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犯罪白書
平成24年版犯罪白書:保護司及び受刑者・在院者の意識調査の概要
石原 香代
I はじめに平成24年版犯罪白書では,法務総合研究所が実施した保護司及び受刑者・少年院在院者に対する意識調査(以下それぞれ「保護司調査」及び「受刑者・在院者調査」という。)の結果を掲載している。各調査は,第一に,刑務所出所者等が直面する社会復帰上の課題及び必要な支援を,第二に,保護司活動上の課題等を,明らかにすることを目的とする。前者の目的に関しては,これらに関する保護司の意見(ただし,主に保護観察対象者に関するもの)及び受刑者・在院者本人の意識等を,後者に関しては,保護司活動や関係機関・民間団体との連携等に関する保護司の意識を,いずれも自記式の質問紙を用いて調査している。その概要を,若干の考察を加えつつ,抜粋して紹介する。 本稿において,意見にわたる部分は,私見であることをあらかじめお断りしておく。
II 調査及び調査対象者の概要
1 保護司調査
調査対象は,平成24年1月1日現在在職中の保護司4万8,221人から無作為抽出した3,007人のうち,回答を得られた2,414人(男性1,774人,女性635人。回収率80.3%)である。回答者の年齢,保護司経験年数及び保護観察事件担当件数は,次のとおりである(数値は,いずれも人数及び回答者中の構成比)。
(1)年齢 | 40歳未満 | 7( 0.3%) | (2)保護司経験年数 |
40〜49歳 | 85( 3.5%) | 5年未満 677(28.7%) | |
50〜59歳 | 374(15.6%) | 〜10年未満 642(27.2%) | |
60〜69歳 | 1,304(54.3%) | 〜20年未満 723(30.7%) | |
70歳以上 | 632(26.3%) | 20年以上 316(13.4%) |
なし 533(22.6%) 10件未満 1,366(57.8%) 10件以上 464(19.6%)
(4)「少年」(保護観察処分少年・少年院仮退院者)事件の担当件数
なし 442(18.6%) 10件未満 1,335(56.1%) 10件以上 603(25.3%)
2 受刑者・在院者調査
調査対象は,平成24年3月1日から31日の間に全国の刑事施設・少年院を出所・出院する受刑者2,306人及び在院者286人のうち,調査票への回答に同意した受刑者1,729人(回収率75.0%)及び在院者277人(同96.9%)である(なお,調査対象となった受刑者・在院者を,以下それぞれ単に「受刑者」・「在院者」という。)。回答者の性別,年齢,入所・入院回数,保護処分歴等は,次表のとおりである。
受刑者については,
・年齢層が上がるにつれて,(1)入所度数1度の割合が低下,3度以上の割合が上昇,(2)満期釈放の割合が上昇,仮釈放の割合が低下,(3)帰住先不明等(帰住先が不明,帰住先が暴力団関係者の下,刑終了後引き続き被告人として勾留,入国管理局への身柄引き渡し等をいう。以下同じ。)の割合が上昇する
・入所度数の増加に伴い,父母の下へ帰住する割合が低下,帰住先不明等の割合が上昇する
・入所の原因となった犯行時に無職であった割合は,仮釈放者(55.9%)より満期釈放者(72.4%)が顕著に高い
等,在院者については,
・出院時の引受人は,家族が約9割を占めているが,少年院送致歴がある者は,更生保護施設・保護司が引受人の者が約8%いる
・一定割合について,入院時の保護者の状況が出院時の引受人の状況と異なる傾向にある
等の特色がそれぞれ見られた。
III 刑務所出所者等の社会復帰上の課題:就労と住居の問題
1 保護司調査と受刑者・在院者調査の関係に関する考察
初めに,保護司調査及び受刑者・在院者調査結果のうち,刑務所出所者等が直面する社会復帰上の課題に関する部分を紹介するが,内容に触れる前に,まず,保護司調査と受刑者・在院者調査の関係やそれを踏まえた考え方について,若干の考察を加えたい。
