日本刑事政策研究会
トップページ > 刑事政策関係刊行物:犯罪白書 > 犯罪者・非行少年の生活意識と価値観─令和4年版犯罪白書の特集から─
犯罪白書
犯罪白書一覧へ戻る
犯罪者・非行少年の生活意識と価値観─令和4年版犯罪白書の特集から─
大伴 真理惠
第1 はじめに
 再犯防止は、刑事政策上の重要な課題であり、我が国において、国民の暮らしの安全・安心を確保するための国の重要課題の一つでもある。「再犯防止に向けた総合政策」(平成24年7月犯罪対策閣僚会議決定)において、再犯の実態や対策の効果等の調査・分析及び更なる効果的な対策の検討・実行が重点施策とされ、再犯防止推進法(28年12月施行)及び「再犯防止推進計画」(29年12月閣議決定)で示されたとおり、犯罪者・非行少年の特性に応じた効果的な処遇の重要性がより一層高まっているところ、そのためには、犯罪・非行の動向等の客観的な指標だけでなく、本人の生活意識や価値観という主観面も含めてその者の特性を多角的に把握することが必要である。
 そこで、法務総合研究所では、犯罪者・非行少年の生活意識や価値観を幅広く把握するとともに、その者らの特性をより多角的に分析するための資料を提供すべく、これまで平成2年、10年、17年及び23年に、少年鑑別所に観護措置により入所した少年等を対象に行ってきた生活意識と価値観に関する特別調査(各年版犯罪白書に掲載)について、令和3年には、対象者の年齢層を限定せず、また、保護観察対象者まで拡大して行った(以下、令和3年に行った特別調査を「今回の調査」という。)。
 令和4年版犯罪白書における特集の一つは、今回の調査結果等をまとめた「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観」であり、本稿では、そのうち、「周囲の環境に対する意識」、「自分に関する意識」、「犯罪・非行に対する意識」の三つの領域について、@年齢層の違い、A犯罪・非行類型の違い、B犯罪・非行の進度の違いによる比較及びC前回までの調査との比較の結果を紹介した上で、犯罪者・非行少年の処遇の更なる充実に向けた課題や展望等について考察する(法令名・用語・略称については、特に断りのない限り本白書で用いられたものを使用するほか、元号の記載については直前の元号と同様である場合は記載を省略する。)。
 なお、本白書の上記特集においては、今回の調査結果の他に、上記@ABの観点から、各種統計資料等に基づき、生活に深く関わる近年の社会情勢や国民の意識の変化及び刑事司法手続の各段階における犯罪・非行の動向等についても紹介しているので、併せてそちらもご参照いただきたい。
 また、本稿中、本白書の記載を超えるものは、筆者の個人的見解である。

第2 今回の調査の概要
1 調査対象者
 今回の生活意識と価値観の調査対象者は、以下のとおりであり、表1は、調査対象者の属性等を示したものである。
(1) 刑事施設入所者
令和3年1月1日から同月29日までの間に全国の拘置所(一部の拘置支所を含む。)において刑が確定し、新たに刑執行開始時調査を実施した者(処遇施設を確定するに足りる処遇指標を仮に判定するために必要な調査を行い、処遇施設へ移送する対象となった者を含む。)857人のうち、調査協力に同意した者595人(回収率69.4%)とした。性別は、男性539人、女性49人、不詳(性別に関する質問に対する選択肢は、「男」、「女」及び「答えたくない」であり、「答えたくない」と回答した者及び同質問に無回答であった者を「不詳」とした。性別についての「不詳」につき、以下同じ。)7人であり、平均年齢(不詳の者を除く。)は、全体44.7歳、男性44.5歳、女性46.6歳であった。
(2) 保護観察対象者
令和3年1月1日から同月29日までの間に、全国の保護観察所において、新たに保護観察を開始した者1,437人(保護観察処分少年(交通短期保護観察を含む。)、少年院仮退院者、仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者)のうち、調査協力に同意した者640人(回収率44.5%)とした。調査時、年齢が20歳以上の者は388人であったところ、その性別は、男性335人、女性49人、不詳4人であり、平均年齢(不詳の者を除く。)は、全体43.2歳、男性42.9歳、女性45.4歳であった。また、調査時、年齢が20歳未満の者は252人であったところ、その性別は、男子209人、女子39人、不詳4人であり、平均年齢(不詳の者を除く。)は、全体17.9歳、男子17.8歳、女子18.0歳であった。
