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平成期における犯罪動向と犯罪者の処遇等─令和元年版犯罪白書から─
中塩 東吾
はじめに
 平成31年4月30日をもって約30年間続いた平成が終わり,5月1日から元号が令和に変わった。令和元年版犯罪白書では,全編を「平成の刑事政策」の特集とし,この約30年間(以下「平成期」という。)の主な法規の変遷,犯罪・少年非行の動向,犯罪者・非行少年の処遇,各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇,再犯・再非行,犯罪被害者について順次外観・分析し,平成期における各種刑事政策の運用状況を概観している。
 このうち,本稿においては,主に平成期における犯罪・少年非行の動向,犯罪者・非行少年の処遇,各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇,再犯・再非行,犯罪被害者につき,その要点を紹介するが,罪名・用語・略称及び図表については,本白書で用いられたものを使用している。

1 犯罪・少年非行の動向
⑴ 刑法犯
 平成期における刑法犯認知件数は,前半において急増,後半において急減した。すなわち,平成8年から戦後最多を毎年更新し,14年にはピーク(285万4,061件)に達したが,15年以降は毎年減少し,27年以降は戦後最少を毎年更新している(30年は81万7,338件)。検挙人員も類似の傾向を示すが,その増減のカーブは認知件数に比べ緩やかである。検挙率は,逆に前半において低下傾向,後半において上昇傾向を示し,13年に19.8%と戦後最低となっている(図1(白書2−1−1−1図)参照)。

図1 刑法犯 認知件数・検挙人員・検挙率の推移


 罪名別では,認知件数,検挙人員のいずれにおいても一貫して窃盗が最も多く,次いで認知件数が多いのは平成初期においては横領(遺失物横領を含む。)であったが,平成中期以降は器物損壊であり,平成後期になると横領は暴行,傷害,詐欺をも下回るようになった。
 窃盗の認知件数は,刑法犯認知件数の大半を占めるため,増減も刑法犯認知件数の増減と同様の傾向を示しており,ピークは平成14年(237万7,488件)であった(30年は58万2,141件)。
 窃盗を除く刑法犯についても,全体で見ると平成期前半に増加し,後半に減少したが,認知件数のピークが平成16年(58万1,463件)と刑法犯全体・窃盗のピークより2年遅れ,また元年からピークまでの増加率は窃盗を上回る一方,減少幅は窃盗ほど大きくない。
⑵ 特別法犯
 平成期の特別法犯検察庁新規受理人員は,減少傾向にあって,特に平成12年以降は毎年減少し,18年からは昭和24年以降での最少を毎年記録している(30年は35万5,423人)。道交違反を除く特別法犯の検察庁新規受理人員も,小幅ではあるが平成20年から減少傾向にある(30年は8万9,901人)。
 逆に,罪名別で近年増加しているのは,大麻取締法違反,児童買春・児童ポルノ禁止法違反等であり,廃棄物処理法違反や銃刀法違反も減少幅は大きくない。
⑶ 少年非行の動向
 平成期の少年による刑法犯・危険運転致死傷・過失運転致死傷等の検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)は,平成8年から10年及び13年から15年に一時的な増加が見られるが,全体としては減少傾向にあり,24年から戦後最少を記録し続け,30年は戦後最少を更新する4万4,361人(前年比11.6%減)であった。
 平成期の犯罪少年による特別法犯(平成15年までは交通関係4法令違反を除き,16年以降は交通法令違反を除く。)の検挙人員は,平成初期に大半を占めていた薬物犯罪,特に毒劇法違反の減少に伴い18年まで大幅な減少傾向にあったが,19年からは軽犯罪法違反の増加に伴い増加し,24年からは再び減少した。薬物犯罪のうち,覚せい剤取締法違反の検挙人員は10年以降減少傾向にあったが,30年は前年より4人増加し,95人であった。大麻取締法違反は平成期で増減を繰り返したが,26年からは連続して増加しており,30年は422人(前年比130人増)であった。

