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平成23年版犯罪白書特集
「少年・若年犯罪者の実態と再犯防止」
〜非行少年・若年犯罪者の意識に関する考察〜
田島 秀紀
I  はじめに

・刑法犯
 平成23年版犯罪白書は,「少年・若年犯罪者の実態と再犯防止」と題した特集を組み,その中で非行少年・若年犯罪者の意識調査を実施している。本稿では,その中から非行少年及び若年犯罪者の意識を検討する重要な視座として,非行・犯罪の原因認識,生活意識の中から自己,家族,友人関係,学校生活・就労に対する意識を取り上げ,筆者の少年院及び刑事施設での実務経験に基づく個人的な所見を交えながら,非行少年・若年犯罪者に対する処遇の在り方について考察する。
【調査の概要】
 1 期 間 平成23年3月
 1 対象者 ア 非行少年調査:全国の少年鑑別所に観護措置により入所した730人(平均年齢16.7歳)
         イ 若年犯罪者調査:全国の刑事施設において刑執行開始時の処遇調査を終了し,又は刑執行開始時の指導に編入された年齢30歳未満の受刑者372人(平均年齢24.7歳)
 3 内 容 生活意識,価値観,犯罪原因等
 4 方 法 質問紙調査(多肢選択法)

II  非行・犯罪の原因認識

 非行・犯罪の原因には,本人の個人的資質等の問題とともに,本人を取り巻く対人関係,生活環境上の問題や課題等様々なものが考えられる。そこで,今回の特別調査では,非行や犯罪の要因になると想定されるリスク領域を家庭,学校,就労,交友関係,薬物使用等(問題飲酒を含む。),余暇活動,生活管理,性格・性質,態度の9領域に分け,各領域別の選択肢から自分の非行や犯罪に影響したと思われる事項を複数回答により自己評価させた結果を検討している。
 は,各リスク領域の各選択肢の選択率を非行少年・若年犯罪者別に見たものである。非行少年の中で選択率が高い項目を見ると,「規則や注意を軽く考えていた」(64.5%),「遊び中心で生活が乱れていた」(63.2%),「我慢が足りなかった」(62.7%),「非行や犯罪をする友人や知人がいた」(60.1%)の選択率が高い。若年犯罪者について見ると,「我慢が足りなかった」(79.3%),「規則や注意を軽く考えていた」(71.5%),「他人の気持ちや迷惑に関心が不足」(61.3%),「金づかいが荒かった」(60.5%)の順に多く選択されている。非行少年・若年犯罪者では,耐性の弱さや規範軽視等の資質面の問題,生活管理上の問題,不良交友の問題が自己の非行・犯罪に影響したと認識する者が多いことが指摘できる。また,若年犯罪者は,いずれのリスク領域においても,非行少年よりも選択率の合計が高くなっていることから,各リスク領域においてより拡大した問題を抱えている者が多いと考えられる。

表 リスク領域別選択項目の選択率(非行少年・若年犯罪者別)


