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平成19年版犯罪白書を読んで
所  一彦


1. 犯罪の動向

 1)治安の回復:平成14年まで増え続けた一般刑法犯(業過を除く刑法犯)認知件数が15年から減少に向かい,18年も減少を続けた。低下した検挙率も明かに回復に向かいつつある。白書では述べられていないが,官民をあげての各種防犯対策の強化が実を結んで来たものであろう。
 2)外国人犯罪:新規入国者・外国人登録人員ともに増加傾向が続くなか,外国人犯罪数は,平成17年まで続いていた増加傾向が18年には減少に向かった。主に窃盗の減少傾向によるもののようであるが,日本人の犯罪と基本的に同傾向を示すので,日本社会の防犯体制の向上によると思われる。なお例年のことだが,国際捜査協力に関しICPOに関する記述がなく,誤認を生む。
 3)危険運転致死傷:法改正のあった罪については,特に動向が気になる。危険運転致死傷については,施行以降の変化を見たかった。平成16〜19年度版の数値を総合すると,致死は15年71,16年38,17年52,18年60で,一旦大幅に下がり,のち漸増した。当初は威嚇効果があったが,その効果はその後薄れてきていると読める。致死傷につき施行以降の数値が揃えば,もっと大きな数値で確かめられよう。

2.成人矯正

 1)新たな処遇制度:監獄法を改正した受刑者処遇法が平成18年5月に施行され,これに基く改革が着々と実現しつつある。おおむねは昨年度版で紹介済みであるが,分類処遇については,「分類」という表現自体が追放される根本的な改革があったので,ここで確認しておきたい。
 「分類処遇」の代わりには「集団編成」の語が用いられ,「分類調査」も「処遇調査」に,「分類センター」も「調査センター」に言い換えられた。また「収容分類級」と「処遇分類級」に代わって,前者に相当する「受刑者の属性及び犯罪傾向の進度」と,後者に処遇類型別指導を加えて再編した「矯正処遇の種類及び内容」とが「処遇指標」として用いられることになった。なぜこのように言い換えたかについては,白書は説明していないが,関係者の説明に「現行の分類調査に比して,矯正処遇の実施に資するための調査という意味合いがより明確になる」とあるのが見られた(名執雅子「新法における改善指導について」刑政117巻2号88頁)。筆者も以前から,「分類処遇」の語は均質の者から成る集団の編成を含意して使われながら,暴力団加入者のように同類を分散して収容する必要が生じる場合もあるので必ずしも適当でないように感じていた。保護観察の場合には,「分類」と言っても対象者の特性に応じて処遇するだけで,そもそも集団を編成するわけではない。もっとも少年院には,「共通の特性及び教育上の必要性を有する者ごとに集団を編成する」「分類処遇」がまだ残っている。
 2)過剰収容:刑事施設の既決と未決とを合わせた全体の収容率が平成14年をピークに漸減してきている。ただし白書は,平成9年と18年を比べると,収容定員は伸びているが収容人員の伸びに追いついていないことを指摘している。
 過剰収容対策の一環として,PFI(民間資金の活用)の手法を用いて刑事施設が整備・運営されるようになっている。19年4月には美祢社会復帰促進センターが開設された他,同年10月にも2施設が運営を開始し,なお1施設が開設予定である。もっともうち2施設は国費で建設,運営にPFIを用いることになっており,民間資金の活用の度合いにはヴァライエティーがあるようである。PFIのIはinitiativeのIで,「活用」というより「主導」というべきではないかと思われるが,あるいは官僚主導の発想が抜けないために「主導」と言わず「活用」と言っているのかもしれない。PFIによる刑事施設の運営・整備は,白書では18・19年度版とも過剰収容対策の一環として位置付けられているが,これまた民間資金には「主導」させず,ただそれを「活用」するに止めたい意識の為せる業であろうか。