2 犯罪者・非行少年の処遇
⑴ 検察
 平成期における検察庁新規受理人員は,総数では平成18年まで200万人を超えていたが,その後漸減し,30年には平成期で初めて100万人を下回りピーク時の半数以下となった。罪種別では,道交違反と過失運転致死傷等が大半を占めているところ,総数の減少は道交違反の減少によるところが大きい。
 平成期の検察庁終局処理人員についても新規受理人員と同様の傾向を示しているが,公判請求人員は,平成16年まで増加傾向,17年から減少傾向にある。起訴猶予人員も19年から減少しているが,それを上回る勢いで略式命令請求人員が減少していることから,起訴率は3割近くまで低下している。公判請求率はむしろ26年から上昇傾向にあり,27年以降8%を上回っている。
⑵ 裁判
 裁判確定人員総数は,平成初期においては若干増加した年もあるものの,平成期全体としては減少傾向にあり,平成30年は元年の4分の1以下になっている。これは大半を占める罰金の人員が大きく減少していることによるところが大きく,有期懲役・禁錮の人員で見ると,16年まで増加傾向を示し,その後減少傾向にあるものの,30年もなお5万人を上回っており,平成初期の人員数とさほど大きな違いはない。有期懲役の全部執行猶予率も約6割前後と平成期を通じて大きな変化はない。死刑は16年から21年及び23年・24年に10人以上であったがそれ以外は毎年10人未満であり,無期懲役は15年から18年の間が100人以上であったがそれ以外は毎年100人未満であることから,平成中期以降に凶悪重大犯罪の判決が多く確定したことがうかがえる。28年に刑の一部執行猶予制度が始まったが,一部執行猶予は29年,30年と1,500人を上回った。平成期の無罪確定者は3年の197人が最も多く,それ以外は百数十人以下である。
 平成21年には裁判員制度が開始されたところ,裁判員裁判対象事件の第一審における新規受理・終局処理人員は,同年の終局処理人員を除き1,000人台で推移して来たが,29年の終局処理人員は1,000人を割り込んだ。
⑶ 成人矯正
 平成期における刑事施設の年末収容人員は,平成4年に4万5,082人まで減少した後増加し,18年に8万人を上回ったが,その後減少して,30年は約5万人となっている。
 刑事施設の収容率(年末収容人員の収容定員に対する比率)は,被収容者全体の収容率が平成13年から18年まで100%を超えていたが,17年からは毎年低下している。
 平成期の入所受刑者人員は,平成4年に2万864人まで減少した後,増加に転じ,18年には3万3,032人まで増加したが,その後再び減少し,28年以降,4年を下回り戦後最少を記録している。
 年齢層別では,男女共に,平成15年時点では30歳代の構成比が最も高かったが,30年には40歳代の構成比が最も高くなっており,元年には315人しかいなかった65歳以上の者も30年には2,222人となるなど,入所者の高齢化が進んでいる。
 特別改善指導のうち薬物依存離脱指導の受講開始人員は増加傾向にあり,平成28年度以降,1万人前後となっている。
 なお,出所受刑者のうち,一部執行猶予受刑者は,平成29年は362人,30年は1,202人であった。
⑷ 更生保護
 平成期において,仮釈放者人員は1万2,000人台から1万6,000人台で推移しており,仮釈放率は,平成21年と22年に50%を割り込んだが,それ以外の年は50%から60%の間で推移しており,30年は平成期で最も高い58.5%(前年比0.5pt 上昇)であった。
 保護観察付全部・一部執行猶予者は,平成初期は5,000人前後で推移していたものが平成12年に5,683人まで増加したが,その後減少傾向にあり,30年は3,455人であった。
 全部執行猶予者の保護観察率は,平成初期に14%前後であったものが平成20年の8.3%になるまで低下傾向にあったものの,21年に上昇に転じ,25年から10.0%で推移していたが,28年以降は再び低下し30年には7.8%となっている。
 専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員の推移に目立つ変化はないが,薬物再乱用防止プログラムの受講開始者人員が,一部執行猶予受刑者が出所し始めた平成29年以降急増している。
⑸ 非行少年の処遇
 犯罪少年の検察庁新規受理人員総数は,平成元年は約45万人であったが15年には約25万人,30年には約6万人となっており,罪名別に見ると,15年・30年は元年に比べ道交違反の割合が低くなっている。
 平成期の家庭裁判所新規受理人員も,ほぼ一貫して減少しており,平成30年は元年の約8分の1である。一般保護事件,道路交通保護事件のいずれも大きく減少したが,特に道路交通保護事件が著しく減少し,元年当初それほど変わらなかった両事件の人員が30年には一般保護事件が道路交通保護事件の3倍以上となっている。
 平成期の少年鑑別所入所者の人員は,平成元年から7年まで減少傾向にあったが,8年以降増加に転じ,15年には2万3,063人になったが,その後は毎年減少を続け,30年は15年の3分の1以下にまで減少している。
 平成期の少年院入院者の人員も,同様に平成7年まで減少傾向にあったものが8年以降増加し,12年に6,052人となったものの,その後減少傾向に転じ,30年は12年の3分の1近くとなっている。
 保護観察処分少年の保護観察開始人員は,平成初期は7万人を上回っていたが,平成30年はその約5分の1以下となっており,そのうち交通短期保護観察の対象者の占める比率は,平成初期の7割近くから30年に3割近くにまで低下している。

