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平成21 年版白書の概要
特別調査「執行猶予者(窃盗・覚せい剤事犯者)の再犯」
川島 ゆか

1 はじめに
 「平成21年版犯罪白書」は,「再犯防止施策の充実」と題して特集を組んだ。平成19年版犯罪白書も,特集で「再犯者の実態と対策」と題して,再犯者について,犯歴・統計資料の分析等により,様々な視点から実態を概観し,罪名・罪種の特質に応じた対策を講ずる必要性を指摘したが,21年版犯罪白書の特集は,いわばその続編である。
 平成19年版犯罪白書では,1犯目に犯した罪名別に,再犯の有無について調べた調査結果があるが,再犯に及んだ者の比率が最も高いのは,窃盗の者が44.7%(同一罪名の再犯(以下,同一再犯という。)は28.9%),次いで,覚せい剤取締法違反の者が41.6%(同一再犯は29.1%)であった。また,これら二つの罪名については,執行猶予の取消率や入所度数が高い受刑者が占める比率も高く,これらの点で再犯性が高く,一般の犯罪性向とは異なる再犯リスクがあるものと考えられる。その上,これらの犯罪は,件数も極めて多い。
 ところで,窃盗のみを繰り返した者及び覚せい剤事犯のみを繰り返した者について,裁判の量刑を見ると,いずれも,初回の裁判においては,約8割の者が執行猶予判決を受けている。そこで21年版犯罪白書では,執行猶予者を対象とした特別調査を行い,その再犯リスク要因等を分析した。 調査対象者は,窃盗又は覚せい剤取締法違反のいずれかのみの罪名で東京又は横浜において執行猶予判決を受け,平成16年中に第一審で確定した者で,同一罪名での前科がない者である。調査対象事件の第一審判決言渡日より後に犯した犯罪により,4年以内に有罪判決を受けて確定したことを「再犯」とし,再犯の有無の追跡調査を行った。
 本稿では,この特別調査に基づく分析等の結果の概要を紹介する。なお,本稿中,白書の記載内容を超える部分については,筆者の個人的見解であることをお断りしておく。

2 窃盗事犯者
 調査対象の窃盗事犯者は691人(男子628人,女子63人)であり,そのうち,再犯者は205人(同一再犯は162人),再犯率は29.7%(同23.4%)であった。以下,再犯の有無から再犯リスク要因等を見ていく。

(1) 手口・共犯
 窃盗の手口別構成比(複数選択)を見ると,77.6%が非侵入盗で,万引きが33.2%を占めたが万引きの再犯率は,43.6%(同一再犯は38.8%)であり,他の手口に比して顕著に高く,窃盗全体の再犯率を押し上げている。
 また,共犯はいない者が全体の87.6%を占めるが,共犯がいない者の再犯率は30.9%(同25.0%)であった。共犯がある場合の再犯率20.9%(同12.8%)の方が再犯率は低かった。>

(2) 性別・年齢
 女子の再犯率は,33.3%(同一再犯は31.7%)であり,男子の再犯率29.3%(同22.6%)に比べて窃盗の再犯率が高い。女子の場合,窃盗の手口について,再犯率の高い万引きの構成比が高い(65.2%)ことが影響していると思われる。
 年齢層別に見ると,年齢層が上がるほど,窃盗の再犯率が高くなっており,65歳以上の高齢者については,46.2%(すべて同一再犯)であった。

(3) 居住・就労状況(犯行時)
 居住状況では,調査対象者の約4割を占める「単身(住居不定・ホームレス)」の再犯率が35.3%(同一再犯は31.8%)と高かった。これは同じく約4割を占める「家族・交際相手・親族と同居している」場合の再犯率が23.1%(同14.7%)と低いのと比べて対照的であった。
 また,就労状況では,調査対象者の約6割を占める無職で,再犯率が34.4%(同28.2%)と,就労が安定している場合の再犯率19.4%(同14.5%)よりも高かった。
 ここから,居住・就労状況ともに不安定であるほど,再犯率が上昇することが実証的に確認されたわけであるが,就労状況が不安定であっても,家族と同居している場合には再犯率が比較的低かった。また,単身(定住)の場合でも就労状況が安定している場合には,再犯率は比較的低かった。
 生活状況に不安定要素があったとしても,共に生活している者からの援助や,就労によって維持されている対人関係を通じて,それらは補い得ることを示唆していると考えられる。

