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最近の犯罪動向と犯罪者の処遇─ 令和3年版犯罪白書から─
伊瀬知 陽平
はじめに
 犯罪白書は,犯罪の防止と犯罪者の改善更生を軸として,刑事政策の策定とその実現に資するため,犯罪情勢と犯罪者の処遇の実情を分析・報告している。令和3年版犯罪白書も,統計資料等に基づき,第1から第6編(ルーティーン部分)において,令和2年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観・分析し,第8編(特集部分)において,詐欺事犯者の実態と処遇について概観・分析した。また,第7編においては,令和3年3月に開催された京都コングレスに関し,その概要等を紹介した。
 このうち,本稿においては,上記のうち,ルーティーン部分及び京都コングレスに関する部分について,その要点を紹介する(法令名・用語・略称については,特に断りのない限り本白書で用いられたものを使用している。)。
 なお,令和2年は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により我が国の国民生活・経済・社会が大きな変容を余儀なくされた年であるが,同感染症が我が国の犯罪動向・犯罪者処遇に与えた影響の有無・程度を確定的・断定的に判断することはまだできない。それでも,本白書では,過去のデータと比較・検討する過程を通し,同感染症が我が国の犯罪動向・犯罪者処遇に与えた影響が間接的に浮き彫りになるように試みているほか,同感染拡大下における処遇の状況についてもコラムで紹介している。

1 最近の犯罪動向
(1) 刑法犯
ア 認知件数
 令和2年における刑法犯の認知件数は,61万4,231件(前年比17.9%減)であった。罪名別の構成比では,窃盗(67.9%)が最も高く,次いで,器物損壊(10.4%),詐欺(5.0%),暴行(4.5%)の順であった。刑法犯の認知件数は,平成14年に戦後最多の約285万件に達したが,平成15年以降,毎年減少し続け,平成27年以降,戦後最少を毎年更新中である。同年から令和元年までの5年間における前年比の減少率は平均9.2%であったが,令和2年は前年より17.9%減少した。認知件数の減少は,刑法犯の7割近くを占める窃盗の認知件数が大幅に減少し続けたことに伴うもので,窃盗を除く刑法犯の認知件数も,平成17年以降,減少し続けており,令和2年は19万6,940件であった(図1(白書1-1-1-1図)参照)。
 なお,刑法犯に危険運転致死傷・過失運転致死傷等を合わせた認知件数も減少を続けており,令和2年は91万4,920件(前年比18.1%減)であった。
イ 検挙人員と検挙率
 令和2年における刑法犯検挙人員は,18万2,582人(前年比5.2%減)であった。罪名別の構成比では,窃盗(48.5%)が最も高く,次いで,暴行(13.6%),傷害(10.3%),横領(遺失物等横領を含む。)(6.6%)の順であった。刑法犯検挙人員は,平成16年(約39万人)をピークとして減少し続けている。
 令和2年における刑法犯の検挙率は45.5%(前年比6.1pt 上昇)であった。刑法犯の検挙率は,平成13年に戦後最低(19.8%)を記録したが,平成14年から回復傾向にあり,一時横ばいで推移した後,平成26年以降再び上昇している。

