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コロナ禍の影響を含む最近の犯罪動向と犯罪者の処遇−令和4年版犯罪白書から−
村橋 摩世
はじめに
 犯罪白書は、犯罪の防止と犯罪者の改善更生を軸として、刑事政策の策定とその実現に資するため、犯罪動向と犯罪者の処遇の実情を分析・報告している。令和4年版犯罪白書も、統計資料等に基づき、第1編から第6編(ルーティーン部分)において、令和3年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観・分析した。また、第7編及び第8編において二本の特集を組み、第7編の「新型コロナウイルス感染症と刑事政策」では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における犯罪動向や同感染症が刑事司法の各分野に与えた影響等を概観・分析するとともに、今後の犯罪予防・犯罪者処遇の在り方について考察を行い、第8編の「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観」では、生活意識や価値観も含めた特別調査の結果等に基づき、犯罪・非行の原因や立ち直りのためのニーズ等を分析し、今後の特性に応じた効果的な処遇・支援の在り方、再犯防止対策の在り方等について検討した。
 このうち、本稿においては、ルーティーン部分及び「新型コロナウイルス感染症と刑事政策」について、その要点を紹介する(法令名・用語・略称については、特に断りのない限り本白書で用いられたものを使用するほか、元号の記載については直前の元号と同様である場合は記載を省略する。)。

1 最近の犯罪動向
(1) 刑法犯
ア 認知件数
令和3年における刑法犯の認知件数は、56万8,104件(前年比4万6,127件(7.5%)減)であった。刑法犯の認知件数は、平成14年に戦後最多の約285万件に達したが、15年以降、毎年減少し続け、27年以降、戦後最少を毎年更新中である。認知件数の減少は、刑法犯の7割近くを占める窃盗の認知件数が大幅に減少し続けたことに伴うものである。窃盗を除く刑法犯の認知件数も、17年以降、減少し続けており、令和3年は18万6,335件であった(図1(白書1 - 1 - 1 - 1 図)参照)。
罪名別の構成比では、窃盗(67.2%)が最も高く、次いで、器物損壊(10.0%)、詐欺(5.9%)、暴行(4.7%)の順であった。
イ 検挙人員と検挙率
令和3年における刑法犯検挙人員は、17万5,041人(前年比4.1%減)であった。罪名別の構成比では、窃盗(48.2%)が最も高く、

