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最近の犯罪動向と犯罪者の処遇
(平成22 年版犯罪白書による)
野下 智之
はじめに

 犯罪白書は,犯罪の防止と犯罪者の改善更生を願って,刑事政策の策定とその実現に資するため,それぞれの時代における犯罪情勢と犯罪者処遇の実情を報告している。平成22年版犯罪白書も,平成21年を中心とした最近の犯罪動向及び犯罪者の処遇の実情を統計資料に基づいて概観した。以下,本稿において,同白書で取り上げられた犯罪動向と犯罪者の処遇の実情の主だった点を紹介する。

1 最近の犯罪の動向

(1) 刑法犯の認知件数
 平成21年における刑法犯の認知件数は,239万9,702件(前年比5.3%減)であり,このうち一般刑法犯(刑法犯全体から道路上の交通事故に係る自動車運転過失致死傷,業務上過失致死傷及び重過失致死傷(以下「自動車運転過失致死傷等」という。)を除いたもの)の認知件数は,170万3,369件であった。刑法犯の認知件数は,平成8年から毎年戦後最多を更新し,14年に約370万件に達したが,その後,窃盗の認知件数の減少を大きな要因として減少傾向に転じ,17年からは窃盗以外の一般刑法犯の認知件数も減少している。しかしながら,戦後を通じて見ると,認知件数は,なお相当高い水準にあるというべきであろう(図1参照)。

図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移


(2) 刑法犯の検挙人員と検挙率
 刑法犯の検挙人員は,平成10年に100万人を超え,11年から毎年戦後最多を更新した後,17年から減少し,21年は105万1,838人(前年比2.8%減)であった。このうち,一般刑法犯の検挙人員は,33万3,205人であった。
 検挙率は,かつて刑法犯全体で70%前後で推移していたが,昭和63年から低下傾向が見られ,認知件数の急増に検挙が追いつかず,平成13年には,刑法犯全体で38.8%,一般刑法犯で19.8%と戦後最低を記録した。しかし,14年から上昇し,21年は,刑法犯全体で51.7%(前年比0.9ポイント上昇),一般刑法犯で32.0%(前年比0.4ポイント上昇)であった。
(3) 主要罪名別認知件数及び検挙率
 殺人の認知件数は,おおむね横ばい傾向にあり,検挙率は安定して高い水準を維持している。平成21年においては,認知件数は1,094件(前年比15.7%減)であり,検挙率は98.2%であった。
 強盗の認知件数は,平成15年に昭和20年代後半以降で最多の7,664件を記録した後,平成16年から5年連続で減少したが,21年は前年比5.5%増加し,4,512件であった。検挙率は,17年から回復し,21年は64.8%であった。
 強姦の認知件数は,平成9年から増加傾向を示し,15年には最近20年間で最多の2,372件を記録したが,16年から減少し続け,21年は1,402件(前年比11.4%減)であった。検挙率は,10年から低下し,14年に戦後最低に落ち込んだが,15年から回復し,21年は83.0%であった。
 詐欺の認知件数は,平成14年から毎年大幅に増加し,17年に昭和35年以降で最多の8万5,596件を記録する一方,検挙率は,平成9年から急激に低下し続け,16年に戦後最低の32.1%を記録した。この要因の一つは,振り込め詐欺の多発にあり,「振り込め詐欺撲滅アクションプラン」等の各種対策が講じられた。これらを受けて,認知件数は18年から減少に転じ,21年は4万5,162件(前年比29.9%減)と大幅に減少し,検挙率も17年から上昇に転じ,21年は63.7%と上昇した。
 窃盗は,平成7年から13年まで,認知件数の増加と検挙率の低下が続いていたが,最近,状況の悪化に歯止めがかかっている。認知件数は,14年に戦後最多を記録したが,その後減少し,21年は129万9,294件と,14年に比べて45.4%減少した。検挙率は,14年から毎年上昇し,21年は27.9%と,戦後最低であった13年と比べて12.2ポイントの上昇となった。

