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平成21 年版犯罪白書に見る
最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情
作原 大成

 犯罪白書は,我が国における犯罪動向と犯罪者処遇の実情を明らかにする目的で,昭和35年に創刊され,平成21年版をもって50回目を数える。平成21年版白書では,統計資料等に基づいて最近の犯罪動向等を概観し,「再犯防止施策の充実」と題した特集を組んでいるが,本稿では,同白書で取り上げた最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情について,特徴的な点をいくつか紹介したい。


1 最近の犯罪動向

(1) 刑法犯
 刑法犯の認知件数は,平成8年以降,毎年戦後最多を更新し続けていたが,14年(約369万件)をピークに減少に転じ,20年(約253万件)まで6年連続で減少した。刑法犯から自動車運転過失致死傷等を除いた一般刑法犯も,同様の推移を示している(14年は約285万件,20年は約182万件)。検挙率は,元年ころから顕著な低下傾向を示し,認知件数の急増に検挙が追い付かずに更に低下し,13年には戦後最低を記録した(刑法犯38.8%,一般刑法犯19.8%)が,その後,回復の兆しがみられ,20年は,刑法犯50.9%,一般刑法犯31.6%であった(図1参照)。
 このように,刑法犯の認知件数は減少しているが,これは,国民と政府とが一体となって治安の回復に取り組み,各種の犯罪対策を展開した結果,犯罪の増勢に一定の歯止めが掛かったものといえるであろう。

図1 刑法犯 認知件数等の推移


 しかしながら,長期的に見ると,刑法犯認知件数が140万件前後で推移していた戦後の安定期には依然として及ばず,200万件から220万件台で推移していた昭和末期から平成初期にかけてのころと比較しても相当高い水準にあり,治安状況は,なお厳しいものがある。
 罪名別に見ると,刑法犯の過半は窃盗が占めているが,その大幅な減少が,認知件数全体の減少の大きな要因となっており,特に,乗り物盗,車上ねらい,自動販売機ねらいといった街頭犯罪や侵入窃盗の減少が目立っている。
 他方,殺人の認知件数は,平成に入ってからはそれほど大きな変化はないが,平成20年には衝撃的な通り魔殺人事件が相次いで発生し,社会の不安を甚だしく増大させた。また,傷害,暴行,脅迫といった粗暴犯,強盗,強制わいせつ,公務執行妨害,器物損壊等の認知件数も依然として高い水準にある。
 さらに,最近の世界的な金融危機等により雇用情勢等が悪化していることなどから,犯罪が再び増加に転じることも懸念されるところであり,今後とも,気を緩めることなく,治安回復のための取組を続けていく必要があるというべきであろう。

 検挙人員の年齢層別傾向を見ると,少年の減少と高齢者(65歳以上の者)の増加が特徴的である。少年の一般刑法犯検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)は,少年非行の戦後第三のピーク(昭和58年の約26.2万人)の後,若干の増減はあるものの,減少傾向にあり,平成16年からは毎年減少し続け,20年は10万8,592人であった。他方,高齢者は,元年の6,625人から20年には4万8,805人と顕著に増加しており,その勢いは,高齢人口の増加をはるかに上回っている。
 年齢層別に一般刑法犯検挙(補導)人員の人口比(人口10万人当たりの人員の比率)を平成元年と20年で比較すると,10歳以上の少年では,1,057.3から894.5に低下しており,成人では,20〜29歳及び30〜49歳の各層が1.3倍,50〜64歳の層が2.0倍に上昇しているにすぎないのに対し,高齢者では,46.3から173.0と3.7倍も上昇している。高齢者の人口比は,他の年齢層より相対的に低いものの,20年の数値は,10年の30〜49歳の層(168.6),50〜64歳の層(146.8)をいずれも上回っている(図2参照)。我が国は,今後,更に高齢化社会が進展すると予測され,高齢犯罪者対策は,極めて重大な政策課題であるというべきである。

