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平成19年版白書の概要 特別調査「殺人再犯者の実態」
川島 ゆか


1 はじめに

 平成19年版犯罪白書(以下「白書」という。)は,特集として「再犯者の実態と対策」を取り上げている。ここでは,主として,犯歴・統計資料の分析により,再犯者について,罪名,年齢等の様々な視点から,その実態を概観している。この中で,1犯目に犯した罪名別に,その後の再犯の有無について調べた結果があるが,再犯に及んだ者の比率が最も高いのは,窃盗の者が44.7%(うち同一再犯に及んだ者の比率は28.9%)であり,次いで覚せい剤取締法違反の者が41.6%(うち同一再犯に及んだ者の比率は29.1%)であった。白書では,こうしたこと等から,特に犯罪件数の多い窃盗,傷害・暴行,覚せい剤取締法違反の各事犯に着目し,考察を行っている。詳細は,本号に掲載される他論文を参照願うこととしたい。
 一方,重大事犯の代表ともいえる殺人事犯の再犯については,どうであろうか。同様に,1犯目に犯した罪名別に,その後の再犯の有無について調べた結果を見ると,1犯目に殺人事犯を犯した者の場合,その後の再犯に及ぶ者の比率は16.7%であり,うち同一事犯である殺人事犯の再犯を有する比率は0.9%と,前述した窃盗や覚せい剤取締法違反に比して,極めて低いものにとどまっている。また,1犯目の罪名別に2犯目(罪名は問わない。)までの再犯期間(犯罪者が身柄を釈放されるなどして再犯を行う可能性が生じた時点から,次の再犯に対する裁判が言い渡された日までの期間をいう。)を見たものでは,殺人事犯で再犯に及ぶ比率は,1年以内で約8%,2年以内で約25%であった。窃盗の者では約31%,覚せい剤取締法違反の者では約27%が1年以内に,また,ともに2年以内におよそ半分の者が再犯に及んでいることに比べると,再犯期間は長い。
 このように,数値の上で見ると,殺人事犯は,他の罪名に比して,同種再犯の可能性が,極めて少ない犯罪であるということがいえる。また,再犯期間が比較的長いことから,その予後において,異種再犯も含めて再犯に至る危険性が顕在化しにくい犯罪であるといえなくもない。つまり,現場第一線で犯罪者処遇に日々かかわっている者にとっても,殺人事犯の再犯を犯した者による同種再犯は,極めて特殊な事例であり,個々の事例としてはともかく,その実態を傾向としてとらえるのは,なかなか容易ではないものと考えられる。
 しかし,殺人事犯は,その結果が重大で,あってはならない犯罪の最たるものである。結果のみならず,その社会的影響は非常に大きい。近時,刑務所出所者や保護観察中の者による重大再犯事件が社会の注目を浴びており,再犯研究において,殺人事犯が他犯罪と比べて再犯の比率が低いからといって,その危険性を見過ごすことはできない。
 こうした観点から,白書では,殺人再犯者の実態を明らかにするために,質的な側面に着目して,特別調査を実施した。以下,その分析結果の概要を紹介する。なお,本稿中,白書の記載内容を超える部分については,筆者の個人的見解であることをお断りしておく。

2 殺人の概況

 平成18年の殺人(ただし,統計上,未遂,予備,教唆及び幇助並びに自殺関与・同意殺人を含む。以下同じ。)の認知件数は,1,309件であり,これは,刑法犯の認知件数2,877,027件の0.05%,一般刑法犯の認知件数2,051,229件の0.06%である。発生率(人口10万人当たりの認知件数の比率)は1.0であり,検挙件数は,1,267件,検挙人員は,1,241人であった。
 昭和21年から平成18年までの,殺人の認知件数・検挙率の推移を見ると,認知件数は,昭和29年に戦後最多を記録して以降,長期的には減少していたところ,平成4年から増加傾向となり,近年はおおむね横ばい傾向にある。また,検挙率は,90%台と安定して高い水準で推移しており,平成18年においては,96.8%であった。
 再犯状況について見ると,平成18年の殺人事犯の成人の検挙人員1,172人中,同一罪種の前科を有する者の比率は,1.9%であった。これは,成人の検挙人員中,一般刑法犯総数(ただし,危険運転致死傷を除く。)において同一罪種の前科を有する者の比率が,13.9%であり,また,傷害が20.2%,窃盗が19.5%であることに比しても極めて低い値といえる。
 なお,量刑について見ると,最近,殺人で10年を超える有期懲役を言い渡された者の比率は,上昇傾向にあり,逆に執行猶予付の判決を言い渡された者の比率は,長期的に見ると低下傾向にある。

