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『平成24年版犯罪白書第7編刑務所出所者等の社会復帰支援』を読んで
〜就労や住居等の安定を促進する施策を中心に〜
石川 正興
1  はじめに

(1) 幸いにして,この数年,筆者は複数の研究補助金を得て矯正や保護の現場を訪れる機会をもった1。矯正にしろ,保護にしろ,そこで気付くことは,これまでに見られなかった斬新な取組の導入である。例えば,PFI手法による刑務所の新設,矯正施設における特別改善指導プログラムの導入,矯正施設の収容者を福祉サービスへと繋げるための社会福祉士等の配置,地域生活定着支援センターの新設,高齢又は障害出所者向けの特別処遇を実施する更生保護施設の指定,自立更生促進センターや更生保護サポートセンターの新設,矯正と保護の両面において実施される矯正施設収容者に対する就労支援体制の整備などなど,実に枚挙にいとまがないほどである。
これらの試みのなかでも特に筆者が関心をもってフォローしているのは,「刑務所出所者等の就労や住居等の安定を促進する施策」である。その施策の展開には,目を瞠るものがあるが,とりわけ平成22年12月に犯罪対策閣僚会議の下に設置された「再犯防止対策ワーキングチーム」の動きには,刑務所出所者等の再犯防止に向けた施策を一段と加速するものとして,筆者は大きな関心を寄せていた。
平成24年版犯罪白書(以下,『白書』という)は第7編で「刑務所出所者等の社会復帰支援」というタイトルの特集を組み,これら施策に関する平易な解説を提供する。それは,広く国民にとっても,また筆者のごとき研究者にとってもまさに時宜に適ったものである。

(2) 『白書』第7編は,以下の4章から構成されている。
第1章 はじめに
第2章 再犯防止・改善更生のための社会復帰支援策と民間の協力・参加
第3章 保護司及び受刑者・少年院在院者に対する意識調査
第4章 おわりに
このうち私の分担箇所は,第2章の第1節「就労支援」と第2節「刑務所出所者等の住居確保・福祉的な支援のための取組」を中心とする部分である。以下では,該当箇所のなかで解説されているいくつかの取組について,筆者のこれまでの調査研究で知り得た知見も引き合いに出しながら論述する。

2  再犯防止・改善更生のための社会復帰支援策

1.『白書』によれば,
・入所度数の多い入所受刑者ほど無職率が高い(4−6−3−6図)。
・保護観察期間中の再犯により保護観察が取り消された少年は,無職の者が有職の者より圧倒的に多い(3−2−5−8図)。
・出所受刑者全体の中で,帰住先不明等の満期釈放者は,4分の1程度であるのに対し再犯期間が3月未満の再入受刑者のうち,前刑出所時に帰住先不明等の満期釈放であった者は,過半数を占め,出所後短期間で再犯に至りやすい傾向がある(7−2−2−1図)。
さらに,『白書』は今回実施した受刑者・在院者調査の結果として,次の事実を強調する。
・出所・出院後の住居や就労に問題や不安を感じている者は,入所・入院前に,それぞれ,住居不定であった者や無職の者に多かったり,出所・出院時の帰住先が不安定な傾向が認められた(7−3−2−3−5図及び7−3−2−3−9図)。
・加えて,入所度数が多い受刑者ほど,家族・親族による引受けが少ないことが明らかになり(7−3−2−2−6図),問題を抱えていた者が服役等することによって更に条件が悪化し,それが解決しないままリスクを負った状態で出所・出院するといった悪循環に陥る場合が少なくないことがうかがわれる。また,住居の問題と就労の問題は相互に密接に関連する。特に,家族や親族等,身近にいて長期的に支えてくれる者がなく,出所・出院後に速やかな自立が必要な者は,就労先がなければ収入は見込めず直ちに住居確保に困難を来し,逆に,住居が確保できなければ,就職活動に困難を来す。両者の密接な関係は,今回実施した受刑者調査でも裏付けられた。
こうした実証的調査データに基づき,『白書』は刑務所出所者等に対する「就労支援」や「住居確保・福祉的な支援のための取組」の必要性を強調する。