図2 一般刑法犯 検挙人員の人口比の推移(年齢層別)



(2) 特別法犯
 特別法犯(道路交通法違反及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反を除く。)の検察庁新規受理人員は,平成13年から19年までは,やや増加傾向にあったが,20年は,約11.0万人と,前年比で7.9%減少した。罪種別では,薬物関係(23.5%)や,軽犯罪法違反,銃刀法違反等の保安関係(21.0%)の構成比が高い。
 薬物犯罪は,その圧倒的多数を占める覚せい剤取締法違反の減少により,全体的に減少傾向にある。同法違反の検挙人員は,平成9年に2万人近くに達した後,おおむね減少傾向にあり,20年には約1.1万人にまで減少した。一方,大麻取締法違反の検挙人員は,13年以降,顕著な増加傾向にあり,20年は,2,867人と,12年の2.3倍まで増加している(図3参照)。

図3 覚せい剤取締法違反等 検挙人員の推移




2 犯罪者処遇の実情

(1) 検察
 被疑者の身柄に関しては,身柄率(法人を除く全被疑者に占める身柄付き検察官送致事件及び検察官逮捕事件の被疑者の比率)及び勾留請求率(身柄事件の被疑者の人員に占める検察官が勾留を請求した人員の比率)は,平成14年以降,大きな変化はないが,勾留請求却下率は,元年から14年まではおおむね0.1%から0.2%で推移していたのが,15年から急上昇し,20年は0.77%となっている。
 被疑事件の処理に関しては,最近10年間の一般刑法犯の起訴・不起訴人員を見ると,それぞれ平成11年の7万5,560人,5万1,630人から増加傾向を示し,18年には,11万298人,14万2,852人となった後,減少に転じ,20年は,9万8,570人,12万3,455人であった。一般刑法犯の起訴率は,11年の59.4%から下がり続け,18年及び19年には43.6%となったが,20年はやや上昇して44.4%であった。

(2) 裁判
 裁判確定人員は,平成11年は109万701人(うち罰金の人員が101万6,822人)であったのが,20年には53万293人(同45万3,065人)と,最近10年間で半数以下にまで減少している。その主な要因は,裁判確定人員の多数を占める道路交通法違反について,罰則の強化により違反者が激減したことなどによると考えられる。11年には,道路交通法違反(自動車の保管場所の確保等に関する法律違反を含む。)の検察庁における処理件数は98万6,096件,うち起訴件数は91万5,666件(起訴率92.9%)であったのが,20年には,処理件数は51万2,500件,起訴件数は35万7,391件(同69.7%)と大幅に減少している。他方,死刑及び懲役・禁錮等の身体刑に限ると,裁判確定人員は,刑法犯の認知件数の推移にほぼ呼応しており,11年の6万9,813人から増加していたが,16年(9万210人)をピークに4年連続で減少し,20年は7万4,271人であった。
 平成20年の終局処理人員を罪名別に見ると,地方裁判所では,窃盗が1万2,216人(18.3%)と最も多く,次いで,覚せい剤取締法違反が1万205人(15.3%)であった。簡易裁判所では,道路交通法違反(自動車の保管場所の確保等に関する法律違反を含む。)が34万6,295人(72.9%)と最も多い。

 平成20年における通常第一審での死刑及び無期懲役刑の言渡人員は,それぞれ5人(前年比9人減),63人(同11人減)であった。通常第一審(地方裁判所に限る。)での有期の懲役・禁錮の科刑状況を見るに,刑期が3年以下のものが6万257人と全体の92.2%を占めており,このうち執行猶予を付されたものは3万8,748人(刑期が3年以下のものの64.3%)であった。

