日本刑事政策研究会 罪と罰
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平成21年版犯罪白書を読んで
佐伯 仁志
I  はじめに

 犯罪白書は,昭和35年の創刊以来,本年版で50周年を迎える。この50年間に,我が国の犯罪情勢は大きな変動を経験してきたが,犯罪白書は,犯罪情勢に関する統計資料を継続的に分析・紹介するとともに,毎年特集を組んで重要課題に関するより詳しい研究を行うことにより,我が国の刑事政策の発展に大きな役割を果たしてきたといえよう。以下では,平成21年版犯罪白書を読んで特に印象に残った点を紹介しながら、若干の感想を述べることにしたい。

II  ルーティーン部分について

1 「犯罪の動向」について
 平成8年から毎年戦後最高を更新していた刑法犯の認知件数は,平成14年に369万3,928件を記録した後,毎年減少していき,平成20年も前年より15万7,532件(5.9%)減少して,253万3,351件となった。刑法犯全体から自動車運転過失致死傷等を除いた一般刑法犯の認知件数を見ると,やはり平成14年に285万4,061件を記録した後,毎年減少して平成20年は181万8,374件と平成8年のレベルに戻っている。
 このような動向について,白書は,「犯罪の増勢に一定の歯止めが掛かるなど,犯罪情勢は改善しつつある。しかしながら,犯罪情勢を長期的に見ると,依然として昭和50年前後の戦後の安定期には及ばず,国民の体感治安も必ずしも改善していないなど,なお楽観視できるものではない。」と指摘している(196頁)。現在の犯罪情勢は戦後の安定期と比べてどのように評価され,また,国民の体感治安が改善していないとすればその原因はどこにあるのだろうか。
 平成7年から14年の間に一般刑法犯の認知件数は107万1,117件増加しているが,この間に窃盗の認知件数は157万492件から237万7,488件に80万6,996件増加している。認知件数が窃盗に次いで多い器物損壊の認知件数は16万4,787件増加しており,両者を併せると全体の増加分の90.7%になる。また,平成14年から平成20年の間に一般刑法犯の認知件数は103万5,687件減少しているが,この間に窃盗の認知件数は100万4,648件減少しており,これは全体の減少分の97%に当たる。器物損壊の減少分1万7,827件を併せると減少分全体の98.7%になる。結局,平成7年から平成20年の間の刑法犯認知件数の増減の大部分は,窃盗と器物損壊の認知件数の増減によるものなのである。
 また,「戦後の安定期」と比較すると,昭和50年代前後で一般刑法犯の認知件数が最も少なかったのは昭和48年で,その数は119万549件(戦後最低)であるが,ここから窃盗と器物損壊と横領(その大部分は遺失物横領)の認知件数を除くと20万673件になる。平成20年の同種の数値は19万6,979件でほとんど変わらない。つまり,「戦後の安定期」と現在の違いは,もっぱら3つの財産犯の数の違いなのである(昭和48年が,窃盗97万3,876件,横領1万172件,器物損壊5,828件なのに対して,平成20年が,窃盗137万2,840件,横領7万364件,器物損壊17万8,191件)。
 もちろん窃盗・器物損壊・横領が刑事政策上重要でないと言うわけではないが,「治安の悪化」と言われて一般の国民が思い浮かべる犯罪がこれらの犯罪であるとは思えない。一般の国民は,刑法犯と聞くとどうしても殺人などの凶悪犯をイメージしてしまうので,刑法犯の認知件数が大幅に増加していると聞くと,膨大な数の凶悪犯罪が増加しているように感じてしまう。そのような誤解を与えない伝え方を工夫する必要があると思われる。
 国民の体感治安は,マスメディアで大きく報道される殺人事件の発生に大きく影響されていると思われる。毎日の新聞の見出しを見ていると,日本では殺人事件があふれているように感じられるが,実際の殺人の認知件数は,おおむね横ばいであり,その発生率は,英米独仏と比べて極めて低い。「戦後の安定期」と比べても,昭和48年の殺人の認知件数は2,048件で平成20年の1,297件よりもずっと多い。当時と現在を比べてどちらが安全な社会なのかは明らかではないのである。
 最近,通り魔殺人事件が,平成16年3件,17年6件,19年8件,20年14件と増加しており,国民の体感治安が改善していない理由の1つは,ここにあるのかもしれない。しかし,通り魔殺人事件の動向については,長期的視野に立った慎重な分析が必要であろう。
 それにしても,近年の器物損壊の認知件数の急増は異常である。器物損壊の認知件数は,昭和54年に9,496件でしかなかったのが,平成2年に2万2,824件,平成7年に3万1,231件と増加を続け,平成11年から平成15年にかけては,わずか4年間で5万3,552件から23万743件に17万7,191件も増加している。その後減少に転じているが,平成20年の認知件数は17万8,191件となお高水準である(統計上の数値が実態をどこまで反映しているのかは慎重な検討が必要であるが,平成11年から15年の間に犯罪統計の取り方や損害保険制度などに大きな変更があったとは聞かない)。器物損壊は,刑法上は財産犯であるが,刑事学的には,車上狙いなど利得目的で行われる類型と,単なる破壊を目的としたバンダリズム的類型に分類できると思われる。どちらの類型が多いのかは白書からは不明である(被害対象別で見ると,車両58.7%,家屋・建造物29.6%,自動販売機1.3%,その他10.4%となっている)。警察の犯罪統計書は,歴史的に窃盗の分析が極めて詳細であるが,器物損壊もこれだけ大きな数の犯罪となっているのであるから,より詳しい分析があってよいと思う。

