル分析─」(犯罪社会学研究35号(2010)54頁以下)は,失業率が犯罪の発生率に与える影響について時系列データ(昭和51年〜平成20年)を用いて実証的に分
析し,失業率と窃盗の発生率との間には,長期的に安定的な関係性(正の共和分関係)が認められ,失業率の上昇が窃盗の発生率を引き上げていることを見出している。なお,都道府県別パネルデータ(昭和50年〜平成17年の5年毎)を用い
た分析では,窃盗犯については,失業率よりも貧困率が重要な説明変数であり,失業率の上昇よりも貧困率の上昇が犯罪発生率を高める影響が大きい旨指摘している。
3 川出敏裕・金光旭「刑事政策」(成文堂(2012)29頁以下)は,平成8年以降の治安情勢悪化の主な要因として,@経済不況の影響,A地域社会における相互の監視・関心といった非公式な社会的統制力の低下や職場・学校・家庭といった小
集団内での非公式な犯罪抑止力の低下,B警察活動を始めとする公的な犯罪統制力の低下,の3点を指摘する。その上で,その後の犯罪情勢の好転には様々な要因が複合的に影響しており,経済情勢や雇用情勢の好転のほか,官民一体による
犯罪対策への本格的な取組にも一定の成果があり,街頭犯罪や侵入犯罪に対する取締りの強化による抑止効果,犯罪予防に配慮した環境整備等による犯罪機会の減少,住民の自主的防犯活動に象徴される地域社会における非公式な犯罪統制力の強化等の要因が,総合的に犯罪の減少に寄与した旨指摘している。
4 山口寛峰ほか「治安に影響を与える要因の統計分析について」(警察学論集62巻12号(2009)53頁以下)は,窃盗の主たる手口ごとの発生率に関しても,完全失業率のほか,一人当たりの実質GDP,可処分所得に基づくジニ係数,警察官の数
といった,治安に影響を及ぼすのではないかと考えられる各種統計指標と犯罪発生率との相関関係について子細に分析している。
5 検挙人員に占める微罪処分(警察官等の司法警察員が検察官に事件を送致しない手続。あらかじめ検察官が指定した犯情の特に軽微な成人の事件に限られる。)により処理された人員の比率をいう。
6 平成25年の各検挙人員に占める少年の割合は,オートバイ盗94.5%,自動販売機ねらい79.3%,自転車盗51.6%,ひったくり41.8%,自動車盗29.6%,車上ねらい20.3%であり,いずれも少年の割合が最も高い。
7 特に断りのない限り,20〜29歳の者を指す。
8 平成25年の各検挙人員に占める若年者の割合は,侵入窃盗27.0%,ひったくり27.6%,自転車盗22.3%,自動車盗19.1%である。
9 起訴人員と起訴猶予人員の合計人員に占める起訴猶予人員の割合をいう。
10 起訴人員と不起訴(起訴猶予に限らない。)人員の合計人員に占める起訴人員の割合をいう。
11 起訴人員に占める有罰金前科者(有前科者のうち,罰金前科しか有しない者。但し,前科の罪名は窃盗に限らない。)の割合をいう。
12 罰金刑導入前後の3年間(平成17年〜19年)において,窃盗の起訴猶予率は,女子が12.5pt 低下しているのに対し,男子は2.4pt 低下したにとどまっており,女子の方が顕著に低下した。もっとも,窃盗の起訴猶予率は,依然として女子(平
成25年は62.5%)の方が男子(同48.2%)よりも高いことからすれば,罰金刑導入に伴う女子の起訴猶予率の低下と起訴率の上昇は,女子の窃盗の検挙人員に占める万引きの割合(同82.5%)が男子(同52.2%)と比べて顕著に高いことに由来す
ると考えられる(今回の特別調査においても,罰金処分者の86.3%が万引き事犯者であった。)。また,窃盗の起訴猶予率は,各年齢層の中で高齢者が最も高いにもかかわらず,高齢者の窃盗の起訴人員が男女共に増加し続けているということは,
それだけ悪質・深刻な万引き事犯者が多いのではないかと懸念される。
13 白書では,第6編第2章の各節において,窃盗事犯者の再犯・再非行の動向について掲載している。
14 保護観察付執行猶予者の保護観察終了人員のうち,保護観察付執行猶予の取消人員(再犯若しくは余罪(保護観察開始前の犯罪をいう。後掲注15・18・19において同じ。)又は遵守事項違反により保護観察付執行猶予を取り消されたことで,
当該保護観察が終了した者の人員)の占める割合をいう。
15 保護観察付執行猶予者の保護観察終了人員のうち,@保護観察付執行猶予の取消人員(但し,余罪(前掲注14参照)による取消人員を除く。),又はA再犯により保護観察期間中に刑事処分(罰金処分や起訴猶予処分を含む。刑事裁判につい
ては,その期間中に確定したものに限る。後掲注19・21において同じ。)を受けた者(再処分人員。但し,@に該当する者を除く。)の合計人員の占める割合をいう。
16 平成25年の窃盗による再入者に占める同一罪名再入者の割合は,平成16年と比べ,男子が2.9pt 上昇,女子が8.5pt 上昇であった。
17 各年の出所受刑者の人員のうち,出所年を含む2年間に再入所した者の累積人員の割合をいう。なお,出所受刑者の2年以内累積再入率については,犯罪対策閣僚会議の決定した「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年)において,今後10
年間で20%以上削減させる旨の目標が掲げられている。
