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令和4年版犯罪白書を読んで─ルーティン部分に関して─
柴田  守
T はじめに
 本稿は、『令和4年版犯罪白書』(以下「白書」という。)の第1編から第7編を読んで、一刑事政策研究者の視点から若干のコメントを行うものである。
 白書が扱う「令和3年(2021年)」は、前年に続いて、世界中がCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)に大きな影響を受けた年であった[コロナ禍における社会情勢については、白書285頁-291頁]。海外では、各国政府が行ったCOVID-19の封じ込め政策によって人の流動性(人流)などが大きく変化した結果、街頭犯罪(窃盗、強盗、暴行など)や侵入盗が減少した一方で、(対象とした地域や使用データによって多少評価が分かれているが)DV が増加したという報告が続々となされており、日本についても、その研究レポートの公表が待たれるところであった2,3。法務総合研究所研究部は、令和4年はじめから、COVID-19対応下における犯罪の動向や犯罪者処遇現場での影響や対策に関する分析を進めてきており、今年、その結果が白書で公表された[白書・第7編「新型コロナウイルス感染症と刑事政策」284頁-342頁]。
 白書の第1編から第6編までに示されている令和3年の年次データは、前年までのものとの継続的な観点から意味があるものの、コロナ禍における令和3年(+令和2年)の犯罪や犯罪者処遇の動向を的確に理解するためには、COVID-19の封じ込め政策の影響などを織り込んで読み解いていった方が良いと思われる。そこで、本稿ではまず、第7編に示された研究レポートを中心に読み解いて、その意義や課題を示していきたいと思う。
 だが、令和3年(〜令和4年)は、それに留まらず、日本の刑事立法についても大きな動きがあった。令和3年5月に、少年法等の一部を改正する法律(令和3年法律第47号)が成立し、18歳・19歳の者を「特定少年」として、17歳以下の少年とは異なる特例を定めるなど、所要の規定が整備された(令和4年4月1日から施行)[白書118頁]。これは、少年法(昭和23年法律第168号)における「少年」の年齢を18歳未満とすること並びに非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方等について諮問(諮問第103号)に対する答申の一部(罪を犯した18歳及び19歳の者について、家庭裁判所への送致、同裁判所における手続・処分、刑事事件の特例等に関する法整備を行うこと)に基づいた法整備である。
 また、令和3年9月には、法務大臣が、法制審議会に対し、侮辱罪の法定刑について諮問を行い(諮問第118号)、同年10月、同審議会は、法務大臣に対して、侮辱罪の法定刑を1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料とする答申を行った。令和4年3月には、この答申とともに、諮問第103号に対する答申のうち、「犯罪者に対する処遇を一層充実させるため、自由刑の単一化、若年受刑者に対する処遇調査の充実、刑の全部の執行猶予制度の拡充等の法整備その他の措置を講ずること」などに基づいた法案が国会に提出され、同年6月13日に、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)及び刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)が成立した[白書31頁]。
 令和4年の刑法等の一部改正のうち、侮辱罪の法定刑の引上げについては、令和4年7月7日に施行されたが、拘禁刑の創設や執行猶予制度の拡充などについては、令和5年12月まで又は令和7年6月までに段階的に施行されることになっている。ただ、それに先行して、諮問第103号に対する答申に基づき、特定少年や若年受刑者(26歳未満の受刑者)の処遇が改良されており、その紹介が、コラム2[白書59頁-61頁]とコラム3[白書137頁-139頁]においてなされている。そこで、本稿では次に、それらも取り上げて、改良のポイントや想定される変化を概観した上で、システムズアプローチによってそれらを診断して、課題を抽出したいと思う。

U COVID-19対応下における犯罪の動向