3 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇
⑴ 交通犯罪
 昭和50年代から再び増加し始めた交通事故発生件数は平成期に入っても増加を続け,平成16年に95万2,720件とピークを迎えた。負傷者数も同年に118万3,617人と最多となったが,その後17年からは交通事故発生件数,負傷者数いずれも減少を続け,元年より少ない水準となっている。死亡者数については,平成期を通じてほぼ一貫して減少傾向にあり,30年は元年の3分の1以下になっている。
 過失運転致死傷等による検挙人員も,平成11年及び12年に急増するなどし,16年に90万119人となったが,その後は減少し,26年以降,元年を下回る水準となっている。
 危険運転致死傷による検挙人員は,平成14年の322人から数値が入り始め,その後200人台から400人台で推移していたが,自動車運転死傷処罰法の施行により類型が拡大したこともあり,近時は600人を上回る。
 道交違反取締件数(送致事件)は,平成4年がピークの117万2,677件であり,11年まで高止まりしていたが12年以降は毎年減少し,30年はピーク時の4分の1以下となっている。うち酒気帯び・酒酔いの取締件数は,9年に平成期最多の34万3,593件となったが,その後減少傾向にあって,30年はピーク時の約13分の1まで減少している。
⑵ 薬物犯罪
 平成期の覚せい剤取締法違反検挙人員は,平成元年の1万6,866人から始まり,全体としては減少傾向にあるが,7年から13年まで1万7,000人を上回るなど,なお乱用期というべき時期が存在し,また平成末期においてもなお1万人を超える状況が続いている。
 平成期の大麻取締法違反の検挙人員は,1,000人台から3,000人台で増減を繰り返し,平成9年には1,175人まで減少するなどしていたが,26年からは毎年増加し,30年は昭和46年以降最多の3,762人であった。他方,危険ドラッグに係る犯罪の検挙人員は,24年から増加し,27年には1,000人を超えたが,28年以降減少が続いている。
 覚せい剤取締法違反による入所受刑者人員は,平成期において毎年5,000人台から7,000人台で推移していたが,平成30年は5,000人を割り込んだ。
 覚せい剤取締法違反による出所受刑者の仮釈放率は,50%台から60%台で推移しており,全部執行猶予者の保護観察率は,平成初期は約2割であったが,次第に低下して平成18年に1割を割り込み,近年も10%台前半で推移している。
 なお,平成30年の保護観察開始人員中,覚せい剤取締法違反による保護観察付一部執行猶予者は862人(前年比654人増)であった。
⑶ 暴力団犯罪
 暴力団構成員及び準構成員等(暴力団構成員以外の暴力団と関係を有する者であって,暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがあるもの,又は暴力団若しくは暴力団構成員に対し資金,武器等の供給を行うなど暴力団の維持若しくは運営に協力し,若しくは関与するものをいう。)の人員の総数は,平成7年と8年に8万人を割り込んだが,再び増加に転じて16年には約8万7,000人にまで増加した。その後は大きく減少し,3万人台にまで至っている(30年は約3万500人)。暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)検挙人員(危険運転致死傷,過失運転致死傷等及び交通法令違反を除く。)は,刑法犯では16年頃まで2万人前後で推移していたが,その後約1万人まで減少し,特別法犯では11年まで1万2,000人を上回っていたものが24年頃まで1万人前後で推移するようになり,28年以降は7,000人台まで減少している。罪名別では,覚せい剤取締法違反,賭博,恐喝等において暴力団構成員等の占める比率が高い傾向は余り変わっていない。
 平成期の入所受刑者のうち暴力団関係者は,平成元年は6,000人以上と入所受刑者人員の約4分の1を占めていたが,6年以降は15年から18年まで4,000人を上回ったほかは減少傾向にあり,30年には1,000人近くまで減少,全入所受刑者に占める比率は6.0%まで低下した。
⑷ 財政経済犯罪
 平成期における税法違反の検察庁新規受理人員は,所得税法違反においておおむね数十人から百数十人で推移しているが,例外として平成4年に397人,9年に230人となっている。法人税法違反においては,100人台から300人台で推移している。
 経済犯罪につき,平成期の検察庁新規受理人員は,強制執行妨害では平成16年の60人が,公契約関係競売入札妨害及び談合では18年の584人が最多であった。また,会社法・商法違反では10年の162人,独占禁止法違反では7年の291人,金融商品取引法違反では24年の137人,出資法違反では15年の1,092人,貸金業法違反では同年の587人がそれぞれ最多であった。
 知的財産関連犯罪につき,平成期の検察庁新規受理人員は,商標法違反では平成17年の896人,著作権法違反では26年の453人が最多であった。
⑸ サイバー犯罪
 不正アクセス行為の認知件数は,不正アクセス禁止法が施行された平成12年以降,増減を繰り返し,26年の3,545件が最多であった。
 ネットワーク利用犯罪の検挙件数は,増加傾向にあり,平成30年は12年の約10倍であった。
⑹ 児童虐待・配偶者間暴力・ストーカー等に係る犯罪
 平成期において,児童虐待に係る事件の検挙件数・検挙人員は大きく増加しており,平成30年は1,380件・1,419人で,15年の約6.5倍・約5.9倍となった(図2(白書4−6−1−1図)参照)。罪名別では,特に暴行が顕著に増えている。被害者と加害者の関係で見ると,父親等による