図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移


ウ 主な罪名別の特徴
 【窃盗】認知件数は,戦後最多を記録した平成14年をピークに平成15年から減少に転じ,平成26年以降は毎年戦後最少を更新しており,令和2年は41万7,291件(前年比21.6%減)であった。検挙率は,平成14年から上昇に転じ,令和2年は40.9%(同6.9pt 上昇)であった。手口別構成比を見ると,認知件数では自転車盗(28.9%)が最も高く,検挙件数では万引き(36.7%)が最も高い。態様別では,侵入窃盗及び乗り物盗は,それぞれ平成27年から令和元年までは前年比4.4〜14.2%,10.0〜13.4%の幅で減少していたのに対し,令和2年はそれぞれ前年から23.7%,27.8%減少した。なお,令和2年の認知件数を見ると,特殊詐欺に関係する手口である払出盗が前年比51.1%増と大きく増加したのに対し,職権盗が同23.6%減と大きく減少した。
 【殺人】認知件数は,平成16年から平成28年までは減少傾向にあり,同年に戦後最少の895件を記録した後は,おおむね横ばいで推移しており,令和2年は929件(前年比2.2%減)であった。検挙率は,安定して高い水準(令和2年は98.3%)にある。
 【強盗】認知件数は,平成16年から減少傾向にあり,令和2年は1,397件(前年比7.5%減)と戦後最少を更新した。検挙率は,平成17年から上昇傾向にあり,令和2年は97.2%(同9.5pt 上昇)であった。認知件数の手口別構成比では,路上強盗(21.3%)が最も高く,次いで,住宅強盗(10.8%),コンビニ強盗(8.7%)の順であった。
 【傷害】認知件数は,平成15年(3万6,568件)をピークとして減少傾向にあり,平成27年から令和元年までの5年間における前年比減少率は平均4.5%であったが,令和2年は前年より10.5%減少した1万8,963件であった。
 【暴行】認知件数は,平成18年以降おおむね高止まりの状況にあり,2万9,000件台から3万2,000件台で推移していたが,令和2年は前年から大きく減少し,2万7,637件(前年比8.7%減)であった。
 【脅迫】認知件数は,平成24年に大きく増加して以降は3,000件台で推移しており,令和2年は3,778件(前年比3.3%増)であった。
 【強制性交等・強制わいせつ】強制性交等(刑法改正(平成29年7月施行)前は強姦・準強姦であり,前記改正後は強姦,準強姦,準強制性交等及び監護者性交等を含む。)の認知件数は,平成15年に2,472件を記録した後,減少し続け,平成24年及び25年にやや増加したものの,平成26年から再び減少し,平成28年は昭和57年以降で最少の989件であった。その後,平成29年から令和元年までやや増加したものの,令和2年は前年より減少し,1,332件(前年比5.2%減。なお,前記改正による対象拡大(被害者の性別を問わなくなり,かつ,肛門性交・口腔性交も対象行為となったほか,監護者性交等が新設された。)に留意する必要がある。)であった。このうち,女性を被害者とするものは1,260件であった。令和2年の強制性交等の検挙件数は1,297件(同1.1%減)であり,検挙率は97.4%(同4.1pt 上昇)であった。なお,監護者性交等の認知件数・検挙件数は,それぞれ101件・102件(検挙率101.0%)であった。
 強制わいせつ(前記改正前は準強制わいせつを含み,前記改正後は準強制わいせつ及び監護者わいせつを含む。)の認知件数は,平成15年に1万29件を記録した後減少し,平成22年からは増加傾向にあったものの,平成26年から再び減少に転じ,令和2年は4,154件(前年比15.2%減。なお,前記改正による対象縮小(口腔性交・肛門性交が強制性交等の対象行為となった。)・拡大(監護者わいせつの新設)に留意する必要がある。)であった。令和2年の強制わいせつの検挙件数は3,766件(同5.8%減)であり,検挙率は90.7%(同9.0pt 上昇)であった。なお,監護者わいせつの認知件数・検挙件数は, それぞれ89件・83件(検挙率93.3%)であった。
(2) 特別法犯
 令和2年における特別法犯の検察庁新規受理人員は,30万7,568人(前年比6.2%減)であった。このうち,道路交通法違反が21万8,540人であり,特別法犯全体の71.1%を占める。
 道交違反(道路交通法違反及び保管場所法違反をいう。)を除く特別法犯の検察庁新規受理人員は,平成19年(11万9,813人)をピークとして減少傾向にあるが,令和2年は8万8,337人(前年比0.5%増)であった。罪名別で見ると,覚醒剤取締法(構成比15.4%),軽犯罪法(同9.4%),廃棄物処理法(同8.7%),入管法(同8.4%),大麻取締法(同8.2%)の各違反の順であり,いずれも前年より増加した(覚醒剤取締法違反(1万3,644人。前年比2.4%増),軽犯罪法違反(8,267人。同7.7%増),廃棄物処理法違反(7,665人。同8.8%増),入管法違反(7,436人。同9.4%増),大麻取締法違反(7,243人。同15.8%増))。