III  生活意識

1 自己意識
 充実感や努力の傾注に関する「ものごとに打ち込んでいるという感じ」が「ある」(注1)と回答した者は,非行少年の59.8%,若年犯罪者の65.0%にのぼり,約6割が肯定的に捉えているが,否定的自己イメージに関する「悪く思われているという感じ」が「ある」とした者もそれぞれ52.8%,47.4%にのぼり,比較的高い割合で選択されている。特に,若年犯罪者は,疎外感に関する「心のあたたまる思いが少ないという感じ」について,半数以上の者(51.8%と,非行少年より約15pt 高い。)が「ある」と回答しており,非行少年に比べて疎外感が比較的大きいことがうかがえる。
 筆者が実務において,非行・若年犯罪者と接した経験から,基本的生活態度が身に付いておらず,自己に自信がなく精神的な不安定さを抱える者が多いという印象を有しているが,それと本調査結果とはおおむね合致しており,本人の意識調査の結果であるが,実相に近いように思われる。
2 家族に対する意識
 家庭生活に満足している者の割合は,一般青少年(注2)では86.8%であるところ,非行少年では75.3%, 若年犯罪者では58.3%であり,その水準は段階的に低くなっている。家庭生活が「不満」とする者の中で,主要な理由を見ると,「家庭に収入が少ない」(非行少年47.0%,若年犯罪者59.0%),「家庭内に争いごとがある」(同32.5%,50.8%),「親が自分を理解してくれない」(同42.2%,49.2%)などが多く,また,それぞれの不満の理由において,若年犯罪者の選択率が,非行少年よりも高い。
 非行・若年犯罪者の処遇場面では,部分的には家族に不満を抱きながらも,根源的には家族に対する関心は強い者が多く見られ,本調査と同様の傾向があると考えられる。数か月ぶりに家族から通信があることで,彼らの生活に変化が見られるなど,少年院・刑事施設での家族との交流が彼らに与える影響力は大きい。
3 友人関係に対する意識
 友人関係に満足している者の割合は,一般青少年(注3)では98.1%であるところ,非行少年では77.7%,若年犯罪者では60.2%であり,その水準は段階的に低いことが分かる。友人関係が「不満」とする者の中で,主要な理由を見ると,対人的信頼感が薄いことを示す「お互いに心を打ち明け合うことができない」(非行少年55.8%,若年犯罪者59.4%),相互啓発し合うような建設的な関わりの少なさに関する「つき合っていても張り合いがなく自分が向上しない」(同36.5%,39.1%)の選択が比較的多い。
 成人と比較すると少年の共犯率が高いことは本白書でも示されている。実務上,友人関係が不良交友に偏り,信頼できる友人が少ないため,その結果 として非行・犯罪に至ったケースが散見されるところであり,共犯率が高い背景には,本調査が示すように交友関係の不健全さの存在が大きいと考えられる。
4 学校生活・就労に対する意識
 学校生活に対する意識については,「勉強が分からない」(非行少年82.7%,若年犯罪者75.5%),「学校に行くのがいやだった」(同46.4%,41.9%)の選択率が示すように,全般に学校不適応の状態にあった者が多いことがうかがえる。また,学校内の対人関係では,「同級生から理解されていた」(同74.4%,60.6%)の選択率が高い一方,「周囲から悪く思われていた」(同45.5%,48.6%)が半数近くに及ぶなど,対人関係にも十分な肯定感を持っていなかった者が多く,若年犯罪者については,対人的疎外感を持っていた者の割合が非行少年より比較的高い傾向にあることがうかがわれる。
 就労に対する意識については,「子どもは親から経済的に早く独立すべき」に対する一般青少年(注4)の肯定的回答率は,88.6%であるところ,非行少年の81.8%,若年犯罪者の85.4%が「早く就職して,自立すべき」について肯定的に回答している。また,「フリーターや派遣社員は続けるべきではない」の選択率は,非行少年で58.4%,若年犯罪者で65.8%であり,総じて,若年犯罪者は,非行少年よりも就労を通じた社会的自立について前向きの意欲を持つ者が多いといえる。その一方で,安直な志向を示す「楽に稼げる仕事がしたい」(同37.6%,48.2%),「職場の人間関係は面倒くさい」(同29.8%,40.3%)を肯定する回答から, 若年犯罪者は,非行少年よりも仕事に対する姿勢や対人関係に問題を抱える割合が多いと考えられる。
 非行少年・若年犯罪者処遇の実務においても,学校生活・就労については,一部に自分の意見を押し殺して周囲に合わせる過適応の者が見受けられる一方で,本調査結果の傾向と同様に不適応感を抱いている者が多く,また,若年犯罪者は,非行少年よりも居場所がなく,周囲から孤立していることが多いという印象を受ける。