2 「犯罪者の処遇」について
 近時,裁判における厳罰化の傾向が指摘されてきた。裁判確定人員を見ると,平成15年まで一桁台であった死刑の確定者は,平成16年14人,17年11人,18年21人,19年23人と急増していたが,平成20年は10人と減少している。平成20年に地方裁判所において死刑を言い渡された者の数は5人である。無期懲役の確定者についても,平成11年に48人であったのが,以後毎年増加して平成18年には135人となったが,その後19年91人,20年57人と急減している。入所受刑者(懲役)の刑期別構成比で見ると,5年を超える者の割合は,昭和46年以降長く2%台後半から3%台前半であったのが,平成6年に4%,12年に5%,14年に6%,16年に7%を超えて,17年には7.6%にまでなったが,その後減少して20年は6.4%である(エクセルファイル2−4−1−7図から)。厳罰化の傾向に歯止めがかかったのかどうか,今後の動向が注目される。
 更生保護の章では,仮釈放率が減少傾向にあることが目につく。平成9年の58.3%から平成16年の56.5%まで50%台後半を維持していたのが,平成17年54.7%,18年52.6%,19年50.6%,20年50.1%と毎年減り続けている。
 平成17年に保護観察対象者による重大再犯事件が相次いだことなどから設置された「更生保護のあり方を考える有識者会議」は,その報告書(平成18年6月27日)において,「近時の重大再犯事件を踏まえ,仮釈放審理に当たっては,再犯の危険が高い者をそれと気付かずに仮釈放することのないよう適切に選別すべきであるが,他方で,仮釈放制度の刑事政策的意義を踏まえ,仮釈放の運用をいたずらに萎縮させることがあってはならない。」と指摘していた。近時の経済情勢等のために仮釈放が難しくなっているのかもしれないが,有識者会議のメンバーの一人として,仮釈放の運用が「いたずらに萎縮」したものとなっていないことを願っている。
 減少しているのは,執行猶予者に保護観察が付けられる割合も同様である。昭和38年に20.6%あった保護観察率は,昭和50年代から徐々に低下して,平成20年には8.3%にまでなっている。この点に関連して注目されるのが,裁判員裁判の開始である。新聞報道によると,執行猶予判決の約7割に保護観察が付いており,裁判員が被告の更生を重視している実態が浮かんでいる(例えば,毎日新聞2009年12月17日朝刊)。平成20年6月には更生保護法が施行され,性犯罪者処遇プログラム,覚せい剤事犯者処遇プログラム,暴力防止プログラムなどを受けることが特別遵守事項として義務づけられるようになった。また,後述するように,法制審議会において刑の一部執行猶予制度や社会貢献活動の実施などが提案されており,更生保護に求められる役割は今後ますます増大していくものと思われる。国民の期待に応えながら,新しいプログラムを実施していくためには,更生保護の一層の体制強化を図る必要があろう。

3 「各種犯罪者の動向と処遇」について
 昨年の白書では「高齢犯罪者の実態と処遇」が特集のテーマに取りあげられたが,本年の白書では,高齢犯罪者が「各種犯罪者」の1つとして新たに取りあげられている。高齢犯罪者の問題が今後の我が国の刑事政策にとって特に重要である点でも,特集の分析を単発的なものに終わらせることなく継続的にフォローしていく意味でも,適切な扱いであると思われる。
 高齢者の一般刑法犯検挙人員のうち,68.2%が窃盗で,万引きが55.4%を占めている。特に,女子では,89.4%が窃盗で,万引きが81.3%を占めている。高齢入所受刑者の罪名別構成比を見ても窃盗が50.6%(女子73.2%)である。さらに,最近10年間の高齢者の仮釈放率が28〜38%と全体の仮釈放率(50〜57%)と比べてかなり低く,「高齢者においては,引受人等がいない場合など,釈放後の定住先が確保できないことが多いことによると考えられる」ことをあわせて考えると,「社会政策は最良の刑事政策」というリストの有名な言葉は,高齢犯罪者に特によく当てはまるといえよう。