(3) 少年鑑別所入所者
令和3年1月1日から同月29日までの間に、全国の少年鑑別所に観護措置により入所した少年(観護令状により入所し、同期間に事件が家庭裁判所に受理された者を含む。)219人のうち、調査協力に同意した者184人(回収率84.0%)とした。性別は、男子164人、女子16人、不詳4人であり、平均年齢(不詳の者を除く。)は、全体17.2歳、男子17.3歳、女子16.4歳であった。

表1 調査対象者の属性等


2 調査及び分析方法
(1) 調査方法
無記名の自記式質問調査票(「生活意識と価値観に関する調査」)により実施した。今回の調査に使用した調査票は、法務総合研究所が、平成2年、10年、17年及び23年に非行少年及び若年犯罪者を対象に実施した調査の質問項目をベースに、居住状況や就労状況等の質問事項を新たに追加した合計39の質問から成る。調査は、調査対象者の協力意思を確認後に実施し、別途、調査対象者の罪名・非行名、刑事施設への入所回数・保護処分歴等の基本的情報を前記各施設の職員の回答により確認した。
(2) 分析方法
ア 年齢層の違いによる比較
調査対象者を年少少年(16歳未満)、中間少年(16歳以上〜18歳未満)、年長少年(18歳以上〜20歳未満)、20〜29歳、30〜39歳、40〜49歳、50〜64歳及び65歳以上の年齢層に分類し、分析を行った。
イ 犯罪・非行類型の違いによる比較
犯罪者(刑事施設入所者及び保護観察対象者(20歳以上の者)をいう。以下同じ。)と非行少年(少年鑑別所入所者及び保護観察対象者(少年)をいう。以下同じ。)を分け、法務総合研究所において類型化した重大事犯類型、粗暴犯類型、窃盗事犯類型、詐欺事犯類型、性犯類型、薬物事犯類型及び交通事犯類型(表2参照)の類型に分類し、分析を行った。本稿ではそのうち犯罪者についての分析結果を取り上げる。
ウ 犯罪・非行の進度の違いによる比較
犯罪者は初入者・再入者別、非行少年は保護処分歴の有無別により分析を行った。本稿では、そのうち犯罪者についての分析結果を取り上げる。
なお、犯罪の進度については、過去に刑の執行を受けるために刑事施設に入所したことがある者を「再入者」、過去に刑の執行を受けるために刑事施設に入所したことがない者を「初入者」と定義している。
エ 前回までの調査との比較
質問項目等に相違があるため、全ての項目についてではないものの、今回の調査対象者のうち、少年鑑別所入所者について、調査年別に前回までの調査(平成2年調査、10年調査、17年調査及び23年調査)との比較を行った。

表2 犯罪・非行の類型一覧


3 調査結果
(1) 年齢層の違いによる比較
ア 周囲の環境に対する意識について
家庭生活に対する満足度」及び「友人関係に対する満足度」では、少年(年少少年、中間少年及び年長少年をいう。以下同じ。)は、「満足」と回答する者の構成比が高い傾向が見られ、いずれも7割以上であった。一方、年齢層が上がるにつれて、「満足」の構成比が低くなる傾向にあった。
「悩みを打ち明けられる人」では、いずれの年齢層も、「同性の友達」の該当率が高い傾向にあり、65歳以上の者(以下「高齢者」という。)を除く年齢層で「母親」の該当率が高い傾向にあるところ、特に少年は、それらに加え、「父親」や「恋人」といった家族や身近な存在の該当率が高かった。また、「誰もいない」の該当率は、20歳以上で年齢層が上がるにつれて高くなっており、高齢者では2割を超えていた。
「学校生活に対する意識」のうち、「同級生から理解されていた」について、「あてはまる」と回答した者の構成比は、少年はいずれも7割を超えているのに対し、20歳以上では5〜6割台にとどまっていた。
「就労に対する意識」のうち、「汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい」に「そう思う」と回答した者の構成比は、40歳未満の者において高い傾向にあり、特に、20〜29歳の者(以下「若年者」という。)が5割を超え、最も高かった。