IV  課題と対策

1 矯正施設における資質改善に向けた処遇の充実・強化
 非行・犯罪の原因認識及び自己意識は,非行少年・若年犯罪者共に資質改善が必要なことを示している。資質改善に向けた処遇として,少年院において矯正教育,刑事施設において改善指導が実施されているが,非行少年・若年犯罪者の不安定なものの見方を変容させるために,目標に向けて規則正しい生活を行い,目標を達成することで,自分が評価される体験を積み重ねることが必要であろう。具体的には,少年院において作成する個別的処遇計画,刑事施設において作成する処遇要領において,非行少年・若年犯罪者が,基本的生活習慣を確立し,資質の改善を図り,自らの生活を管理できるようになることを対象者の処遇目標に設定しつつ,その後の処遇において,自分が評価される体験を繰り返させることが望まれる。
 近年,処遇の充実に向けて,従来の処遇を更に弾力化した取り組みが行われており,少年院における処遇検討会においても,関係機関の担当者はもとより,テーマに応じて社会福祉士,保護司等の関係者が参加している。また,刑事施設の改善指導は,計画的・継続的に実施されているが,処遇担当職員がこれまで実施してきた処遇を一般改善指導として位置付けたり,処遇担当職員が改善指導の指導者になるなどの新たな試みがなされている。
 このような弾力的な処遇実務の運用を継続していくことが,資質改善に向けた処遇の充実・強化につながると考える。
2 家族関係・友人関係の再構築と矯正施設・保護観察所等の協働体制
 家族関係・友人関係については,意識調査にあらわれたその不満の有り様から,家族関係・友人関係の再構築が必要であるとともに,施設内・社会内処遇の適切な協働体制が必要なことを示している。
(1) 家族関係の再構築
 非行少年は,親の養育態度について,放任的態度及び指導の一貫性のなさ等について3割弱が肯定的な回答をし,親に対する不満を示している。この点については,少年院の親子交流会等における保護者の監護力強化の取り組み,通信・面会等を計画的に実施する保護関係調整指導をより効果的に運用することなどが,非行少年が安心感を感じることができる居場所としての家族関係の再構築に資すると考えられる。
若年犯罪者は,自ら就労することにより経済的に家族に頼る必要性は比較的少ないと考えられるが,現実には家庭生活に不満がある者の約6割が不満の理由として経済的不充足を,また,約半数が自らに関する親の無理解を選択していることから,成人してもなお,経済面だけでなく,生活面においても家族に依存している傾向があると考えられ,若年犯罪者が置かれている現実的な就労状況等の環境を踏まえて健全な自立を図ることが家族関係の再構築に重要であると考える。
(2) 友人関係の再構築
 友人関係については,表面的な交友関係(特に不良交友)の解消と信頼できる建設的な関係の再構築が必要だと考えられる。友人は,選択することのできない家族とは違い,自ら選択できるにもかかわらず,結果として安定した関係性を構築できなかったものであり,適切な友人関係構築のためのスキルアップ及びそのサポートが求められている。  対人的能力のスキルアップについて,少年院においては,問題群別指導(交友問題)のSST などが,刑事施設においては,対象者の必要性に応じた特別改善指導として暴力団離脱指導が計画的に実施されているが,それらの内容を弾力的に展開するなど,今後の一層の発展を期待したい。  本調査では,地域社会に対する態度を示す「地域の人が喜ぶようなことをしてあげたい」を選択した者が高い割合であった(非行少年61.7%,若年犯罪者61.0%)ことが示しているように,非行少年・若年犯罪者は,基本的に地域社会に対して建設的な対人関係を望んでいると考えられる。出院(所)後に社会参加活動や社会貢献活動等を通じて様々な対人的関わりを体験させることで,地域に根付いた社会人として望ましい態度を内在化させ,ひいては不良交友に代わる建設的な友人関係を再構築することにもつながると考えられる。
(3) 矯正施設・保護観察所等の協働体制
 非行少年・若年受刑者は,施設に在所(院)中に必要に応じてそれぞれ問題群別指導や特別改善指導を受けているが,対象者が施設在所(院)中の家族関係や友人関係の実状,変化を踏まえなければ,問題解決に結びつかないおそれがある。実務においては,少年院・刑事施設から保護観察所・地方更生保護委員会に対して,非行又は犯罪の概要,心身の状況,家族その他の生活環境,生活歴,これらの変動等が記載された身上調査票・身上変動通知書が,また,保護観察所から少年院・刑事施設に対して,釈放後の住居,就業先その他の生活環境を記した生活環境調整状況通知書が送付されることによって情報の共有が図られている。しかし,現状においては,処遇の結果等の情報は,少年院から保護観察所に提供されるが刑事施設から保護観察所には提供されず,また,保護観察を終結した際の情報は,保護観察所から少年院に通知されるが保護観察所から刑事施設には通知されない状況がある。円滑な社会復帰を促し,効果的に家族関係・友人関係の再構築するためには,更に矯正施設と保護観察所等がより緊密に情報を共有できる体制が必要であろう。
3 社会復帰(就学・就労)支援における対人スキルの強化
 社会復帰の手段である就学・就労について,その重要性は広く言われているが,その達成・維持のためには,対人スキルを強化する必要性が本白書で示されている。
 学校生活・職業生活は,単に勉学を行い,生活の糧を得るための場にとどまらず,その場において人間関係を構築し,家族の外における社会生活の基本となるものであり,その人の有り様を左右するものと位置付けることができる。
 このことから,社会復帰(就学・就労)支援において,就学や就労の意義・位置付けを正しく理解させると共に,就学・就労の獲得,維持に必要な対人スキルを向上させることで,本人たちの安定した社会復帰に資することができると考える。
4 改善更生を促進するための若年犯罪者への関わり
 本調査においては,非行少年よりも若年犯罪者において犯罪を犯すリスク,問題性の大きさがより認められる傾向が示されているが,若年犯罪者は一般の成人犯罪者受刑者に比べれば比較的可塑性に富んでおり,また,更生のための環境も比較的有利な状況にある者が多いと考えられることから,関係機関が協働することで,できるだけ早い時期から働き掛け,円滑な改善更生を促していく必要があると考える。
V  おわりに

 本白書では,本稿の視点以外からも意識調査を行っており,同時に他資料との経年比較,非行少年と若年犯罪者の比較,保護処分歴別に比較するなど,より多角的に分析を行っているほか,第7編第5章において,本稿で取り上げた就労,交友,家族機能等が契機となり改善更生に結びついた4ケースの経過を掲載しているので,参照していただきたい。
(法務総合研究所室長研究官)

注1 「よくある」及び「ときどきある」の回答を合算した合成比。以下,同様に,各質問の選択肢の上位2カテゴリーをまとめた値を示す。
注2 第8回 世界青年意識調査報告書 内閣府 平成21年3月
注3 第7回 世界青年意識調査報告書 内閣府 平成16年1月
注4 注2に同じ
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