4 少年非行の動向について
 第1回の犯罪白書が発行された昭和35年の時点においても,平成8年以降の一般刑法犯の急増期においても,「治安の悪化」の大きな原因として問題とされたのが,少年犯罪の増加・凶悪化であったことは興味深い。一般刑法犯の少年の検挙人員数は,平成13年以降増加して平成15年には16万5,973人となったが,以後毎年減少して平成20年には10万8,592人になっている。検挙人員に占める少年の割合(少年比)は30.4で戦後最低である。10歳以上の少年10万人あたりの人口比も894.5人と低い水準にある。平成8年以降急増して社会の注目を集めていた強盗の検挙人員も,平成15年の1,800人をピークとして以後減少に転じ,平成20年には735人にまで減少している。殺人による検挙人員も,平成10年から13年まで100件を超えていたが(それでも犯罪白書が創刊された昭和35年の438人に比べると極めて少ない),以後減少して平成20年は55件となっている。この数は昭和55年の49件に次いで戦後2番目に少ない数である。

III  特集について

 本年の特集は,「再犯防止施策の充実」である。再犯の問題は,平成19年版犯罪白書の特集においても取りあげられているが,本年度の特集は,「〔平成19年版〕白書で再犯性の高さが指摘された窃盗及び覚せい剤事犯者を中心に,再犯の実態や要因等について,再犯防止施策と絡めて,より深く掘り下げた分析を行うこと」としたものである。
 特集の最初に再犯者の動向が示されているが,一般刑法犯の再犯者率は平成9年から一貫して上昇し続け,20年は41.5%となっている。窃盗と覚せい剤取締法違反の再犯者率も同様に上昇して,平成20年には窃盗が43%,覚せい剤取締法違反が56.1%になっている。特に,窃盗は,検挙人員が平成16年の19万5,151人から平成20年の17万4,738人と2万413人減少しているにもかかわらず,再犯者の数は,この間に7万523人から7万5,110人に増加している。検挙人員が平成20年とほぼ同数の17万5,559人であった平成2年の再犯者は4万8,107人で,再犯者率27.4%であったことを考えると,再犯者の増加は驚くべきものがある。
 窃盗・覚せい剤事犯に係る再犯の実態調査では,刑事確定記録を用いた特別調査が紹介されている。特別調査によって,居住状況や就労状況が不安定なほど再犯率が高いことが示されている。監督誓約有りとなしを比べて,誓約有りの者の窃盗の再犯率が誓約なしの者と比べて顕著に低く(13.5%対34.0%),しかも,就労状況にかかわらずそうであることは,監督者の存在が大きな再犯抑止力を有していることを示しており,興味深い。積極的弁償措置を行っている者の再犯率が行っていない者に比べて顕著に低い(窃盗の再犯率で13.3%対25.2%,その他の再犯で4.6%対8.9%)ことも大変興味深い結果である。監督誓約と積極的弁償措置の有無を複合させた再犯状況では,監督誓約も積極的弁償措置もない者は,半数近くが再犯に及んでいる(窃盗36.4%,その他10.4%)のに対して,それ以外の場合には,再犯率が相対的にかなり低く,監督誓約がない場合でも,積極的弁償措置がある場合には,監督誓約のある場合と再犯率に大きな違いがないことが示されている。もっとも,監督誓約がある場合については,積極的弁償措置がある者の方がない者よりも再犯率が高くなっており,データ数の少なさから来るのかもしれないが,その信用性にやや不安を感じさせる。
 保護観察有りの者はなしの者よりも再犯率が高い(31.7%対29.5%)が,保護観察は,再犯リスクが高い者に付けられているので,この結果は驚くべきことではない。注目すべきなのは,保護観察有りの者の窃盗の再犯率がなしの者と比べて低いことであり(19.0%対23.9%),保護観察が窃盗の再犯を抑止している可能性を示すデータといえる。
 窃盗・覚せい剤事犯の刑務所初入者および2入者を対象としたアンケート調査と入所調査票の分析も注目される。公式の記録では検挙されてからしかわからないが,この調査では,初窃盗・初使用の時期を含めた分析が可能になっている点で貴重である。調査の結果,若年で窃盗を犯すようになった者ほど,再犯(再入)に陥りやすい傾向が見られ,覚せい剤についても,覚せい剤の使用開始年齢が低い者,あるいは有機溶剤の濫用経験を有する者は,再犯(再入)に陥りやすいことが示されている。また,窃盗の動機として,生活費の困窮が最も多いことは予想されたところであるが,女子でストレス解消や盗み癖の割合が高いこと,男子では,万引きでアルコールの作用が高いことも,再犯防止を考える上で重要な知見である。