2 犯罪者の処遇
(1) 検察
 令和2年における検察庁新規受理人員の総数は,80万3,752人(前年比10.8%減)であった。罪種別の構成比を見ると,過失運転致死傷等及び道交違反がその6割強(64.7%)を占めている。令和2年における検察庁終局処理人員は80万7,480人(同11.0%減)であり,その内訳は,公判請求7万9,483人,略式命令請求17万3,961人,起訴猶予44万8,072人,その他の不起訴6万2,949人,家庭裁判所送致4万3,015人であった。公判請求人員は,平成17年から減少傾向にあり,令和2年は前年より2.1%減少した。
(2) 裁判
 裁判確定人員は,平成12年(98万6,914人)から毎年減少し,令和2年は,22万1,057人(前年比10.0%減)であり,最近10年間でおおむね半減している。有期懲役判決が確定した人員(4万4,232人)について,全部執行猶予率(有期懲役人員に占める全部執行猶予人員の比率)は61.4%であり,一部執行猶予付判決が確定した人員は1,298人(同10.6%減)であった。また,無罪確定者は76人(裁判確定人員総数の0.034%)であった。
 令和2年の通常第一審における終局処理人員を罪名別に見ると,地方裁判所(4万5,916人)では,窃盗(構成比23.8%)が最も多く,次いで,覚醒剤取締法違反(同15.3%),道交違反(同11.5%),自動車運転死傷処罰法違反(同9.4%)の順であった。簡易裁判所(3,724人)では,窃盗(同83.1%)が最も多かった。令和2年に一部執行猶予付判決の言渡しを受けた人員は1,272人であり,罪名別では,覚醒剤取締法違反(91.0%)が最も多く,次いで,大麻取締法違反(3.2%),窃盗(1.9%)の順であった。
 令和2年の裁判員裁判対象事件の第一審における判決人員は,905人であり,そのうち,死刑が3人,無期懲役が12人,無罪が12人であった。また,有期懲役のうち,179人が全部執行猶予(うち88人が保護観察付)で,一部執行猶予はいなかった。
(3) 矯正
 入所受刑者の人員は,平成19年から減少し続け,令和2年は1万6,620人(前年比4.8%減)と戦後最少を更新した。同年末現在の刑事施設における被収容者の収容人員は,4万6,524人(前年末比3.9%減)であり,収容率(既決)は57.7%(同2.9pt 低下)であった。
 令和2年の入所受刑者の罪名別構成比では,男女共に,窃盗が最も高く(男性34.2 %・女性46.7 %), 次いで, 覚醒剤取締法違反( 男性25.2%・女性35.7%),詐欺(男性9.7%・女性6.7%),道路交通法違反(男性4.5%・女性1.9%)の順であった。入所受刑者の年齢層別構成比では,男女共に,40歳代が最も高く(男性24.8%・女性26.1%),女性は男性と比べて高齢者の構成比が高かった(男性12.2%・女性19.0%)。
 令和2年における出所受刑者(1万9,823人)について,満期釈放又は一部執行猶予の実刑部分終了により出所した者の比率は,40.8%(前年比0.8pt 低下)であった。令和2年には,一部執行猶予受刑者1,489人(一部執行猶予の実刑部分刑期終了288人,仮釈放1,201人)が出所した。
(4) 更生保護
 令和2年の出所受刑者(出所事由が仮釈放,満期釈放又は一部執行猶予の実刑部分の刑期終了に限る。)は1万8,923人(前年比5.2%減)であった。このうち,一部執行猶予者(実刑部分の刑期終了者)は288人(同2.4%減),満期釈放者は7,440人(同7.2%減),仮釈放者は1万1,195人(全部実刑者9,994人(同4.3%減),一部執行猶予者1,201人(同0.3%増))であり,仮釈放率は,平成23年以降上昇傾向にあり,令和2年は59.2%(同0.8pt 上昇)であった。
 令和2年の保護観察開始人員は,仮釈放者1万1,195人のほか,保護観察付一部執行猶予者1,496人(前年比5.4%増),保護観察付全部執行猶予者2,088人(同7.1%減)であった(いずれも事件単位の延べ人員である。)。
 保護観察付全部執行猶予者の保護観察開始人員は,刑の一部執行猶予制度が開始された平成28年以降を見ると減少し続けており,令和2年の全部執行猶予者の保護観察率は7.0%(前年比0.2pt 低下)であった。