「地域社会に対する意識」のうち、「地域の人は、困ったときに力になってくれる」について、「あてはまる」と回答した者の構成比は、高齢者(53.7%)が最も高い一方、30〜39歳の者(以下「30歳代の者」という。)(20.7%)が最も低かった。また、「社会に対する満足度」は、年齢層によるばらつきが大きいところ、30歳代の者は、「満足」の構成比が15.9%と顕著に低く、同年齢層の不満の理由を見ると、約8割の者が、「金持ちと貧乏な人との差が大きすぎる」、5割以上の者が、「まじめな人がむくわれない」と回答していた。
イ 自分に関する意識について
「態度・価値観」のうち、「自分のやりたいことをやりぬくためには、ルールを破るのも仕方がないことだ」について、「賛成」と回答した者の構成比は、若年者(18.2%)が最も高く、高齢者(3.7%)が最も低かった。
「自己意識」のうち、「心のあたたまる思いが少ないという感じ」では、少年は、いずれも7割以上が「ない」と回答しているのに対し、高齢者は、7割以上が「ある」と回答していた。
ウ 犯罪・非行に対する意識について
「人々が犯罪・非行に走る原因」及び「自らの再犯・再非行の原因」を見ると、いずれの年齢層も、前者では「自分自身」、後者では「自分の感情や考え方をうまくコントロールできなかったこと」及び「自分が非行や犯罪をする原因が分かっていたが、対処できなかったこと」の該当率が高い傾向にあった。一方、「人々が犯罪・非行に走る原因」では、他の年齢層と比べ、中間少年及び年長少年は「友達・仲間」の構成比が高く、若年者は「その他」の構成比が他の年齢層と比べて高かった。また、「自らの再犯・再非行の原因」では、少年は「非行や犯罪をする仲間との関係が続いたこと」及び「まじめな友達が少なかった・いなかったこと」の該当率が高く、若年者は「困ったときの相談相手や援助してくれる人が周りにいなかったこと」及び「問題にぶつかるともうだめだとあきらめたりしていたこと」の該当率が高かった。
「心のブレーキ」を見ると、「父母のこと」の構成比は、少年で高かった。20歳以上は、年齢が上がるにつれて「父母のこと」の構成比が低くなるとともに、「社会からの信用を失うこと」の構成比が高くなり、高齢者(19.3%)では総数(10.4%)の約2倍であった。
(2) 犯罪類型の違いによる比較
ア 周囲の環境に対する意識について
「家庭生活に対する満足度」を見ると、粗暴犯類型、性犯類型及び交通事犯類型の「満足」の構成比が高い傾向が見られ、いずれも6割以上が「満足」と回答している。他方、「不満」の構成比は、重大事犯類型(20.3%)及び窃盗事犯類型(16.4%)で、他の類型より高かった。「友人関係に対する満足度」では、「満足」の構成比が、粗暴犯類型(57.4%)、詐欺事犯類型(63.9%)及び交通事犯類型(66.7%)で高い傾向が見られる一方、「不満」の構成比は、重大事犯類型(12.9%)及び性犯類型(16.2%)で他の類型より高かった。
「悩みを打ち明けられる人」は、いずれの犯罪類型も「同性の友達」や「母親」の該当率が高い傾向にあり、詐欺事犯類型は「同性の友達」、性犯類型は「母親」や「父親」、薬物事犯類型は「配偶者」や「先輩」の該当率がそれぞれ特に高かった。「誰もいない」の該当率は、窃盗事犯類型(21.3%)が最も高く、重大事犯類型(18.8%)が次に高かった。
「学校生活に対する意識」のうち、「学校に行くのがいやだった」に「あてはまる」と回答した者及び「同級生から理解されていた」に「あてはまらない」と回答した者の構成比は、重大事犯類型及び粗暴犯類型が他の類型より高く、いずれも5割程度であった。「就労に対する意識」のうち、「汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい」に「そう思う」と回答した者の構成比は、粗暴犯類型(51.1%)が最も高く、重大事犯類型、詐欺事犯類型及び薬物事犯類型も4割を超えていた。
