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平成24年版犯罪白書特集「刑務所出所者等の社会復帰支援」
再犯防止・社会復帰支援のための取組
宇戸 午朗
1  高齢犯罪者の急増

 法務省が毎年公表している犯罪白書は,前年の統計を中心に我が国の犯罪の現状を分析し,今後の治安対策の基礎資料にされるとともに,国民に対する情報提供も目的としている。一言で分析といっても,元データとして収集する統計数値は膨大であり,そこから傾向や特徴を抽出し,結果を分りやすく説明するにはいろいろと工夫が必要である。その効果的な方法の一つは図(グラフ)にして示すことである。
 ここで,本年の犯罪白書に掲載した図を2つ紹介する。
 図1は,65歳以上の高齢者の刑事施設への毎年の入所人員を,過去20年間の推移で見たものである。高齢者の入所人員と入所受刑者全体に占める高齢者の比率が,一貫して上昇していることが,一目見て分ると思う。付け加えると,刑事施設への入所者だけでなく,刑事司法の各段階において,高齢犯罪者は,高齢者人口の増加率よりもはるかに高い比率で増加している。このことも犯罪白書の他の図から説明できる。

図1 高齢者の入所受刑者人員の推移(入所度数別)



 図1は,高齢犯罪者に関して経年の変化を示した例であるが,図2は,平成23年における高齢犯罪者の別の側面を見たものである。こちらは,同年に検挙された高齢者の罪名別構成比である。高齢者の犯罪の特徴として窃盗,それも万引きが多いことと,女性の場合,その傾向が特に顕著であることがご理解いただけるだろう。

図2 一般刑法犯 高齢者の検挙人員の罪名別構成比(男女別)



 これら2つの図は,平成24年版犯罪白書の「第4編 各種犯罪者の動向と処遇」の「第4章 高齢犯罪者」から転載したものである。犯罪白書は,毎年,第1編から第6編までをルーティン部分と称して継続的に犯罪や犯罪者の動向を紹介し,第7編を特集として毎年異なったテーマを取り上げている。この2図は,いわゆるルーティン部分からの転載であるが,身寄りがなく,窃盗等を犯して受刑を繰り返す高齢犯罪者には手厚い支援が必要であり,本年の特集テーマとの関連が深いことから,本稿の導入に当たり,まず初めに注目してもらいたい点として,高齢犯罪者の増加現象を提示した。