2 犯罪者の処遇

(1) 検察
 平成21年の検察庁新規受理人員は163万9,614人であり,前年より6万1,203人減少した。刑法犯は103万5,516人であり,そのうち自動車運転過失致死傷等が71万7,701人と多数を占めた。特別法犯は60万4,098人であり,そのうち道路交通法・自動車の保管場所の確保等に関する法律違反(両者をあわせて「道交違反」という。)が49万2,379人と大部分を占めた。
 検察庁終局処理人員は164万8,700人(前年比3.6%減)であり,その内訳は,公判請求11万8,547人,略式命令請求44万1047人,起訴猶予85万9,768人,その他の不起訴7万4,455人,家庭裁判所送致15万4,883人であった。公判請求人員は,7年から毎年増加していたが,17年から減少に転じ,21年も前年より1,248人減少した。
(2) 裁判
 裁判確定人員は,平成12年から毎年減少しており,21年は50万3,245人(前年比5.1%減)と10年で半減した。この減少は道交違反の人員の減少によるところが大きい。
 平成21年の通常第一審(地裁及び簡裁)での終局処理人員は,7万5,128人であり,地裁が6万4,751人,簡裁が1万377人であった。罪名別に見ると,地裁では,窃盗が1万1,814人(18.2%)と最も多く,次いで覚せい剤取締法違反1万277人(15.9%),道交違反8,479人(13.1%)の順であった。簡裁では,窃盗が8,679人(83.6%)と最も多く,次いで傷害271人(2.6%),住居侵入247人(2.4%)の順であった。
 平成21年の略式手続による終局処理人員は,道交違反(73.8%)と自動車運転過失致死傷・業務上過失致死傷・重過失致死傷(14.0%)で大部分を占めている。
(3) 矯正
 刑事施設の年末収容人員は,平成5年から毎年増加し続け,18年に昭和31年以降で最多となる8万1,255人を記録したが,平成19年から減少に転じ,21年末は7万5,250人(労役場留置者1,132人を含む。)であった。
 収容率(収容定員に対する年末収容人員の比率)は,平成5年から14年に大幅に上昇したが,17年から毎年低下し続けている。21年末の収容率は,収容定員9万354人(このうち既決の収容定員は7万2,311人)に対し,83.3%(既決92.8%,未決45.3%)であり,収容人員が収容定員を超えている刑事施設(本所に限る。)は77施設中20施設であった。
 入所受刑者(裁判が確定し,その執行を受けるため,各年中に新たに刑務所に入所するなどした受刑者)の人員は,平成4年に戦後最少を記録した後,増加し続けていたが,19年からは減少に転じ,21年は2万8,293人であった。

図2 刑事施設の収容人員・人口比の推移


(4) 更生保護
 仮釈放審理を開始した人員は,平成8年から増加傾向にあったが,17年に減少に転じ,若干の増減を経て,21年は1万6,557人(前年比4.9%減)であった。
 仮釈放が許可された人員と許可されなかった人員(仮釈放の申出が取り下げられた者を除く。)の合計に占める後者の比率は,平成5年以降は2%前後で推移していたが,17年に上昇し,18年からは4%台となり,21年は4.3%であった。仮釈放率(出所受刑者全体に占める仮釈放者の割合)は,戦後まもなくは80%に近かったが,その後長期的に低下傾向にあり,平成21年は50%を割り込み,49.2%であった。
 仮釈放者の保護観察開始人員は,平成8年から増加傾向にあったが,17年からはやや減少傾向にある。保護観察付執行猶予者については,13年から減少傾向にある。
 保護観察率(執行猶予言渡人員に占める保護観察付執行猶予言渡人員の比率)は,昭和38年の20.6%を最高に,以後,上昇と低下を繰り返しながらも,同程度の水準で推移していたが,50年代後半から大幅な低下傾向にあり,平成20年には8.3%にまで低下し,21年は若干上昇して8.7%であった。
 平成21年における保護観察終了事由を見ると,仮釈放者の95.3%,保護観察付執行猶予者の70.4%が,期間満了で保護観察を終了している。他方,取消しで終了した者は,仮釈放者(仮釈放取消し)では4.3%(656人)であり,保護観察付執行猶予者(執行猶予取消し)では26.6%(1,217人)であった。