図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移


次いで、暴行(13.7%)、傷害(10.0%)、詐欺(5.9%)の順であった。刑法犯検挙人員は、平成16年(約39万人)をピークとして減少し続けている。
令和3年における刑法犯の検挙率は、46.6%(前年比1.1pt 上昇)であった。刑法犯の検挙率は、平成13年に戦後最低(19.8%)を記録したが、14年から回復傾向にあり、一時横ばいで推移した後、26年以降再び上昇している。
ウ 主要な犯罪の動向
(ア) 窃盗
窃盗の認知件数は、戦後最多を記録した平成14年をピークに15年から減少に転じ、26年以降は毎年戦後最少を更新しており、令和3年は38万1,769件(前年比8.5%減)であった。検挙率は、平成14年から上昇に転じ、令和3年は42.2%(同1.3pt 上昇)であった。手口別に見ると、認知件数では自転車盗(構成比27.9%)が最も多く、検挙件数では万引き(同39.4%)が最も多い。なお、3年の認知件数を見ると、特殊詐欺に関係する手口である払出盗が前年比6.0%減、職権盗が同21.5%減といずれも減少した。
(イ) 殺人
殺人の認知件数は、平成16年から28年までは減少傾向にあり、その後はおおむね横ばいで推移していたが、令和3年は戦後最少の874件(前年比55件(5.9%)減)であった。検挙率は、安定して高い水準(3年は101.0%)にある。
(ウ) 強盗
強盗の認知件数は、平成16年から減少傾向にあり、令和3年は1,138件(前年比259件(18.5%)減)と戦後最少を更新した。検挙率は、平成17年から上昇傾向にあり、令和3年は99.3%(同2.1pt上昇)であった。
(エ) 強制性交等・強制わいせつ
強制性交等(刑法改正(平成29年7月施行)前は強姦・準強姦であり、前記改正後は強姦、準強姦、準強制性交等及び監護者性交等を含む。)の令和3年における認知件数は1,388件(前年比56件(4.2%)増)であり、検挙件数は1,330件(同33件(2.5%)増)であった。検挙率は、平成27年以降、いずれの年も90%台と高水準で推移しているところ、令和3年は95.8%(同1.6pt 低下)であった。
強制わいせつ(前記改正前は準強制わいせつを含み、改正後は準強制わいせつ及び監護者わいせつを含む。)の令和3年における認知件数は4,283件(前年比129件(3.1%)増)であり、検挙件数は3,868件(同102件(2.7%)増)であった。検挙率は、平成15年以降上昇傾向にあるところ、令和3年は前年からわずかに低下し、90.3%(同0.3pt 低下)であった。
(オ) 傷害・暴行・脅迫
傷害の認知件数は、平成16年から減少傾向にあり、令和3年は1万8,145件(前年比818件(4.3%)減)であった。暴行の認知件数は、平成18年以降おおむね高止まりの状況にあったが、令和元年から減少しており、3年は2万6,436件(同1,201件(4.3%)減)であった。脅迫の認知件数は、平成24年に大きく増加し、同年以降は3,000件台で推移しており、令和3 年は3,893件( 同115件(3.0%)増)であった。いずれの検挙率も、平成16年前後からおおむね上昇傾向にある。
(カ) 詐欺
詐欺の認知件数は、平成24年から増加傾向を示し、その後、30年から再び減少したが、令和3年は前年から増加し、3万3,353件(前年比2,885件(9.5%)増)であった。検挙率は、平成27年以降は上昇傾向にあるが、令和3年は前年からわずかに低下し、49.6%(同0.6pt 低下)であった。
(2) 特別法犯
令和3年における特別法犯の検察庁新規受理人員は、29万652人(前年比5.5%減)であった。このうち、道路交通法違反が20万5,354人であり、特別法犯全体の70.7%を占める。
道交違反(道路交通法違反及び保管場所法違反をいう。)を除く特別法犯の検察庁新規受理人員は、平成19年(11万9,813人)をピークとして減少傾向にあり、令和3年は8万4,482人(前年比4.4%減)であった。罪名別で見ると、覚醒剤取締法(構成比15.2%)、大麻取締法(同9.7%)、軽犯罪法(同9.0%)、廃棄物処理法(同9.0%)、銃刀法(同6.4%)、入管法(同6.2%)の各違反の順であった。大麻取締法違反以外はいずれも前年より減少したが、同法違反は前年比13.4%増であった。