2  再犯防止対策の重要性

 続けてこれもルーティン部分からの転載になるが,図3をご覧いただきたい。

図3 一般刑法犯検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移



 図3からは,平成17年以降,一般刑法犯の検挙人員は減少を続けており,そのうち,初犯者が大きく減少している一方で,再犯者の減少はわずかに止まり,その結果,検挙人員に占める再犯者の人員の比率が上昇を続け,平成23年には再犯者率が43.8%に至っていることが分る。近年,再犯防止が犯罪対策における最も重要な課題になっているが,その理由は,この図からも納得いただけるものと思う。
 犯罪の認知件数が過去最高に達した平成14年の翌年から開催されるようになった政府の犯罪対策閣僚会議は,20年に「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」を策定し,「犯罪者を生まない社会の構築」を重点事項の一つとして掲げた。そして,22年12月,同閣僚会議の下に「再犯防止対策ワーキングチーム」が設置されて23年7月に「刑務所出所者等の再犯防止に向けた当面の取組」が策定され,さらに,24年7月,同閣僚会議は,より総合的かつ体系的な再犯防止対策として,今後10年間における刑務所出所者等の再犯防止に向けた「再犯防止に向けた総合対策」を策定した。
 犯罪白書においては,平成19年に「再犯者の実態と対策」をテーマとして特集を組み,その後,高齢犯罪者,窃盗及び薬物犯罪者,重大事犯者,少年及び若年犯罪者をそれぞれ各年の特集で取り上げ,その中で,各種犯罪者の再犯実態や再犯リスク要因等の分析も試みてきた。これら一連の分析を通じ,不安定な就労や居住状況といった生活基盤に関わる課題が刑務所出所者等の再犯に共通するリスクとなっていることが確認された。
 安定した就労と住居の確保は,犯罪者や非行少年の再犯・再非行を防止し,改善更生させる上で不可欠な要素である。そのこと自体は,犯罪者処遇に当たる関係者にとっては,経験上,従来から自明のことで,これまでも,協力雇用主の協力を求め,あるいは,更生保護施設の充実とその活用に力を入れてきた。犯罪白書等の研究によって,その重要性が一層明確にされ,犯罪対策閣僚会議においては「居場所」と「出番」を作ることが施策の重点事項の一つとされるなど,改めてその抜本的かつ実効性ある対策が求められるようになり,ここ数年,新しい施策が次々に打ち出されている。例えば,平成18年度から法務省と厚生労働省が連携して,刑務所出所者等に対し積極的かつきめ細かな就労支援を行う「刑務所出所者等総合的就労支援対策」が開始された。21年4月からは,矯正施設の被収容者のうち,高齢又は障害を有し,かつ,適当な帰住先がない者について,釈放後速やかに,適切な介護,医療等の福祉サービスを受けることができるようにするため,法務省と厚生労働省が連携した「特別調整」が実施されている。また,23年4月からは,適当な住居の確保が困難な者に対して,社会の中に多様な受け皿を確保する方策として「緊急的住居確保・自立支援対策」が開始された。
 ところで,ここに例示した新規施策を始め,刑務所出所者等の再犯防止と社会復帰支援の多くは,地域社会を基盤に実施される。したがって,保護観察所等の犯罪者・非行少年を処遇する専門機関だけで効果を上げていくことは難しく,例えば,就労支援で言うと,先に挙げた厚生労働省,現場では公共職業安定所になるが,そことの緊密な連携が必要になってくる。そのほかにも,学校,警察,地方自治体の各部署等対象者の処遇に関係してくる公的機関はたくさんあり,それらとの良好な関係が必要である。また,保護司を始めとする民間の更生保護関係者との協働はもちろんのこと,その他,犯罪や非行の問題にそれぞれの立場から取り組む各種民間の団体・個人の協力・参加が望まれる。さらに重要なことは,一般住民の理解と支持がなければ,これらの施策を効果的に展開することはできない。
 今回の特集では,就労や住居の問題を中心に据えつつ,他機関連携や民間協力にも紙数を割き,刑務所出所者等の社会復帰支援策を総覧して紹介した。再犯防止に関する最近の動向は言うまでもなく,従来の犯罪者・非行少年の処遇の実態が必ずしも広く国民に知られているとはいえない上,施策を進めるにあたって国民の理解と支持が必要であることを考えると,これらの現状を紹介し,課題と展望について考察することが必要と考えられ,今回の特集を組んだものである。
 本稿では,白書の特集パートに当たる第7編のうち,「第2章 再犯防止・改善更生のための社会復帰支援策と民間の協力・参加」から,従前の取組と新規施策を紹介し,「第4章 おわりに」で論じた課題と展望についても考察したい。なお,ここまでの記述を含め,意見にわたる部分は私見であることをお断りしたい。

3  再犯防止・社会復帰支援の現状

 以下,刑務所出所者等の再犯防止・社会復帰支援の現状を総覧した平成24年版犯罪白書第7編第2章の概要である。就労支援,住居確保に次いで,犯罪者・非行少年の社会復帰支援の要となる保護司を取り上げ,さらに,関係機関との連携,民間団体の協力・参加を紹介していく。
(1) 就労支援
 犯罪・非行をした者の再犯が,その後の就労状況によって大きく影響されることを端的に示すグラフが図4である。これは,保護観察対象者の再犯の状況を就労状況別に示したもので,無職者の再犯率が有職者と比較して著しく高く,再犯防止のためには就労の確保が重要であることがよく分る。