1.新型コロナウイルス感染症に関連する犯罪─どのような属性の者が犯行に至ったのかを分析することが期待される
 白書では、新型コロナウイルス感染症に関連する犯罪を、@新型コロナウイルス感染症の感染拡大に便乗した犯罪(保健衛生事犯、特殊詐欺を始めとした詐欺事犯、ヤミ金融事犯、サイバー犯罪事犯等)、A新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における経済対策として新設された制度を悪用した犯罪(持続化給付金制度の悪用事案、家賃支援給付金制度の悪用事案、サービス産業消費喚起事業(Go To トラベル事業)給付金制度の悪用事案、雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金制度の悪用事案、その他の給付金制度等の悪用事案)、B新型コロナウイルス感染症対策に係る国民生活安定緊急措置法違反、Cその他の関連犯罪の4つに分類して、これらの発生件数や被害額などに関するデータを示した。これらのデータは、緊急時の社会変化や採られた政策の総括として意義があるものだと言えよう。
 筆者がこれらのデータを見て、特に注目したのは、Aの犯罪である。その犯罪者の属性が、窃盗、強盗、詐欺などの一般的な財産犯における<犯罪者像>とどの程度重なるのか(また、相違があるのか)ということに興味を持った次第である。給付金・助成金制度悪用型の犯罪は、一般国民が安易に手を染めやすい犯罪であり、短期的に生じる現象の1つに位置づけられる。令和2年〜3年に一部の窃盗犯が大幅に減少していることから、給付金・助成金制度悪用型の犯罪への転移が見られるのか、また、一般的な財産犯の前科前歴のない者がどの程度犯行に及んでいるのかなど様々なことが考えられる。ここで扱ったデータは、警察庁や経済産業省の資料に基づいたものなので、どのような属性の者が犯行に至ったのかを分析することは難しいのかもしれないが、このような分析まで行き着くことに期待したいと思う。

2.主要な犯罪の動向
 白書では、COVID-19対応下における主要な犯罪の動向に関し、@令和元年〜3年の刑法犯認知件数の月別推移の比較、A平成27年〜令和元年の同月の認知件数の平均値を100とした場合における、令和元年〜3年の各月の指数の比較、B主要なターミナル駅(東京駅、大阪駅、名古屋駅、博多駅及び札幌駅)付近の滞在人口(人出)の合計の推移と、令和元年〜3年の各月の刑法犯認知件数の比較を基本的な分析方法としている(なお、一部では、最近10年間の年次データをもとに、動向や影響を分析している。)。Aの分析方法については、コラム5で紹介されているUNODC の「Effect of the COVID-19 pandemic and related restrictions on homicide and property crime(新型コロナウイルス感染症の世界的な流行とそれに伴う規制が殺人及び財産犯に与えた影響)」[白書311頁-312頁]で採用されたものに沿っており、世界各国の動向と比較しやすい形になっていることが特徴である。
(1)  主な刑法犯─自然実験がもたらした知見を活用した犯罪予防政策を講じるべきである
刑法犯認知件数の7割弱を占める<窃盗>は、主要ターミナル駅滞在人口(人出)の増減にともなった形でその増減を示しており、令和2年5月に顕著な減少が見られた[7 - 3 - 2 - 3図]。このうち、<住宅対象の侵入窃盗>については、令和2年5月、7月、12月に前年同月比40%以上も減少しており[7 - 3 - 2 - 4図]、非侵入窃盗の<すり>については、令和2年3月以降、前年の同月と比べて大幅に減少していた[7 - 3 - 2 - 4 図]。
また、<路上強盗>、<部品ねらい>、<車上ねらい>、<自動販売機ねらい>、<オートバイ盗>、<自転車盗>などの主な街頭犯罪については、令和2年5月、7月、8月、9月、10月に前年同月と比べて特に減少しており、特異な変化が見られた。なお、特定警戒都道府県と特定警戒都道府県以外の県との明らかな相違がなく、地域差は見られなかった[7 - 3 - 2 - 5図]。
その他の主な刑法犯について見ると、<強制わいせつ>は、緊急事態宣言が初めて発出された令和2年4月から5月に、<強制性交等>は、令和2年5月に、それぞれ顕著に減少したが、その後は特異な変化が見られなかった[7-3-2-4図]。また、<殺人>、<強盗>、<放火>については、特異な変化は見られなかった[7 - 3 - 2 - 4図]。
