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女性犯罪者の生きづらさやニーズに対応するために
渡邉 和美
はじめに
 著者らの研究グループが取り組む「女性の再犯防止を目的とした司法と福祉のシームレスな連携システムに関する研究(代表:宮園久栄)」1(以下「本研究」という)では、女性の社会復帰に向けた多機関連携のあり方について検討するため、2022年から2024年にかけて全国の女性刑事施設や女性出所者を受け入れる更生保護施設、女性に対する支援を提供するNPO 法人や自助グループ、行政機関への訪問調査を行った。本研究は、次のような問題意識から開始されたものである。「現在、再犯防止推進計画に沿って司法と福祉を架橋する取組などが進められているが、これまで多くを占める男性受刑者の課題に焦点を当てた処遇・福祉との連携に重点が置かれ、女性の生きづらさやニーズへの対応が十分になされてこなかった。女性の再犯防止のためには、女性特有の保護要因や犯因性ニーズを特定し、家族などの人間関係の調整や支援を重点的に図り、刑事施設段階から、出所後の地域生活定着に関わる支援を検討・活用し、就労支援にとどまらない包括的なケアサービスの利用を強化する必要がある。」
 著者らの本研究グループは、刑事施設のうち、全国に12施設ある女性刑事施設の全て及び東日本成人矯正医療センターの訪問調査を行った2。また、女性出所者を受け入れる更生保護施設は全女子施設7施設及び男女施設8つのうち3施設を訪問した3。また、社会内で出所者が利用できる資源として、NPO 法人リカバリー(北海道)、岐阜ダルク、長崎県地域生活定着支援センター、佐賀県精神保健福祉センターなどを訪問した。また、何がジェンダー特有の問題であるかについて議論を行うために、いくつかの男性刑事施設や、愛媛県更生保護会雄郡寮、富山養得園、富山ダルクなどの男性出所者を受け入れる施設を訪問し、議論を行った4
 本稿では、令和6年版犯罪白書に示された女性犯罪者の実態に関する統計や文献を概観しつつ、筆者らによる本研究の中で行った女性刑事施設への訪問調査によって見出された課題のうち、ジェンダーに配慮することに関わる問題、メンタルヘルスの問題と就労支援、帰住先と環境調整に関する課題などを提示する。

犯罪者に占める女性の割合
 世界各国の犯罪に関する公式統計において、犯罪者の大半が男性であり、女性の割合は小さいことが示されている(Gobeil, Blanchette, andStewart, 2016)。日本の警察庁(2003〜2022)の「年間の犯罪」によると、平成15年から令和4年までの20年間における刑法犯検挙人員に占める女性の割合は20〜22%であるが、この割合は戦後から緩やかな増加傾向を示してきたものである(昭和21年にはおおよそ7.6%であり、おおよそ13ポイントの上昇)。諸外国における女性犯罪者の割合に関する統計を見ると、例えばアメリカ合衆国(FBI の犯罪統計年報)では、2023年における全逮捕者に女性が占める割合は27.5%(FBI、2024)であり、割合は高いものの同じ2割台を示している。こうした犯罪者の数における性差は、刑事施設への入所者数で見た場合にはより大きくなる傾向があり、日本の刑事施設収容者数で見た女性の割合は令和5年で10.6%である。諸外国における刑事施設への入所者における女性の割合は、Fairand Walmsley(2024)によると、アメリカでは10.2%(2019年)、オーストラリアでは7.5%(2021年)、カナダでは5.6%(2014年)、ドイツでは5.6%(2021年)、イングランドとウェールズでは4.0%(2022年)、フランスでは3.6%(2022年)であることが示されている。
 令和6年版犯罪白書から見る刑事司法の各過程における女性犯罪者の比率は、表1のとおりまとめられる。表1で示す刑法犯・特別法犯検挙人員に占める起訴/起訴猶予/入所受刑者の割合は、令和5年の1年間の統計としてそれぞれの機関が示す数値から割合を算出したものである。そのため、必ずしも同じ年に検挙、起訴、裁判、刑事施設への入所の全てが行われるわけではないことを踏まえると、検挙した人の経過を示すものではなく、あくまで目安の数字となる。しかし、この目安とな