刑務所出所者等の就労,住居確保等の社会復帰上の課題に関しては,保護司の意見は,保護観察対象者の指導監督・補導援護を行う社会内処遇の専門家による比較的客観的なものと看做してよいように思われる。これに対し,受刑者・在院者のそうした課題に対する意識・認識は,相対的に,より主観的なものという位置付けになると考えられる。両調査では,保護司及び受刑者・在院者のそれぞれの意識を分析するとともに,両者を,必要に応じて対照させることにより,受刑者・在院者の抱える課題を多角的な視点から分析,理解しようと試みた。例えば,双方の意見が一致する部分では,おおむね,それが,受刑者や在院者が直面する課題における共通認識や傾向と考えることができ,反対に,多くの保護司が課題であると認識する部分に関し,多くの受刑者や在院者がその認識を明らかに欠いている場合は,「問題意識がないことが問題」というレベルの問題性の一端をうかがうことができると思われる。
ただし,調査方法が内包する制約があることから,厳密な意味で,保護司と受刑者・在院者の調査結果を対照させることは適切ではないことにも留意すべきである。まず,保護司が常日頃見ているのは,あくまでも保護観察対象者であり,その意味で必ずしも受刑者・在院者調査の対象者層と重ならない。また,調査対象となった保護司によって,経験する事件数も,担当した保護観察対象者の直面する問題性も様々であるが,各保護司の意見は,それぞれが経験した件数全体を通じての印象に基づくものである。そこで,例えば,1件だけを念頭に置いて回答する場合と多数を念頭に置いている場合とでは,自ずとその重みや精度にばらつきが出るであろうことから,調査結果が,保護観察対象者についての保護司全体の経験や知見を正確に反映しているとまでは言いにくいと思われるのである。
犯罪白書では,こうした限界に配意しつつ,保護司と受刑者・在院者の意識を分析している。以下その概要を,保護司調査,受刑者・在院者調査の順に(必要に応じて,両者を対比させつつ)紹介する。なお,不良交友や薬物使用等に関する問題についても調査・分析をしたが,本稿では,重要性の高い就労と住居の問題に限って触れる。
2 保護司調査
(1) 就労の問題
ア 保護観察対象者の課題
仮釈放者・保護観察付執行猶予者(以下「成人」という。)又は保護観察処分少年・少年院仮退院者(以下「少年」という。)の保護観察事件の担当経験がある保護司から見た就労が安定しない原因を調査した。「仕事探し」,「採用」及び「就労継続」の各場面で直面する課題項目ごとに,保護司が,過去に担当したことがある保護観察対象者に「当てはまる者が多い」と回答した比率(以下「該当率」という。無回答及び重複回答を除いた比率(%)であり,以下,構成比,比率又は割合に関する記載も同様である。なお,他の選択肢は,「当てはまらない者が多い」又は「分からない」である。)を,成人・少年それぞれについて見たのが次表である。
保護司から見て,成人・少年の就労が安定しない原因として,職業観,粘り強さ・対人関係能力,規則正しい生活習慣といった本人の資質や態度に問題があるとした項目の該当率が特に高く,少年については,これらに加え,社会人としてのマナー・勤務姿勢に問題があるとした項目の該当率も高かった。このような保護司の認識は,協力雇用主等が,刑務所出所者等の雇用に当たり,社会人としての自覚や社会常識を重視していること1とも相通じるものである。
そのほか,求人・雇用情報や適切な公的支援へのアクセス及び技能・能力上の問題も該当率が高い。
イ 必要な支援
次に,保護司が,保護観察対象者等の就労の安定のために,今後,特に必要性が高いと考える支援内容を見る。次表は,就労に関係する各支援項目につき,「特に必要」を選択した比率を見たものである(他の選択肢は,「やや必要」,「あまり必要ない」及び「必要ない」。)。
