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─外国人受刑者・外国人少年院在院者に関する特別調査を中心として─
岡田 和也
1 はじめに

平成25年版犯罪白書(以下「白書」という。)では,特集の一つとして「グローバル化と刑事政策」を取り上げ,グローバル化に伴う犯罪の動向,特別調査結果に基づく外国人犯罪者・犯罪少年の実態,グローバル化に対応した刑事政策等の取組(出入国管理等における対応,刑事司法における国際協力の状況,刑事手続・犯罪者処遇における配慮,多文化共生に向けた取組)を分析・紹介した。
本稿では,外国人受刑者・外国人少年院在院者に関する特別調査結果について,適宜刑事施設及び少年院における取組等を踏まえつつ,その概要を紹介する。 なお,本稿において白書の記述・分析を超える部分については,筆者の私見である。また,本稿中の図表の一部は,紙面の都合上,白書の図表を加工しているものがあることをお断りしておく。

2 特別調査の概要

法務総合研究所では,最近の外国人犯罪者等の実態や特性等を明らかにし,その再犯防止及び社会復帰を含む効果的な対策の検討に役立てるため,外国人受刑者(特別調査1)及び外国人少年院在院者(特別調査2)の特別調査を実施した。

(1)特別調査1
調査対象者は,平成23年における入所受刑者のうち,特別永住者を除く外国籍等(無国籍の者を含む。)の者全てに当たる671人(男549人,女122人)である。調査内容は,判決で認定された犯罪事実(以下「本件犯行」という。)の内容,前科の内容,出入国・在留状況等である。
主たる犯行(本件犯行の処断罪名(主たる罪名)に係る最も犯情の重い犯罪事実をいう。)が窃盗又は強盗の者(以下「窃盗・強盗事犯者」という。)263人については,さらに,生活状況,日本語能力,出所状況等を調査した。

(2)特別調査2
調査対象者は,平成22年6月1日から11月30日の間に少年院に在院した外国籍の者(特別永住者を除く。)及び日本人少年と異なる配慮を必要とする日本国籍者の合計103人(男94人,女9人)である。調査内容は,少年院送致決定に係る非行(以下「本件非行」という。)の内容等,入院前の生活・環境,少年院における処遇状況・出院状況(この点は,調査対象者のうち平成23年11月30日までに出院した90人が調査対象)等である。

3 在留資格等及び犯罪・非行の特徴

(1)在留資格等
1図は,外国人受刑者(特別調査1)及び外国人少年院在院者(特別調査2)について在留資格等を,2図は,外国人少年院在院者が,在留のため日本に初めて入国したときの年齢(来日時年齢)を,それぞれ見たものである。外国人受刑者の主たる犯行時は,居住資格の者(在留資格が,永住者,定住者,日本人の配偶者等,永住者の配偶者等である者をいう。以下同じ。)が半数近くを占めて最も多く,不法滞在も約3割とこれに次いでいる(*1)。なお,不法残留の者については,新規入国時は留学の在留資格であった者の比率が高い。外国人少年院在院者の大半は,居住資格の者であり,また,来日時年齢類型を見ると,日本出生者や乳幼児期(0歳から5歳まで)又は小学校期(6歳から11歳まで)に来日した者が約4分の3を占め,来日した者に限っても,来日時年齢は平均8.5歳である。


1図 外国人受刑者・外国人少年院在院者 在留資格等





2図 外国人少年院在院者 来日時年齢類型



(2) 罪名・非行名等
3図は,外国人受刑者の主たる罪名等及び外国人少年院在院者の主たる非行名を見たものである。外国人受刑者は,日本人受刑者よりも薬物事犯(うち約半数は薬物密輸入事犯)と強盗の比率が高く,外国人少年院在院者は,日本人入院者よりも強盗の比率が高い。


3図 外国人受刑者の主たる罪名等・外国人少年院在院者の主たる非行名



外国人受刑者の窃盗・強盗事犯者について,本件犯行における窃盗又は強盗の犯罪事実の数を在留資格等別に見ると,犯罪事実の数が5個以上の者は,不法滞在者に多く,また,「職業的犯罪」に該当する者についても,不法滞在者が約4割と顕著に高い。

4 犯罪・非行のリスク要因等

犯罪・非行のリスク要因や社会復帰を阻む要因となり得るものについて,特別調査1及び2によって,以下のような実態が明らかになった。

(1)犯行時の居住状況
外国人受刑者の窃盗・強盗事犯者の本件犯行当時における居住状況について,調査が可能であった者のうち,住居不定の者と外国人登録がない者を除いた者(169人)の中では,外国人登録上の届出居住地と異なる場所に居住していた者が約3割いた。この169人及び住居不定の者を合わせた228人について,在留資格等との関係を見ると,活動資格の者に住居不定及び主たる犯行時の届出居住地と異なる場所に居住していた者の比率が高いのに対して,居住資格の者に主たる犯行時の届出居住地に居住していた者の比率が高い。