表1 令和6年版犯罪白書に示される女性犯罪者の比率


る数字で割合を見ると、刑法犯・特別法犯全体、窃盗犯、覚醒剤取締法違反のいずれも、女性の割合は検挙>起訴猶予>起訴>入所受刑者の順で小さくなっており、この傾向は、刑法犯・特別法犯全体や窃盗犯に比較して、覚醒剤取締法違反で弱い。また、概して、男性に比較して女性の方で起訴や刑事施設入所に至る割合は低いが、それを罪種別で見た場合、窃盗犯と覚醒剤取締法違反とでは異なる傾向を示している。同じ女性であっても、刑法犯・特別法犯全体や窃盗犯では検挙人員の3%程度の数の人員が入所受刑者となっているが、覚醒剤取締法違反ではほぼ起訴され、検挙人員のおおよそ3分の1の数の人員が入所受刑者となっている。女性の窃盗犯の場合には刑事施設入所に至るのは検挙者のうちごくわずかであり、多くが万引き(6割近く)で侵入盗や乗り物盗である場合が少ないことを考慮すると、それだけ累犯性が高く、背景に多くの問題を抱えた者が刑事施設入所に至っていると想像できる。それに比較して、女性の覚醒剤取締法違反の場合には、検挙されれば刑事施設入所に至る確率は高く、若い年代から刑事施設入所の機会がより多くあると考えられるが、薬物という問題からは、彼女らの多くが嗜癖やトラウマ、関係性の問題など、介入の難しい問題を抱えていると想像できる。

再犯者に占める女性の割合
 警察庁(2003〜2022)が発刊するそれぞれの「年間の犯罪」によると、刑法犯検挙人員に占める再犯者率は、平成15(2003)年には35.6%であったが、令和3(2021)年に48.6%のピークを示した後、令和4(2022)年には47.9%と高い値を維持している。刑法犯検挙人員に占める再犯者率については男女別の数値は公開されていないため、令和6年版犯罪白書で示される、刑事施設に入所した受刑者の入所度数別構成比を男女別で見ると、過去20年間の推移において多少の増減はあるものの、「1度」の割合が緩やかな減少傾向を示しており、受刑を繰り返す者の割合が増加している(7-3-3-3図)。そして、この傾きは、男性に比較して女性で大きくなっている。一方で、刑期別構成比の推移において、女性では刑期が短くなる傾向が認められており、令和5年には1年以下と2年以下で65.2%を占めるようになっている(7-3-3-4図)。受刑を繰り返す者の割合が増えている中で刑期が短い者の割合が増えていることから、全ての女性の受刑者が、受刑期間中に有効な治療処遇を確実に受けられるのか、という疑問が生じる。刑期の長短によって必要な治療処遇が受けられない場合があることは、犯罪者の更生にとってマイナスの影響を与え得る。より短い刑期の女性犯罪者が繰り返し刑事施設に入所するケースを減らしていくためには、刑期の短い者をターゲットにしたプログラムについても検討していくことが求められる。また、この刑期が短い者については、刑事施設、保護観察のそれぞれの独立したプログラムを受講するのではなく、刑事施設から保護観察までの期間を通して受けられるプログラムをパッケージ化して提供することを含め、検討していくことが必要だろう。