このような分析結果を踏まえて、白書では、主な刑法犯が減少した理由に関し、「緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による外出自粛要請(いわゆるステイホーム)により、在宅人口が増加し、駅や繁華街の人流が減少したことから、犯罪被害のターゲットとなる留守宅や通行人等が減少したことなど」を要因だと解しており[白書339頁]、「『コロナ禍』が収束するか否かにかかわらず、今後の犯罪動向については予断を許さない状況にあると言え、引き続き4年以降の動向を注視していく必要がある。」とまとめている[白書342頁]。
主な刑法犯に関しては、海外の研究レポートが示した動向(分析結果)とおおむね同様の傾向を示していたものと理解される5,6(なお、地域差が生じていなかったことは、日本での動向の1つの特徴だと考えられる。)。今回、「過酷な自然実験」や「史上最大の犯罪学的実験」だと評される自然発生的な準無作為化対照の犯罪学的実験がもたらした最大の知見は、ターゲットとなる潜在的被害者、動機づけられた加害者、有能な監視者の交流率を人為的に変化させること10で、街頭犯罪の一部をコントロールすることができるということである。日本も、海外とおおむね同様の傾向にあった訳であるから、この知見は、日本社会にも活かすことができると思われる。もっとも、平常時に(緊急時でない限り)行動の自由を一律に制限することは、人権法令上、極めて難しいわけであるから、街頭犯罪は今後、都市環境の設計などによって市街地の人流をコントロールして犯罪の機会を抑制するということが、現実的な予防政策になるのではないだろうか11
(2)  少年による刑法犯─質的な変化を月別データで分析することが望ましい
<少年による刑法犯>については、その検挙人員が、(刑法犯認知件数の大幅な減少が見られた)令和2年4月、5月も前年同月と比べて減少しておらず、むしろ同年3月には前年同月を大きく上回っていることから(前年同月比35.0%増)[7 - 3 - 2 - 8図]、白書では、学校等における一斉臨時休業等によりかえって非行の機会が増えるなど、少年特有の事情があった可能性もあると解している[白書339頁]。
刑法犯検挙人員の10%前後を占める<少年による刑法犯>[3 - 1 - 1 - 6表参照]が、全体的な動向と異なる傾向を示したことは、犯罪学的に興味深い。おそらく、その動機形成が合理的選択理論とは異なる形でなされていることなのだろう。これはあくまでも社会コントロール理論からの見方になってしまうのだが、その犯行を抑止する原理が、学校での活動とのつながりの部分で比較的大きいウェイトを示すものだとも考えられる。そうしたことから、もう一歩先に進んで、令和2年〜3年において、<少年による刑法犯>の質的な変化がどのような形で生じていたのか(あるいは、生じていなかったのか)を、月別データで分析することが望ましいと思われる。
(3)  薬物犯罪─新たな水際対策措置が採られたことから、覚醒剤の密輸入対策の強化も必要
<薬物犯罪>については、覚醒剤の密輸入事案の摘発件数が、航空機旅客による密輸入が占めていたことから、航空機旅客(入国者数)の減少の影響を大きく受けた一方で(なお、令和3年は、覚醒剤の密輸入事案の摘発件数に占める航空貨物の構成比が額著に上昇した(前年比24.9pt 上昇)[4 - 2 - 2 - 2表参照])、大麻の密輸入事案は、国際郵便物を利用した密輸入が占めていたことから、入国者数の急減の影響を大きく受けなかった[7 - 3 - 3 - 6図]。
筆者は昨年、米国での動向12を参照して、日本もCOVID-19の影響が乏しかったと総括していたのだが13、密輸入の経路の相違により、入国者数急減の影響が見られたことからその見解を修正しなければならない。日本は、令和4年10月11日から、外国人の新規入国制限の見直しを行うなど新たな水際対策措置が採られていることから、覚醒剤の密輸入対策も改めて強化することが必要だと思われる。
(4)  ファミリーバイオレンス─暗数化が懸念されることから、被害者調査を実施して実態を解明することが必要である