「地域社会に対する意識」のうち、「地域の人は、困ったときに力になってくれる」について、「あてはまる」と回答した者の構成比は、性犯類型(18.4%)が顕著に低く、重大事犯類型及び詐欺事犯類型も3割に満たなかった。「社会に対する満足度」は、交通事犯類型の「満足」の構成比が4割弱と他の類型と比べて顕著に高いのに対し、重大事犯類型(17.7%)及び性犯類型(18.4%)が低く、両類型は、「不満」の構成比も高かった(それぞれ22.6%、21.1%)。
イ 自分に関する意識について
「態度・価値観」のうち、「悪い者をやっつけるためならば、場合によっては腕力に訴えてもよい」及び「自分のやりたいことをやりぬくためには、ルールを破るのも仕方がないことだ」について、「賛成」と回答した者の構成比は、粗暴犯類型(それぞれ23.4 %、14.9%)及び詐欺事犯類型(それぞれ24.5%、18.4%)が他の類型と比べて高かった。
「自己意識」のうち、「心のあたたまる思いが少ないという感じ」については、重大事犯類型、粗暴犯類型及び窃盗事犯類型の6割以上が「ある」と回答しており、重大事犯類型については、「世の中の人々は互いに助け合っている感じ」についても「ない」と回答した者の構成比が5割弱と、最も高かった。また、「自分は意志が弱いという感じ」について、「ある」と回答した者の構成比は、重大事犯類型(84.4%)が最も高く、窃盗事犯類型及び薬物事犯類型も8割を超えていた。
「自分の生き方に対する満足度」では、「満足」の構成比は、交通事犯類型(41.7%)で高い一方、重大事犯類型(15.6%)、窃盗事犯類型(17.5%)及び薬物事犯類型(17.9%)では2割に満たなかった。
ウ 犯罪・非行に対する意識について
「自らの再犯・再非行の原因」を見ると、いずれの犯罪類型も「自分の感情や考え方をうまくコントロールできなかったこと」の該当率が高い傾向にあり、性犯類型を除くと、「自分が非行や犯罪をする原因が分かっていたが、対処できなかったこと」の該当率も高かった。一方、「処分を軽く考えていたこと」は詐欺事犯類型(33.3%)及び交通事犯類型(36.1%)、「非行や犯罪をする仲間との関係が続いたこと」は薬物事犯類型(38.7%)、「困ったときの相談相手や援助してくれる人が周りにいなかったこと」は窃盗事犯類型(30.2%)及び性犯類型(30.0%)、「問題にぶつかるともうだめだとあきらめたりしていたこと」は詐欺事犯類型(33.3%)及び窃盗事犯類型(28.7%)、「学業や仕事を続けられなかったり、仕事が見つからなかったこと」は重大事犯類型(24.2%)及び窃盗事犯類型(22.8%)、「自分が落ち着いて生活できる場所がなかったこと」、「いまさら努力してもどうにもならないと思っていたこと」及び「自分が非行や犯罪をする原因が分からなかったこと」は性犯類型(それぞれ30.0%、25.0%、20.0%)が、それぞれ他の類型と比べて高かった。
「心のブレーキ」を見ると、「父母のこと」、「子のこと」、「配偶者のこと」及び「兄弟姉妹を含めた家族のこと」を合わせた構成比は、詐欺事犯類型、性犯類型及び交通事犯類型で高く、いずれも7割を超えていた。また、「社会からの信用を失うこと」は、重大事犯類型(6.5%)が最も低く、総数(12.3%)の約5割であり、粗暴犯類型(25.0%)が最も高かったが、同類型では、同時に「特に心のブレーキになるものはない」(10.7%)も最も高く、総数(4.5%)の2倍以上であった。
(3) 犯罪の進度の違いによる比較
ア 周囲の環境に対する意識について
「家庭生活に対する満足度」及び「友人関係に対する満足度」における「満足」の構成比は、いずれも初入者(それぞれ59.3%、53.6%)が再入者(それぞれ44.8%、41.4%)を上回り、「不満」は、いずれも再入者(それぞれ17.3%、12.9%)が初入者(それぞれ10.7%、9.1%)を上回っていた。また、「悩みを打ち明けられる人」について、初入者、再入者ともに約4割が「同性の友達」を挙げ、最も高い一方、「母親」や「父親」は初入者の方が高く、「配偶者」や「誰もいない」は再入者の方が高かった。
「就労に対する意識」について、「汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい」及び「仕事について夢や目標を持っている」に「そう思う」と回答した者の構成比は、初入者(それぞれ41.2%、74.0%)、再入者(それぞれ43.8%、73.0%)ともに同程度であった。