3 少年非行の動向と非行少年の処遇
 少年による刑法犯検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)は,平成16年以降減少し続けており,令和2年は2万2,552人(前年比13.5%減)であった。少年人口比(10歳以上の少年人口10万人当たりの刑法犯検挙人員)も低下傾向が見られ,令和2年は201.9(同13.5%減)であった。少年による刑法犯検挙人員の罪名別構成比では,窃盗(54.4%)が最も多く,次いで,傷害(8.8%),遺失物等横領(7.9%)であった。
 道交違反に係るもの以外の少年保護事件の家庭裁判所新規受理人員も,減少傾向にあり,令和2年は3万8,547人(前年比10.5%減)であった。少年鑑別所入所者の人員も,平成16年から減少し続け,令和2年は5,197人(同9.6%減)であった。
 少年院入院者の人員は,最近25年間では,平成12年(6,052人)をピークに減少傾向が続いており,令和2年は1,624人(前年比6.0%減)と昭和24年以降最少であった。また,令和2年の女子比は8.4%(同0.7pt 上昇)であった。
 保護観察処分少年(家庭裁判所の決定により保護観察に付されている者)の保護観察開始人員は,平成11年以降減少し続け,令和2年は1万733人(前年比9.3%減)であった。少年院仮退院者の保護観察開始人員は,平成15年以降減少傾向にあり,令和2年は1,692人(同17.6%減)であった。

4 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇
(1) 交通犯罪
 交通事故の発生件数と負傷者数は,いずれも平成17年から減少し続けており,平成27年から令和元年まで前年比それぞれ5%台から11%台,6%台から12%台で減少したところ,令和2年はそれぞれ30万9,178件(前年比18.9%減),36万9,476人(同20.0%減)であった。死亡者数も,平成4年(1万1,452人)をピークとして減少傾向にあり,令和2年は,昭和23年以降初めて3,000人を下回って最少を更新し,2,839人(同376人減)であった。
 令和2年における危険運転致死傷の検挙人員は732人(前年比12.1%増)であり,うち致死事件は42人(同2人増)であった。
 令和2年における道交違反の取締件数は,578万289件(前年比0.8%増)であった。そのうち,送致事件(非反則事件として送致される事件)の取締件数は,平成13年以降減少し続け,令和2年は21万8,954件(同9.3%減)であった。同年の送致事件を違反態様別に見ると,速度超過(構成比29.6%),酒気帯び・酒酔い(同10.3%),無免許(同8.8%)の順であり,酒気帯び・酒酔いは,前年よりも11.7%減少し(2万2,458件),平成期最多であった平成9年(34万3,593件)の約15分の1となっている。
(2) 薬物犯罪
 覚醒剤取締法違反(覚醒剤に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,平成13年から減少傾向にあり,平成18年以降おおむね横ばいで推移した後,平成28年から減少し続け,令和2年は8,654人(前年比0.9%減)であり,令和元年以降2年連続で1万人を下回った。
 大麻取締法違反(大麻に係る麻薬特例法違反を含む。)の検挙人員は,昭和52年から平成30年までの間は,1,000人台から3,000人台で増減を繰り返していた。平成6年(2,103人)と平成21年(3,087人)をピークとする波が見られた後,平成26年から7年連続で増加し,平成29年からは昭和46年以降における最多を記録し続けており,令和2年は5,260人(前年比15.1%増)であった(図2(白書4-2-1-4図)参照)。少年による大麻取締法違反の検挙人員(触法少年の補導人員を含まない。)も,同様に増加し続けており,令和2年は853人(同43.4%増)であった。
 いわゆる危険ドラッグに係る犯罪(医薬品医療機器等法違反,麻薬取締法違反,交通関係法令違反等)の検挙人員は,平成28年以降,減少し続けており,令和2年は150人(前年比17.6%減)であった。
 令和2年における薬物の押収量を見ると,覚醒剤が824.4kg(前年比

図2 大麻取締法違反等 検挙人員の推移(罪名別)