< DV >については、令和2年4月〜6月に、配偶者暴力相談支援センターヘの相談件数が一時的に増加したが[7 - 3 - 3 - 5図]、配偶者からの暴力事案等の検挙件数が同年に大きく増加したわけではなかった[4 - 6 - 2 - 1図参照]。また、<児童虐待>については、児童虐待対応件数と保育所等の休園施設数の関連性は示されておらず[7 - 3 - 3 - 3図]、児童虐待の相談対応件数はこれまでどおり右肩上がりの傾向が続いていたことから[7 - 3 - 3 - 4図]、特異な変化は見られなかった。
白書では、「児童虐待や配偶者からの暴力については、新型コロナウイルス感染症感染拡大下における外出自粛等の影響による暗数の増加も懸念されるところであり、法務総合研究所が定期的に実施している犯罪被害実態(暗数)調査を始め、可能な限りその実態解明に努めていくことも重要である。」とまとめている[白書342頁]。
< DV >の研究レポートを対象にして系統的レビューとメタアナリシスを行ったピケロらの研究では、ロックダウン期間の前後で、< DV >の発生が中程度から強く増加したと結論づけており14、日本においても暗数化を念頭に置いて、さらなる実態解明を進めることが求められる。白書は、犯罪被害実態(暗数)調査などによって、可能な限り実態解明に務めることが重要だとしているが、この点につき、筆者も全く同じ意見である。
(5)  来日外国人犯罪─短期滞在の正規滞在者の増加に向けて、対策の強化が必要である
@短期滞在の正規滞在者の刑法犯検挙人員は、新規入国者数が大きく減少した影響を受け、令和2年・3年ともに激減したのに対して、A技能実習の不法残留者の刑法犯検挙人員は、滞在人口の増加にともなって、令和2年・3年ともに増加していた[7 - 3 - 3 - 7図、7 - 3 - 3 - 8図]。
日本は、観光立国の維持継続を目指して、国民向けの「Go To トラベルキャンペーン」など行ってきた。今後は、新たな水際対策措置や急速かつ大幅な円安ドル高などの影響によって、短期滞在の正規滞在者の増加が見込まれる。ターゲットを絞って対策強化をすることは、現時点では難しいと思われるのだが、ただ、白書が示すように、「その資格の付与に当たっての審査を十分に実施するほか、入国後の生活状況等について、必要なフォローや受入先である事業者に対する監督を充実させること」は、政策的に可能であり、犯罪予防にもつながる可能性があるので期待したい。

V  COVID-19対応下における犯罪者処遇─インパーソンとオンラインの長所をそれぞれ活用した、拘禁刑導入に向けた新たな犯罪者処遇の構想に期待する
 コロナ禍における刑事司法現場での対応に相当なご苦労やご負担があったことは、容易に理解することができる。白書において、<検察>、<裁判>、<矯正>、<保護>の各段階における対応状況が、数量データとともに紹介されたのは、とても意味のあることである。白書・第7編第4章には、コラム6「矯正施設における新型コロナウイルス感染症対策矯正局特別機動警備隊の活動」[白書328頁-330頁]、コラム7「米国の刑務所等における被収容者の新型コロナウイルスヘの感染状況等」[白書330頁-331頁]、コラム8「新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における更生保護の実践例」[白書333頁-335頁]、コラム9「英国におけるコロナ禍での社会内処遇の実施状況等」[白書336頁-337頁]の4つが掲載されており、このレポートに関する法務総合研究所の力の入れようが見て取れる。
 施設内で密接に処遇を行ってきた<矯正>の現場では、感染対策を強化しながら、充実した処遇も両立することがひときわ困難だったと思われる。その中で、少人数化やオンライン会議システムを用いた外部交通などの新たな取組みが行われ、また、社会貢献として医療用ガウンの製作を行ったことは、令和4年の刑法等の一部改正で、「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。」(刑法12条3項)とした、新たな犯罪者処遇のあり方を考える上で重要な経験となるのではないだろうか。
 白書では、刑事司法が「これまであまり活用されてこなかったオンライン会議等リモート方式での会議、面接、面会等が、今後、新型コロナウイルス感染症感染拡大が収束した後も、充実した処遇を実現するために役立つ手段となり得る」としており[白書342頁]、この点につき、筆者も同じ考えである。刑事司法のDX(デジタルトランスフォーメーション)もそれに資すると思う15。インパーソンとオンラインの長所をそれぞれ活用して、拘禁刑導入に向けた新たな犯罪者処遇を構想していくべきであり、白書が「多様な方策を今後の処遇に活用していくことで、より充実した処遇を行うことが期待される」としたことにも賛同できる。