イ 自分に関する意識について
「自分の生き方に対する満足度」における「満足」の構成比は、初入者(23.9%)が再入者(16.6%)を上回り、「不満」の構成比は、再入者(41.1%)が初入者(35.3%)を上回っていた。
ウ 犯罪・非行に対する意識について
「自らの再犯・再非行の原因」を見ると、初入者、再入者ともに、「自分の感情や考え方をうまくコントロールできなかったこと」及び「自分が非行や犯罪をする原因が分かっていたが、対処できなかったこと」の該当率が高い一方、再入者は、「非行や犯罪をする仲間との関係が続いたこと」の該当率が初入者と比べて高かった。
「心のブレーキ」を見ると、「父母のこと」の構成比は、初入者(21.0%)の方が再入者(18.4%)よりも高い一方、「配偶者」の構成比は再入者(15.9%)の方が初入者(12.0%)よりも高かった。「これからの生活で大切なもの」については、刑事施設への入所歴がない20歳以上の保護観察対象者(以下「入所歴なしの者」という。)における「保護観察官・保護司とよく相談する」の該当率が、6割を超えて高かった点が特徴的である。
(4) 前回までの調査との比較
ア 周囲の環境に対する意識について
「家庭生活に対する満足度」の「満足」の構成比は、平成10年調査以降一貫して上昇しており、今回の調査では8割近くに達した。「友人関係に対する満足度」も、同様に一貫して上昇しており、今回の調査では8割を超えた。「社会に対する満足度」も、平成17年調査以降一貫して上昇しており、今回の調査では4割を超えた。
「就労に対する意識」のうち、「汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい」に「そう思う」と回答した者の構成比は、前回(平成23年)調査と比較して高くなった。
イ 自分に関する意識について
「態度・価値観」のうち、「悪い者をやっつけるためならば、場合によっては腕力に訴えてもよい」に「賛成」と回答した者の構成比は、平成10年調査以降、一貫して低下しており、今回の調査では約3割にとどまった。「自分のやりたいことをやりぬくためには、ルールを破るのも仕方がないことだ」も、「賛成」は低下傾向にあり、今回の調査では初めて1割を下回った。
「自己意識」のうち、「心のあたたまる思いが少ないという感じ」に「ある」と回答した者の構成比は、平成10年調査以降、一貫して低下している。
ウ 犯罪・非行に対する意識について
「人々が犯罪・非行に走る原因」を見ると、「自分自身」と回答した者の構成比は、平成23年調査以降顕著に上昇しており、今回の調査では約7割に達した。一方、「家族(親)」及び「友達・仲間」は、低下傾向にあり、今回の調査ではそれぞれ5.7%及び19.4%であった。

4 調査結果を踏まえた処遇の在り方等
(1) 年齢層の違いによる特徴を踏まえた処遇の在り方等
非行少年は、家庭生活や友人関係の満足度が高く、同級生との関係において疎外感を感じることも少なく、心あたたまる思いを持っていることが示唆された。加えて、少年鑑別所入所者の家庭生活、友人関係、社会に対する満足度が前回までの調査と比べて上昇していることも踏まえると、現代の非行少年は、周囲の環境に特段不満を抱いているようには見受けられない。また、悩みを打ち明けられる人として友人とともに親を挙げる者や、心のブレーキとして父母のことを挙げる者の割合が高いなど、親の存在や影響力が大きく、それらが重要な社会資源となり得ることが示唆される。
他方、自らの再非行の原因について、不良交友を挙げる者の割合が高いが、それ以上に自己統制の問題と考える者の割合が高いことや、少年鑑別所入所者において、人々が犯罪に走る原因を自分自身と考える者の割合が上昇していることなども踏まえれば、自らの非行を自己責任と考える傾向の高まりも見て取れる。
これらに鑑みると、家族による監督・監護の重要性、必要性が大きくなっていると言える反面、不良交友に身を置く中で、家族の存在が非行の抑制要因として十分機能しないまま非行に及ぶ特徴が見受けられる。もっとも、近年、共働き世帯数及びひとり親世帯数の増加傾向にあるなど家族関係が変化していることを踏まえると、家族機能の強化に加え、それを補完する支援の必要性がより一層高まっていると考えられる。