2.しかし,『白書』も認めるように,「就労と住居確保等の支援の必要性自体は,目新しいものではない」(『白書』p.325)。確かに,その必要性の認識から,これまでにも矯正・保護の両面において就労と住居確保等の支援が展開されてきたことは,だれもが認めるところであろう。しかし,従前の試みにおいては,矯正のシステムと保護のシステムとの連携が不十分であり,加えて,刑事司法システムや少年保護司法システムの内部において『閉鎖的に』実施され,司法システムとは別系統の「福祉行政システム」,「雇用・労働行政システム」との連結がほとんど顧みられてこなかったという印象をぬぐえなかった。
この点,この数年来進められている「就労と住居確保等の支援の取組」は,刑事司法システムや少年保護司法システムの内部だけでの『閉鎖的な実施』から脱却し,進んで「福祉行政システム」,「雇用・労働行政システム」との連結を図る点で,従前の取組との間に大きな相違がみられる。その特徴を一言で表せば,「機関連携システムによる取組」と呼べるであろう2

3  就労支援

(1) 近年の「就労支援の取組」のキーとなっているのは,何と言っても「法務省系統の矯正・保護行政システム」と「厚生労働省系統の雇用・労働行政システム」との連結であろう。これら二つのシステムはこれまではほとんど連携することなく,従来の縦割り行政の中で別個に作動していたのであるが,近年は,両者を自覚的に連動させた形で就労支援の施策が打ち出されている。こうした施策として,『白書』は平成18年度から開始されている「刑務所出所者等に対する総合的就労支援対策」を取り上げる。
本対策は,7−2−1−7図に示される通り,法務省所管の矯正施設や保護観察所等と厚生労働省所管の都道府県労働局や公共職業安定所等が連携した取組である。『白書』によれば,「平成19年度から毎年2,000人以上の刑務所出所者等が就労に至るなど一定の成果を上げている。」。しかしその一方で,「保護観察対象者のうち毎年9,000人程度(23年は8,926人,24.1%)が無職状態で保護観察を終了している。また,就職しても早期に退職したり,職場に定着できずに転職を繰り返したりする者も少なくない。就労形態も臨時や日雇い等の不安定雇用が多く,就労先の業種にも偏りがあるなど,刑務所出所者等の就労確保と就労継続は,依然として極めて厳しい状況にある。」と指摘する(『白書』p.235)。
こうした分析と反省の上に立って,平成23年度からは新たに「更生保護就労支援モデル事業」が一部の保護観察所で実施されているようである(『白書』pp.236−237)。『就職活動支援』と『職場定着支援』とを一貫して行う本モデル事業の今後の展開には,大いに期待したい。

(2) 筆者は5年ほど前に訪問したある少年院で,「協力雇用主の好意により住み込みで働くことを条件に仮退院になった少年が,退院決定後退職してしまった。就労が確保されても,就労継続に至らないケースが多々ある。」という話を伺ったことがある。また,別の少年院では,「最近の入所者の中には発達障害の子供たちが増えてきており,仮退院後就職しても長続きせず,退職してしまう子が多い。」という話もお聞きした。発達障害という私の専門外の問題を軽率に論じることは控えたいが,この障害を持つ人たちは他者との良好な人間関係を構築することが不得手である,と聞く。長年医療刑務所に従事されている方のお話では,「例えば昔の鍛冶屋さんのように,人間関係に煩わされることの少ない職場であれば,発達障害系の人でも就労を継続することは可能だと思う。」とのことである。
現代において「鍛冶屋」という職業への就労機会の増加は期待できないが,比較的人間関係に煩わされない職種として農業や林業は注目に値するのではないか,などと「素人考え」で愚考する。いずれにせよ,平成20年のリーマン・ショックを引き金に一般社会の雇用状況が厳しさを増すなかで,矯正施設出所者の就労支援の取組は一段と大きな困難に遭遇するであろうことは想像に難くない。しかし,その取組の継続と強化を今後も望みたい。こうした取組の行われない場合の結果は,火を見るよりも明らかである。

4  刑務所出所者等の住居確保・福祉的な支援のための取組

(1) 「就労支援」は,専ら「稼働能力のある出所者」に対する社会復帰支援策である。しかし,(1)稼働能力があっても,「帰住先のない者」や「就業機会を逸した者」,(2)「稼働能力が乏しく,帰住先のない出所者」に対しては,「住居の確保や福祉的サービスの提供」という社会復帰支援策が必要になってくる3