W  少年法等の一部改正や刑法等の一部改正後の特定少年や若年受刑者の処遇システムにむけて
(1)  若年受刑者ユニット型処遇(U)の創設─ユニット数の増加による定員の拡大が喫緊の課題である
コラム2[白書59頁-61頁]において紹介されているように、諮問第103号に対する答申で、「少年院における矯正教育の手法やノウハウ等を活用した処遇を行う」ことが要請されていた16ことから17、それを受けて、新たに「若年受刑者ユニット型処遇」を創設して(それにともなって、新たに「U」という処遇指標が設けて)、令和4年9月1日からその運用が開始させた18
「若年受刑者ユニット型処遇」は、他の受刑者から独立した居室棟、工場において、おおむね30名以下の小集団を編成した上で、少年院の矯正教育の知見等を活用し、拘禁刑の創設も見据え、職員と対象者との信頼関係に基づく「対話ベース・モデル」の処遇19を実施するものである。男性の対象者は「川越少年刑務所」に収容され、全受刑期間の導入期として「若年受刑者ユニット型処遇」を実施することとしており(定員は60名(30名×2ユニット))、また、女性の対象者は「美祢社会復帰促進センター」に収容され、官民協働による保安警備体制と地域の理解・支援に基づいた処遇を実施することとしている(定員は40名(20名×2ユニット))20
「U」の判定がなされるのは、❶犯罪傾向が進んでいない、@少年受刑者(JA)又はA少年審判で検察官送致となった時に20歳未満であった者のうち可塑性に期待した矯正処遇を重点的に行うことが相当と認められる20歳以上26歳未満の者(YjA)、❷犯罪傾向が進んでいない、可塑性に期待した矯正処遇を重点的に行うことが相当と認められる20歳以上26歳未満の者(少年審判で検察官送致となって時に20歳未満であった者を除く。)(YA)の処遇指標を指定され、かつ、執行刑期がおおむね1年以上で、心身に著しい障害が認められないなどの基準を満たす者のうち、小集団を編成して矯正処遇を行う効果が高いと認められる者である。これらに該当する者の中から、「U」の処遇指標に対応する処遇区分に指定されている刑事施設において決定される21
筆者は、「若年受刑者ユニット型処遇」の収容人員に関し、システムズアプローチによって診断した結果、「YA」を対象としたものについては、ユニット数の増加による定員の拡大が喫緊の課題だと析出した22。図表1は、平成14年〜令和3年における新受刑者(男性・24歳以下)の処遇指標別人員の推移を示したものである。「YA」は近年、1,000人弱で推移している。少年法等の一部改正によって、特定少年のいわゆる原則逆送対象事件の範囲が拡大されたことにともない、男性の若年受刑者が(試算値で)最大でも200人前後の増加が見込まれるところ23、「YA」も一定程度増加することが予想されることから、定員60名(30名×2ユニット)ではおそらく足りないのではないかと懸念される24。ユニット型処遇は、今後、処遇の実績を積み重ねて、その効果等を検証しながら、処遇の内容や方法等の充実が図られることになっているのだが25、ユニット数を増やして定員を拡大することは、それに先行して行ったほうが良いと思われる26

図表1 新受刑者(男性・24歳以下)の処遇指標別人員の推移<平成14年- 令和3年>


(2)  第5種少年院の運用の開始─刑務所から社会内への一貫した支援とフォローアップ体制というシームレスな連携構築を目指して欲しい
コラム3[白書137頁-139頁]において紹介されているように、特定少年については、成長発達途上にあり、可塑性を有する一方で、民法上の成年として、自律的な権利義務の主体として積極的な社会参加が期待される立場であることから、少年院では、@「成年社会参画指導」という特定生活指導が開発・導入され、A「第5種少年院」(遵守事項違反のあった特定少年を一定期間収容し、その特性に応じた処遇を行う少年院)の運用が開始され、B職業指導種目の再編(「自立援助的職業指導」(職業生活における自立を図るための知識及び技能の習得並びに情緒の安定を目的とした指導)を発展的に再編し、「職業生活設計指導」と「職業能力開発指導」に大別)が行われた27