 3.更生保護

 1)更生保護法:平成18年6月,「更生保護のあり方を考える有識者会議」による改革の提言があり,これを受けて改革が進められるなか,19年6月,更生保護全般を体系的に整理しつつ充実・強化しようとする更生保護法が成立した。
  (1)遵守事項:@法的規範性の明確化,A一般遵守事項として面接と生活の実態を示す事実の申告とを義務付け,B特別遵守事項を具体的に例示。専門的・体系的処遇プログラムや宿泊して受ける指導監督も掲げられている,C保護観察の実施状況に応じた特別遵守事項の設定・変更・取消を可能に。
  (2)環境調整:@方法の例示として,対象者の「家族その他の関係人を訪問して協力を求める」が掲げられた。実際にも協力を求めやすくなろう,A裁判確定前の保護観察付執行猶予者でも,本人の同意を得れば環境調整を行うことができるようにした。
  (3)被害者等の関与:@仮釈放の審理で申出により被害者から意見等を聴取,A被害者の申出があればその心情等を保護観察中の加害者に伝える。
 2)その他の改革:改革は必ずしも新法成立を待たずに進められていた。
  (1)保護観察:@性犯罪処遇プログラムは類型別処遇の1つとして平成18年度開始,のち新法に,A19年3月よりしょく罪指導プログラム実施,B保護観察付執行猶予者に対する特別遵守事項の設定は18年法改正で可能になり,のち新法に。
  (2)観察官と保護司の連携:勤務時間外の緊急連絡体制整備が注目を惹く。
  (3)総合就労支援:厚労省との連携による。18年度実施件数が出ている。
  (4)自立更生促進センター構想:更生保護施設では受入れが困難または不適切なケースのための国立の更生保護施設とでも言うべきもの。更生保護施設には希望者の3分の1程度しか入居が決まらないと言う(小沢禧一『「懲役」と「担当さん」の365日』文芸社2007年)。待望の施設である。
  (5)専門官制の導入:平成19年4月から導入された。課長はプレイングマネージャーとも言うべき「首席」または「統括保護観察官」となり,その分,処遇を担当する層が増えるという。課長はこれまで何をしていたのだろう。

4.精神障害者・少年

 1)心神喪失者等医療観察法:運用を示す年間の数値が初めて出た。検察官による審判申立は平成18年度1年間で368件,地裁の終局決定が351件,うち入院が191,通院が80あった。これらは,これまでの精神保健福祉法による措置とどのような関係に立つのか。措置入院数は17年版までは出ていたのでそれで見ると,15年には406,16年には383あった。医療観察法による入・通院は,その一部を代替したに止まるのか,それとも幾らかでも上乗せしたのか。心神喪失を理由に不起訴処分に付された被疑者が例年より3割方多いところを見ると,医療観察をあてにして不起訴に廻ったケースもあるのではないかと思われる。両制度がどのような関係のものとして運用されるかは大きな問題であり,フォローが望まれる。
 2)少年非行:やや落着きを見せている。特に強盗・薬物の減少が目立つ。道交法違反や暴走族も減っている。ただし家庭内暴力・校内暴力・いじめは一時減っていたが,平成15年以降再び増加に向かっており,警戒を要する。
 少年の刑事有罪数は,逆送要件を拡大した12年改正後急増したが,18年には改正前の水準にほぼ戻った。もっとも重大事件そのものが減少している。