図4 保護観察対象者の再犯率(就労状況別)



ア 矯正施設における職業訓練
 刑事施設では,受刑者の釈放後の就労に役立たせ,職業人として更生させることを目指し,職業に関する免許や資格の取得,職業上有用な知識や技能の習得を目的とした職業訓練を実施している。平成23年度には,刑事施設60庁において31種目の職業訓練を実施し,その訓練定員は4,559人となっている(PFI手法により運営されている刑事施設を除く。)。「雇用情勢に応じた職業訓練」を実施するため,有効求人倍率等を参考に,将来的に雇用が見込まれる職種を新たな職業訓練の種目として取り入れている。
 少年院では,矯正教育の一領域として職業訓練を含む職業補導を実施し,勤労意欲の喚起や勤労を重んじる態度を培う。製造業や福祉施設等の事業所に通勤して行う院外委嘱職業補導も実施している。
イ 協力雇用主
 協力雇用主とは,犯罪・非行の前歴等のために定職に就くことが容易でない保護観察対象者等を,その事情を理解した上で雇用し,改善更生に協力する民間の事業主である。協力雇用主数は,平成24年4月1日現在個人・法人を含めて9,953で,業種別に見ると建設業,サービス業,製造業の順で多く,この3業種で約80%を占めている。被雇用者数は同日現在で758人である。
ウ 刑務所出所者等総合的就労支援対策
 犯罪をした者や非行のある少年の処遇において,就労指導及び就労支援は,従来から重点が置かれてきた。しかし,非行・犯罪歴があることや対人関係・社会適応能力に問題を抱える者が少なくないことから,その就労は常に厳しい状況にあった。そこで,就労による確実な自立更生を目指し,前記のとおり平成18年度から「刑務所出所者等総合的就労支援対策」が開始された。図5は,同対策の概要を示したものである。

図5 刑務所出所者等に対する総合的就労支援対策の概要



 就労支援の対象となるのは,受刑者,少年院在院者,保護観察対象者及び更生緊急保護対象者である。このうち,刑務所出所者等就労支援事業として法務省と厚生労働省が連携して実施する支援の対象者は,矯正施設や保護観察所から依頼のあった者で,稼動能力・就労意欲を有し,支援事業への参加を希望し,求人者に対する前歴等の開示に同意しているなどの要件に該当しているものである。
 支援の実施体制として,公共職業安定所に,支援事業の担当責任者等が配置され,矯正施設を訪問して職業講話,求人情報提供,職業相談等を実施し,保護観察所から依頼があった保護観察対象者等に対しては,個別面接を行うなどして,求人開拓から就職に至る一貫した就労支援を行っている。
 就労支援メニューとして,職場の雰囲気や仕事に慣れるために,実際の職場環境や業務を体験する「職場体験講習」,履歴書の書き方や採用面接での注意点等の説明を行う「セミナー」,実際の事業所を訪問して職場を見学する「事業所見学会」,試行的な雇用期間を設け,常用雇用への移行促進を図る「トライアル雇用」,身元保証人がいない支援対象者が,雇用主に業務上の損害を与えた場合等に,見舞金が支払われる「身元保証制度」等がある。
 支援対象者等総数及び就職者数の推移は,図6のとおりであり,平成19年度から毎年2,000人以上の刑務所出所者等が就労に至るなど一定の成果を上げている。その一方で,ここ数年,保護観察対象者のうち毎年9,000人程度が無職状態で保護観察を終了しており,また,就職しても早期に退職したり,職場に定着できずに転職を繰り返す者も少なくない。刑務所出所者等の就労確保と就労継続は,依然として極めて厳しい状況にある。