成人・少年両方について,家族や保護者の監督・協力や支え・励ましや,雇用主や同僚等の理解を「特に必要」と考える保護司が多い。少年については,次いで,社会人としてのマナーや勤務姿勢の指導が上位を占め,その必要性が強く認識されている。そのほか,多種の課題に対する支援策となり得る,保護観察終了者等も受けられる公的機関による相談等の支援や,仕事や就労支援に関する情報の提供を「特に必要」と考える保護司が,成人・少年とも過半数を占め,全体的に,保護観察対象者の安定就労を阻む原因として該当率が高かった課題項目との対応関係が認められる。
(2) 住居の問題
ア 保護観察対象者の課題
次表は,保護司が過去に担当したことがある保護観察対象者について,住居が安定しない原因として,「住み続ける」,「新たに住居を確保する」の各場面において直面する課題項目ごとの該当率を,成人・少年それぞれについて見たものである。
イ 必要な支援
次表は,保護司が,保護観察対象者等の住居の安定のために,今後,特に必要性が高いと考える支援内容,つまり,住居に関係する支援項目ごとの「特に必要」の選択比率を見たものである。
保護観察対象者の住居確保の場面においては,いずれの課題項目も,該当率は高くなく,むしろ「当てはまらない者が多い」という回答の比率が高い。また,今後,必要な支援項目における「特に必要」の選択率は,どの項目も5割に満たないのに対し,「必要ない」又は「あまり必要ない」の選択率は,半数以上の項目で2〜4割前後に上る。成人の保護観察対象者の大半を占める仮釈放者及び少年院仮退院者は,帰住先が確保されてから仮釈放・仮退院となり,実際,いずれの種別の保護観察対象者も,ほとんどは保護観察開始時に住居・引受先が確保されている。保護司の指導を受ける保護観察対象者は,満期釈放者等と異なり,住居確保自体に困難を抱える者が必ずしも多くないことが,こうした保護司の回答に反映されているものと思われる。
もっとも,安定した住居が確保できない原因として,「当てはまる者が多い」と回答した項目(以下「該当項目」という。)の数に着目すると,該当項目が多い保護司ほど,全般に,各支援項目を「特に必要」とする比率が高くなる傾向が見られた。特に,該当項目5つ以上の保護司(成人180人,少年165人)では,成人・少年両方に関し,上位4項目(成人については,(1)保護観察終了者等も受けられる公的機関による相談等の支援,(2)安定した住居を得られるまでの一時的な住居の提供,(3)失業や病気のときの一時的な経済的援助及び(4)住居確保支援に関する情報の提供。少年については,上記(1),(2),(4)及び(5)家族関係の調整や改善)で,「特に必要」が過半数を占め,多い項目では7割を超えた。全体の回答状況にもかかわらず,住居の問題に直面した保護観察対象者の担当経験がある保護司から見ると,住居の問題についても,保護観察対象者に対する支援の必要を強く感じていることが分かる。
3 受刑者・在院者調査
(1) 就労・収入の問題
ア 過去の問題状況
図1は,受刑者・在院者の入所・入院前1〜2年間(以下「本件犯行等前」という。また,入所・入院の原因となった犯行等を「本件犯行等」という。)における就労・収入に関する問題及び解決の有無を見たものである。
図1 就労・収入 本件犯行等前の問題状況
本件犯行等前に,安定した仕事や収入(在院者の「就学中」を含む。以下同じ。)はなかったが,問題だと思わなかった者,つまり,不安定就労等に問題意識のなかった者が受刑者・在院者とも2割を超える。さらに,この回答を本件犯行等時に無職であった者のみに絞ってみると,就労・収入に「問題があり,解決できなかった」と回答した者は,約4割にとどまった(残りは「安定した仕事や収入があって,問題はなかった」,「問題だと思わなかった」等と回答)。例えば,日雇いや短期アルバイトといった客観的には不安定な就労状況にあっても,それを問題と考えなかったり,あるいは,そもそも「不安定」と捉えなかったりするなど,就労状況等に関する認識の在り方に問題があった者が相当数いることがうかがわれ,出所・出院に備え,安定した就労の大切さを理解させる指導の充実の必要性が認められる。