5.特集:再犯者の実態と対策

 1)課題・方法:再犯の問題は過去に2回,昭和53年と,同63年に特集されている。今回選ばれたのは,「近年,刑務所出身者や保護観察中の者の重大再犯事件が社会の注目を浴びている」ことが一つの理由である。警察・検察・裁判・矯正・更生保護の各種統計と検察庁で電算化された裁判の資料,それに特に殺人再犯者については別に実施した調査に基いて実態を解明し,他方,諸外国の再犯防止策を参照して我が国の対策への示唆を得ようとした。
 2)再犯対策の重要性:過去約60年分の電算犯歴(昭和23年以降の刑法上の過失犯・危険運転致死傷罪と道路交通関係犯罪を除く確定裁判)では有前歴者が28.9%で,これらの者の犯歴が総犯歴の57.7%を占めていることから,白書は,「約30%の再犯者によって,過半数である約60%の犯罪が行なわれている」とし,再犯対策が重要であることの根拠とする。ただし,この再犯者による犯罪の率は,昭和63年からは漸減している。他方,初犯者の5年以内再犯率は下のように近年上昇しており,問題はより深刻化しているとも言える。どこに着眼して「重要」と見るかは,視点の如何にもよろう。
 3)初犯から再犯まで:白書は,「再犯は,2回目を犯すことに始まることから,再犯防止対策としては,まずこの点に着目することが重要である」として,まず1犯目から2犯目に至る過程に多角的な分析を加える。
  (1)年次別・罪名別再犯率:初犯者の出所後5年以内再犯(細かくは再犯の裁判言渡)率を年次別(昭和60年から5年置きに平成12年まで)・罪名別に見ると,平成2年が底で,その後は上昇している。この動きは窃盗と詐欺に共通で,不景気の影響であろう。再犯率が高いのは,ほぼ一貫して窃盗と覚せい剤取締法違反(以下,「覚せい剤」と略)であった。なお生涯再犯率も,窃盗が最も高く,次いで覚せい剤であった。放火や殺人は低かった。初犯から再犯までの期間も,窃盗と覚せい剤は短い(最短は風営法違反)。殺人と放火は長いが,意外にも強姦が殺人に次いで長い。初入受刑者の出所後再犯率も,仮釈放・満期釈放ともに,殺人は顕著に低く,強姦もやや低い。
  (2)年齢層別再犯率:5年以内再犯率を年齢層別に見ると,上のいずれの年次でも初犯年齢が若かった者ほど高い。生涯再犯率でも同様である。しかし初犯から2犯目までの期間を見ると,20歳代前半と50歳以上の初犯者で短く,それも後者では加齢とともに短くなる。20歳代前半の初犯者の再犯率が高いのは,これらの者のなかには少年のころから非行を行っていた者が多く含まれているからでもあろう。初入新受刑者について保護処分歴を見ると,20歳代前半の初入者は,後半の初入者より処分歴が著しく多い。少年時に刑事裁判で有罪判決を受けた者の再犯率は著しく高いが,これも処分歴のある者が多いからだと推論されている。
 4)再犯時の状況:再犯の新受刑者を初犯の新受刑者と比較すると,@女子が少ない,A犯時無職だった者が多い,B暴力団に加入していた者が多い,C概して知能の低いものが多い,D離別者が多いなど,犯罪に駆りたてる負因が多い。
 5)性犯罪:特集は,近時国民の関心が高まっている性犯罪の再犯について特に検討している。1犯目に性犯罪(強姦・強制わいせつ・強盗強姦)を犯した者の再犯率は初犯者全体の再犯率をやや上回っているが,同種再犯を犯した者の比率は,窃盗28.9%,覚せい剤29.1%,傷害・暴行21.1%に対し5.1%で,他の罪種に比べて著しく低い。また1犯目性犯罪者の性犯罪以外の再犯の罪種は,再犯者全体の再犯のそれと似ており,性犯罪を犯す者の多くは,他の犯罪者と異なる特異な資質を持っているわけではないことが窺える。しかしまた他方,性犯罪を多数回繰り返す者も若干いる。1犯目性犯罪者中0.98%が3回以上性犯罪を繰り返していた。