図6 刑務所出所者等就労支援事業支援対象者等総数・就職者数



エ 更生保護就労支援モデル事業
 この厳しい状況に対応するため,新たな取組として,平成23年度から一部の保護観察所において「更生保護就労支援モデル事業」が実施されている。
 この事業は,雇用に関するノウハウ等を有する民間団体が国から委託を受けて更生保護就労支援事業所を設置し,専門的な知識及び経験を有する就労支援員が,関係機関等と連携して支援を行うものである。矯正施設入所中から,支援対象者の希望や適性を把握し,雇用情勢等の情報を伝え,就職活動支援を行い,就職後には職場訪問をして必要な助言をしたり,協力雇用主の相談に応じたりする職場定着支援までを継続的に行うなどきめ細かな支援や調整を行うところが特長である。
オ その他の支援活動例
 犯罪をした者や非行のある少年の就労の確保は,経済界全体の協力と支援によって支えられるべきものであるとの趣旨から,中央の経済諸団体や大手企業関係者等が発起人となり,平成21年1月に特定非営利活動法人「全国就労支援事業者機構」が活動を開始した。そして,全国就労支援事業者機構の働き掛け等により,地方単位の就労支援事業者機構(都道府県就労支援事業者機構)が,全国50か所(各都府県に1か所ずつ,北海道に4か所)に設立された。全国及び都道府県就労支援事業者機構では,協力雇用主及びその活動に対する各種助成・支援等を重点的に行っている。
 また,大阪府内にある地方自治体では,保護観察対象者を臨時的任用職員として採用する取組を行い,同様の動きが他の地方自治体に広がっている。さらに,保護観察対象者等を採用した協力雇用主に対して,建設工事等に係る競争入札参加資格審査において加点するなどの優遇措置を導入する地方自治体もある。
 民間企業の中には,矯正施設入所中の者に対して,職業訓練から刑務作業の提供と出所後の雇用までを前提としたプログラムを提供している例もある。
(2) 住居確保・福祉的な支援
 刑事施設等に入所した者が出所して社会に戻る際,適当な住居がない場合は,これが再犯や再非行の要因ともなり得る。そのため,施設収容中から,釈放後の適切な住居の確保等を調整事項とした生活環境の調整を講じているが,引受人となる家族等がなく,出所後の居所が定まらないまま満期釈放となる者も少なくない。
 図7(1)は,平成23年の満期釈放者の帰住先を構成比で示したものである。図中の「その他(47.5%)」は,出所の際に適当な帰住先がない者,帰住先を明らかにしない者等が含まれ,満期釈放者の半数近くが,家族や知人,あるいは適切な施設に帰住していないことがうかがわれる。これを,同年の出所受刑者全体で見ると,満期釈放者で帰住先「その他」の者の割合は,図7(2)のとおり約4分の1であった。