2 犯罪者の処遇
(1) 検察
令和3年における検察庁新規受理人員の総数は、76万6,449人(前年比4.6%減)であった。罪種別の構成比を見ると、過失運転致死傷等及び道交違反がその6割強を占めている。3年における検察庁終局処理人員は77万4,522人(同4.1%減)であり、その内訳は、公判請求7万6,548人、略式命令請求16万7,877人、起訴猶予42万9,589人、その他の不起訴6万2,507人、家庭裁判所送致3万8,001人であった。公判請求人員は、平成17年から減少傾向にあり、令和3年は前年より3.7%減少した。
(2) 裁判
裁判確定人員は、平成12年(98万6,914人)から毎年減少し、令和3年は21万3,315人(前年比3.5%減)であり、最近10年間でおおむね半減している。有期懲役判決が確定した人員(4万3,556人)について、全部執行猶予率(有期懲役人員に占める全部執行猶予人員の比率)は61.8%であった。また、無罪確定者は、94人(裁判確定人員総数の0.044%)であった。
令和3年の裁判員裁判対象事件の第一審における判決人員は、904人であり、そのうち、死刑が2人、無期懲役が16人、無罪が9人であった。また、有期懲役のうち、163人が全部執行猶予(うち91人が保護観察付)であった。
(3) 矯正
入所受刑者の人員は、平成19年から減少し続け、令和3年は1万6,152人(前年比2.8%減)と戦後最少を更新した。3年末現在の刑事施設における被収容者の収容人員は、4万4,545人(前年末比4.3%減)であり、収容率(既決)は55.1%(同2.6pt 低下)であった。
令和3年の入所受刑者の罪名別構成比では、男女共に、窃盗が最も高く(男性34.1%・女性47.5%)、次いで、覚醒剤取締法違反(男性24.4%・女性32.5%)、詐欺(男性8.9%・女性7.8%)の順であった。入所受刑者の年齢層別構成比を見ると、女性は、男性と比べて高齢者の構成比が高かった(男性13.2%・女性19.7%)。
令和3年における出所受刑者(1万8,667人)について、満期釈放又は一部執行猶予の実刑部分終了により出所した者の比率は、39.1%(前年比1.7pt 低下)であった。
(4) 更生保護
令和3年の保護観察開始人員は、仮釈放者(全部実刑者)9,740人(前年比2.5%減)、仮釈放者(一部執行猶予者)1,090人(同9.2%減)、保護観察付全部執行猶予者1,976人(同5.4%減)、保護観察付一部執行猶予者1,325人(同11.4%減)であった(いずれも事件単位の延べ人員)。
保護観察付全部執行猶予者の保護観察開始人員は、刑の一部執行猶予制度が開始された平成28年以降を見ると減少し続けており、令和3年の全部執行猶予者の保護観察率は6.7%(前年比0.3pt 低下)であった。

3 少年非行の動向と非行少年の処遇
 少年による刑法犯検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)は、平成16年以降減少し続けており、令和3年は2万399人(前年比9.5%減)であった。少年人口比(10歳以上の少年人口10万人当たりの刑法犯検挙人員)も、低下傾向が見られ、3年は186.5(同9.3%減)であった。少年による刑法犯検挙人員の罪名別構成比では、窃盗(51.9%)が最も高く、次いで、傷害(9.2%)、暴行(6.5%)であった。
 道交違反に係るもの以外の少年保護事件の家庭裁判所新規受理人員も、減少傾向にあり、令和3年は3万4,472人(前年比10.6%減)であった。少年鑑別所入所者の人員も、平成16年から減少し続け、令和3年は4,568人(同12.1%減)であった。
 少年院入院者の人員は、最近25年間では、平成12年(6,052人)をピークに減少傾向が続いており、令和3年は1,377人(前年比15.2%減)と昭和24年以降最少であった。また、令和3年の女子比は、8.6%(同0.2pt上昇)であった。
 保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付されている者)の保護観察開始人員は、平成11年以降減少し続け、令和3年は9,932人(前年比7.5%減)であった。少年院仮退院者の保護観察開始人員は、平成15年以降減少傾向にあり、令和3年は1,560人(同7.8%減)であった。