女性の犯罪に至る道筋
 犯罪・非行研究においては、長らく、多数派である男性犯罪者を対象にしてエビデンスが創出されてきており、処遇等においては、そのエビデンスに基づいて、最適な方法が検討され、男女に関わらず導入がされてきた。しかし、重要な分類軸としてジェンダーがあるにも関わらず、男女の違いを考慮せずに、女性犯罪者にも同じ処遇を行うことについて、多くの研究者が異論を唱えてきた(例えば、Bloom, Owen andCovington, 2005)。ここで示された課題は、日本の矯正処遇においても認められる。
 女性犯罪者も男性犯罪者と同様に多様な存在であるにも関わらず、画一的な女性犯罪者の像がもたれやすい。Holtfreter, Pusch and Golladay(2022)は、Daly が1992年に指摘した女性犯罪者の画一的なモデルが「若い女性は、@児童期に家庭内におけるトラウマや暴力、虐待を経験し、A虐待から逃れるために家を出て、B街頭で売春や薬物などの犯罪に手を染めるようになる。・・・そして、被害と加害のサイクルを繰り返し、やがて刑事司法システムに関わるようになる。」というものであると記述している。また、Daly が1992年に見出した女性が犯罪に至る道筋の4分類は、路上(street)、被害と加害(harmed and harming)、虐待された(battered)、薬物にまつわる(drag connected)であるとし、後に、5つめの道筋として、経済的動機(economically motivated)が加えられたことを記述している。路上の女性は、虐待的環境から逃げ出し、薬物中毒となり、路上生活を生き抜くために犯罪を行う。被害と加害群の女性は、幼少期に虐待を受け、混とんとした生活環境に置かれており、少年非行で補導された経験を持つ。虐待された群の女性は、親密な関係の中で虐待を受けている。薬物にまつわる女性は、家族や親密な関係の中で薬物を使用したり、製造、販売したりする。この4群の犯罪に至る道筋は女性犯罪者に特有の道筋となっており、いずれの群でも女性犯罪者の生育歴には家庭内での虐待や暴力の問題がある。これらに対し、経済的動機の女性たちには、生育歴に被虐待経験を持たず、経済的動機から犯罪に至る。

ジェンダーへの配慮
 女性の犯罪に至る道筋に関する研究を契機として、ジェンダーに配慮した5アセスメントや処遇が検討されてきた。犯罪に至る道筋に関する研究では、さまざまなジェンダーに配慮した要因が見出されてきた。例えば、女性犯罪者には児童期のトラウマ体験を有する者が多いことは多くの研究で見出されている(Browne, Miller and Maguin, 1999; Tamand Derkzen, 2014)。令和6年版犯罪白書で示される特別調査の結果(7-5-3-6図)においても、小児期逆境体験として示される児童虐待といえる項目を見ると、身体的虐待(女性32.7%、男性36.6%)やネグレクト:身の回りの世話をしてもらえなかった(女性9.8%、男性8.9%)では男性犯罪者と女性犯罪者で同程度の割合を示すが、心理的虐待(女性39.2%、男性30.4%)、性的虐待(女性6.0%、男性1.7%)、ネグレクト:十分に気に掛けてもらえなかった(女性25.6%、男性18.6%)への該当は、男性犯罪者と比較して女性犯罪者で高くなっていた。こうした児童期の虐待被害の問題は、青年期以降の精神保健に大きな影響を与えることが指摘されており、男性犯罪者と比較して女性犯罪者において精神保健上の問題を抱えると申告する者が多いこと(令和6年版犯罪白書、7-5-2-8図・7-5-2-9図)とも関連している。
 多くの研究で、女性の犯罪に特に関連する要因として、育児責任、トラウマ経験、メンタルヘルスといった要因が挙げられており、これらの要因のほかにも薬物乱用、反社会的な仲間関係、否定的な家族/夫婦の繋がりといった要因への該当が男性よりも女性において多いことが指摘されている(Gower, Morgan & Saunders, 2024)。