図7 出所受刑者の出所状況と再入者の再犯期間との関係



 また,同年の再入者について,前刑の出所日から再犯に至るまでの期間と前刑時の出所状況を見ると,図7(3)のとおりである。再犯期間が短いほど,再入者に占める満期釈放者の比率が高く,かつ,帰住先が「その他」に当たるものの比率が高い。同年における出所受刑者と再入者は同一ではないが,満期釈放者で出所の際に適当な帰住先を持たない者は,出所してから数か月の再犯リスクが高いことがうかがわれる。刑務所出所者等の帰住先を確保することは,再犯を防ぐ上での重要な課題の一つといえる。
ア 更生保護施設
 刑務所出所者等で適切な住居を得られない者に対しては,これまで更生保護施設が宿泊場所や食事の提供,生活指導等において大きな役割を担ってきた。更生保護施設は,頼るべき親族がいないなどのため,すぐに自立更生ができない刑務所出所者等を保護して,その社会復帰を支援する民間の施設で,明治時代からの長い歴史を有している。
 平成24年4月1日現在,更生保護施設は全国に104施設ある。その内訳は,男子施設90,女子施設7及び男女施設7である。収容定員の総計は2,329人であり,男子が成人1,834人と少年314人,女子が成人134人と少年47人である。
 更生保護施設では,基本的な処遇として,生活指導,金銭管理指導,交友関係に関する指導,就労に関する指導,飲酒に関する指導,福祉や医療のあっせん等が行われている。刑務所出所者等の問題性や,社会復帰のためのニーズに応じた処遇として,「酒害・薬害教育」,「生活技能訓練(SST)」,「コラージュ療法」,「料理教室」,「就労支援講座」,「法律相談会」等が行われている。退所者の8割以上は円満退所しており,主な退所先は,借家(28.1%),就業先(17.4%),親族・縁故者(14.8%)であって,更生保護施設が,自立のため,あるいは,親族・縁故者等との関係の再構築のための機能を果たしていることがうかがえる。
イ 自立更生促進センター
 自立更生促進センターは,親族等や民間の更生保護施設では円滑な社会復帰のために必要な環境を整えることができない仮釈放者,少年院仮退院者等を対象とし,保護観察所に併設した宿泊施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで,対象者の再犯防止と自立を図ることを目的とする施設で,全国に4庁が開設されている。
ウ 緊急的住居確保・自立支援対策
 社会の中に更に多様な受け皿を確保する方策として,平成23年4月から,「緊急的住居確保・自立支援対策」が開始された。これは,保護観察所に登録した民間法人・団体等の事業者に,保護観察所が,宿泊場所の供与と生活指導等を委託するものである。この宿泊場所を「自立準備ホーム」と呼び,平成23年度の自立準備ホームの登録事業者は166で,事業者は,社会福祉法人,一般社団法人,特定非営利活動法人,会社法人,任意団体といった様々な法人,団体又は個人である。その形態は,生活困窮者支援を行う法人が所有するアパート,社会福祉法人等が運営する障害者の施設やグループホーム,児童福祉法上の児童自立援助ホーム,宗教法人や薬物依存者の自助グループが管理する施設等様々である。
エ 高齢者・障害者等に対する福祉的支援への橋渡し
 この問題に対処するため,前記のとおり,平成21年4月から「特別調整」が実施されている。この取組の中心となるのは,厚生労働省の地域生活定着支援事業(24年度において,地域生活定着促進事業)により整備が進められた地域生活定着支援センターである。図8は,特別調整の概要を示したものである。
 地域生活定着支援センターは,厚生労働省により,民間の法人・団体に業務が委託されるなどにより,各都道府県に1か所ずつ(北海道は2か所)設置されている。地域生活定着支援センターには,社会福祉士,精神保健福祉士等が配置され,刑務所出所者等を円滑に福祉サービスにつなげていくためのコーディネート機能を担っている。