図2 児童虐待に係る事件 検挙件数・検挙人員の推移(罪名別)


ものの割合が高く,そのうち養父・継父,母親の内縁の夫によるものも一定数を占めるが,母親等によるものについては,そのほとんどが実母によるものである。
 配偶者暴力防止法違反の検察庁新規受理人員は,同法が施行された平成13年から数値が入り始め,24年の122人が最多である(30年は70人)。配偶者間事案(被害者が被疑者の配偶者(内縁関係を含む。)であった事案)の刑法犯検挙件数は,11年以降増加傾向にあって,30年は8,229件で元年の約11.9倍であった。被害者が女性である事件の件数が平成期を通じて総数の約7割から9割を占めている。
 ストーカー規制法違反の検挙件数は,平成16年から統計が存在しているところ,23年まで増減を繰り返した後,24年からは大幅に増加しており,30年は870件で23年の約4.2倍であった。
⑺ 女性犯罪・非行
 平成期における女性(成人・少年)の刑法犯検挙人員は,平成初期に一旦減少したが,平成5年以降増加傾向となり,17年に戦後最多の約8万4,000人となった。その後は毎年減少し,30年は4万3,120人で元年の約3分の2となっている。検挙人員総数に占める女性の比率(女性比)は,2割前後で推移しているが,詳細に見ると,5年に18.2%まで低下し,その後9年と10年に22.4%まで上昇するという動きを示している。罪名別では,女性における窃盗の割合は男性に比べて顕著に高く,元年・15年・30年のいずれの時点でも7割を超えており,特に,万引きの占める割合が高い傾向が続いている。
 女性の入所受刑者は,平成5年から18年まで増加し,19年に若干減少した後おおむね横ばいで推移していたが,28年からは減少しているところ,30年は1,769人(前年比123人(6.5%減))であった。刑事施設における女性の収容率は,13年から18年までは100%を超えていたが,女性受刑者の収容定員が拡大されたこともあって,23年からは低下している(30年末現在の収容率は64.3%)。
 女子少年院入院者の人員は,平成13年に615人まで増加したが,その後減少傾向にあり,30年は175人で13年の3分の1以下となっている。
 仮釈放者では,女性比が平成初期の6%程度から平成30年は12.0%と上昇している。保護観察付全部・一部執行猶予者でも,平成初期は女性比が1割前後であったが,30年は15.7%まで上昇している。
 なお,女性の出所受刑者の仮釈放率は,平成期前半は約8割,平成20年以降でも約7割であり,男性と比べて高い。
⑻ 高齢者犯罪
 平成期における高齢者(65歳以上の者をいう。)の刑法犯(総数)検挙人員は,平成20年まで増加し,その後おおむね横ばいで推移しているが,非高齢者の各年齢層における検挙人員が減少傾向にあることから,刑法犯検挙人員に占める高齢者の比率はほぼ一貫して上昇し,28年以降は2割を超えている。罪名別では,窃盗が最も高い割合を占め,特に女性高齢者では約9割が窃盗であって,しかも万引きによる者の割合が約8〜9割という傾向が続いている。