68.9%減),乾燥大麻が299.1kg(同30.5%減),大麻樹脂が3.6kg(同75.7%減),コカインが821.7kg(同28.4%増),MDMA 等錠剤型合成麻薬が10万6,308錠(同43.8%増)等であった。
(3) 暴力団犯罪
 暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の刑法犯検挙人員は,平成15年以降減少傾向にあり,令和2年は7,533人(前年比10.8%減)であった。同年の刑法犯検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,4.1%であった。罪名別では,傷害(1,629人),詐欺(1,249人),窃盗(1,157人),暴行(829人),恐喝(575人)の順に多く,全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,賭博(45.5%),恐喝(38.0%),逮捕監禁(29.3%),暴力行為等処罰法違反(28.0%)の順で高かった。
 暴力団構成員等の特別法犯検挙人員は,平成24年以降減少し続けており,令和2年は5,656人(前年比3.1%減)であった。同年の特別法犯検挙人員に占める暴力団構成員等の比率は,9.2%であった。罪名別では,覚醒剤取締法(3,510人),大麻取締法(732人),銃刀法(133人),風営適正化法(127人)の各違反の順で多く,全検挙人員に占める暴力団構成員等の比率を見ると,暴力団対策法,暴力団排除条例の各違反は,いずれも100.0%であった。
(4) 財政経済犯罪
 独占禁止法違反の検察庁新規受理人員は,平成18年以降,0〜30人台の範囲で増減を繰り返しており,令和2年は13人(前年は0人)であった。金融商品取引法違反の検察庁新規受理人員は,平成28年以降,50〜60人台の範囲で増減していたが,令和2年は37人(前年比20人減)であった。証券取引等監視委員会による同法違反の告発は,2件・3人(法人を含む。)であった。
(5) サイバー犯罪
 不正アクセス行為(不正アクセス禁止法11条に規定する罪)の認知件数は,同法が施行された平成12年以降,増減を繰り返しながら推移し,令和2年は2,806件(前年比5.2%減)であった。また,不正アクセス行為後の行為の内訳を見ると,「インターネットバンキングでの不正送金等」(構成比65.8%)が最も多く,次いで,「メールの盗み見等の情報の不正入手」(同8.3%),「インターネットショッピングでの不正購入」(同6.1%)の順であった。
 サイバー犯罪のうち,インターネットを利用した詐欺や児童買春・児童ポルノ禁止法違反等,コンピュータ・ネットワークを不可欠な手段として利用した犯罪の検挙件数は,平成29年から4年連続で増加し,令和2年は8,703件(前年比5.3%増)であり,特に詐欺は前年より32.8%増加した。性的な事件の検挙件数について見ると,児童ポルノに係る犯罪は1,438件(前年比8.7%減),青少年保護育成条例違反は1,013件(同2.4%減)であった。
(6) 児童虐待・配偶者間暴力・ストーカー等に係る犯罪
 刑法犯全体の検挙件数・検挙人員が平成17年から減少し続けているのに対し,児童虐待に係る事件(刑法犯等として検挙された事件のうち,児童虐待防止法2条に規定する児童虐待が認められたもの)の検挙件数・検挙人員は,平成20年前後の緩やかな増加傾向に続き,平成26年以降は大きく増加し,令和2年は2,133件(前年比8.2%増)・2,182人(同7.8%増)であり,それぞれ平成15年(212件,242人)と比べると約10.1倍,約9.0倍であった(図3(白書4-6-1-1図)参照)。
 配偶者からの暴力事案等の検挙件数について見ると,配偶者暴力防止法に係る保護命令違反の検挙件数は,平成27年以降減少傾向にあったが,令和2年は76件(前年比5件増)であった。その一方で,他法令による検挙件数の総数は,平成23年以降増加し続け,令和2年は8,702件と前年より減少したものの,平成22年の約3.7倍であった。特に,暴行(5,183件。平成22年の約6.1倍)及び暴力行為等処罰法違反(302件。同約6.7倍)の検挙件数が大きく増加している。
 ストーカー規制法による警告の件数は,平成26年以降は3,000件を超えていたが,平成30年から2,000件台で推移しており,令和2年は2,146件(前年比4.6%増)であった。同法による禁止命令等の件数は,平成29年から急増し,令和2年は1,543件(同12.2%増。うち緊急禁止命令等は729件)であった。ストーカー事案の検挙件数は,平成24年以降高水準で推移しており,令和2年のストーカー規制法違反の検挙件数は985件(前年比14.0%増。平成23年の約4.8倍),刑法犯及び特別法犯(ストーカー規制法を除く。)による検挙件数は1,518件(同1.8%増。同約1.9倍)であった。なお,令和2年におけるストーカー事案に関する相談等件数

図3 児童虐待に係る事件 検挙件数・検挙人員の推移(罪名別)