(2)経済状況及び就労・就学状況
外国人受刑者のうち窃盗・強盗事犯者の本件犯行時における主たる収入源は,犯罪・違法行為収益の者が半数近くに及ぶ。在留資格等別に見ると,活動資格及び不法滞在では,犯罪・違法行為収益の者の比率がいずれも7割を超えて高く,正業収入の者の比率はそれぞれ2.3%,3.6%と極めて低かった。また,外国人少年院在院者については,家庭の経済状況において日本人入院者と比べて「貧困」の比率が高い。
4図は,外国人受刑者のうち居住資格の者(入所時年齢が65歳未満の者に限る。)及び外国人少年院在院者について,本件犯行時又は本件非行時の就労等状況を見たものである。外国人受刑者については,財産犯は,無職者の比率が非財産犯の者よりもかなり高く,日本人受刑者と同様に,居住資格の外国人にとって,無職であることが財産犯のリスク要因であることがうかがわれる。また,外国人少年院在院者についても,日本人入院者と比べると,無職の比率が著しく高い。


4図 外国人受刑者(居住資格の者)・外国人少年院在院者 就労等状況



(3)教育程度・日本語能力
外国人受刑者のうち居住資格の者及び外国人少年院在院者の教育程度を見ると,我が国でいう義務教育レベルの教育を修了しないまま最終学歴に至っている中学校未修了の者がいずれも1割以上いる。外国人受刑者について,特に再入者は,初入者と比べて,中学校未修了や中学校卒業の者の比率が高く,高校卒業の者の比率が低い。 5図は,外国人受刑者のうち窃盗・強盗事犯者の日本語能力を見たものである。居住資格の者でも,日常会話ができない者又は日常会話に難がある者が半数以上に及び,読み書きについては,できない者又はほとんどできない者が約2割,難がある者も加えると約3分の2にも上る。


5図 外国人受刑者(窃盗・強盗事犯者)日本語能力



外国人少年院在院者について,6図は,入院時・出院時の日本語能力を,7図は,来日時年齢類型と日常の使用言語の関連を,それぞれ見たものである。入院時に日常会話可の者が約8割いるものの,日常の使用言語が日本語以外の者が約半数おり,日本出生者や幼少時に来日した者にも一定数いる。また,ほとんどの者が出院時に日本語能力を向上させ,又は日常会話ができる水準にあるが,来日時期の遅い者の場合,少年院の処遇を経た出院時にも,日本語能力に課題を残しやすいことがうかがえた。なお,外国人保護者のうち日常会話が可能な者は3割以下である。


6図 外国人少年院在院者 入院時・出院時の日本語能力





7図 外国人少年院在院者 来日時年齢類型と日常の使用言語



(4)共犯関係・不良集団関係等
外国人受刑者については,共犯がいる者の比率(共犯率)は5割を超えており,また,外国人受刑者のうち窃盗・強盗事犯者の約4割は,不良集団,犯罪集団又は犯罪組織に属し,又は関与する者であった。外国人少年院在院者については,共犯率が約7割と,日本人(6割弱)より高い。そして,共犯者がいる対象者について,共犯者との関係を見ると,「不良集団」,「遊び仲間」の場合がそれぞれ42.3%,45.1%(日本人は,それぞれ19.1%,65.5%)となっており,相当の割合の者について,不良集団関係が本件非行の背景となっていることがうかがわれる。

(5)再犯状況
外国人受刑者の約半数に前科がある。そのうち居住資格の者の約3分の2に懲役・禁錮以上の前科があり,また,再入者の約3分の2が退去強制歴のない居住資格の者である。
さらに,外国人受刑者のうち居住資格に限ると,窃盗の者の約7割,覚せい剤使用・所持・譲渡等事犯の者の約6割は同一罪名の前科があり,窃盗や覚せい剤事犯は,日本人同様,再犯リスクが高いことがうかがわれた。
外国人少年院在院者についても,約7割に家庭裁判所処分歴等(審判不開始及び不処分を含む。)があり,2割弱に少年院送致歴がある。

5 出所・出院後の状況等

8図は,外国人受刑者のうち窃盗・強盗事犯者について,刑事施設に申告した出所時の帰住先に関する希望を見たものである。居住資格の者については,日本国内での在住継続を希望する者が8割近い。また,これらの者のうち,出所し,かつ帰住先が判明した105人について,刑事施設に申告していた帰住先に関する希望と実際の帰住先の関係を見た。これらの者は,受刑等により退去強制事由に該当する場合が多いが,その一方で,40人(在留特別許可を受けた26人を含む。)が国内在住となっており,これは出所した者の4割弱であった。居住資格では約6割が国内在住となった(*2)。