イ 出所・出院時の問題状況と必要な支援
次に,出所・出院後の安定した就労のために解決すべき問題の有無の認識を見たのが図2である。
図2 就労 出所・出院後の問題認識
受刑者・在院者とも「問題はない」は半数を下回り,4割近くが「問題がある」とし,出所・出院を控えて,多くが問題ないし不安を持った状態にあることがうかがわれる。年齢(出所時年齢による。以下同じ。)層ごとに見ると,いずれも「問題はない」が半数以下で,50〜64歳で「問題がある」比率が高い。また,受刑者では,本件犯行等時に無職であった者で「問題がある」と答えた者の割合は,有職であった者と比べて明らかに高く,就労について,本件犯行等前の問題状況が解決されていない者が少なからずいることがうかがわれる。
そのほか,受刑者のうち,帰住先不明等の者又は帰住先はあるが,知人,雇主,社会福祉施設,更生保護施設等の家族・親族以外の帰住先(以下この項において「知人・雇主等」という。)の者は,「問題がある」がそれぞれ46.2%,45.6%を占め,帰住先が家族・親族の者(30.1%)と比べて明らかに高い。また,満期釈放者の41.9%,満期釈放者で帰住先不明等の47.1%が「問題がある」であり,「わからない」を含めると,いずれも6割を超え(仮釈放者では「問題がある」が34.6%,「わからない」を含めると46.3%),帰住先が家族・親族以外の者や満期釈放者の多くが出所後の就労に問題があると認識し,不安を持っていることがうかがわれる。
次に,受刑者・在院者(就労に関する問題がないと答えた者を除く。)が出所・出院後の就労の安定のために必要と考える支援を見たのが図3である。
図3 就労 出所・出院後に必要な支援
「必要」又は「やや必要」と回答した比率は,総じて,受刑者の方が高い。特に,「自分の問題に合った支援に何があるかを教えてくれること」,「就職活動に最低限必要な資金等の一時的な貸付等の経済的支援」及び「保護観察終了者・満期釈放者も利用できる公的機関による相談等の支援」の項目が高く,これらについては最も支援を強く求める「必要」の比率が63〜64%台に上り,満期釈放者では,後二者の支援項目を「必要」とする比率は更に高い。在院者については,「高校卒業認定資格や就職に役立つ技術・資格の取得支援」を「必要」とする者が6割を超える(「やや必要」を含めると9割近くに上る。)ほか,「悩みを気軽に相談したり,ぐちをこぼしたりできる相手」及び「職場の上司や同僚が立ち直ろうとする気持ちを理解して受け入れてくれること」を「必要」とする者が過半数を占め,「やや必要」を含めると,いずれも8割を超えるなど,対人関係等の人的サポートに関する支援の必要性を感じる傾向がうかがえる。
保護司調査の結果と比べると,受刑者(保護観察対象者を念頭に置いた同調査とは対象が異なるが,同調査の「成人」に一部が対応する。)については,適切な就労支援情報へのアクセス,保護観察対象者以外も利用できる相談等の支援へのニーズが大きい点で共通する所見である。一方,在院者(同様に,同調査の「少年」に一部が対応する。)については,職場の同僚等による理解・受入れ,資格・技能の取得支援の必要性の認識は,保護司・在院者で共通して高い。他方,保護司調査においては,特に少年について,社会人としてのマナーや勤務姿勢等の問題が指摘され,その改善・向上に向けた指導・助言の必要性が特に高く認識されたのに対し,同項目を「必要」とする在院者は3分の1程度(受刑者は3割弱)と多いとはいえない。また,協力雇用主等調査で,社会人としての自覚や社会常識といった点が刑務所出所者等を雇用するに当たって重要であると認識されていることを踏まえても,受刑者,そして,特に在院者に,社会人としての基本的な態度等の課題に対する問題認識の不足がうかがえる。