(3) 矯正
 刑事施設の年末収容人員は,平成10年末日現在では5万2,713人であったが,その後増加し,18年末日現在に戦後最多の8万1,255人(うち既決7万1,408人)を記録したのをピークに減少しており,20年末日現在は7万6,881人(同6万8,637人)であった。10年末日現在での既決の収容率(収容定員に対する収容人員の比率)は,90.9%であったところ,その後上昇し,16年末日現在には117.6%にまで至ったが,20年末日現在には97.6%となり,最悪時からは幾分緩和している。
 過剰収容は,刑事施設における職員の負担を増大させるが,職員一人当たりの被収容者負担率(各年における刑事施設全体の一日平均収容人員を職員定員で除した数値)で見ると,平成10年の3.04から,18年には4.48まで上昇し,20年も4.24と高い水準にある。

(4) 更生保護
 保護観察開始人員は,少年事件の減少等により減少傾向にあり,平成20年は5万717人(前年比7.6%減)であった。このうち,保護観察処分少年は2万7,169人(同11.1%減),少年院仮退院者は3,994人(同8.1%減),仮釈放者は1万5,840人(同0.1%増),保護観察付執行猶予者は3,714人(同10.5%減)であった。
 保護観察率(執行猶予言渡人員に占める保護観察付執行猶予言渡人員の比率)は,昭和38年の20.6%を最高に,その後,ほぼ同水準で推移していたが,50年代後半から低下傾向に入り,徐々に下降し続け,平成20年は,8.3%にまで低下した。また,20年の仮釈放率(出所受刑者に占める仮釈放者の比率)は,50.1%であり,戦後最低であった(図4参照)。


3 最近の再犯の傾向
 平成21年版犯罪白書の特集では,「再犯防止施策の充実」と題し,刑事政策上の重要課題である再犯防止施策の検討に役立てるという観点から,再犯全般にわたり最近の傾向等を分析した上,再犯性の高い窃盗及び覚せい剤事犯者について,特別調査を実施した結果に基づき,再犯の要因等を考察した。特別調査の分析結果の概要については本誌中の別稿において紹介されているので,ここでは最近の再犯の傾向についての統計分析の結果の一部を簡単に紹介する。

図4 仮釈放率・保護観察率の推移



(1) 再犯者の占める比率
 平成20年において,一般刑法犯検挙人員に占める再犯者(前に刑法犯又は道路交通法違反を除く特別法犯により検挙されたことがある者)の比率は41.5%であり,これは,記録の残っている限りで戦後最高であった(図5参照)。

図5 一般刑法犯 検挙再犯者の人員・再犯者率の推移



(2) 入所受刑者の保護処分歴
 平成20年における入所受刑者の保護処分歴を見ると,保護処分歴のある者の割合は,20歳代の者で顕著に高く,かつ,再入者では,初入者と比べ,どの年齢層でも,その割合が高く,50歳以上の者でも,2割強が保護処分歴を有していた。このことは,少年時に非行があった者においては,保護処分を受けても更生することができずに再犯に及ぶ者も少なくなく,かつ,そうした者は,年齢を経ても,再犯を繰り返す傾向が高いことを示している(図6参照)。

図6 入所受刑者の保護処分歴(初入・再入別・年齢層別)



図7 出所受刑者の5年内累積再入率(出所事由別)



(3) 出所受刑者の再入所率
 平成16年に出所した満期釈放者の5年内再入所率は5割を超えているが,仮釈放者のそれも約3割に及んでいる(図7参照)。
 また,平成16年に出所した受刑者について,入所度数(回数)ごとに,5年内の再入所率を見ると,刑務所に初めて入所した者では,26.0%であるのに対し,入所度数が2度の者では48.9%に跳ね上がり,更に入所度数を重ねるに従って上昇する傾向がみられるが,特に,入所度数が1度の者と2度の者との差が顕著である。このことは,再犯を重ねるに従って改善更生の困難さが増大することを意味するとともに,早期の段階での再犯防止に向けた処遇の充実の必要性・重要性を示している。
(法務総合研究所室長研究官)

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