(4) 監督誓約の有無
 監督誓約の有無(裁判時)は,今後の改善更生に当たって重大な役割を果たす監督機能の有無を示す重要な指標となると考えられる。監督誓約者がいる者といない者は,ほぼ半数ずつであったが,「監督誓約なし」の者の再犯率は40.3%(同一再犯は34.0%)と,「監督誓約あり」の者の再犯率が19.7%(同13.5%)と比べて顕著に高かった。
 図1は,監督誓約の有無・就労状況別に再犯状況を見たものである。「監督誓約あり」の無職者は,「監督誓約なし」の「安定就労」の者よりも,再犯率が下回っており,監督者の存在が相当に大きな再犯抑止力を有することがうかがわれる。

(5) 被害弁償・宥恕
 被害者の宥恕は,被害弁償を行うなど本人等の努力なしには,得られない場合がほとんどであると考えられ,被害弁償の有無や被害者の宥恕は,本人の更生意欲を予想する重要な指標であると言ってよいだろう。
 窃盗の既遂事案について,積極的弁償措置(慰謝料等の支払いを含む金銭賠償を行ったことをいい,被害品を返還しているだけの場合を含まない。)の有無(不詳を除く。)の別に再犯率を見ると,積極的弁償措置を行っている者は,再犯率は17.9%(同一再犯は13.3%)と顕著に低かった。また,被害者の宥恕があった者の再犯率は14.6%(同10.0%)と低く,本人の更生意欲が再犯リスクを引き下げる要因となっていることがうかがわれる。

図1 再犯状況(監督誓約の有無別・就労状況別)



3 覚せい剤事犯者
 調査対象の覚せい剤事犯者は519人(男子388人,女子131人)であり,そのうち,再犯者は154人(うち同一再犯は128人),再犯率は29.7%(同24.7%)であった。以下,再犯リスク要因等を見ていく。

(1) 性別・共犯
 男子の再犯率は,32.5%(同一再犯は26.0%)であり,女子の21.4%(同20.6%)に比べて高い。
 ただし,女子は,共犯者がいる場合が35.1%を占め,男子(6.4%)に比して高いところ,共犯者がいる場合の同一再犯率は30.4%と,いない場合(15.3%)よりも顕著に高かった。女子は,人からの誘惑等によって覚せい剤事犯に至る者が少なくなく,覚せい剤を巡る人間関係が再犯に大きい影響を及ぼすと考えられる。

(2) 居住・就労状況(犯行時)
 居住状況では,単身(住居不定・ホームレス)の再犯率が43.9%(同一再犯は31.7%)と,家族・親族と同居している場合の再犯率が26.7%(同23.7%)であったのに比べて高かった。
 また,就労状況が安定している場合の再犯率が17.9%(同17.1%)であるのに比べ,無職の場合には37.8%(同29.5%)と,再犯率が上昇した。
 ただし,窃盗と異なり,居住状況,就労状況のいずれか一方の安定では,再犯率はさほど低くならない。その上,そもそも,覚せい剤事犯者では,調査対象者に占める単身(住居不定・ホームレス)の比率は7.9%,無職者の比率が41.8%と,いずれも窃盗事犯者と比べるとかなり低い。
 覚せい剤事犯については,生活・経済基盤の不安定さは,犯罪の要因として必ずしも大きくはなく,その安定によって再犯が抑止される効果は,窃盗よりも限定的であると考えられる。

(3) 監督誓約の有無
 全体の約2割を占める「監督誓約なし」の者の再犯率は49.1%(同一再犯は44.8%)であり,約8割を占める「監督誓約あり」の者の再犯率24.1%(同18.9%)に比して顕著に高かった。
 図2は,監督誓約の有無・就労状況別に再犯状況を見たものである。就労状況により差があるが,「監督誓約あり」の者に比べ,「監督誓約なし」の者については,再犯率が相当高く,監督者の存在が大きな再犯抑止力を有することがうかがわれる。