 そこで、再非行防止策として、少年鑑別所における地域援助業務、警察による少年サポートセンターにおける事業等の活用促進や、更生保護女性会、BBS 会等のボランティア、協力雇用主等による支援の輪の一層の拡大・充実により、学校・職場を初めとする地域のバックアップ体制を強化することが考えられる。加えて、不良交友の影響も大きいことが示唆されたことから、不良交友からの離脱に向け、就労等の居場所の確保に重点を置いた取組を更に進めていく必要がある。

若年者は、就労に対する安逸的な構えや、規範より自己の欲求を優先させる傾向のある者が一定数認められることから、健全な就労観を養わせつつ、就労を確保・維持し、社会の一員としての自覚を促すことが必要と考えられる。また、自らの再犯の原因について、困ったときに周囲に相談相手がいないことや適切に問題と向き合えなかったと感じている者の割合が他の年齢層と比べて高いことが特徴的であり、人々が犯罪に走る原因についてその他を挙げる者の割合も他の年齢層と比べて高いなど、若年者は、個々人で抱える問題の質が多様化し、それに対処することが困難な状況が見受けられる。そうした問題に対する相談体制の確保や、個々の悩みに応じたきめ細やかな援助の必要性が高いと言える。
30歳代の者は、社会に対する満足度が顕著に低く、経済格差やまじめな人がむくわれないと感じている者が一定数いることが明らかとなった。地域社会とのつながりを感じ、より一層の支援を得ることにつなげることが再犯防止に有効と考えられ、社会内処遇においては、地域におけるボランティア活動等への参加を促すことも考えられる。
高齢者は、他の年齢層と比べて、家庭生活及び友人関係に対する満足度が低い傾向にあり、悩みを打ち明けられる人がいない割合も高いなど、身近にサポートしてくれる存在が得られにくいことがうかがえる。その一方で、困ったときに地域の人が力になってくれると考える割合や社会からの信用を失うことを心のブレーキと考えている割合が高く、社会とのつながりが資源になることが考えられる。心のあたたまる思いが少ないと感じている者の割合が高いことも念頭に置き、社会から孤立させることのないよう、福祉との連携や、地域支援の活用に一層配意することが有用と考えられ、刑事施設や保護観察所における特別調整の活用も期待される。
(2) 犯罪類型の違いによる特徴を踏まえた処遇の在り方等
ア 重大事犯類型
家庭生活、友人関係、社会に対して不満の者の割合が高いことが特徴的であり、学校生活で同級生から理解されていた感覚に乏しい者が多く、悩みを打ち明けられる人として同性・異性の友達を挙げた者が少ないなど、交友関係において安定した交流を図りにくいことがうかがえる。また、悩みを打ち明けられる人が誰もいない割合も高く、心があたたまる思いや世の中の人々は互いに助け合っているという感覚に乏しい者の割合が高いことから、身近な家族や交友関係のみならず、地域社会においても孤立している状況がうかがえ、社会からの信用を失うことが心のブレーキとして機能しにくい様子も見受けられる。
また、自分の生き方への満足度が低く、自分は意志が弱いと感じている割合が高いなど、自己肯定感の乏しさもうかがえる。自らの再犯・再非行の原因については、半数以上の者が、自己統制の問題を挙げていたことに加え、学業や仕事の継続や就労の失敗にあるとする者の該当率が、他の類型と比べて高いという特徴が見受けられる。
施設内処遇の期間が長くなる傾向にあることも踏まえ、安定した対人関係の構築や就労の確保及び維持のための指導・支援を行い、身近な対人関係のみならず、社会の中でのつながりを感じられるようにしていくことが重要と考えられる。
イ 粗暴犯類型
家庭生活や友人関係に対する満足度が他の類型より高い傾向にあり、身近な周囲の者との関係は悪くないことがうかがえる。一方、暴力を許容する態度・価値観や規範より自己の欲求を優先させる傾向の強さもうかがえ、心のブレーキが特にない者の割合が高いことも特徴的である。
こうしたことから、暴力防止プログラム等により、暴力につながりやすい考え方の変容や暴力の防止に必要な知識の習得に努めさせるとともに、暴力により生じる具体的な結果やデメリットに目を向けさせ、心のブレーキを複数持たせることで、自己統制力を強化していくことが有効と考えられる。