(ストーカー規制法その他の刑罰法令に抵触しないものも含む。)は,2万189件であった。
(7) 女性犯罪・非行
 女性の刑法犯検挙人員は,平成17年に戦後最多(8万4,175人)を記録した後,減少に転じ,令和2年は3万8,930人(前年比3.5%減)であった。検挙人員の女性比は,近年20〜21%で推移しており,令和2年は21.3%であった。令和2年における女性の刑法犯検挙人員を罪名別構成比で見ると,窃盗が7割を超え(万引き54.1%・万引き以外の窃盗17.3%),男性の罪名別構成比(同21.3%・同21.0%)と比べて顕著に高く,次いで,傷害・暴行13.2%(男性の罪名別構成比26.8%)であった。
 女性入所受刑者の人員は,平成19年に若干減少した後はおおむね横ばいで推移していたが,平成28年から減少し続けた後,令和2年は増加に転じ,1,770人(前年比3.0%増)であった。最近20年間の入所受刑者の女性比は,平成27年まで上昇し続けた後,平成28年から横ばいとなっていたが,令和2年(10.6%)は前年より0.8pt 上昇し,平成元年以降で初めて10%台となった。女性の入所受刑者の罪名別構成比では,窃盗の増加が著しく,平成24年以降は窃盗が覚醒剤取締法違反を上回り最も高くなっている。
 女子の少年院入院者の人員は,平成14年からは減少傾向にあり,令和2年は137人(前年比3.0%増)であった。少年院入院者の女子比は8.4%であった。非行名別に見ると,窃盗(34人),傷害・暴行(25人),覚醒剤取締法違反(17人)の順に多かった(なお,ぐ犯は13人。)。
(8) 高齢者犯罪
 高齢者の刑法犯検挙人員は,平成20年(4万8,805人)をピークとして高止まりの状況にあったが,平成28年から減少し続けており,令和2年は4万1,696人(前年比1.8%減)であり,このうち,70歳以上の者は,高齢者の刑法犯検挙人員の74.8%に相当する3万1,182人(同1.4%増)であった。高齢者率は,他の年齢層の多くが減少傾向にあることからほぼ一貫して上昇し,平成28年以降20%を上回り,令和2年は22.8%(同0.8pt上昇)であった。女性の高齢者率は,平成29年に34.3%に達し,その翌年から低下していたが,令和2年は34.1%(同0.5pt 上昇)であった。
 令和2年における高齢者の刑法犯検挙人員の罪名別構成比を見ると,窃盗が高く(万引き50.9%・万引き以外の窃盗18.6%。全年齢層では同28.3 %・同20.2 %),特に,女性では,約9割が窃盗(同73.2 %・同16.3%)であり,そのうち万引きによるものが約8割と顕著に高い(なお,男性高齢者では同40.4%・同19.7%)。
(9) 外国人犯罪
 来日外国人による刑法犯の検挙件数は,平成17年(3万3,037件)をピークとして減少し続け,平成29年に一旦増加に転じた後,平成30年から再び減少に転じていたが,令和2年は前年よりも増加し,9,512件(前年比4.0%増)であった。
 来日外国人による刑法犯の検挙件数の罪名別構成比を見ると,窃盗(61.1%),傷害・暴行(11.3%),詐欺(6.6%)の順に多かった。窃盗については,平成18年(2万3,137件)以降減少傾向にあったが,令和2年は前年よりも増加し,5,809件(前年比11.3%増)であった。傷害・暴行については,近年増加傾向にあったが,令和2年は前年よりも減少し,1,071件(同8.0%減)であった。
 来日外国人による特別法犯の検挙件数は,平成16年をピークに平成24年まで減少していたが,平成25年からの増減を経て,平成28年から5年連続で増加し続けており,令和2年は8,353件(前年比3.0%増)であった。このうち,主な罪名・罪種を見ると,入管法違反(6,534件),薬物関係法令違反(覚醒剤取締法,大麻取締法,麻薬取締法,あへん法及び麻薬特例法の各違反。686件),風営適正化法違反(100件),売春防止法違反(18件)であった。
 令和2年における来日外国人被疑事件(過失運転致死傷等及び道交違反を除く。)の検察庁新規受理人員(1万6,311人)の地域・国籍別構成比を見ると,ベトナム(36.4%),中国(23.7%),フィリピン(5.9%),韓国・朝鮮(4.5%),タイ(3.6%)の順に多かった。
(10) 精神障害のある者による犯罪等
 令和2年における精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)の刑法犯検挙人員は,1,345人(精神障害者940人,精神障害の疑いのある者405人)であり,罪名別では,傷害・暴行(426人)が最も多く,次いで窃盗(267人)であった。また,同年における刑法犯検挙人員の総数に占める精神障害者等の比率は,0.7%であり,罪名別では,放火(14.8%),殺人(6.9%)の順に高かった。