(2) 住居の問題
在院者の多くは,未成年者として保護者に監護されるため,出院後の居住の安定には保護者との関係が大きく影響するのに対し,受刑者の住居の問題は,むしろ住む場所自体がないことにある場合も多い。受刑者と在院者の住居の問題性の質が異なることを踏まえ,受刑者については,安定した住居,在院者については,安心して生活できる場所を得る上での問題や必要とする支援に焦点を当て本調査を実施しており,以下分けてそれぞれの分析を紹介する。
ア 受刑者
ア 過去の問題状況
本件犯行等前における,安定した住居を得る上での問題の有無等を示したのが図4である。
図4 住居 本件犯行等の問題状況(受刑者)
7割以上は「安定した住居があって,問題はなかった」又は「問題はあったが,解決できた」だが,年齢層が上がるにつれて,「問題はなかった」の比率が低下している。
また,本件犯行等時に住居不定であったにもかかわらず,「問題があり,解決できなかった」と回答した者は約4割にとどまり,例えば,寝泊り先を転々とするなどの不安定な居住状況にあったにもかかわらず,これを問題として受け止めること自体できないと見られる者も存在する。
再入者及び満期釈放者では,「問題はなかった」の比率がそれぞれ初入者及び仮釈放者より低い上,「問題があり,解決できなかった」の比率が高い。入所度数が3度以上の者については,その傾向が更に顕著であるほか,満期釈放者の中でも帰住先不明等の者については,「問題はなかった」の比率(54.3%)が更に低い。また,帰住先ごとに見ると,家族・親族と知人・雇主等や帰住先不明等では,家族・親族で「問題はなかった」が,知人・雇主等や帰住先不明等で,それ以外の回答,特に,「問題があり,解決できなかった」が多い。
これらのことを総合すると,入所度数が多い者,そして,今回満期釈放の者や,帰住先が不安定な者は,過去に住居に関する問題を有し,それが解決できない状況で本件犯行等に及び,さらに,出所に当たり,安定した住居確保上の課題がある者が相当数いると推測される。
本件犯行等前に,安定した住居確保上の問題があり,解決しなかったと回答した受刑者(「安定した住居はなかったが,問題だと思わなかった」又は「問題があり,解決できなかった」)で,調査で示した「家族・知人等に相談や住居探し依頼」,「不動産屋・インターネット等で住居探し」,「役所等の公的機関の支援利用」等の6つの解決行動項目のいずれも「やらなかった」又は「思いつかなかった」と回答した者では,帰住先不明等の満期釈放者(34.3%)が多い(残りの者に占める帰住先不明等の満期釈放者は19.6%)。本件犯行等前に安定した住居を確保する上で問題があって,かつ,今回出所に当たって帰住先が不安定な者は,入所前に,自ら解決に向けた対応に出られなかった場合が多いことがうかがわれる。住居の問題があった受刑者が出所後に同じつまずきを繰り返さないように,指導・支援を充実させる必要があると思われる。
イ 出所時の問題状況と必要な支援
出所後の安定した住居確保に当たって解決すべき問題の有無を示したのが図5である。
図5 住居 出所後の問題認識(受刑者)
多くが「問題はない」とし,出所時に差し迫った住居確保の問題に直面していないことがうかがわれる。初入者より再入者,仮釈放者より満期釈放者で「問題がある」の比率が高く,中でも帰住先不明等の満期釈放者では49.5%と高率である。帰住先別では,帰住先不明等の者,知人・雇主等の者の半数程度が「問題がある」と考えているのに対し,家族・親族の者の8割近くは「問題はない」とし,帰住先があっても,そこが家族・親族以外の場合は,安定した住居とは認識されない傾向がある。さらに,本件犯行等時に住居不定であった者の過半数が,出所後,「問題がある」としており,受刑者自身の意識からも,本件犯行等前に安定した住居を確保する上で問題があった者は,服役期間中に問題が解決せずに出所に至っている場合が少なくないことがうかがわれる。