4 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇
(1) 交通犯罪
交通事故の発生件数と負傷者数は、いずれも平成17年から減少し続けており、令和2年はいずれも前年から大きく減少してそれぞれ30万9,178件(前年比18.9%減)、36万9,476人(同20.0%減)であったが、3年は、それぞれ30万5,196件(同1.3%減)、36万2,131人(同2.0%減)であった。死亡者数も、平成4年(1万1,452人)をピークとして減少傾向にあり、令和3年は2,636人(同203人減)と、前年に引き続き3,000人を下回り、昭和23年以降最少を更新した。
令和3年における危険運転致死傷の検挙人員は、694人(前年比5.2%減)であり、うち致死事件は45人(同3人増)であった。
令和3年における道交違反の取締件数は、557万936件(前年比3.6%減)であった。そのうち、送致事件(非反則事件として送致される事件)の取締件数は、平成12年から減少し続け、令和3年は20万7,299件(同5.3%減)であった。3年の送致事件を違反態様別に見ると、速度超過(構成比30.5%)、酒気帯び・酒酔い(同9.6%)、無免許(同9.1%)の順であり、酒気帯び・酒酔いは、前年よりも11.8%減少し(1万9,801件)、平成期最多であった平成9年(34万3,593件)の約17分の1となっている。なお、令和3年における妨害運転(妨害運転により著しい交通の危険を生じさせた場合の加重処罰規定を含む)の取締件数は、96件であった。
(2) 薬物犯罪
覚醒剤取締法違反(覚醒剤に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は、平成13年から減少傾向にあり、令和3年は7,970人(前年比7.9%減)であった。
大麻取締法違反(大麻に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は、平成6年(2,103人)と21年(3,087人)をピークとする波が見られた後、26年から8年連続で増加し、29年からは昭和46年以降における最多を記録し続けており、令和3年は5,783人(前年比9.9%増)であった(図2(白書4 - 2 - 1 - 4図)参照)。少年による大麻取締法違反の検挙人員も、同様に増加し続けており、3年は994人(同12.1%増)であった。
令和3年における覚醒剤の押収量は、998.7kg(前年比21.1%増)であった。

図2 大麻取締法違反等 検挙人員の推移(罪名別)


(3) 暴力団犯罪
暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の刑 法犯検挙人員は、減少傾向にあり、令和3年は6,875人、刑法犯検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は3.9%であった。罪名別では、詐欺(1,555人)、傷害(1,353人)、窃盗(1,008人)、暴行(676人)、恐喝(456人)の順に多く、全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は、恐喝(37.1%)、暴力行為等処罰法違反(35.0%)、賭博(29.6%)、逮捕監禁(25.4%)の順で高かった。
暴力団構成員等の特別法犯検挙人員も、減少傾向にあり、令和3年は4,860人、特別法犯検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は8.4%であった。罪名別では、覚醒剤取締法(2,985人)、大麻取締法(764人)、暴力団排除条例(92人)、銃刀法(90人)、風営適正化法(79人)の各違反の順で多く、全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率を見ると、暴力団対策法、暴力団排除条例の各違反は、いずれも100.0%であった。
(4) 財政経済犯罪
税法違反のうち、消費税法違反の検察庁新規受理人員は、金の密輸入事件の増加の影響もあり、平成28年から30年にかけて急増したが、同年に金の密輸入に対する抑止効果を高めるために関税法及び消費税法が改正され、翌年からは減少に転じているところ、令和3年は46人であり、最も多かった平成30年(274人)の約6分の1であった。金 融商品取引法違反の検察庁新規受理人員は、28年以降、令和2年(37人)を除いて50人前後で推移しており、3年は58人であった。証券取引等監視委員会による同法違反の告発は、8件・24人(法人を含む。)であった。
(5) サイバー犯罪
不正アクセス行為(不正アクセス禁止法11条に規定する罪)の認知件数は、同法が施行された平成12年以降、増減を繰り返しながら推移し、令和3年は1,516件(前年比46.0%減)であった。また、不正アクセス行為後の行為の内訳を見ると、「インターネットバンキングでの不正送金等」(構成比45.7%)が最も多く、次いで、「インターネットショッピングでの不正購入」(同23.0%)、「メールの盗み見等の情報の不正入手」(同11.5%)の順であった。
サイバー犯罪のうち、インターネットを利用した詐欺や児童買春・児童ポルノ禁止法違反等、高度情報通信ネットワークを不可欠な手段として利用した犯罪の検挙件数は、平成29年から5年連続で増加し、令和3年は1万1,051件(前年比27.0%増)であり、特に詐欺は前年より166.5%増加した。性的な事件の検挙件数について見ると、児童ポルノに係る犯罪は1,465件(同1.9%増)、青少年保護育成条例違反は952件(同6.0%減)であった。
(6) 児童虐待・配偶者からの暴力・ストーカー等に係る犯罪
刑法犯全体の検挙件数・検挙人員が平成17年から減少し続けているのに対し、児童虐待に係る事件(刑法犯等として検挙された事件のうち、児童虐待防止法2条に規定する児童虐待が認められたもの)の検挙件数・検挙人員は、26年以降大きく増加し、令和3年は2,174件(前年比1.9%増)・2,199人(同0.8%増)であり、それぞれ平成15年(212件、242人)と比べると約10.3倍、約9.1倍であった(図3(白書4 - 6 - 1 - 1図)参照)。