8図 外国人受刑者(窃盗・強盗事犯者)帰住先の希望



9図は,外国人少年院在院者の調査対象者のうち,平成23年11月30日までに出院した90人の出院後の進路を見たものである。出院時に入国管理局に引渡しになる者以外のほとんどが,日本で就職・就学が決定し,又はこれを希望している。これらの者の大半が,居住資格の者であったこと(1図参照)からも,実際に,出院後も日本に中長期間在住する場合が多いと考えられる。一方で,「日本で就職希望」又は「日本で就職決定」の者(64人)のうち「日本で就職決定」の者は18.8%に過ぎず,同時期の少年院出院者総数(ただし,出院した調査対象者を除く。)では34.0%であるから,これと比べると非常に低い結果となっている。外国人の場合,少年院在院中に何らかの資格・免許を取得していた(81.1%)ものの,それでもなお日本における就職は厳しい状況であることがうかがえる。


9図 外国人少年院在院者 出院後の進路



6 おわりに−外国人犯罪者等に対する再犯防止・社会復帰支援

特別調査の結果から,犯罪や非行を行って刑事処分や保護処分を受けた外国人の全てが退去強制されるわけではなく,日本への定着性が高いなどの事情があることにより処分終了後も退去強制されずに国内での在留が認められる者が少なからずいることがうかがえた。
これら居住・定住型の者については,社会復帰を図る必要性は日本人と何ら変わりがなく,我が国への社会復帰を前提とした処遇や支援が求められ,これに適切に対処することが非常に重要である。そして,居住・定住型の外国人犯罪者等については,日本人と同様の,あるいは日本人にはさほど見られない犯罪・再犯リスク要因等が認められ,処分終了後を見据え,これらに対応した対策の充実が肝要である。
白書の特集「グローバル化と刑事政策」中の「おわりに」では,居住・定住型の外国人犯罪者等に対する再犯防止・社会復帰支援策の充実として,@就労に向けた指導・支援,A基礎学力及び日本語能力の向上の取組,B不良交友等からの離脱の指導・支援,C窃盗,覚せい剤事犯者等の問題性に応じた指導,D地域社会における相互理解や共生に向けた努力を掲げた。このうち,@,B及びCは日本人犯罪者等にも共通するものであるが,外国人犯罪者等においては,特別調査結果からもうかがえるような問題性等を鑑みると,日本人以上に大きな再犯リスク要因になり得る事項であり,より一層の処遇上の配慮が必要となろう。
一方,Aは外国人犯罪者等特有の要因といえよう。外国人が多く住む集住都市に居住し,南米日系人の保護観察対象者を多数担当してきたある保護司は,これまでの保護司活動の経験から,「外国人保護観察対象者が我が国において,将来にわたって問題のない生活をしていく条件として,日本語ができること,高校卒業以上の学歴(学力)を有することが不可欠である。」と述べられていた。白書では久里浜少年院「国際科」における事例を紹介したが,少年院における処遇では,基礎学力や日本語教育向上のための教育が充実しており,一定の成果を挙げている(*3)。社会内処遇においては,各地域における外国人住民を対象とした就学支援や学習支援の情報にアンテナを張り,これらを実施している地方公共団体や各種団体等と連携を図っていくことが必要であろう。
これに関連して,「D地域社会における相互理解や共生に向けた努力」について,白書では,愛知県浜松市,群馬県大泉町等の多文化共生に向けた地方公共団体の取組を紹介したが,大泉町では,町に住む外国人を「いつかは帰るお客様」から「共に地域に住む住民」ととらえ,様々な取組をしている(総務省 2012)。このようなバックボーンがあってこそ,より効果的な外国人犯罪者等の再犯防止及び社会復帰が達成できるものと思われる。
本年版白書の特集「グローバル化と刑事政策」が,外国人犯罪者等の再犯防止及び社会復帰支援策を検討する上での一助となれば幸いである。
(法務総合研究所室長研究官)


引用・参考文献
秋葉裕子(2013)「一般改善指導としての日本語教育の試行について」,
『刑政』124巻10号,120-127
総務省(2012)「多文化共生の推進に関する研究会報告書〜災害時のより円滑な外国人住民対応に向けて〜」
滝本幸一・栗栖素子・細川英志・立谷隆司(2002)「F級受刑者の意識等に関する研究」,『法務総合研究所研究部報告』16
法務総合研究所(編)(2001)「平成13年版犯罪白書」


(*1) なお,平成12年の調査結果(平成12年11月1日現在のF級受刑者に関するサンプル調査)によれば,居住資格の者は約1割,不法滞在の者は約3分の2であった(平成13年版犯罪白書,滝本ら(2002)による。)。
(*2) ただし,調査対象者中,出所した者の平均刑期は約1年9月であるのに対し,在所している者(無期刑の者を除く。)の平均刑期は約4年5月であり,刑期の長短が顕著に異なることから,外国人受刑者全体の出所に係る傾向とは異なる可能性がある。
(*3) 刑事施設における日本語教育については,例えば栃木刑務所において,一般改善指導として日本語教育を試行したところ,その成果として,外国人受刑者の日本語能力向上もさることながら,職員とのコミュニケーションの場となり,心情安定及び不安解消に役立ったほか,指導に当たった職員自身も,受刑者に対する理解を深め,また,物事を教えること,伝えることの難しさを感じ,自分自身の日頃の指導方法を振り返るきっかけにもなったと報告している(秋葉 2013)。
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