加えて,住居の問題と就労の問題との密接な関連も見られた。出所後,住居の「問題がある」と答えた者の77.0%(355人)が,就労の場面でも,解決すべき「問題がある」と答えている。特に,満期釈放者では,住居,就労とも「問題がある」と答えた者の比率(31.1%)は,仮釈放者(18.0%)より高く,満期釈放者でも帰住先不明等の場合(37.8%)は更に高い。家族や親族等,身近にいて長期的に支えてくれる者がなく,出所・出院後に速やかな自立が必要な者は,就労がなければ収入は見込めず,住居確保にすぐにも困難を来しかねず,逆に,住居が確保できなければ,就職活動に困難を来すであろう。こうした経験的に知られていることが受刑者の問題認識にも反映しているものと思われる。
次に,受刑者(住居に関する問題がないと答えた者を除く。)が出所後の住居の安定のために必要と考える支援を見たのが図6である。
図6 住居 出所後に必要な支援(受刑者)
選択肢として掲げた支援項目のほとんどについて,最も支援を強く求める「必要」とする者が4割を超え,特に,住居を借りるための保証人の紹介や契約等に必要な資金の一時的な貸付,出所後,住居を確保するまで当面の間住む場所,自分の問題に合った支援に何があるかを教えてくれることといった支援項目では,7割以上に上り,帰住に問題を抱える受刑者にとって,住む場所の確保とそのための直接的な支援のニーズが非常に高いことが分かる。
イ 在院者
ア 過去の問題状況
本件犯行等前の,安心して生活できる場所を確保する上での問題の有無等を示したのが図7である。
図7 住居 本件犯行等前の問題状況(在院者)
「安心して生活できるところがなかったが,問題だと思わなかった」者及び「問題があり,解決できなかった」者がそれぞれ2割弱いた。
入院時の保護者が実父母の者は,「安心して生活できるところがあって,問題はなかった」が3分の2近くを占めるのに対し,実父母や実父又は実母以外の者では,4割に満たない。
また,入院時の保護者のいずれかに実父又は実母を含む場合でも,出院時の引受人と入院時の保護者が全く異なる,家族関係の不安定さがうかがわれる者は,「問題があり,解決できなかった」が35.5%と,入院時の保護者であった実父又は実母の少なくともいずれかが出院時の引受人である場合(15.7%)より多い。
さらに,本件犯行等時に家族と同居していた者でも,本件犯行等前に「安心して生活できるところがあって,問題はなかった」とする者は約6割にとどまり,残りの者について,家族関係の問題の存在がうかがわれる。
イ 出院時の問題状況と必要な支援
出院後,安心して生活できる場所に住むに当たって解決すべき問題の有無等を聞いたところ,「問題がある」が約4分の1を占め,在院者の全員に引受先があることを考慮すると,比較的多かった。また,引受人が家族であっても,実母や実父義母・義父実母の場合は,「問題がある」が約3割いる。
図8は,在院者(住居に関する問題がないと答えた者を除く。)が,出院後に安心して生活できるところに住むため必要と考える支援を見たものである。
図8 少年院出院後の住居の安定のために必要な支援
「必要」の比率で見ると,家族や近所の人たち等の理解・受入れ,住居に関する悩みの相談やぐちの相手,家賃トラブル等の問題に際しての必要な支援への橋渡し,家族関係の問題の調整や相談先等,主に,家族関係を始めとする人間関係に関連する人的サポートについての項目が上位を占め,家族関係の改善や調整の支援の要請が高かった保護司調査結果とも相通じる所見である。
IV 保護司調査:保護司活動や関係機関・民間団体との連携等に関する意識
次に,保護司調査結果のうち,保護司活動における各種関係機関・民間団体との連携の状況や保護司をめぐる課題等を概観する。
1 関係機関・民間団体との連携