 特集は,初犯者や若年者に対する再犯防止対策を充実させることの重要性を,以下のように指摘している。「例えば,出所受刑者の5年以内の再入率は,入所度数を重ねるに従って上昇する傾向が見られ,入所度数が1度の者と2度の者とでその差は顕著であるが,このことは,再犯を重ねるに従って改善更生の困難さが増大することを意味するとともに,早期の段階での再犯防止に向けた対策の充実の必要性・重要性を示している。また,入所受刑者の保護処分歴別構成比を見ると・・・少年時に非行があった者においては,保護処分を受けても更生することができずに再犯に及ぶ者も少なくなく,かつ,そうした者は,年齢を経ても,再犯を繰り返す傾向が高いことを示している。こうした実態に加え,初犯者や若年者は,可塑性に富み,就労の機会も限定的ではないなど,改善更生の余地は大きいと考えられるのであるから,この早期の段階で,必要に応じ,再犯の芽を摘む絶好の機会として,指導・支援を行うことが重要であると考えられる。その機会を逃さないためにも,犯罪・非行の確実な検挙に努めるとともに,事件の動機,背景事情等を可能な限り解明し,その者の行動傾向や態度,再犯の可能性も的確に把握した上で,適正な処遇を行うことが必要である」(297頁)。正当な指摘であるが,将来の再犯性を正確に判別することが困難であることを考慮すれば,再犯リスクへの対応はできるだけ援助的なものにとどめるべきであり,刑事処分を重くする方向で再犯リスクを考慮することには謙抑的であるべきであろう。
 特集では,「再犯者防止施策の現状と新たな取り組み」として,(1)刑事施設における特別改善指導や保護観察対象者に対する専門的処遇プログラムが新たに実施されていること,(2)就労支援スタッフが刑事施設や少年院に配置され就労支援が行われていること,(3)職業訓練の種目の拡大が行われていること,(4)法務省と厚生労働省が連携して刑務所出所者等総合的就労支援対策が実施されるようになっていること,(5)保護観察対象者に対して保護観察所と公共職業安定所の担当者等からなる就労支援チームが職業相談等を行っていること,(6)身元補償制度やトライアル雇用制度が行われていること,(7)刑務所出所者等就労支援推進協議会を開催して協力雇用主の開拓・拡大を図っていること,(8)福祉的な支援を必要とする者に対して社会復帰支援を行うため,刑事施設や少年院に社会福祉士や精神保健福祉士が配置され,保護観察所も福祉等実施機関と連絡調整を取りながら生活環境の調整を行っていること,(9)民間の更生保護施設では受入れが困難な仮釈放者および少年院仮退院者等の改善更生と自立を促進するため,自立更生促進センターの設置が進められていること,(11)再犯防止のための新たな処遇プログラムの開発が進められていること,等々が紹介されている。これらの施策はいずれも援助的なものであり,その必要性・重要性については本特集の調査においても示されている。厳しい財政事情の下での関係者の努力に敬意を表するとともに,今後一層の充実を望みたい。
 特集では,最後に,「再犯防止に資する新たな制度の検討」として,法制審議会の部会における審議が紹介されている。法制審議会では,被収容人員適正化方策に関する部会において平成18年から審議が続けられてきたが,平成21年12月22日の第26回会議において,(1)保護観察処遇を一層充実させ,犯罪者の改善更生・再犯防止を促進するために,社会貢献活動に従事することを保護観察対象者の特別遵守事項とする制度と,(2)施設内処遇と社会内処遇をより適切に連携させ,犯罪者の改善更生・再犯防止を促進するために,裁判所が懲役または禁錮を言い渡すと同時にその刑の一部の執行を猶予する制度を,新設することを内容とする要綱(骨子)案が承認された。刑の一部の執行猶予制度は,初入者に対する一部執行猶予制度と,薬物犯罪者に対する一部執行猶予制度に分かれており,薬物犯罪者については,前に禁錮以上の刑に処せられた者であっても,その犯罪的傾向を改善することが必要であると認められるときは,刑の一部の執行を猶予することができる(その場合は必要的に保護観察に付される)こととされている。審議に加わった者の一人として,早期の立法化を期待して本稿を終わりたい。
(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

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