3 殺人再犯者の実態等

 調査対象者は,殺人事犯(ここでは,殺人又は強盗殺人(未遂を含む。)をいう。以下同じ。)により刑事施設に受刑中であって,過去にも殺人事犯により受刑したことがあり,そのうちの1回以上は既遂事案である者(以下,本稿において「殺人再犯者」という。)から抽出した,128人(男子のみ)である。
 まず,指摘できるのは,調査対象者のうち,暴力団関係者(暴力団関係があった者をいう。以下同じ。)が67人(52.3%)と,半数以上を占めていたことである。これは,殺人再犯者の特徴の一つである。暴力団関係者と暴力団非関係者(暴力団関係がなかった者をいう。以下同じ。)は,その特質が異なると考えられることから,分析は,いくつかの事項について分けて行っている。
(1) 年齢,罪名,刑期等
 殺人再犯者について,初度事犯(殺人再犯者が犯した1回目の殺人事犯をいう。以下同じ。),再度事犯(殺人再犯者が犯した2回目の殺人事犯をいう。以下同じ。)時の年齢層別人員を見ると,初度事犯時の最年長は49歳,最年少は16歳であり,最も多い年齢層は25〜29歳であった。再度事犯時の最年長は,76歳,最年少は20歳,最も多い年齢層は50〜54歳であった。
 殺人再犯者の再度事犯の罪名は,殺人(既遂)が最も多く(77.3%),次いで,殺人(未遂),強盗殺人(既遂),強盗殺人(未遂)の順であった。刑期は,無期懲役の者が最も多く(37.5%),有期懲役10年未満の者(7.8%)は,すべて未遂事犯によるものであった。
(2) 犯行動機・原因
 殺人再犯者の犯行動機・原因を見ると「憤まん・激情」,「暴力団の勢力争い」,「報復・怨恨」,「痴情」,「利欲目的」,「性的動機」,「検挙逃れ・口封じ」等に分けられた(本稿4において概要を紹介。)。
 殺人事犯では,動機・原因が単一でないことがほとんどであり,調査では,重複選択して分析を行っているが,主たる動機・原因について見たものを取り上げると,初度・再度事犯のいずれについても最も多かったのは「憤まん・激情」であり,初度事犯においては,次いで「暴力団の勢力争い」,「報復・怨恨」,「痴情」と続き,再度事犯では,次いで「報復・怨恨」,「暴力団の勢力争い」,「痴情」の順であった。
 ここで,犯行前に飲酒していた者の人員比率を見ると,犯行動機・原因が「性的動機」の者が初度で8人中4人,再度で6人中4人と最も高く,次いで,「憤まん・激情」の者が初度で37人中18人,再度で32人中21人であった。これらの事犯については,飲酒が,殺人の直接的な動機・原因ではないものの,自制心を緩ませたり,気を大きくさせたりといった間接的な形で,犯行に何らかの影響を与えたものが少なからず見受けられた。一方,犯行動機が「暴力団の勢力争い」や「利欲目的」である者においては,犯行前に飲酒していた者がほとんどいなかった。
 次に,殺人再犯者において,初度事犯の動機・原因別に,再度事犯の動機・原因別の構成比を見たものが図1である。
 これによると,それぞれの動機・原因ごとに,初度事犯の時と同じ犯行動機・原因で再度事犯を犯した者の比率(以下,本稿において「動機同一率」という。)が,他のどの犯行動機・原因で再度事犯を犯した者の比率よりも高いことが注目される。特に,初度事犯の動機・原因が「暴力団の勢力争い」の者においては,動機同一率が61.9%と極めて高い。このように,殺人再犯者においては,そのうちの相当数が,初度事犯と再度事犯とにおいて同一の犯行動機・原因により,殺人を犯していた。



(3) 被害者との関係
 初度・再度事犯の各犯行において,殺人再犯者と被害者との関係を見てみると,調査した殺人再犯者の側から見て,相手の被害者は,「妻(内妻)」,「他の親族」,「恋人」,「近所の人」,「職場関係」,「暴力団員」,「知人」,「面識なし」に分けられた。
 暴力団関係者においては,初度・再度事犯ともに「暴力団員」,「知人」を被害者として犯行に及んだ者が多く,これらを合わせると過半数を占めた。一方,暴力団非関係者においては,初度・再度事犯ともに「知人」,「面識なし」の者を被害者として犯行に及んだ者が目立った。
(4) 殺害態様等
 図2は,殺人再犯者の初度・再度事犯別の殺害手段別等人員である。
 初度事犯の殺害手段が再度事犯の殺害手段と同じであった比率は,暴力団関係者における「射殺」が63.6%,暴力団非関係者における「斬・刺殺」が96.9%であるなど,相当高かった。