図8 特別調整の概念図



 具体的には,まず,矯正施設が,支援が必要な被収容者を保護観察所に通知し,保護観察所がその者の意向や状況を確認し,特別調整の対象の可否を判断し,対象者に選定した場合は,地域生活定着支援センターに協力依頼する。センターにおいては,福祉サービス等のニーズ内容の確認,受入先施設のあっせん,福祉サービスの申請支援等のコーディネートを行うほか,釈放後の本人を受け入れた施設等に対する助言,本人やその関係者からの相談にも応じる。
(3) 保護司と保護司活動
ア 保護司とは
 保護司は,犯罪をした人や非行のある少年の立ち直りを地域で支える民間のボランティアであり,保護司法に基づき,法務大臣の委嘱を受け,民間人としての柔軟性と地域性を生かし,保護観察官と協働して保護観察や生活環境の調整等を行う。身分は,非常勤の国家公務員であるが,給与は支給されない。
 保護司の定数は,全国で5万2,500人を超えないものと定められており,平成24年4月1日現在の人員は,4万8,221人(充足率91.8%)である。平均年齢は64.1歳,女性の比率は25.9%である。職業は,無職(主婦を含む。)が最も多く,次いで会社員等である。
イ 保護司活動の実際
 保護司は,主として,保護観察対象者の指導監督・補導援護,矯正施設収容中の者に関する生活環境の調整を職務として活動している。具体的には,保護観察対象者を保護司の自宅等に訪問させ,また,保護司が保護観察対象者の自宅等を訪問して対象者及びその家族等と面接するなどし,また,矯正施設に入所中の者が希望する帰住予定地を訪問して引受人と話し合いをするほか,矯正施設に出向いて本人と会うなどする。また,地域の防犯活動や青少年の健全育成活動等といった犯罪予防活動にも従事している。
 近年,新たな施策が次々に導入され,保護司の活動も多様化している。まず,就労支援においては,保護観察対象者に同行して公共職業安定所に行き,職員と職業相談等について一緒に話し合ったり,協力雇用主の開拓をしている。保護観察対象者に対する社会貢献活動の実施に当たっては,社会貢献活動担当保護司が,活動の準備,実施その他の事務を行う。学校連携担当保護司は,地元中学校において,非行防止教室の実施,問題を抱える生徒に対するサポートチームへの参加,生徒指導担当教諭との合同研究会の取組等中学生の非行の未然防止及び健全育成を図っている。また,各保護観察所には,男女1名以上ずつの被害者担当保護司が置かれ,被害者等支援に専従している。
ウ 保護司制度の基盤整備に向けた取組
 保護司の充足率は,近年低下傾向にある。その背景として,地域社会の人間関係の希薄化等の影響や,保護観察対象者の抱える問題が複雑・多様化するなどして保護司の処遇活動が困難化し,保護司のなり手が見つかりにくくなっている状況がうかがえる。
 新任保護司を発掘する方策として,平成20年度から,保護司候補者検討協議会が全国の保護区に順次設置されている(平成24年4月1日現在全国の保護区866のところ,450か所に設置)。保護司は,保護観察所長が,各保護観察所に置かれた保護司選考会の意見を聴いて,保護司候補者を法務大臣に推薦し,法務大臣が委嘱する。保護司候補者検討協議会は,より幅広い分野から保護司候補者を発掘するため,保護区あるいは保護区内の地域単位で,地域住民の代表者等が集まり,保護司候補者の情報交換を行う方法により,候補者の発掘に努めるもので,保護司適任者の確保に寄与している。
 また,個々の保護司の処遇活動を支援するためや,保護司会がより組織的に活動するために,平成20年度から,保護司活動の拠点となる更生保護活動サポートセンター(23年度から「更生保護サポートセンター」に改称)の設置が,順次全国の保護司会に進められている(平成24年度中に155か所の見込み)。すでに設置された更生保護サポートセンターにおいては,対象者等との面接場所,処遇協議の開催場所,保護司研修,新任保護司等の相談等で積極的に利用されている。
(4) その他民間の協力・参加
ア 特定の問題性に対応した処遇における連携
 矯正施設に収容中の者や保護観察対象者には,薬物,アルコール,性犯罪,暴力団関係等様々な問題性が認められる。矯正施設や保護観察所では,特定の問題性に対応した処遇を実施しているが,問題性によっては,外部の機関や民間団体の援助,協力を得ることにより大きな効果が期待できるため,従来から連携を模索してきた。
 例えば,薬物事犯者に対する処遇の実施に当たっては,大学・研究機関,ダルク等薬物依存症リハビリテーション施設や自助グループ,精神保健センター,医療機関等の参加・協力が重視されている。そもそも刑事施設における薬物依存離脱指導,保護観察所における覚せい剤事犯者処遇プログラムは,薬物依存の治療や研究に携わる心理学や精神医学の研究者,専門家の参画を得て開発された。刑事施設においては,ダルク等を招へいしてグループワークを中心とした指導等が実施され,保護観察所においては,覚せい剤事犯者の家族会・引受人会における講師等として,ダルク等の代表者・スタッフ,精神保健福祉センター職員,医療機関の精神科医・職員,薬物依存症の専門家等の協力を得ている。
イ 民間協力者及び団体
 矯正施設や保護観察における処遇においては,これまでも,多種多様,かつ,多数の民間の団体・個人の協力を得て実施されてきている。その活動の実態は,白書を参照いただくとして,ここに列記すると,矯正施設では,まず,被収容者と個人又はグループで面接し,専門的知識と経験に基づいて助言指導する篤志面接委員,そして,宗教上の儀式行事や教誨を実施する教誨師が挙げられる。その他にも,作業提供企業の作業指導員,職業訓練の実習先である民間の施設,各種行事における地元の自治会・婦人団体等がある。更生保護関係では,先に挙げた保護司,協力雇用主のほか,非行少年の「ともだち」になることで,その立ち直りを支援するBBS会,地域の犯罪予防や青少年の健全育成,犯罪者・非行少年の改善更生に協力する更生保護女性会がある。その他にも,近年では,国が実施する施策に対する協力にとどまらず,更生した少年院出院者が他の少年院出院者の更生を支援する当事者による活動や,更生保護施設入所者に対する医療等の支援活動等,新しい民間独自の活動も起こりつつある。