図3 児童虐待に係る事件 検挙件数・検挙人員の推移(罪名別)


配偶者からの暴力事案等の検挙件数について見ると、配偶者暴力防止法に係る保護命令違反の検挙件数は、平成27年以降減少傾向にあり、令和3年は69件(前年比7件減)であった。その一方で、他法令による検挙件数の総数は、平成23年以降増加傾向にあり、令和3年は8,634件(同68件減)と前年に引き続き減少したが、平成22年の約3.7倍であった。特に、暴行及び暴力行為等処罰法違反の検挙件数が大きく増加している。
ストーカー規制法による警告の件数は、平成30年から2,000件台で推移しており、令和3年は2,055件(前年比4.2%減)であった。同法による禁止命令等の件数は、平成29年から急増し、令和3年は1,671件(同8.3%増。うち緊急禁止命令等は808件)であった。ストーカー規制法違反の検挙件数は、平成24年から著しく増加し、30年以降も高止まりで推移しており、令和3年のストーカー規制法違反の検挙件数は937件(前年比4.9%減。平成23年の約4.6倍)、刑法犯及び特別法犯(ストーカー規制法を除く。)による検挙件数は1,581件(同4.2%増。同約2.0倍)であった。なお、令和3年におけるストーカー事案に関する相談等件数(ストーカー規制法その他の刑罰法令に抵触しないものも含む。)は、1万9,728件(前年比2.3%減)であった。
(7) 女性犯罪・非行
女性の刑法犯検挙人員は、平成17年に戦後最多(8万4,175人)を記録した後、減少を続けていたが、令和3年は3万9,239人(前年比0.8%増)であった。検挙人員の女性比は、近年20〜21%で推移していたが、3年は22.4%であった。同年における女性の刑法犯検挙人員を罪名別構成比で見ると、窃盗が7割を超え(万引き53.9%・万引き以外の窃盗16.8%)、男性の罪名別構成比(同21.5%・同20.2%)と比べて顕著に高く、次いで、傷害・暴行12.9%(男性の罪名別構成比26.8%)であった。
女性入所受刑者の人員は、平成19年に若干減少した後はおおむね横ばいで推移していたが、28年から減少傾向にあり、令和3年は1,666人(前年比5.9%減)であった。最近20年間の入所受刑者の女性比は、平成27年まで上昇し続けた後、28年から横ばいとなっていたが、令和2年(10.6%)に前年より0.8pt 上昇し、3年も10.3%と前年に引き続き10%台であった。女性の入所受刑者を罪名別で見ると、窃盗の増加が著しく、平成24年以降は窃盗が覚醒剤取締法違反を上回っている。
女子の少年院入院者の人員は、平成14年からは減少傾向にあり、令和3年は119人(前年比13.1%減)であった。少年院入院者の女子比は、8.6%であった。非行名別に見ると、窃盗(構成比22.7%)、覚醒剤取締法違反(同15.1%)傷害・暴行(同14.3%)、ぐ犯(同10.9%)の順に多かった。