5 再犯・再非行
 令和2年に刑法犯により検挙された者のうち,再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者)は8万9,667人(前年比4.6%減)であり,初犯者は9万2,915人(同5.8%減)であった。
 刑法犯検挙人員のうち,再犯者の人員は,平成18年(14万9,164人)をピークとして漸減状態にあるのに対し,初犯者の人員は,平成16年(25万30人)をピークとして減少し続けており,再犯者の人員が減少に転じた後も,それを上回るペースで初犯者の人員が減少し続けていたこともあり,再犯者率(刑法犯の検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は平成9年以降上昇し続け,令和元年にわずかに低下したものの,令和2年は49.1%(前年比0.3pt 上昇)であった(図4(白書5-2-1-1図)参照)。

図4 刑法犯 検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移


 刑法犯により検挙された成人のうち,有前科者(道路交通法違反を除く犯罪の前科を有する者)は,平成19年から減少し続け,令和2年は4万6,001人(前年比5.2%減)であった。他方,刑法犯の成人検挙人員総数が減少していることもあり,有前科者率(刑法犯の成人検挙人員に占める有前科者の人員の比率)は,平成9年以降27〜29%台でほぼ一定しており,令和2年は27.9%であった。罪名別では,刑法犯全体(27.9%)と比べ,恐喝(50.8%),強盗(43.0%),詐欺(36.7%)の有前科者率が特に高い。
 令和2年に起訴された者の犯行時の身上を見ると,全部執行猶予中の者が6,263人(前年比255人減。うち924人が保護観察中),一部執行猶予中の者が516人(同167人増。うち512人が保護観察中),仮釈放中の者が590人(同64人増),保釈中の者が283人(同2人減)であった。
 令和2年の入所受刑者人員(1万6,620人)のうち,再入者の人員は9,640人(前年比5.4%減)であり,再入者率は58.0%(同0.3pt 低下)であった。女性の再入者は828人(同3.3%減)であり,再入者率は男性と比べると低い46.8%であった。
 出所受刑者の再入所状況については,平成28年の出所受刑者の2年以内再入率(各年の出所受刑者人員のうち,出所後の犯罪により,出所年を1年目として2年目(翌年)の年末までに再入所した者の人員の比率)・5年以内再入率(いずれも総数)を見ると,17.3%・36.7%であり,平成23年の出所受刑者の10年以内再入率(総数)を見ると,45.3%であった(図5(白書5-2-3-6図)参照)。いずれの出所年の出所受刑者においても,満期釈放者(平成28年の出所受刑者については一部執行猶予の実刑部分の刑期終了により刑事施設を出所した者を含む。)は,仮釈放者よりも再入率が高く,入所度数が多い者は,少ない者に比べて再入率が高かった。
 平成28年の出所受刑者の5年以内再入率(総数)を罪名別に見ると,覚醒剤取締法違反(44.3%)及び窃盗(43.4%)が他の罪名と比べて高く,傷害・暴行(36.4%),詐欺(22.5%)がそれに続いた。

図5 出所受刑者の出所事由別再入率


 政府は,近年,2021年(令和3年)までに出所受刑者の2年以内再入率を16%以下とすることを目標としていたところ,令和元年の出所受刑者の2年以内再入率(総数)は,15.7%(前年比0.5pt 低下)であり,同目標を下回った。なお,令和元年の出所受刑者のうち一部執行猶予受刑者は1,493人であり,そのうち2年以内再入者は161人であった。
 再非行少年率(少年の刑法犯検挙人員に占める再非行少年(前に道路交通法違反を除く非行により検挙(補導)されたことがあり,再び検挙された少年)の人員の比率)は,平成10年から平成28年まで上昇し続けた後,平成29年以降は3年連続で低下したが,令和2年は34.7%(前年比0.7pt 上昇)であった。平成28年の少年院出院者について,5年以内再入院率は14.7%,再入院・刑事施設入所率は21.6%であり,令和元年の少年院出院者について,2年以内再入院率は10.1%,再入院・刑事施設入所率は11.1%であった。