学校,地方自治体の福祉部門等,病院,ハローワーク等19種類の関係機関・民間団体との連携状況を,「連携をよく取っており,特に重要」又は「連携をよく取っている」(以下合わせて「連携をよく取っている」という。なお,他の選択肢は,「連携はあまり取っていないが,今後重要」及び「それ以外(重要でない,分からない等)」である。)が選択された比率が高い順に示したものが図9である。
図9 関係機関・民間団体との連携状況等
「連携をよく取っている」の最上位は「学校(小・中・高)」であり,少年の保護観察対象者に学生・生徒が多いことや,中学生サポート・アクションプランの開始(平成14年)等の学校との連携強化の実情が反映されていると推察される。一方,最上位の機関・団体でも,「連携をよく取っている」は,半数に満たず,関係機関・民間団体と連携をあまり取っていない保護司も相当数いることが分かる。
保護司の経験年数別に見ると,「連携をよく取っている」の上位6項目のいずれも,「20年以上」又は「10年以上20年未満」の者は,「5年以上10年未満」又は「5年未満」より「連携をよく取っている」割合が高い。経験の長い保護司は,様々な事件の担当経験を通じて,多様な対象者の課題やニーズに対応するため関係機関・民間団体との連携がなされていることがうかがわれる。
「連携はあまり取っていないが,今後重要」の上位三つは,「出所者等支援や福祉支援を行う社会福祉法人・NPO法人」,「ハローワーク」,「自助グループ等」で,それぞれ6割以上を占め,これらについて,連携をよく取っているとした者は1〜2割程度にとどまった。
次に,視点を変え,「就職や就労継続支援」,「復学や就学継続支援」,「住居確保支援」,「家族や保護者との関係改善の支援」等9つの場面2において,それぞれ関係機関や民間団体との連携(参加)の程度について,質問したところ,「連携できている(「やや連携できている」を含む。)」と答えた者は,いずれも半数以下で,多くは3割に満たない(なお,他の選択肢は,「あまり連携できていない」,「連携できていない」及び「わからない」である。)。多くの保護司が,社会復帰支援の様々な場面で関係機関や民間団体と十分な連携ができていないと感じながら処遇を行っていることが分かる。
2 保護司活動に対する意識等
図10は,保護司活動に関する保護司の意識を見たものである。
図10 保護司活動を通して感じること
保護観察対象者の処遇に関する項目を見ると,謝罪や弁償についての保護観察対象者に対する指導の観点から,被害者へ橋渡しできる機関等が必要と考えている保護司が多いことがうかがえるほか,専門的知識を持って処遇すべき保護観察対象者の対応や複数の問題を抱える保護観察対象者の対応に困難を感じる保護司が多いことが分かる。
また,保護司活動のやりがいや負担感に関する項目を見ると,約半数の保護司が,保護観察対象者の更生に役立っている,社会の役に立っているという充実感があると答える一方,充実感を得ていない保護司も2割弱見られたほか,自身や家族の負担を認識する保護司も少なくないことが分かる。やりがいや負担感に関する項目では,総じて,経験年数が長い保護司ほど,充実感を持ち,また,自身や家族の負担感を低く評価する傾向にある。他方,経験年数が5年未満の保護司の過半数は,充実感があると認識しておらず,3割前後が,自身や家族の負担が大きいと感じていた。
そして,保護司活動をする上での困難を軽減するための10の方策の有効性に関する質問では,ほとんどの保護司が,「保護観察官の指導や関与の充実」,「保護観察官との連絡体制の充実」及び「保護司同士が知識・経験を共有できる場」を特に有効又はやや有効と答えており3,保護観察官や他の保護司との協力態勢の強化により困難を軽減する方策を見出せると考えている保護司が多いことがうかがえる。
V 所 感
まとめに代えて,以下,上記の調査結果を踏まえた若干の所感を述べたい。