4  課題と展望

 今回の特集では,刑務所出所者等の再犯を防止し,社会復帰を図る各種施策の運用や官民協働による取組の現状と課題を紹介するとともに,これを踏まえて,今後一層の充実・強化が,あるいは新たに必要な支援・取組等について検討,考察した。
以下,「第4章 おわりに」で論じた内容に,白書では記載しなかった個人的見解を交えつつ,その概要を記述する。
(1) 就労・住居確保等支援の現状と展望
 刑務所出所者等総合的就労支援対策を始めとする施策や民間の協力を得ての様々な取組は,支援対象者の相当数が就職につながるなどの一定の成果が出ているものの,保護観察対象者の保護観察終了時における無職率の改善までには至っておらず,就職してもすぐに離職する者がいるなど,まだ課題は多い。就職先の確保から職場定着支援まで一貫して行う取組や,矯正施設から社会内への支援の継続の強化が図られるべきである。更生保護就労支援モデル事業は,就職率,職場定着率とも高く,今後進むべき一つの方向性を示すものと考えられる。
 刑務所出所者等を実際に雇用している協力雇用主は一部にとどまっている。協力雇用主による雇用を促進するため,身元保証制度やトライアル雇用を積極的に活用しつつ,様々な業種の事業者にインセンティブを与えて協力雇用主への新規参入や刑務所出所者等の雇用を促す支援が望まれる。障害者等を雇用しているソーシャル・ファームの一部が,刑務所出所者等の雇用について理解を示しており,新たな就労先として期待することができる。
 住居確保については,既存の更生保護施設,自立更生促進センター,自立準備ホームによる受入れを確実に進めていく必要がある。また,更生保護施設は,必要な受け皿としてその定員総数が不足しており,自立準備ホームの新規登録の推進,住み込み先となる協力雇用主の一層の開拓にも注力する必要がある。
 質的な面では,更生保護施設の職員数,職員の経験・能力,施設の設備等処遇を支える態勢の充実・強化が必要である。自立準備ホームについては,処遇態勢の質的水準のばらつきがあり,一定水準の確保,維持,強化に向けた官民双方の努力が求められよう。民間施設が刑務所出所者等を受け入れるに当たってどのような問題や困難があるかを検証し,これを軽減するための方策を検討していくべきであろう。
 満期釈放者等に対する支援体制は,主に更生緊急保護制度に限られるなど課題が残る。就労にしても住居確保にしても,継続的・長期的にこれらの者に対する支援を行える仕組みを検討する必要があると思われる。
(2) 官民協働の現状と課題
 犯罪者や非行少年の更生支援において重要な役割を担っている保護司に関しては,高齢化と充足率の低下が問題となっている。これに対しては,近年,保護司候補者検討協議会による保護司候補者発掘の試みや更生保護サポートセンターを活用した取組等,保護司活動の基盤整備に向けた動きが始まっている。複雑多様化する保護観察対象者の問題に対応して処遇を行う保護司の活動を支えるには,保護観察対象者の問題に対応できる関係機関との連携や民間団体の協力・参加が不可欠である。更生保護サポートセンターを有効に活用するなどして,経験の長い保護司のネットワークや保護司会と地域社会とのつながりを,それぞれの保護司の処遇活動に生かすことが望まれる。