(2) 後者の支援策として,『白書』は,従来から存在する「更生保護施設」のほかに,近年考案された「自立更生促進センター」や「自立準備ホーム」を取り上げ,紹介する。
更生保護施設と言えば,その運営母体は更生保護法人と決まっていたが(更生保護法人による運営施設は,現在101),最近は社会福祉法人,特定非営利活動法人及び社団法人により運営される施設がそれぞれ一つずつ認可され,運営形態に広がりを見せている。その一方で,「被保護者(更生保護施設に委託保護されている者:筆者注)の平均在所日数は延びており,経済情勢の悪化による就職難等から,被保護者の自立が困難になっている。」と指摘される(『白書』p.249)。
こうした状況下で期待されるのが,「自立準備ホーム」である。これは,保護観察所にあらかじめ登録した民間法人・団体等の事業者に,保護観察所が,宿泊場所の供与と自立のための生活指導(自立準備支援)のほか,必要に応じて食事の給与を委託するものである。平成23年度における自立準備ホームの登録事業者は166事業者で,「委託実績は,新規に委託を開始した人員が799人,延べ人員が4万8,149人であり,平均すると1人につき約60日間の委託がなされていることとなる」とされる(『白書』p.254)。
更生保護施設の設置には監督官庁の「認可」が必要であるが,自立準備ホームの場合は保護観察所への「登録」で可能であるので,自立準備ホームはまさに急場を凌ぐ緊急的住居確保策として今後もその拡充が期待される。だが,他方で最近問題とされる「貧困ビジネス」の餌食にならない配慮を怠ってはならないであろう。

(3) ところで,住居の確保や福祉的サービスの提供という社会復帰支援策に関しては,『白書』も取り上げているように(『白書pp.254-257』),法務省系統の「矯正・保護行政システム」と厚生労働省系統の「社会福祉行政システム」とを連結する「地域生活定着促進事業4」の仕組みを忘れてはならない。
この事業の屋台骨を支えるのは,厚生労働省の所管する「地域生活定着支援センター」である。北海道の2か所を除き,都府県に1か所ずつ設置されることになっており,今年になって全都道府県に設置され,今年度から全面的な実施が展開されるようになっている。センターの主要業務は,矯正施設の被収容者のうち,高齢(おおむね65歳以上)又は障害を有し,かつ適当な帰住先がない者に対して,釈放後速やかに帰住先の確保やその他適切な介護,医療等の福祉サービスを提供するためのコーディネートである。
『白書』の7−2−2−7図に示されているように,地域生活定着支援センターは,法務省系統の矯正施設と保護観察所とが連携して特別調整対象者の福祉的ニーズの調査診断を行う一方で,厚生労働省系統の福祉等実施機関との間で対象者のニーズに応じた福祉サービスを受けるための調整を図るという,まさに「多機関連携の仕組みの要」に位置するものである5
筆者は,平成21年に地域生活定着支援センターが発足して以来今日まで,計15か所の地域生活定着支援センターを訪問し,聞き取り調査を実施してきた。この研究はまだ道半ばであるので,成果の詳細な公表は控えるが,ここで若干の感想を記しておきたい。
「地域生活定着促進事業」が多機関連携事業であることから,政府はその連携強化のために,平成21年4月1日付けで法務省矯正局長,同保護局長,厚生労働省社会・援護局長の連名で「刑事施設,少年院及び保護観察所と地方公共団体,公共の衛生福祉に関する機関等との連携の確保について」という通知を発出した。筆者の聞き取り調査では,この通知が実際にどのように生かされているかを解明することも重要と考え,調査対象の中に地域生活定着支援センターのみならず,これと連携を組む矯正施設,保護観察所,更生保護施設,特別調整対象者の定着先等も組み入れ,連携の多面的解明に努めている。
これまでの調査で気付いたことは,機関連携が円滑に行われているところもあれば,上手く行われていないところもあるという,「地域における連携のバラツキ」である。そして,機関連携が円滑に行われているところでは,それを推進させる「調整役」が必ず存在する点である。これまでに得た知見を基にして言えば,この「調整役」を果たせるのは保護観察官をおいて外にいない。最近では社会福祉士や精神保健福祉士の資格を有する保護観察官も見受けられるので,第一に,地域生活定着促進事業を担当する保護観察官には,こうした資格を有する者を任命すること,第二に,担当保護観察官は連携を組む複数の機関の要望に率直に耳を傾ける努力を惜しまないこと,そのためには第三に,担当保護観察官を短期間で異動させないとともに,異動の際には地域生活定着促進事業を担当した経験を有する保護観察官を後任に据えること,が必要であると考える。
筆者は,この数年間「子どもを犯罪から守るための多機関連携モデルの提唱6」というテーマで機関連携の在り方を研究してきたが,そこでご協力いただいた機関の担当者が一様に強調されたことも,機関連携を推進する「調整役」の重要性であり,また「調整役」を意図的・計画的に育成することの必要性であった。