(5) 犯歴
 罪種別の犯歴(前科のことをいう。)について,「凶悪事犯」,「粗暴事犯」,「財産犯」,「性犯罪」に分けて見てみると,暴力団関係者は,暴力団非関係者と比べて,どの罪種別でも犯歴のある者の比率が高く,特に,傷害や暴行等「粗暴事犯」のある者の比率が83.6%と高かった。これに対し,暴力団非関係者では52.5%であった。また,これらの犯歴のいずれもなかった者については,暴力団非関係者では26.2%であるのに対して,暴力団関係者においては,6.0%と低かった。
(6) 居住状況,就労状況
 殺人再犯者の居住状況を,「家族・親族と同居」,「知人と同居」,「暴力団事務所」,「単身」,「住居不定」別に見ると,全体で,「単身」の者が半数近くを占めており,特に暴力団非関係者では,暴力団関係者に比してその比率が高かった。「住居不定」の者は,暴力団関係者で16.4%,暴力団非関係者で19.7%であった。また再度事犯前の就労状況について,「無職(生活保護)」,「無職(暴力団関係)」,「無職(無為徒食)」,「日雇い・アルバイト」,「自営(会社・商店等)」,「被雇用人」別に分けて見ると,暴力団関係者では,「無職」の者が67.2%を占め,暴力団非関係者でも,50.8%であった。殺人再犯者には,単身で不安定な生活をしていた者が多いことがうかがわれる。
(7) 受刑中の規律違反の有無等
 殺人再犯者の再度事犯による受刑中の規律違反について見てみると,暴力団関係者は,殺傷又は暴行の粗暴な懲罰事犯のあった者の比率が44.8%であり,暴力団非関係者の31.1%と比べて高かった。

4 殺人再犯者の事例

 3(2)で記した殺人再犯者の犯行動機・原因の中で多いものについて,白書では事例を挙げているので概要を紹介する。
@飲酒時の「憤まん・激情」による事案
 初度・再度ともに,飲酒していて,その場にいた者と口論からトラブルになり,激情にかられて殺害に及んだ。
A「暴力団の勢力争い」による事案
 初度・再度ともに,暴力団組員であり,他の組員と共謀の上,対立する暴力団員を射殺した。
B近隣住人に対する「報復・怨恨」からの事案
 初度・再度ともに,近隣住人と日ごろからトラブル等が重なり不満に思っていたところ,あることをきっかけに憤慨・激高し,殺害に及んだ。
C「痴情」(男女間のトラブル)による事案
 初度・再度ともに,交際相手への不信から自暴自棄になり,殺害に及んだ。
D「利欲目的」による強盗殺人等の事案
 初度・再度ともに,窃盗目的で侵入して金品を物色中,被害者に発見されたため殺害に及んだ。
 初度・再度ともに,殺人事犯に至る動機・原因で最も多かったのは上記@の「憤まん・激情」によるものであり,殺人再犯者には,高じた怒りの感情を適切にコントロールできないままに,殺人事犯を犯している者が多いことがうかがわれる。

5 おわりに

 殺人の再犯といえば,「快楽殺人」といった殺人そのものを目的とする犯罪者のタイプを想像することもあろうが,今回の調査からイメージできる代表的な殺人再犯者の一つの例は,次のようなケースである。
 些細なことで興奮し,攻撃的行動を示しやすい爆発性の人格の偏りを持つ者が,社会で安定した人間関係を構築できずに孤立し,否定的気分や感情を溜め込んでいる。飲酒の影響のもと,その場の些細なことをきっかけに高じた激情・興奮に支配され,衝動的に犯行に至る。受刑中,刑事施設内での適応や対人関係が円滑にはいかず,粗暴な懲罰事案を引き起こす。処遇に困難をきたし,問題性が十分改善されず,刑期を迎えて釈放となる。社会が受刑以前よりも受け入れられる場になっている可能性は低く,飲酒等で否定的気分・感情を解消する日々が繰り返され,その間にも衝動的に攻撃感情を爆発させるエピソードを重ねつつ,幾つかの負因が重なったある日,些細なあつれきをきっかけとして同種再犯に至る。
 こうした例では,そもそも処遇の土台となる場,つまり処遇の枠組みそのものが構築できず,処遇が軌道に乗らずに問題の改善が進まず,その結果,仮釈放に結び付けることが困難で,社会内でも改善が十分に進まず,問題が繰り返されることが考えられる。
 したがって,処遇を実効あるものとするためには,処遇の早期から,そうした困難・危険性に留意した上で,専門家を含む複数のスタッフによる働きかけ,個別・集団処遇の柔軟な適用,経過に応じた様々な処遇プログラムの展開等によって,処遇の枠組みを構築・安定化させていく努力が欠かせない。そうした努力の結実の結果,対象の受刑者を社会内処遇に結び付けることが可能となるし,社会内処遇においても,例えば,社会的な孤立,飲酒といった個々に想定される再犯に結び付く要因について,重点的に働きかける等により,再犯リスクを低減し,再犯の防止が図られると思われる。
 白書では,最初の殺人事犯の際,捜査,公判及び処遇における調査を通じて,原因を解明し,犯罪者の特性に応じた個別具体的な処遇を徹底的に行う必要性を指摘している。あらかじめ得られた情報をもとに,個別具体的な処遇を展開していくためには,関係機関の連携と,人的な体制を始めとする処遇環境の充実強化が必要である。それには組織的な取組が欠かせないのであって,殺人再犯という特殊な事例について詳細な検討・分析を深めていくことが,ひいては他犯罪の再犯防止・抑止のための処遇環境の醸成につながっていくものと考える。

(法務総合研究所室長研究官)

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