 薬物事犯者の処遇においては,官民合わせた多機関連携が進みつつある。とはいえ,医療機関やダルク等との連携がないまま処遇が経過している保護観察ケースも少なくない。ここは個人的見解であるが,今後,刑の一部執行猶予制度が導入され,薬物依存者に対するプログラムが数多く実施されるようになれば,薬物依存を治療する医療機関がまだまだ少なく,ダルクの受入れ枠も多くない現状から鑑みて,対応できる医療機関やダルク等の協力者を増やすことが課題になると思われる。
 薬物事犯者のほかにも,飲酒問題,ギャンブル,買い物依存等,し癖行動や依存症に関連する問題があるケースは多く,関連団体,自助グループ等との連携強化は今後も課題になると思われる。
 そのほかにも,例えば,債務整理等の問題や被害者に対する償いの橋渡しといった法的支援はニーズがありながら,法律専門家等との連携は必ずしも十分ではなく,更に開拓の余地があると思われる。また,「再犯防止に向けた総合対策」には,例えば,女性犯罪者や暴力団関係者についても,女性の特徴的な傾向に基づいた指導・支援や暴力団離脱指導・支援が強化すべき取組として挙げられており,こうした取組も,ノウハウや専門性を持った多くの関係機関や民間団体との連携が必要である。今後は,これまで連携が不十分であった団体等との連携の可能性を探り,連携が手薄な分野での連携先の開拓を進め,より広く緊密なネットワークを構築していくことが望まれる。
(3) 国民の理解と支持
 犯罪者や非行少年とはなるべく関わりたくない,できれば遠ざけておきたい,というのが一般の人の普通の感情ではないだろうか。しかし,犯罪をした者もいずれは地域に帰ってくる。自ら犯した罪や非行を真摯に悔い改め,立ち直りを目指して再出発する刑務所出所者等を地域が排斥するようであれば,その社会復帰はもとより再犯防止はおぼつかない。地域住民の理解を基盤に,地域社会の様々な分野・場面で刑務所出所者等を受け入れ,彼らを支える取組が促進されれば,再犯を防止し,安全・安心な社会を作ることにとどまらず,彼らを社会に貢献する一員として再統合し,積極的に国民全体の利益の増大を目指す営みになる。
 裁判員裁判では,一般市民である多くの裁判員が,量刑等の評議において,適正な処罰の在り方を模索する中で,矯正施設や保護観察における処遇の実情や刑終了後の社会内の受け皿に目を向けることになった。裁判員を経験したことで,「被告や犯罪者も自分たちと同じ人間であると感じられ」,「罰して排斥するだけが司法のすべてではない」と述べている人もいる(注)。
 犯罪白書は毎年,犯罪,犯罪者,そして,その処遇の現状について詳しく説明している。本年は,特集において,刑務所出所者等の社会復帰支援の現状と課題をできるだけ分かりやすく説明することを目的とした。こうしたことが,国民に十分理解されることによってこそ,その積極的な協力や支援が得られるものと考えられる。そのために,本年の犯罪白書が広く活用されることを期待している。
(法務総合研究所総括研究官)

注: 平成24年10月10日朝日新聞「裁判員制度3年 経験の語り場が必要」元裁判員の交流団体まとめ役 田口真義氏
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