このうち、Aの「第5種少年院」というのは、特定少年のうち2年間の保護観察に付された者が保護観察中に重大な遵守事項違反を行った場合には、少年院に収容することができる制度の運用が新たに開始されたことを受けて、その受け皿として新たに設けられたものである。
第5種少年院在院者に対しては、保護観察復帰プログラムが新たに開発され、少年院と保護観察所が連携して実施することとされている。これは、当該在院者が「ありたい自分」に向かう一連のプロセスの一部として保護観察を位置付け、少年院職員や保護観察官等と対話を深めながら、更生することへの動機付けを高めることを指導目的としており、動機づけ面接の行動変容の理論に基づく教材とミーティングを効果的に組み合わせた指導内容となっている[白書138頁]。
白書において、「少年院と保護観察所の密接な連携を前提とした初めての試みであり、その効果が注目される」と言及するように、刑事政策学的にもその期待値が高い。それをさらにもう一歩先に進めるための課題を提示するとすれば、それは、特定少年特有の現実的なニーズに基づき、刑務所から社会内への一貫した支援とフォローアップ体制というシームレスな連携構築を目指すことだと思われる。少年鑑別所による処遇鑑別の積極化を活かして、精密なアセスメントを実施し、社会とつなぎ、保護観察所だけではなく、その他の社会資源も活用して、アフターケアを充実させることが期待される。

X 結びに代えて
 本稿では、COVID-19対応下における犯罪や犯罪者処遇の動向と、少年法等の一部改正や刑法等の一部改正後の特定少年や若年受刑者の処遇システムを中心に書評をおこなってきたため、白書の第1編から第6編までに示された令和3年の年次データの注目ポイントをほとんど触れてこなかった。ただ、最後にどうしても触れておきたいのは、「保護観察の類型別処遇の拡充と体系化」についてである。令和3年1月に、保護観察の実効性を一層高めることを目的として、新たに「ストーカー」、「特殊詐欺」、「嗜癖的窃盗」、「就学」が類型に加えられ、「暴力団等」及び「薬物」について認定対象が拡大されたほか、各類型が着目する領域にまとめられ、全体の構造が体系化された[保護観察対象者の類型認定状況につき、2 - 5 - 3 - 6表]。
 筆者は、保護観察の充実が、量刑段階での処遇選択の幅を広げる重要な政策だと考えている。処遇選択の幅を広げて量刑段階で、処遇の内容と被告人のニーズのマッチング率を高めることができれば、刑法12条3項に明記された改善更生という目的の達成に近づき、システム上最適だ。量刑判断に関わる裁判官や裁判員(一般国民)には、進展する犯罪者処遇の内容や効果を理解して、求刑や評議の段階で、被告人のリスクを見極め、そのニーズに基づき、保護観察付全部執行猶予、刑の一部執行猶予、(令和4年の刑法等の一部改正で拡充された)刑の全部執行猶予(刑法25条2項)などの中から的確にマッチングさせることが求められる。すなわち、矯正や保護の入口である量刑段階で、再犯リスクアセスメント情報に基づいた「処遇の必要性」を判断することが必要になる。
 さて、そのような視点で捉えると、犯罪の動向、犯罪者処遇の現状を毎年分かりやすく解説する『犯罪白書』の役割は、今後さらに高まるものと予想される。『犯罪白書』の内容がより一層バージョンアップして、国民に的確な情報を提供するとともに、特集などの最新の研究レポートから得られた知見を速やかに刑事政策に還元していくことが期待される。

謝辞 本稿は、公益財団法人日工組社会安全研究財団2022年度一般研究助成「COVID-19対応下における人の流動性の低下と窃盗の関連−時系列分析による検討−」(研究代表者:柴田守)の成果の一部である。
(長崎総合科学大学共通教育部門准教授)

1 海外の代表的な研究レポートに関しては、拙稿「COVID-19パンデミック対応下における犯罪の動向とその分析方法」獨協法学117号[安部哲夫先生退職記念論文集](2022年)268頁-289頁。
2 日本の動向に関し、いち早く研究発表をした者の1人が、警察庁科学警察研究所の島田貴仁である。島田は、公的な犯罪統計の週別データなどを用いたパネルデータ分析によって、日本でも住宅侵入盗や暴行・傷害が減少したことを特定した(島田貴仁「『自然実験』としてのパンデミック―公的統計・被害調査から考える」犯罪学雑誌88巻2号(2022年)48頁-51頁)。ちなみに、第58回日本犯罪学会総会のシンポジウムでは、「ウィズコロナ時代の犯罪学」を特集している(島田報告のほか、小西暁和「『新型コロナ禍』における刑事法上の課題」同52頁-56頁、矢島大介「新型コロナウイルス感染事例の法医解剖〜一法医学者の所感〜」同57頁-60頁、小畠秀吾「COVID-19と犯罪精神医学」同60頁-66頁)。