6 統計上の犯罪被害
 令和2年において,人が被害者となった刑法犯の認知件数は46万637件(前年比20.9%減),男女別の被害発生率(人口10万人当たりの認知件数)は男性492.0・女性244.7であり,いずれも平成14年の約5分の1以下であった。
 令和2年において,生命・身体に被害をもたらした刑法犯の被害者数は,2万2,571人(前年比10.2%減。うち死亡者687人,重傷者(全治1か月以上)2,411人)であり,財産犯(強盗,窃盗,詐欺,恐喝,横領及び遺失物等横領)による被害総額は,約1,267億円(同6.2%増。うち現金被害額約870億円(同25.1%増))であった。
 財産犯による被害総額を罪名別に見ると,詐欺によるもの(被害総額の50.5%),窃盗によるもの(同39.6%)の順に多かった。このうち,現金被害額だけを見ても,詐欺によるものが最も多く,財産犯による現金被害総額の3分の2以上を占めている。

7 京都コングレス
 本白書第7編では,第1章でコングレスの歴史や意義等について振り返った後,第2章で京都コングレスの概要(開催までの経緯,全体テーマや議題,コロナ禍における新たな国際会議の形,京都コングレスの成果等)や京都コングレスにおける各種イベントについて概観するとともに,コラムにおいて,これらのイベントのうちいくつかを詳しく紹介している。
 国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)は,5年に1度開催される犯罪防止及び刑事司法の分野における国際連合最大規模の会議である。コングレスは,正式プログラムとしての全体会合及び委員会(ワークショップ)並びに正式プログラムと並行して開催される附属会合(アンシラリーミーティング)により構成されており,犯罪防止及び刑事司法の分野における専門家が世界の同分野の諸課題について議論しつつ,その知見を共有するなどして,国際協力を促進し,より安全な世界を目指して協働することを目的としている。1955年(昭和30年)にスイスのジュネーブにおいて第1回コングレスが開催されて以降,2021年(令和3年)の京都コングレスまで合計14回にわたって開催され,様々な国連の基準規則,宣言等が議論・採択されてきた。
 1970年(昭和45年)に京都市で開催して以来,我が国(京都市)における二度目の開催となった京都コングレスは,当初,2020年(令和2年)4月に開催される予定であったが,新型コロナウイルス感染症の世界的な感染状況等に鑑み,開催が延期され,2021年(令和3年)3月に開催されることとなった。
 京都コングレスは,新型コロナウイルス感染症の感染拡大後,国内で初めて開催される大規模な国際会議であったことなどから,同感染症の感染防止のための入念な対策の下,オンライン参加と会場参加を併用する,いわゆるハイブリッド式により,オンライン参加者と会場参加者を合わせ,過去最多となる152の国と地域から約5,600人の参加登録を得て開催された。
 このような経緯で開催された京都コングレスでは,「2030アジェンダの達成に向けた犯罪防止,刑事司法及び法の支配の推進」を全体テーマとして,国際社会が直面する組織犯罪,腐敗やテロ等の脅威に効果的に対処するための行動指針の策定に向け,様々な議論がなされた。その結果,成果文書として,「持続可能な開発のための2030アジェンダの達成に向けた犯罪防止,刑事司法及び法の支配の推進に関する京都宣言」(「京都宣言」)という政治宣言が全会一致で採択された。同宣言は,国際社会が犯罪防止・刑事司法の分野において取り組むべき内容をとりまとめたものであり,総論部分と京都コングレスの四つの議題に沿って構成された各論部分から成る。このうち総論部分では,国際協調の重要性や基本的人権の擁護といった従来の政治宣言でも確認されてきたことのほか,法の支配と持続可能な発展の相互補強性,犯罪防止のためのマルチステークホルダー・パートナーシップの推進,新型コロナウイルス感染症の感染拡大が刑事司法に及ぼす影響への懸念とそれへの対応に関する国際社会のコミットメント等,京都宣言に特徴的な内容が記載され,各論部分では,「犯罪防止の推進」,「刑事司法制度の推進」,「法の支配の推進」及び「あらゆる形態の犯罪を防止し,それに対処するための国際協力と技術支援の推進」の4章にわたり,具体的な行動目標が示された。
 また,京都コングレスでは,ハイレベルセグメントにおいて,過去最多となる90の国と地域の閣僚級によってステートメントが行われた後,全体会合における発表・討議及び4つのワークショップが実施されたほか,教室形式,ディスカッション形式,講演会等の様々な形式で,約150件のアンシラリーミーティングが開催され,40以上の出展者により,安全・安心な社会の実現に向けた取組,SDGs に関する取組等に関する展示も行われた。

(法務省法務総合研究所研究部室長研究官)
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