IIIでは触れなかったが,受刑者・在院者調査では,ほとんどの受刑者・在院者が,出所・出院を控えた気持ちとして,仕事に就いて,規則正しい生活を送り,二度と犯罪はしない旨回答しており,健全な社会の一員として再統合されるための一つの前提である更生意欲は認められよう。それを高める指導・支援や,それを無にしないための生活環境・生活基盤の整備やその支援の重要性は高いと考える。
就労,住居の問題に関する各調査結果は,
・満期釈放者や帰住先が不安定な受刑者,さらには,入所・入院前にも就労や住居の問題を抱えていた者が,出所・出院に当たり,より就労や住居の問題を抱えがちであること
・社会常識,健全な職業観,対人関係能力,生活習慣等の社会人としての基本が身に付いていないことが課題であること
・自己の問題を自覚しない,問題意識に欠けるなどといった意識・認識面に問題がある場合が少なくないこと
・住居と就労の問題は密接にリンクしていること
・どんな支援があって,どんな支援が必要で,どうやったらその支援を受けられるかといった,支援を受ける前提ともいえる情報面,アクセス面に関する支援を含む相談等の支援ニーズが大きいこと
・少年の場合,家族関係の改善や家族の協力等が重要な鍵であり,これらを始めとする人的サポートのニーズが大きいこと
など,おおむね,これまで経験的に知られていたことが保護司や受刑者・在院者の意識面から裏付けられる結果になったと感じている。これらの課題は,加速化する再犯防止の取組における重点部分とほぼ対応するものでもあり,取組の一層の推進が求められよう。
また,保護観察の対象となる刑務所出所者等にとって,保護司は,社会復帰を支える専門家として最も身近な存在の一つである。その指導・支援は,就労や住居等の特定の分野にとどまらず,生活全般をカバーし得るものであり,社会復帰支援における役割は非常に重要である。したがって,保護司がやりがいを持って,十分に活動できる基盤を整備することは,就労や住居等の生活基盤の確立に向けた各種の取組に勝るとも劣らず重要であると考える。
保護司は,保護観察対象者の種々雑多な課題に対応する一方で,就労や福祉といった特定分野の専門性までは必ずしも備えていないと思われる。保護司が期待される役割を十分に果たすためには,保護観察官はもちろん,専門性のある関係機関や民間団体との連携も欠かせないであろう。
調査結果からは,経験年数が長い保護司は,おおむね充実感を持っており,関係機関等との連携の面でも,克服すべき課題は限定的であると感じられた。他方,回答者に多かった経験年数の短い保護司については,やりがいや負担感の面,関係機関等との連携の面で課題がうかがわれ,この層を意識した対策の充実・強化が今後も求められていくと思われる。犯罪白書で紹介された保護司の基盤整備のための各種取組の強化に加え,個人レベルでの保護観察官との連携・連絡の強化や保護司間の経験の共有が進むことを期待したい。
(法務総合研究所室長研究官)
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24年版犯罪白書第7編第2章第1節3項(1)の協力雇用主等調査結果参照
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質問した他の5つの場面は,「薬物や飲酒問題の克服の支援」,「暴力団・暴走族や不良交友離脱支援」,「新たな対人関係の構築等の支援」,「被害者への謝罪・弁償の相談や橋渡し」及び「債務整理等の法的な問題への対応の支援」である。
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調査は,各項目について,「特に有効である」,「やや有効である」,「あまり有効でない」又は「有効でない」のいずれかを選択させる方法による。質問した他の7つの方策は,「研修や参考書・資料の充実」,「実費弁償等による経済的負担の軽減」,「報酬制度の導入」,「事件担当や研修参加等の時間的負担の軽減」,「保護司や保護司の活動に対する社会的評価の向上」,「地方自治体による保護司活動に対する支援」及び「保護司活動