ウ 窃盗事犯類型
家庭生活や友人関係に対する満足度は、他の類型に比べて低い傾向にあり、心のあたたまる思いが少ない者の割合や、悩みを打ち明けられる人が誰もいない割合も高い。また、自分は意志が弱いと感じる者の割合が高く、自らの再犯・再非行の原因について、自己統制の問題や犯罪の原因に対処できなかったことに加え、困ったときの相談相手や援助してくれる人が周りにいなかったこと及び問題にぶつかるとあきらめていたことを挙げる者の割合も高い。
このように、社会内に利用できる資源が限られており、何か問題にぶつかると行き詰まりやすいという特性が見られることから、適切に周囲を頼るスキルを獲得させるとともに、保護観察官や保護司等の指導監督・補導援護に加え、継続的に利用できる相談・支援機関につながるための支援も必要であると考えられる。
エ 詐欺事犯類型
友人関係に対する満足度が高く、悩みを打ち明けられる人として、同性の友達を挙げる者の割合が高い一方、地域の人は、困ったときに力になってくれるとする感覚に乏しい者の割合が高い。態度・価値観に関しては、暴力を許容する態度・価値観や、規範より自己の欲求を優先させるような自分本位な特徴が見受けられる。また、安逸な就労観が認められること、自らの再犯・再非行の原因について、処分を軽く考えていたことや、問題にぶつかるとあきらめていたこと等の該当率が高いことなども併せて見ると、物事への安易な態度・価値観もうかがえる。
詐欺事犯類型においては、不安定な生活に起因した無銭飲食等の者や、近時、若年者の関与が社会問題となっている特殊詐欺の者も相当数いると考えられるため、まずは安逸的な態度・価値観の是正や健全な就労観を養うとともに、生活を安定させるための指導・支援が必要と言える。特殊詐欺に関しては、刑事施設や保護観察所での処遇等において、特性に応じた指導を行うとともに、特殊詐欺を実行する犯罪組織において、他の役割よりも検挙される可能性が高い「受け子・出し子」については、令和3年版犯罪白書の特別調査において、実際に報酬を得た者は半分に満たず,報酬を得られたとしても高額な報酬を得た者はまれであり、その約半数が全部実刑となっているという実態が明らかとなったことも周知し、安易に及んだ行為が、被害者はもちろんのこと、自身にとっても重大な結果をもたらすことを認識させることが肝要であると言える。
オ 性犯類型
家庭生活には満足しており、悩みを打ち明けられる人には母親や父親を挙げる者の割合が高く、心のブレーキでも家族を挙げる者の割合が高い一方、友人関係を不満とする者の割合が高いことや、地域の人は、困ったときに力になってくれるとする感覚に乏しい者の割合が高いこと、社会に対して不満とする者の割合が高いことから、家族とは親密で良好な関係を築いている一方、それ以外の者との関係においては、不満を抱きやすい面がうかがえる。また、自分の犯罪の原因が分からないとする者の割合も他の類型に比べて高く、落ち着いて生活できる場所を見いだせないことを再犯・再非行の原因として挙げる者の割合も、他の類型に比べて顕著に高いという特徴が見受けられる。
そのため、性犯類型においては、対人スキルの向上を念頭に置いた処遇を実施するとともに、刑事施設における特別改善指導や保護観察における専門的処遇プログラム等により、性犯罪に結び付くおそれのある認知の偏り、自己統制力不足等の問題点を認識させるための処遇のより一層の充実が期待される。また、家族関係を満足としながらも、自分が落ち着いて生活できる場がなかったとしていることには矛盾が感じられ、かつ、家庭外における人々とのつながりの希薄さもうかがえることから、自分の犯罪の原因と主体的に向き合わせながら、保護観察においては、地域の利用できる資源等も活用し、社会参加する機会を通して自分の居場所を確保することが、再犯防止のための手立てになると考えられる。
カ 薬物事犯類型
悩みを打ち明けられる人として、配偶者や先輩を挙げる者の割合が高く、不良交友関係の継続を再犯・再非行の原因として挙げている者の割合が、他の類型と比べて顕著に高いという特徴が見受けられる。また、自分の生き方に満足している者の割合が低く、自分は意志が弱いと回答した者の割合が高いなど、自己肯定感の乏しさがうかがえる。