18 仮釈放者の保護観察終了人員のうち,仮釈放の取消人員(再犯若しくは余罪(前掲注14参照)又は遵守事項違反により仮釈放を取り消されたことで,当該保護観察が終了となった者の人員)の占める割合をいう。
19 仮釈放者の保護観察終了人員のうち,@仮釈放の取消人員(但し,余罪(前掲注14参照)による取消人員を除く。),又はA再犯により保護観察期間中に刑事処分(前掲注15参照)を受けた者(再処分人員。但し,@に該当する者を除く。)の合計人員の比率をいう。
20 保護観察処分少年又は少年院仮退院者の保護観察終了人員のうち,保護処分の取消人員(再非行・再犯又は余罪(保護観察開始前の非行・犯罪)により保護処分を取り消されたことで,当該保護観察が終了となった者の人員)の占める割合をいう。
21 保護観察処分少年又は少年院仮退院者の保護観察終了人員のうち,@保護処分の取消人員(前掲注20参照)若しくは遵守事項違反により少年院に再収容(戻し収容)された者,又はA再非行・再犯により保護観察期間中に新たな保護処分(施
設送致申請による保護処分を含む。)若しくは刑事処分(前掲注15参照)を受けた者(再処分人員。但し,@に該当する者を除く。)の合計人員の比率をいう。
22 平成23年6月中に窃盗により有罪判決(略式命令を含む。)が確定した事件をいう。
23 自動車運転過失致死傷・業過又は交通法令違反の罪名のみの前科を含まない。
24 女子は,窃盗の入所受刑者においても,初入者・再入者共に,犯行時に配偶者を有していた者の割合(平成25年は初入者38.5%,再入者31.1%)が,男子(同各15.7%,12.0%)に比べて顕著に高い。
25 平成20年版犯罪白書においても,特別調査の結果に基づき,「女子の高齢窃盗事犯者の場合は,生活基盤はあり,生活費自体に困っているわけではない者が多く,少額の食品等の万引きがほとんどで,高齢になって万引きを繰り返すようになっ
た者も少なくなかった。切羽詰まった状況ではないものの,経済的不安を感じることから金銭を節約しようとして,食料品等の物を盗む傾向が認められた。また,犯行に至った背景要因として,疎外感や被差別感を有している者がおり,これら
については,周囲からの働きかけや支えがほとんどないことからくる孤独感・孤立感といった心理的要因が影響している可能性がある。」旨指摘している(同白書291頁参照)。
26 自動車運転過失致死傷・業過又は交通法令違反の前歴を除き,少年時の前歴を含む。
27 調査対象事件の起訴後に行った再犯であり,調査対象事件の裁判確定の約2年後となる平成25年6月末までに有罪裁判が確定したものに限る。
28 この点,万引き事犯者は,微罪処分率が高いことに加え,検察庁に送致されても,事案に応じて起訴猶予処分となる者が少なくなく,侵入窃盗等の手口と比べると,初めて矯正や更生保護の処遇の段階に至った段階で既に累犯者となってしまっている者が多いことにも留意する必要がある。
29 大久保智生ほか「万引き防止対策に関する調査と社会的実践 社会で取り組む万引き防止」(ナカニシヤ出版(2013)42頁以下)は,万引き被疑者の心理的要因に関する調査研究において,20〜64歳の成人被疑者は,19歳以下(青少年)の被疑
者と同様に,経済的な動機が高いが,青少年とは異なり,社会的孤立と経済的な困窮が結びついていると考えられ,別の対策が必要であり,また,65歳以上(高齢者)の被疑者は,社会的に孤立していることが多いため,地域として高齢者の
孤立の問題に取り組み,地域におけるコミュニティへの参加など他者とのコミュニケーションがとれるように支援することが必要である旨指摘している。その上で,被疑者の問題背景に合った対策,特に万引きの初犯者が再犯に至らないよう
な対策を立てる必要があり,規範意識のように単純な図式に落とすのではなく,問題の背景ごとに分けて,それぞれに合った対策を立てていく必要がある旨指摘している。
30 太田達也「高齢犯罪者の対策と予防〜高齢犯罪者の特性と警察での対応を中心として〜」(警察学論集67巻6号(2014)3頁以下)は,窃盗事犯者のみを対象としたものではないものの,高齢犯罪者の特性と犯罪要因に関する調査結果(平成
17年〜19年)に基づき,高齢者を取り巻く様々な要因に加え,社会的な孤立(「家族からの孤立」「近隣からの孤立」「行政からの孤立」)という要因が加わることで高齢者の犯罪発生を促進しているのではないかとの仮説を提示し,刑罰が必要と
までは言えないものの,更生が危ぶまれるという高齢犯罪者に対しては,微罪処分等に付すとしても,社会的な支援・指導による働きかけや見守りを行う必要がある旨指摘している。
31 若年者の窃盗累積再犯率は,他の年齢層と比べて,6か月未満までは最も高いのに対し,15か月未満経過後は最も低くなる傾向が認められるところ(図24参照),このような特徴に着目して,例えば,若年者に対しては,刑事処分後の最初の6
か月間に焦点を当てて集中的な指導・処遇を行うことも検討の余地があるのではないかと考えられる。
32 木原深雪・二宮康司「窃盗犯の再犯防止教育の検討」(アディクションと家族27巻4号(2011)323頁以下)は,刑事施設における窃盗犯の再犯防止指導への参与観察を行い,得られたデータを定性的に分析した研究において,受講者の事件当
時の孤立しがちな傾向や経済的な問題を指摘し,窃盗犯の矯正指導において,情緒的側面や経済的問題に着目することの重要性を示唆している。