(8) 高齢者犯罪
高齢者の刑法犯検挙人員は、平成20年(4万8,805人)をピークとして高止まりの状況にあったが、28年から減少し続けており、令和3年は4万1,267人(前年比1.0%減)であり、このうち、70歳以上の者は、高齢者の刑法犯検挙人員の76.3%に相当する3万1,507人(同1.0%増)であった。高齢者率は、他の年齢層の多くが減少傾向にあることからほぼ一貫して上昇し、平成28年以降20%を上回り、令和3年は23.6%(同0.7pt 上昇)であった。女性の高齢者率は、平成29年に34.3%に達した後は横ばいで推移し、令和3年は33.5%(同0.6pt 低下)であった。
令和3年における高齢者の刑法犯検挙人員の罪名別構成比を見ると、窃盗が高く(万引き51.0%・万引き以外の窃盗18.9%。全年齢層では同28.8%・同19.4%)、特に、女性高齢者は、約9割が窃盗(同72.3%・同16.7%)であり、そのうち万引きによるものが顕著に高い(男性高齢者では同41.0%・同20.0%)。
(9) 外国人犯罪
来日外国人による刑法犯の検挙件数は、平成17年(3万3,037件)をピークとして減少し続け、29年に一旦増加に転じた後、30年から再び減少に転じ、その後は9,000件台で増減を繰り返しているところ、令和3年は9,105件(前年比4.3%減)であった。
来日外国人による刑法犯の検挙件数の罪名別構成比を見ると、窃盗(59.6%)、傷害・暴行(11.6%)、詐欺(7.7%)の順に高かった。
来日外国人による特別法犯の検挙件数は、平成16年をピークに24年まで減少した後、25年からの増減を経て、28年から5年連続で増加していたが、令和3年は6,788件(前年比18.7%減)であった。このうち、主な罪名・罪種を見ると、入管法違反(4,562件)、薬物関係法令違反(覚醒剤取締法、大麻取締法、麻薬取締法、あへん法及び麻薬特例法の各違反。890件)、風営適正化法違反(117件)、売春防止法違反(29件)であった。
令和3年における来日外国人被疑事件(過失運転致死傷等及び道交違反を除く。)の検察庁新規受理人員(1万4,944人)の地域・国籍別構成比を見ると、ベトナム(37.0%)、中国(22.3%)、フィリピン(5.7%)、韓国・朝鮮(4.3%)、タイ(3.4%)の順に高かった。
(10) 精神障害のある者による犯罪等
令和3年における精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)の刑法犯検挙人員は、1,254人(精神障害者941人、精神障害の疑いのある者313人)であり、罪名別では、傷害・暴行(391人)が最も多く、次いで窃盗(265人)であった。また、同年における刑法犯検挙人員の総数に占める精神障害者等の比率は、0.7%であり、罪名別では、放火(11.4%)、殺人(6.4%)の順に高かった。