令和2年版犯罪白書の特別調査では、覚醒剤の入手先として、密売人以上に知人を挙げる者が多く、交際相手、配偶者を挙げる者も一定数いることが明らかとなっている。覚醒剤事犯者については、親密な他者からの影響が大きいことにも鑑み、その者らとの関係を見直すとともに、非行や犯罪をする仲間から距離を置くためにも、自助グループ等への参加や地域の病院、保健機関等につなげるなどして、受け入れられ、自分らしくいられる居場所を見いださせるなどし、長期的に支援していくことが望まれる。
キ 交通事犯類型
家庭生活、友人関係、社会及び自分の生き方に対する満足度が、いずれも他の類型と比べて高く、社会生活に対して肯定的な回答をしている者の割合が高い。自らの再犯・再非行の原因については、処分を軽く考えていたことを挙げる者の割合が高いという特徴が見受けられる。
そのため、交通事犯類型においては、刑事施設における交通安全指導等を通じて、運転者の責任と義務を自覚させ、罪の重さを認識させることなどが必要であり、処分を真摯に受け止めるよう働き掛けることが重要と考えられる。
(3) 犯罪の進度の違いによる特徴とそれを踏まえた処遇の在り方等
家庭生活、友人関係及び自分の生き方に満足している者の割合は、いずれも初入者が再入者より高く、悩みを打ち明けられる人がいない割合も、初入者の方が低いなど、全般的に初入者の方が周囲や自分に満足していることがうかがえる。
また、就労観については、初入者再入者ともに多くの者が仕事に対する前向きな姿勢も持っていることが明らかとなった。
自らの再犯・再非行については、入所歴なしの者では、困ったときの相談先や相談につながる難しさがうかがえる一方、再入者では、不良交友の影響があることが示唆された。
そうすると、入所歴なしの者や初入者は、保護観察官・保護司等の指導に従おうとする姿勢も見受けられるため、助言・指導に応じようとする姿勢を支持しつつ、適切に周囲に頼る方法を習得させるとともに利用できる相談機関等を紹介するなどし、未然に再犯防止の策を複数持たせていくことが望まれる。
他方、再入者は、健全な就労生活や交友関係から疎遠となっている状況も見受けられ、堅実な就労観の醸成を図るとともに、矯正や更生保護において開発されてきた各種アセスメントツール等も活用し、その者の特性を十分に配意しながらの処遇の一層の充実化が求められる。

第3 まとめ
 本稿では、令和4年版犯罪白書における特集の一つである「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観」の中で、特に、今回の調査結果を踏まえた分析・検討を行い、犯罪者及び非行少年の処遇の在り方についても考察した。
 再犯・再非行防止対策の更なる充実強化が求められている中で、令和4年6月に成立した刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)により、懲役及び禁錮を廃止して拘禁刑が創設され、同刑に処せられた者の改善更生を図るため、必要な指導を行うことができるとされた。今回の調査では、犯罪者・非行少年は、年齢層の違い、犯罪・非行類型の違い及び犯罪・非行の進度の違いによって、それぞれ異なる特性があることも明らかとなり、個別の特性を踏まえた指導及び支援の必要性、重要性が裏付けられた。
 近時、我が国は、少子高齢化、共働き世帯数やひとり親世帯数の増加等の家族関係の変化、SNS 等の通信手段の普及・利用の促進など、国民生活の変化が進んでおり、再犯・再非行防止対策の更なる充実強化を図るためには、犯罪者・非行少年を取り巻く環境の変化を踏まえながら、犯罪・非行に至る原因、経緯、処遇の必要性について、最新の統計や犯罪・非行の動向等を分析するとともに、生活意識や価値観といった主観面を含めた多角的な検討を行うことにより、様々な特性ごとの特徴を把握することが不可欠と考えられる。今回の特集が、犯罪者・非行少年の個々の特性を踏まえたきめ細やかな指導・支援を進めるための一助となることを期待している。

(東京拘置所処遇部作業専門官 前法務省法務総合研究所研究部室長研究官)
犯罪白書一覧へ戻る