(4) 暴力団等関係者
 暴力団等関係者は全体の15.2%を占めており,その再犯率は,51.9%(同一再犯は39.2%)と極めて高かった。覚せい剤事犯については,暴力団離脱指導等,その後の交際関係への監督指導も,再犯抑止に当たって特に重要になると考えられる。

図2 再犯状況(監督誓約の有無別・就労状況別)



4 まとめ
 窃盗及び覚せい剤事犯共に,性別により,その態様の特徴が異なり,それに応じて再犯率にも差が生じた。女子の窃盗事犯では,調査対象者の約三分の二が万引きであり,そのため再犯率が高かった。また,覚せい剤事犯は,全体としては男子の再犯率のほうが高かったが,女子は,共犯がいることが多く,その場合,共犯がいない時よりも再犯率が高くなる傾向があった。
 また,窃盗及び覚せい剤事犯共に,就労状況が安定し,同居者が改善更生を支えることで,再犯リスクは低くなる。生活基盤の安定がより再犯に影響するのは,窃盗であり,窃盗事犯では,単身であっても就労生活の安定を得ることで,再犯リスクが低下する。一方,覚せい剤事犯では,生活基盤の影響は窃盗に比して限定的であり,いかに覚せい剤使用の誘惑を断つか,つまり,覚せい剤使用を勧めるような暴力団等の関係者や,女子の場合には,共犯等との交遊関係が,再犯リスクを考える上で重要になる。
 さらに,窃盗及び覚せい剤事犯共に,再犯率は,監督者の存在によって大きく影響を受けることが示された。生活の安定にしろ,薬物への誘惑やそれをもたらす交遊関係を断ち切るにしろ,改善更生に向けての努力を実現するには,監督者の存在が極めて重要な役割を果たすであろうことは明白である。
 ここで,保護観察の有無別に再犯状況を見たのが,図3である。窃盗事犯で保護観察に付された者は,そうでない者に比べ,同一再犯率が低く,覚せい剤事犯についても,若干高いにすぎないという結果であった。保護観察は,家庭環境や生活状況等,改善更生のための諸条件が劣悪で,相対的に再犯リスクが高い者に対して付されることが多いことを考えると,この結果は,保護観察が再犯防止・改善更生に相当な効果を挙げていることを示していると言えよう。
 ところで,本調査では,窃盗事犯のうち48.5%,覚せい剤事犯のうち22.4%の者に,監督誓約者がいなかった。一方,保護観察に付されていたのは,調査対象者のうち,窃盗事犯では9.1%,覚せい剤事犯では6.9%であった。
 執行猶予言渡人員に占める保護観察付執行猶予言渡人員の比率の推移(昭和32年以降)を見ると,昭和38年の20.6%を最高に,以後,上昇と低下を繰り返しながらもほぼ同水準で推移していたが,昭和50年代後半から低下傾向に入り,平成20年は8.3%(窃盗は13.4%,覚せい剤取締法違反は9.1%)に低下している。もちろん,保護観察を付するか否かは,個々の様々な事情を考慮して判断されており,監督者の存在の有無のみで決まるなどと単純に言えるものではない。しかしながら,監督誓約者の存在が再犯の抑止要因として重要な役割を果たしていることからすれば,適当な監督者がいない者等に対して保護観察を付すことは,有効な措置として検討すべきであるように思われる。保護観察においては,個別具体的な指導・援助のほか,就労支援や,簡易薬物検出検査を含む覚せい剤事犯者処遇プログラムが,組織立って用意されており,個人の自助努力を支える効果が期待できよう。
 犯罪者は,一般に,犯罪を繰り返すたびにより犯罪傾向が強まり,更生環境は劣悪になり,更生意欲も低下し,悪循環的に問題が深刻・複雑化していく。それに伴い,処遇も困難なものとなり,効果ある処遇を展開するためには,人的資源であれ,社会資源であれ,多大なコストを必要とする。問題が単純かつまだ深刻化していない段階で,十分に有効かつ適切な措置を講じることが効率的であり,できるだけ初期の段階で,保護観察がより活発に活用されることを期待する。

図3 再犯状況(保護観察の有無別)


(法務総合研究所室長研究官)

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