 平成期における高齢者の入所受刑者の人員も,増加傾向を示し,高齢者の比率は平成元年が1.3%であったところ,30年は12.2%となっている。特に,女性高齢者の増加が顕著であり,女性高齢者の比率は元年の1.9%が30年には16.8%となっている。
 高齢者の仮釈放率は,出所受刑者全体と比べて常に低いが,それでも緩やかな上昇傾向を示しており,平成26年頃以降は約4割である。
⑼ 外国人犯罪
 図3(白書4−9−2−1図)は,外国人による刑法犯の検挙件数及び検挙人員の推移(平成元年以降)を来日外国人とその他の外国人の別に見たものである。来日外国人による刑法犯の検挙件数は,平成期前半に急増し,17年に3万3,037件となったが,その後は減少傾向となり,1万件前後まで減少している(30年は9,573件)。来日外国人の刑法犯検挙人員は,16年に最多の8,898人となったが,17年から24年までは減少傾向にあり,近年は6,000人前後である(30年は5,844人)。

図3 外国人による刑法犯 検挙件数・検挙人員の推移


 来日外国人による特別法犯(交通法令違反を除く。)は,検挙件数・検挙人員共に,平成16年がピーク(1万5,041件・1万2,944人)であるが,その後減少し,25年からの増減を経て,28年から増加し,30年は検挙件数が6,662件(前年比11.1%増),検挙人員は5,238人(同11.1%増)であった。罪名別では,入管法違反が多く,25年以降,検挙件数の約3分の2を占めている。
⑽ 精神障害のある者による犯罪等
 平成期の精神障害者等(精神障害者及び精神障害の疑いのある者)の刑法犯検挙人員が,検挙人員総数に占める比率は,平成元年・15年・30年のいずれも約1%である。罪名別検挙人員では,窃盗が最も多く,次いで傷害・暴行である。
 入所受刑者総数のうち,精神障害を有すると診断された者の割合は,平成元年・15年は10%未満であったが,30年には15.0%を占める。また,少年院入院者総数のうち,精神障害を有すると診断された者の割合は,元年・15年は5%未満であったが,30年には22.6%を占めるようになった。
 心神喪失者等医療観察制度は,平成17年7月から運用されているが,その審判の検察官申立人員は,近年300人程度であり,30年における検察官申立人員を対象行為別で見ると,傷害が最も多く,次いで殺人,放火の順であった。また,同年における審判の終局処理人員を見ると,入院決定が240人(74.5%),通院決定が26人(8.1%)であった。
⑾ 公務員犯罪
 公務員による犯罪の検察庁新規受理人員は,平成15年には2万7,000人を超えていたが,近年は2万人を下回っており,罪名別では過失運転致死傷等が過半数を占める。次いで新規受理人員が多いのは職権濫用であるが,終局処理段階で起訴に至る者は若干名である。
4 再犯・再非行
 刑法犯により検挙された者のうち,再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり,再び検挙された者をいう。)の占める比率(再犯者率)は,平成初期は低下傾向にあって,平成8年には27.7%まで低下したが,その後は毎年上昇し,30年には48.8%となった(図4(白書5−2−1−1図)参照)。