・ 全体的感想

平成20年のリーマン・ショックを引き金に景気は後退し,また円高を背景に国内産業の空洞化が起こり,さらに昨年3月11日には未曽有の大災害が発生した。まさに「踏んだり蹴ったり」の状況の日本にあって,追い打ちをかけるように今後ますます「少子高齢化」が進行していく。一般社会における高齢者の増加は,もとより,高齢犯罪者の増加,高齢受刑者の増加を招来する。この将来の事態を些かなりとも回避するには,『白書』が取り上げた「刑務所出所者等に対する様々な社会復帰支援策」の更なる推進が必要である。

犯罪対策閣僚会議は平成24年7月に「再犯防止に向けた総合対策」を策定したが,その中で,(1)出所等年を含む2年間において刑務所等に再入所等する者の割合(犯罪対策閣僚会議ではこれを「2年以内再入率」と呼ぶ)を数値目標における指標とした上で,(2)過去5年における2年以内再入率の平均値を基準とし,これを平成33年までに20%以上減少させることを目標とした。
仮に近い将来政権交代が起こっても,この数値目標は容易に変更されるべきでない。と同時に,数値目標だけが独り歩きして,それを実現するための手段方法が放棄されてはならない。「再犯防止に向けた総合対策」の中で犯罪対策閣僚会議が掲げた数値目標達成の手段・方法は,「社会における『居場所』と『出番』を作る」というスローガンに込められているように,今回の『白書』で取り上げられた「就労支援」と「刑務所出所者等の住居確保・福祉的な支援のための取組」である。
その政策の方向性が「ブレ」ることなく,数値目標の達成努力が継続されることを,強く望みたい。
(早稲田大学法学学術院教授)


1
 (1)独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業の基盤研究(C):社会内処遇活性化の拠点としての更生保護施設の活用の方向性に関する多角的検討(2008−2010),(2)財団法人社会安全研究財団一般研究助成(2012年度)「高齢出所者に対する地域生活定着支援センターの運用実態に関する研究」は,「刑務所出所者等の再犯防止に向けた施策」に関する実証研究である。
2
 「再犯防止対策ワーキングチーム」の構成員には,議長として内閣官房副長官(政務),副議長として内閣総理大臣補佐官,法務大臣政務官,内閣官房副長官(事務),構成員として内閣官房副長官補(内政),内閣官房内閣審議官,警察庁生活安全局長,総務省大臣官房地域力創造審議官,法務省大臣官房審議官,法務省矯正局長,法務省保護局長,厚生労働省職業安定局長,厚生労働省職業能力開発局長,厚生労働省社会・援護局長,農林水産省経営局長,経済産業省中小企業庁長官,国土交通省住宅局長が名を連ねる。そこでの取組は,まさに「多機関連携システムによる取組」である。
3
 (2)の類型に該当する者に対する住居の確保や福祉的サービスの提供の必要性を改めて喚起したものとして,平成18年1月7日にJR西日本下関駅で発生したいわゆる『下関駅放火事件』は忘れることのできない事件である。この放火容疑で逮捕された74歳の無職で知的障害のある男性は,刑務所を出たばかりで事件の半日前には北九州市の区役所に生活保護申請に赴き,住所がないことを理由に申請を断られ,「刑務所に戻りたかったから」という動機で事件を起こしたとされた。その後,この事件を一つの契機として,後述する地域生活定着促進事業が導入されたと言われる。
4
 この事業が発足した当時の名称は「地域生活定着支援事業」であったが,今年度から「地域生活定着促進事業」と呼称が変更された。したがって本文では後者の呼称を用いる。
5
 地域生活定着支援センターの設置のみならず,それとともに法務省系統の矯正施設や更生保護施設に社会福祉士等を配置するなどして,刑務所出所者等の社会復帰支援のための連携を円滑にする工夫が講じられている点も付記しておく必要がある。
6
 この研究は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)の社会技術研究開発センター(RISTEX)の中の研究開発プログラム「犯罪からの子どもの安全」領域のプロジェクトの一つとして,行われたものである。詳細については,早稲田大学社会安全政策研究所のHP(http://www.waseda.jp/prj-wipss/jst.html)をご覧いただきたい。
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