ジェンダーに配慮した再犯リスクのアセスメント
 再犯リスクアセスメントツールにおいては、大半を男性が占めるサンプルを対象に開発されていることから、女性が犯罪に至る道筋が殆ど考慮されていないこと、男女における再犯率の高さの違いが考慮されていないことなどから、女性犯罪者のリスクを過大評価するおそれがあることが指摘されている。大半を男性が占めるサンプルを対象に開発されたツールにジェンダー対応因子6を追加してリスクを評価すべきか、ジェンダーを考慮せずに、つまりジェンダー・ニュートラル(genderneutral)なものとして、ジェンダー対応因子の項目を追加することなく男女共通に利用すべきかについて議論が行われている。
 例えば、犯因性ニーズとなる54のダイナミックリスク要因を測定するLSI-R(Level of Service Inventory- Revised) については、 Smith,Cullen & Latessa(2009)が、このLSI-R の結果と女性犯罪者(N =14,737)の再犯との関係を大規模なメタ分析によって検討し、LSI-R がジェンダー・ニュートラルなツールとして男女に同じように利用できることを示している。また、Wolf, Mayer, Steiner, Franke, Klein, Streb,& Dudeck(2023)は、精神障害を有する女性犯罪者525人を対象にした検討の中で、親密な関係における機能不全、メンタルヘルスの問題、親のストレス、成人の身体的虐待、貧困といったジェンダー対応因子が再犯と強く関連するが、LSI-R の分類精度向上に寄与したジェンダー対応因子は、混合性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ、支援のないパートナー、貧困であり、その精度の増分はわずか2.2%であったことから、ジェンダー対応因子を追加する必要性について疑問を呈している。
 しかし一方で、van Voorhis(2012)は、既存のリスク評価ツールにジェンダー対応因子を加えることで、司法に関与する女性に対する妥当性が高まったことを報告している。また、Holtfreter, K., & Cupp, R.(2007)は、犯罪の背景が男性と最も類似していると思われる女性犯罪者に対してはかなり有効であるようだが、女性犯罪者特有の犯罪への道筋をたどる女性に対してはそうとはいえないことを指摘している。メタアナリシスの手法を用いた研究では、Gobeil, Blanchette, and Stewart(2016)が、総計約22,000人の女性犯罪者を対象とした37研究で示された38の効果量を検討した結果、ジェンダーに配慮した処遇とジェンダーにとらわれないジェンダーニュートラルな処遇とでその効果に違いはなかったが、より質の高い方法論で行われた研究の18の効果量に絞ると、ジェンダーに配慮した処遇の方が、より女性犯罪者の再犯の減少に繋がっていたことを示している。
 このように矛盾する結果が示されている研究を概観する際の留意点として、Saxena, Messina, and Grella(2014)は、女性犯罪者のサンプルの小ささの問題や、方法論的・統計的な厳密さに欠ける研究が多いという問題があるため、結果のみを見て単純に比較することはできない、と指摘している。また、こうした問題の存在から、女性犯罪者に特有の要因を追加しても厳密なツールに仕立てることに限界がある可能性がある(大江、2023)。

ジェンダーに配慮した処遇
 ジェンダーに対応した犯因性ニーズは、犯罪を生み出すリスク要因ではない(Andrews and Bonta, 2010)とされるが、ジェンダーは「ビッグ4」または「セントラル8」の処遇への反応性を媒介すると考えられている。
 欧米においては、ジェンダーに特化した処遇プログラムも検討されているが、それが認知行動プログラムとして開発されている場合には、一般的な反応性原則が指摘する行動、社会学習、認知行動の様式にある程度適合することが指摘されている(Van Voorhis, 2012)。Blanchette とBrown(2006)は、ジェンダーに特化した処遇プログラムにおける一般的な反応性原則を、「ジェンダーに対応した反応性原則では、一般的に、治療者が、フェミニストの哲学と社会学習理論に基づく構造化された行動介入を、『強みを基盤としたモデル』として共感的かつエンパワーメントする方法で提供すると同時に、厳正かつ公平なアプローチを採用した場合に、最適な治療反応が得られる」と再定式化している。
 日本においても、一部の施設において、若年女性の薬物犯罪者に特化したプログラムの実践が行われている。その実践では、治療的な環境における処遇が行われており、画期的な取組である。こうした新しい取組の検証にはもう少し時間を要するかもしれないが、“ 再犯” や“ 再入”といった指標だけでなく、社会の中で適応的に生きる力としてどのような強みを身につけたり、伸ばしたりできたのかといったことも評価に加えていくことができるとよいと考えられる。強みはリスクを緩和する保護要因となるためである。女性に特化した課題としては、避妊や妊娠、子育ての問題などが扱われることが多く、女性犯罪者を受け入れる刑事施設の多くでは、女性に特化した課題は一般改善指導の一つとして取り組まれている。しかし、女性犯罪者の犯罪に至る経路で指摘されるような要因や、再犯リスクアセスメントにおいて検討されている背景要因についても、積極的に扱っていくことが必要であろう。また、同じ女性犯罪者でも犯罪に至る道筋が異なる場合があるように、犯罪をしないで社会で適応的に生きる道筋もそれぞれ異なるものがあるだろう。そうした出口を踏まえたプログラムも検討していく必要があるかもしれない。女性は、男性と比較して就業率が低く、非正規労働が多いという社会状況の中、入所前に就労していなかった者が多く、女性犯罪者の中には就労意欲が高くない者も少なからずいることから、社会の中で適応的に生きる道筋ごとに就労支援のためのプログラムのあり方を考えていくことも必要かもしれない。ただ、女性犯罪者を処遇する施設は少なく、女性犯罪者の処遇に関わる人員は限られていることから、それぞれの施設の取組に留まらせず、ジェンダー対応因子に関わる処遇については、それぞれのテーマについて中核となるプログラムを定式化していくことも必要となるだろう。
 Leote de Carvalho, Duarte and Gomes(2023)は、ポルトガルの女性犯罪者49人に対するインタビューを通じて、女性犯罪者たちが自らの犯罪行動をどのように構成し、説明しているかについて検討を行った結果、若い女性犯罪者と高齢の女性犯罪者では犯罪パタンが異なっていることが見出されている。このことは、罪種や犯罪に至る道筋のみならず、その人の生涯発達の段階別に必要となる課題が異なることを示唆している。高齢者の場合には、就労はなく、独居で、社会的に孤立した状態にあることが大きな問題となっている。高齢の犯罪者には、身体の機能を支える処遇のみならず、社会の中でどのような適応を目指すのかについて具体的なイメージを持たせ、それを目指すために必要な強みを身につけてもらい、社会内で一般の高齢者が受けるサービスや資源に的確に繋げていくことが課題となる。現在、刑事施設内で社会復帰調整を行う社会福祉士の個人の力量に頼る部分が大きいが、今後、行政との連携がより強化されれば、よりスムーズな形で高齢犯罪者を社会的な資源と結びつけることができるようになるのではないかと考えられる。