 6)犯罪回数別量刑・再犯期間:白書は,量刑と再犯期間を犯罪回数別に並べて見ている。回数が増えるに従って,刑期が長期化する一方,再犯期間が短縮する。つまり犯罪回数が増えるに従って,刑務所で過ごす時間が長くなり,娑婆で過ごす時間は少なくなるわけである。では量刑別に再犯の有無や再犯期間を見て,再犯に対する量刑の影響を知ることはできないか。
 7)殺人:殺人再犯で収容中の128名に関する特別調査の結果である。
  (1)初犯と再犯の比較:初犯と同じ類型の動機・原因・態様で再犯する例が多く,被害者との関係も,初犯と同じ類型の例が多い。特に暴力団員間で勢力争いに関連して犯される殺人でその傾向が強い。
  (2)犯歴:殺人以外の犯歴を見ると,当然ながら粗暴犯が多く,特に暴力団関係者では8割を超える者が粗暴犯の犯歴を持っていた。刑務所への初入が殺人による者は半数に満たず,過半は,その前に他罪で服役していた。初度目の殺人の次の受刑が再度目の殺人によるものであった者につき,その再度目の殺人までの期間を見ると,初度目の殺人による服役終了後6ヶ月以内という短期間のうちに犯されている場合が12%あった。2年以内では3割近く,5年以内なら過半に達し,10年以内なら8割近くに達する。
  (3)居住状況・就労状況・受刑中の規律違反等:暴力団関係者・非関係者別に示されているが,殺人以外の再犯者と比較されていないので,殺人再犯者の特徴は見えないのが残念である。
 9)再犯防止策の現状:@検察・裁判,A矯正,B更生保護,C諸機関の連携のそれぞれについて,再犯防止策という観点から見た現状を紹介する。再犯防止は,A・Bにとっては当然の目標であるが,@についても重視されている点が目を惹く。曰く,「寛厳よろしきを得た適正な科刑を実現することが,再犯の防止に資する」と。
 10)効果的な再犯防止対策の在り方:下のように提言している。
  (1)初犯者が2犯目の犯罪に至るのを防止すること。犯罪者は,犯歴を重ねるにつれて犯罪傾向が進む(再犯率は高まり,再犯期間も短くなる)ため,初犯者のうちに改善・更生を図ることが何よりも大切だという。
  (2)若年者の再犯防止対策がより重要であること。若年初犯者の再犯率が高く,再犯期間も短いのは,彼らの中に,少年時代に既に犯罪歴を歩み出し,保護処分による指導を繰り返し受けながら更生できずにいる者が多いからでもあろう。そのような者の再犯の防止策として何が有効かは難しい問題であるが,白書は,「早期に可能な限り再犯の芽を摘むという観点から,その特性や再犯の可能性を十分に見極めた上,厳正に対処する」ことが肝要だという。
  (3)罪名・罪種の特質に応じた対策を講じる必要があること。たとえば窃盗では,初犯者の90%に執行猶予付懲役刑が言渡され,以降,2犯,3犯と犯歴を重ねるにつれて,これが実刑になり,刑期が長くなる。しかも初犯者の多くは,過去に窃盗を犯し,微罪処分や起訴猶予を経て公判請求された者である。起訴猶予や執行猶予の運用については,「今後とも対象者の特質や再犯の可能性を十分に見極めて,これを行うことが肝要であ」り,また,窃盗を繰り返す者に対しては,「刑法の累犯規定や特別法の常習犯規定を十分活用して適切な科刑を行」うことも必要である。これに対し傷害では,窃盗等のように初犯者のうちは刑が軽く,犯歴を重ねるうちに重くなるという顕著な傾向は見られず,逆に多数回重ねても罰金で済まされている者が多かった。「多数の犯歴を重ねた者に対する罰金の感銘力について考えさせる」とともに,これらの者の中には,「より重大な犯罪に進む可能性を持つものもおり,軽視できない」。現に「殺人再犯者では,傷害・暴行等の粗暴犯の前歴を持つものが多かったことを踏まえ,これらの者に対しては,感情をコントロールする能力を身につけさせる処遇を実施する必要性が高い」と。以下略。
 政策決定を事実に基づかせようとする姿勢が現れていて,期待が持てる。

(東亜大学通信制大学院教授,立教大学名誉教授)

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