3 本誌59巻3号(2022年)では、「コロナ禍と刑事政策」を特集している(島田貴仁「コロナ禍は犯罪に何をもたらしたか─統計データと実証分析から考える」同6頁-19頁、仲戸川武人「刑事手続における情報通信技術の活用についての検討の現在地」同20頁-35頁、野々山綾乃「矯正施設における新型コロナウイルス感染症対策への取組と現状」同36頁-46頁、滝田裕士「コロナ禍における更生保護の取組について」同47頁-56頁)。
4 United Nations Office on Drug and Crime( UNODC), Effect on the COVID-19 pandemic and related restrictions on homicide and property crime, 1-16, 2020(https://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/covid/Property_Crime_Brief_2020.pdf)[2022年10月25日最終確認].
5 初期の代表的な研究レポートを簡単にまとめると、@<空き巣(侵入盗)>は減少傾向にあるものの、都市や土地区画でバラツキがある、A<窃盗>は減少傾向にあるものの、都市でバラツキがある、B<万引き>は減少傾向にある、C<強盗>はあまり変化がないか、やや減少という傾向にある(なお、一部では増加した都市もある。)、D<暴行>は減少傾向にあるという動向が示されている(拙稿・前掲注(1)268頁-275頁)。
6 23か国・27都市を対象にして、国・都市の季節性パターンも織り込みコントロールして行ったニベットらの研究(グローバルな計量的比較研究)では、@<暴行>については、自宅待機規制の実施によって、日常的な暴行が35%減少した、A<強盗>については、効果の大きさは都市によって異なるが、自宅待機規制後に1日の発生件数が統計的に有意に増加した都市はなく、制限後のレベル変化の平均的な大きさは46%であった、B<侵入盗>については、効果の大きさの分布は、自宅待機規制後の1日の発生件数が84%減少したもの(リマ)から、38%増加したもの(サンフランシスコ)までバラツキがあり、地域差があった(なお、この効果は暴行に比べて比較的小さかった。)、C<窃盗>については、データのあるすべての都市において、自宅待機規制後の1日の発生件数が大幅に減少していたが、都市間の不均一性が大きかった、D<乗り物盗>については、都市間の平均減少率は39%であったが、窃盗と同様に、都市間での効果の不均一性が示されており、18都市のうち8都市では、規制後の発生件数に統計上有意な変化が見られなかったとまとめている。ちなみに、<強盗>、<侵入盗>、<窃盗>、<乗り物盗>については、「必要のない」移動や活動をより厳しく制限することによって、犯罪の減少が統計上有意に大きくなることが、本研究の結果から分かった(Nivette, A. E. et al., “A global analysis of the impact of COVID-19 stay-at-home restrictions on crime”, 5 Nature Human Behaviour, 870-871, 2021.)。
7 昨年、『令和3年版犯罪白書』を読んだ時には、<乗り物盗>に関し、海外での動向と同様に、日本でも地域差が生じている可能性があると仮説立てたが(拙稿「令和3年版犯罪白書を読んで―ルーティン部分に関して」法律のひろば75巻1号(2022年)5頁)、白書によって、その仮説が一応棄却されたものと考えられる。なお、筆者は現在、都道府県警察が公開している<ひったくり>、<車上ねらい>、<部品ねらい>、<自動販売機ねらい>、<自動車盗>、<オートバイ盗>、<自転車盗>の日別データを用いて、時系列分析による解析を進めているので、その結果についてはまた別途報告したいと思う。
8 Felson M. et al., “Research note : Routine activity effects of the COVID-19 pandemic on burglary in Detroit”, 9 Crime Science, 3, 2020..