5 再犯・再非行
 令和3年に刑法犯により検挙された者のうち、再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者)は8万5,032人、初犯者は9万9人であった。
 刑法犯検挙人員のうち、再犯者の人員は、平成18年(14万9,164人)をピークとして漸減状態にあるのに対し、初犯者の人員は、16年(25万30人)をピークとして減少し続けている。再犯者の人員が減少に転じた後も、それを上回るペースで初犯者の人員が減少し続けたこともあり、再犯者率(刑法犯の検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は9年以降上昇傾向にあったが、令和3年は48.6%(前年比0.5pt 低下)であった(図4(白書5 - 2 - 1 - 1図)参照)。

図4 刑法犯 検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移


 刑法犯により検挙された20歳以上の者のうち、有前科者(道路交通法違反を除く犯罪の前科を有する者)は、平成19年から減少し続け、令和3年は4万4,015人(前年比4.3%減)であった。他方、刑法犯の20歳以上の検挙人員総数が減少していることもあり、有前科者率(刑法犯の20歳以上の検挙人員に占める有前科者の人員の比率)は、平成9年以降27〜29%台でほぼ一定しており、令和3年は27.5%であった。罪名別では、刑法犯全体(27.5%)と比べ、恐喝(50.5%)、強盗(42.0%)、詐欺(31.0%)の有前科者率が特に高い。
 令和3年に起訴された者の犯行時の身上を見ると、全部執行猶予中の者が5,955人(うち819人が保護観察中)、一部執行猶予中の者が608人(うち601人が保護観察中)、仮釈放中の者が474人、保釈中の者が178人であった。
 令和3年の入所受刑者人員総数(1万6,152人)のうち、再入者の人員は9,203人(前年比4.5%減)であり、再入者率は57.0%(同1.0pt 低下)であった。うち女性の再入者は801人(同3.3%減)であり、再入者率は男性と比べると低い48.1%であった。
 出所受刑者の再入所状況については、平成29年の出所受刑者の5年以内再入率(ある年の出所受刑者人員のうち、出所後の犯罪により、出所年を1年目として5年目(平成29年の出所受刑者であれば令和3年)の年末までに再入所した者の人員の比率)(総数)を見ると37.2%であり、平成24年の出所受刑者の10年以内再入率(総数)を見ると44.7%であった(図5(白書5 - 2 - 3 - 6図)参照)。
 平成10年から29年までの間のいずれの出所年の出所受刑者においても、満期釈放者(29年の出所受刑者については一部執行猶予の実刑部分の刑期終了により刑事施設を出所した者を含む。)は、仮釈放者よりも5年以内再入率が高かった。
 平成29年の出所受刑者の5年以内再入率を罪名別に見ると、窃盗(43.7%)が他の罪名と比べて高く、傷害・暴行(31.7%)、覚醒剤取締法違反(24.0%)及び詐欺(22.1%)がそれに続いた。
 令和2年の出所受刑者についての2年以内再入率(総数)は、15.1%であり、元年の出所受刑者(15.5%)に続けて、16%以下とする政府の目標を達成した。

図5 出所受刑者の出所事由別再入率


 再非行少年率(少年の刑法犯検挙人員に占める再非行少年(前に道路交通法違反を除く非行により検挙(補導)されたことがあり、再び検挙された少年)の人員の比率)は、平成10年から28年まで上昇し続けた後、29年以降は低下傾向にあり、令和3年は33.7%(前年比1.0pt 低下)であった。平成29年の少年院出院者について、5年以内再入院率は13.7%、再入院・刑事施設入所率は21.7%であり、令和2年の少年院出院者について、2年以内再入院率は9.0%、再入院・刑事施設入所率は9.7%であった。

6 統計上の犯罪被害
 令和3年において、人(法人その他の団体を除く。)が被害者となった刑法犯の認知件数は41万7,350件、男女別の被害発生率(人口10万人当たりの認知件数)は男性445.3・女性225.9であり、いずれもピークであった平成14年の約5分の1以下であった。
 令和3年において、生命・身体に被害をもたらした刑法犯の死傷者総数は、2万1,602人(うち死亡者642人、重傷者(全治1か月以上)2,345人)であり、死傷者総数はそのピークであった平成16年、死亡者数はそのピークであった15年と比べ、いずれも2分の1以下であった。
 令和3年において、財産犯(強盗、窃盗、詐欺、恐喝、横領及び遺失物等横領。被害者が法人その他の団体である場合を含む。)による被害総額は、約1,326億円(うち現金被害額約939億円)であり、財産犯による被害総額を罪名別に見ると、詐欺によるもの(被害総額の57.5%)、窃盗によるもの(同35.7%)の順に多かった。このうち、現金被害額だけを見ても、詐欺によるものが最も多く、財産犯による現金被害総額の4分の3以上を占めている。なお、同年の特殊詐欺事件全体の被害総額は、約282億円であった。