図3 保護観察開始人員・保護観察率の推移



3 各種犯罪者の動向と処遇

(1) 外国人による犯罪
 来日外国人による一般刑法犯の検挙件数は,平成14年から急増し,17年に過去最多となったが,その後,減少に転じ,21年は2万561件(前年比11.4%減)であった。その罪名別構成比を見ると,窃盗が80.0%を占めているが,その検挙件数は18年から減少し続けている。他方,傷害・暴行の検挙件数は近年増加が著しく,21年は10年前の約3.1倍となっている。
 入管法違反の送致件数は,平成13年から増加傾向にあったが,17年から毎年減少し,21年は,4,737件(前年比15.7%)であった。21年における送致事件を違反態様別で見ると,不法残留が2,816件と最も多く,次いで不法在留1,132件,旅券不携帯・提示拒否454件,資格外活動163件の順であった。
(2) 暴力団犯罪者
 暴力団構成員等(暴力団の構成員及び準構成員)の検挙人員(一般刑法犯及び交通法令違反を除く特別法犯に限る。)は,平成元年以降3万人台で推移していたが,16年からは3万人を下回り,21年は2万6,503人(前年比1.7%増)であった。罪名別に見ると,覚せい剤取締法違反が最も多く,次いで,窃盗,傷害,詐欺,恐喝の順であった。
(3) 薬物犯罪者
 覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,昭和29年に5万人台を超え,最初のピークを迎えたが,その後は急激に減少した。しかし,45年以降,増加に転じ,59年に2番目のピークを迎えた後,減少傾向に転じて平成元年に2万人を割り,6年まで横ばいで推移していたが,7年以降再び増加傾向に転じた。9年に2万人近くまで達した後,13年以降はおおむね減少傾向にあり,21年は1万1,873人であった。他方,大麻取締法違反(大麻に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,13年以降,顕著な増加傾向にあり,21年は3,087人となり,12年の約2.5倍であった。
(4) 高齢者による犯罪
 高齢者(65歳以上の者)の一般刑法犯の検挙人員は,他の年齢層の者と異なり,近年,増加傾向が著しく,平成21年は前年比でわずかに減少したが,4万8,119人(全体の14.4%)と依然として高水準にある。21年におけるその罪名別構成比を見ると,窃盗が最も高く,特に女子では,89.6%が窃盗である(万引きによる者だけで81.1%を占めている。)。

4 少年非行

 少年による刑法犯の検挙人員(触法少年による補導人員を含む)の推移には,昭和26年,39年及び58年をピークとする三つの大きな波が見られる。59年以降は,平成7年まで減少傾向にあり,若干の増減を経て,16年から毎年減少し続け,21年は,13万2594人(前年比1.4%減)であった。21年の検挙人員は,昭和30年前後と同程度の水準であるが,人口比で見ると,第二の波があった39年ころと同程度の水準にある。
 平成21年の家庭裁判所における少年保護事件(自動車運転過失致死傷,業務上過失致死傷,危険運転致死傷,道交違反及びぐ犯を除く。)の終局処理人員は9万4305人であるが,その処理区分別構成比を見ると,審判不開始(70.7%)が最も多く,次いで,保護観察(13.4%),不処分(11.1%),少年院送致(3.7%)の順であり,刑事処分相当の理由により検察官に逆送された者は0.2%であった。
 少年鑑別所の入所者の人員は,平成15年に昭和45年以降最多を記録したが,その後6年連続で減少し,21年は1万4,559人であった。少年院の入所者(少年院送致の決定により新たに入院した者)の人員は,昭和49年に戦後最低となった後,増減を繰り返し,最近10年間では,平成12年(6,052人)をピークに減少傾向にあり,21年は3,962人であった。
 保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付された少年)の保護観察開始人員は,平成2年に過去最多の7万3,779人を記録したが,その後は減少傾向にあり,21年は2万6,094人(前年比4.0%減)であった。少年院仮退院者の保護観察開始人員は,9年から増加し,14年に5848人にまで増加したが,その後,毎年減少し,21年は3,869人(同3.1%減)であった。

図4 少年による刑法犯・一般刑法犯 検挙人員・人口比の推移



5 裁判員制度

 裁判員制度は,その準備段階を経て,平成21年5月21日から開始された。平成21年における裁判員裁判対象事件の第一審の新規受理人員は1198人であり,罪名別に見ると,強盗致傷(295人)が最も多く,次いで,殺人(270人),強姦致死傷(101人),現住建造物等放火(98人)の順であった。終局処理人員(移送等を除く。)は142人であるが,その審理状況を見ると,その開廷回数はほとんどが5回以下であり,3回以下で約70%を占め,審理期間も,6月以内のものが約90%であり,平均して5.0月であった。同じく科刑状況別に見ると,無期刑1人,有期の実刑116人,執行猶予刑32人である。執行猶予の言渡しを受けた者32人のうち20人が保護観察付執行猶予であり,その割合は高い。
(法務総合研究所総括研究官)

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