メンタルヘルスの問題と就労支援
 男性犯罪者と比較して女性犯罪者でメンタルヘルスの問題を抱えていると申告する者が多く(令和6年版犯罪白書、7-5-2-9図)、児童期の虐待やその後の交際相手や配偶者からの暴力の問題を抱える者が一定数おり、それが女性の薬物犯罪者であった場合には割合が大きくなっていた(同、7-5-3-5図、7-5-3-6図)。また、女性の薬物犯罪者で自傷行為の経験率が高くなっていた。(同、7-5-3-4図)。こうしたトラウマや暴力被害の経験は、メンタルヘルスの問題と強く関連しており、表面上のメンタルヘルスの問題に対処するだけではなく、その背景にあるトラウマや暴力の被害や目撃の問題を扱う必要性がより大きくなるだろう。問題行動の背後にこうしたトラウマ経験がある可能性に配慮するトラウマ・インフォームド・ケアの考え方を採り入れ、女性犯罪者が示す問題行動を扱っていくことも重要である。
 このほか、窃盗常習癖を有する女性犯罪者の背景要因に摂食障害がある場合が多いにも関わらず、刑事施設では体重確保のための医療的なケアは制度化されているが、摂食障害をターゲットにしたプログラムはない。それゆえ、社会内の資源に頼らなければならないが、社会内の資源も豊富にあるわけではないという現状がある。摂食障害ゆえに窃盗をする者の場合、一般的な窃盗の問題のみを取り上げても何ら改善には至らない。窃盗の場合には逮捕されてから入所に至る割合がごく少なかったことを考慮すると、背景にある摂食障害の問題がかなり長期にわたっており、より深刻な者となっている可能性がある。摂食障害の問題に対し、施設内で生活するための医療的ケアのみならず、心理的な介入を検討していかなければならない。また、摂食障害に関する治療処遇に関する専門性を持つ職員を育成することも必要となるだろう。
 こうしたメンタルヘルスの問題は、簡単に解決するものではなく、治療には長期の関わりを要するだろう。そして、メンタルヘルスの問題は就労や安定した収入の問題とも関連する。その人のペースで働くことをサポートできるような人材派遣業などの社会資源にうまく繋げた例もあり、それは参考となるだろう。また、医師からの診断を受けることで得られる社会サービスを利用できるよう、医療機関と繋げることは重要であり、社会福祉士の力が求められるところである。また、診断名がつかない場合でも、精神的に不安定になったときに相談できる先をつくっておくことが重要となる。現在、更生保護施設において、フォローアップ事業への取組が行われているが、本人が問題を感じないでいる場合にもアウトリーチにより、困ったときなどに本人から話ができる場所や繋がりをつくることができれば、再犯防止と社会適応の促進にプラスの影響をもたらすだろう。