7 新型コロナウイルス感染症と刑事政策
 本白書第7編では、新型コロナウイルス感染症感染拡大下における同感染症に関連した主な社会の出来事や感染者数、人々の移動を伴う動き(人流)の動向等について見た後、主要な犯罪や特に注目すべき犯罪の動向について月別で認知件数等の推移を見るなどした。さらに、刑事司法の各段階に与えた影響や新型コロナウイルス感染症対策について紹介した上で、新型コロナウイルス感染症と刑事政策についての現状等を総括し、将来に向けた展望を試みた。
(1) 新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における犯罪動向
新型コロナウイルス感染症感染拡大下においては、同感染症に関連した様々な事象を口実とした詐欺事案やヤミ金融事犯、サイバー犯罪、健康不安等につけ込んだ医薬品医療機器等法違反等の保健衛生事犯等の発生が確認された。そのほか、同感染症感染拡大下においては、同感染症により生活や事業に影響を受けた国民に対し、様々な支援を行う各種の給付金等支給制度が設けられたが、これらの給付金等を不正に受け取る詐欺事案も発生し、多数が検挙された。
刑法犯認知件数を見ると、令和2年は前年比17.9%減と前年から大きく減少し、3年も更に減少(前年比7.5%減)したところ、月別で見ると、初めて緊急事態宣言が発出された2年4月及び5月において、それぞれ前年同月比23.9%減、同32.1%減と特に大きく減少した。平成27年から令和元年までの同月の認知件数の平均値を100とした指数で見ても、2年4月及び5月は、それぞれ63.1、54.8と顕著に低かった(図6(白書7 - 3 - 2 - 1図)参照)。

図6 刑法犯 認知件数の推移(月別)


この傾向は、窃盗においても同様であり、刑法犯の認知件数の減少は、その7割近くを占める窃盗の減少に伴うものであったと言える。また、主な刑法犯では、強制わいせつの認知件数は令和2年4月及び5月、強制性交等は2年5月において、それぞれ平成27年から令和元年までの同月の平均値と比べて顕著に少なかったほか、電車内における事案が多い迷惑防止条例違反の痴漢事犯の検挙件数が2年に大きく減少した(前年比31.3%減)。
交通事故も、交通量の減少を背景に、令和2年4月及び5月において、大きく減少した(それぞれ前年同月比41.9%減、同37.9%減)。
サイバー犯罪は、令和3年の検挙件数が前年比23.6%増と特に増加しており、企業・団体等におけるランサムウェア被害の報告件数についても3年下半期において前年同期から約4倍(85件)に増加した。その原因としては、テレワークの増加を含む様々な要因が考えられる。
児童虐待や配偶者からの暴力の相談(対応)件数・検挙件数については、新型コロナウイルス感染症感染拡大以前から増加傾向又は高止まりが続いており、令和2年及び3年における増加又は高止まりが同感染症の影響によるものか否かは判然としなかった。
違法薬物の密輸入は、新型コロナウイルス感染症感染拡大によって、大きな影響を受けた。令和2年は、特に携行型の犯行態様が多い覚醒剤について、航空機旅客による密輸入の摘発件数が激減しており(前年比90.0%減)、これは入国者数激減(同84.4%減)に伴うものと言える。他方で、大麻については、国際郵便物を利用した密輸入が多かったため(元年は69.0%)、2年の摘発件数は大きく減少しておらず(前年比15.1%減)、同感染症の影響をそれほど受けなかった可能性が考えられる。
(2) 新型コロナウイルス感染症が刑事司法の各段階に与えた影響等
新型コロナウイルス感染症は、検察、裁判、矯正及び更生保護など刑事司法の各段階にも大きな影響を及ぼしたが、それぞれにおいて感染拡大防止策を講じつつ、業務の継続に努めた。
例えば、第一審における裁判員裁判の終局処理人員は、令和2年4月(前年同月比81.8%減)、5月(同94.7%減)となるなど大きく減少したが、これは指定されていた期日を取り消すなど、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策を採ったためである。多数の候補者が集められる裁判員等選任手続については、同感染症の実態が明らかとなっていない段階で実施するリスクが大きかったものと考えられ、やむを得ない措置であったと言える。他方で、2年6月以降は、特に同年7月から10月において、裁判員裁判終局処理人員が前年同月を上回るなど、感染防止策を講じつつ、できる限り多くの事件処理に努めた状況がうかがえた。

(法務省法務総合研究所研究部室長研究官)
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