9 Stickle B. & Felson M., “Crime Rates in a Pandemic : the Largest Criminological Experiment in History”, 45 American Journal of Criminal Justice, 525, 2020..
10 Halford E. et al., “Crime and coronavirus : social distancing lockdown, and the mobility elasticity of crime”, 9 Crime Science, 10, 2020..
11 拙稿・前掲注(1)284頁-285頁。.
12 Palamar J. J. et al., “Shifts in drug seizures in the United States during the COVID-19 pandemic”, 221(1) Drug Alcohol Depend, 1-5, 2021..
13 拙稿・前掲注(7)7頁。.
14 Piquero, A. R. et al., “Domestic violence during the COVID-19 pandemic evidence from a systematic review and meta-analysis”, 74 Journal of Criminal Justice, 3-4, 2021.
15 本誌59巻4号(2022年)では、「刑事政策とDX」を特集しており、矯正・保護の実務におけるDX の目的やその具体的な取り組み、また英国での実践などが説明・紹介されている(名執雅子「矯正実務におけるDX―国民のため、そして組織課題の改善に向けて」同18頁-29頁、平原長英「矯正処遇・再犯防止業務支援システムについて」同30頁-41頁、池田怜司「更生保護のデジタルトランスフォーメーション─英国の実践に学ぶ」同42頁-49頁)。
16 法制審議会「諮問第103号に対する答申案」(2020年)(https://www.moj.go.jp/content/001332182.pdf)[2022年10月26日最終確認]。
17 ちなみに、諮問第103号に対する答申で、「特に手厚い処遇が必要な者について、少年院と同様の建物・設備を備えた施設に収容し、社会生活に必要な生活習慣、生活技術、対人関係等を習得させるための指導を中心とした処遇を行う」ことが要請されており、それを受けて、「少年院転用型処遇」(少年院である市原学園を転用し、5年度内に運用開始予定)も実施される予定である[白書59頁]。その制度概要の公表が待たれる。
18 詳細については、西田篤史「若年受刑者の処遇の充実について〜若年受刑者ユニット型処遇を中心に〜」刑政133巻9号(2022年)18頁-26頁。
19 法務省矯正局「【資料2】少年院の知見を活用した対話ベース・モデルの導入について」(2022年)(https://www.moj.go.jp/content/001379386.pdf)[2022年10月26日最終確認]。
20 法務省矯正局「【資料1】若年受刑者ユニット型施設の矯正処遇」(2022年)(https://www.moj.go.jp/content/001379474.pdf)[2022年10月26日最終確認]。
21 法務省矯正局・前掲注(20)。
22 拙稿「若年受刑者処遇システムの新たな展開とその課題」犯罪学雑誌88巻4号(2022年12月刊行予定)頁数未定(全11頁)。
23 拙稿・前掲注(22)。東京家庭裁判所少年部裁判官プロジェクトチームによれば、<新たに原則逆送の対象となった事件>については、逆送が「原則」とされたことを踏まえた判断がなされるべきだと考えられていることから、結果として、対象事件全体の逆送割合が相当程度まで高まると想定している。また、<原則逆送対象事件以外の事件>についても、保護処分優先主義の要請は維持されつつも全体的に逆送のハードルが下げられたものと解されていることから、逆送割合が従来よりも増加すると想定している(東京家庭裁判所少年部裁判官プロジェクトチーム「令和3年改正少年法の概要とその運用の在り方について」ケース研究344号(2022年)67頁-86頁)。
24 拙稿・前掲注(22)。
25 西田・前掲注(18)26頁。
26 拙稿・前掲注(22)。
27 法務省矯正局「若年者に対する矯正教育等の充実」(2022年)(https://www.moj.go.jp/content/001370251.pdf)[2022年10月26日最終確認]。
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