帰住先と環境調整に関する課題
 現在、積極的に仮出所を行い、保護観察により社会内での適応状況をサポートできる環境作りへの取組がより活発に行われている。それにより、昨今の仮釈放率が女性の場合には8割に近い値を示しており、帰住先が確保できた者が多いことを示唆している。著者らが行った女性を受け入れる刑事施設の調査では、いずれの施設でも家族が引受人となっている場合が多いことが示されている。女性犯罪者本人に対する治療処遇では、本人が持つ犯因性ニーズへの働き掛けを行い、強みを拡げることはできるかもしれないが、その家族や配偶者など、本人が戻る環境には働き掛けをすることはない。ジェンダーに特化した犯罪に至る道筋をたどった女性犯罪者の背景要因や、同居者との薬物利用などの場合を考えると、帰住先が入所前と同じであった場合、その場所に直ちに戻ることが最善なのか、については検討の余地があるかもしれない。女性の帰住先の問題についてできることがあるかについては、引き続き考えていくことが必要となるだろう。

まとめ
 以上、本研究グループで女性を処遇する刑事施設を視察と議論を行った結果を踏まえて、令和6年版犯罪白書の特別調査で示された女性犯罪者の特集から示唆される今後の課題について示した。示した意見は、研究者一個人の意見であり、組織を代表するものではない。令和6年版犯罪白書の特別調査のように、ある程度の数量をもって女性犯罪者の特徴を示したものは筆者の知る限り国内では殆どなく、非常に貴重である。数が少ないが故にあまり光を当ててこられなかった女性犯罪者について、蓄積すべき知見はまだ多く、女性犯罪者の多様性に着目した研究への展開、実務への応用が望まれる。

謝辞
 本研究はJSPS 科研費 JP22H00932の助成を受けたものです。

(警察庁科学警察研究所犯罪行動科学部長)

文献
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1 この研究グループには、宮園久栄、岩井宜子、東本愛香、柑本美和、安部哲夫、柴田守、渡邉和美がおり、これらが分担して訪問調査を実施している。
2 女性刑事施設を具体的に挙げると、栃木刑務所、笠松刑務所、和歌山刑務所、岩国刑務所、麓刑務所、札幌刑務支所、福島刑務支所、豊橋刑務支所、西条刑務支所、喜連川社会復帰促進センターの女性収容棟、加古川刑務所の女性収容棟、美祢社会復帰促進センターの女性収容棟の12施設である。
3 女性施設である栃木明徳会、静修会荒川寮、両全会、紫翠苑、洗心之家、西本願寺白光荘、梅香寮、男女施設8つのうち3施設、大谷染香苑、端正会、ウィズ広島を訪問した。
4 男性刑事施設として、札幌刑務所、福島刑務所、福井刑務所、金沢刑務所、富山刑務所、長崎刑務所を訪問した。
5 ジェンダーに配慮した(gender informed)という言葉のほか、ジェンダーに対応した(gender responsive)という言葉が用いられるが、これらの言葉の使用は研究者や文脈によって異なっており、ほぼ同義として用いられているものである。
6 例えば、HCR-20のFemale Additional Manual(de Vogel, de Vries, van Kalmthout, & Place, 2014)には、歴史項目として、H11売春、H12養育困難、H13若年での妊娠、H14自殺企図/自傷が追加され、H7パーソナリティ障害やH8トラウマ経験に女性向けのガイドラインが付加されている。また、臨床項目として、C6顕在的な操作的行動、C7低い自尊心の項目が、リスク管理項目として、R6問題のある養育責任、R7問題のある親密な関係が挙げられている。
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