図4 刑法犯 検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移


 入所受刑者人員中の再入者率(入所受刑者人員に占める再入者の人員の比率をいう。)は,平成7年まで60%を上回っていたが,次第に低下し,15年には平成期において最低の48.1%となった。その後再び上昇して,近年は60%に迫る比率となっている(30年は59.7%)。
 仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者について,保護観察開始人員に占める有前科者(今回の保護観察開始前に罰金以上の刑に処せられたことがある者をいう。)の人員の比率(有前科者率)を見ると,仮釈放者では平成元年が85.8%で,4年連続で上昇した後,5年をピークに6年から低下傾向となり,21年から再び上昇傾向が続いたものの,30年は前年より1.9pt 低下し,82.3%であった。保護観察付全部・一部執行猶予者の有前科者率は,元年は66.0%であったが,2年から18年まで低下傾向が続き,19年からは上昇・低下を繰り返した後,28年から刑の一部執行猶予制度が開始されたこともあって,29年から急上昇し,30年は平成期で最も高い70.3%であった。同年の保護観察付全部・一部執行猶予者の有前科者率を詳しく見ると,保護観察付全部執行猶予者のみでは59.1%である一方,保護観察付一部執行猶予者は,98.8%となっている。
 少年の刑法犯検挙人員中の再非行少年(前に道路交通法違反を除く非行により検挙(補導)されたことがあり,再び検挙された少年をいう。)の人員は,平成元年をピークとして緩やかに減少した後,9年から増加傾向にあったが,16年以降は毎年減少しており,30年は2万3,489人であった。
 少年の刑法犯検挙人員中の再非行少年率(少年の刑法犯検挙人員に占める再非行少年の人員の比率をいう。)は,平成初期は低下傾向にあって平成9年に21.2%まで低下したが,その後上昇傾向となり,28年に平成期で最も高い37.1%となったが,29年は低下し,30年は29年と同水準の35.5%であった。

5 犯罪被害者の動向
 人が被害者となった刑法犯の認知件数及び男女別の被害発生率(人口10万人当たりの認知件数をいう。)は,いずれも平成に入り増加・上昇傾向にあったが,平成14年(248万6,055件,被害発生率1,905.1)をピークとして,それ以降減少・低下し続け,30年は共に14年の約4分の1であった。また,男性の被害発生率は,女性の2倍以上の状態が続いている(図5(白書6−1−1−1図)参照)。
 生命・身体に被害をもたらした刑法犯の死傷者総数は,平成初期は減少傾向にあったが,その後増加傾向に転じた後,平成16年(4万8,190人)をピークとして,それ以降は減少傾向にある(30年は2万6,651人)。
 性犯罪被害では,強制性交等・強制わいせつの認知件数はいずれも平成15年(強制性交等2,427件,強制わいせつ1万29件)をピークとして,それ以降おおむね減少傾向にあり,30年の強制性交等・強制わいせつの認知件数は,いずれも15年の約2分の1であった。
 財産犯の被害総額では,平成14年の約3,759億円がピークであり(30年は約1,302億円),現金被害総額では,4年の約1,642億円がピークである(30年は約703億円)。
(法務省法務総合研究所研究部室長研究官)

図5  人が被害者となった刑法犯 認知件数・被害発生率(男女別)の推移


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