日本刑事政策研究会 罪と罰
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最近の犯罪動向の分析
近藤 日出夫


1 はじめに

 近年の犯罪情勢の急激な悪化は,国民の犯罪に対する不安を高めるとともに,わが国の犯罪抑止対策や再犯防止対策等の在り方について,再考を促すこととなった。18年版犯罪白書は,こうした近時の犯罪情勢を受けた治安回復に関連する諸施策を取り上げ,刑事政策に関連する新たな動きとして紹介した。
 犯罪白書は,犯罪が急増した平成13年から15年にかけて,「増加する犯罪と犯罪者」(13年版白書),「暴力的色彩の強い犯罪の現状と動向」(14年版白書),「変貌する凶悪犯罪とその対策」(15年版白書)と題して,悪化する犯罪情勢の側面に焦点を当てた特集を組んだことがある。しかし,一般刑法犯の認知件数という数値のみを見れば,15年以降,犯罪情勢がターニングポイントを迎えつつあることがうかがわれる。したがって,この時期に,近年,どのような犯罪が増加し,どのよう犯罪が減少したか,その犯罪の増減にどのような要因が影響を与えているのかなどを改めて振り返り,客観的に分析することは,今後の犯罪情勢を見通す上でも重要な課題と思われる。
 ただし,犯罪の増減には,多くの複雑な要因が絡み合って影響を与えており,近年の犯罪情勢の背景要因を特定し,今後の犯罪動向まで予測することは容易ではない。そうした限界を踏まえつつ,18年版犯罪白書においては,近時における犯罪情勢について,客観的統計数値等に基づき分析し,その背景にあるものを探ることを試みている。
 以下では,平成18年版犯罪白書から,特集の「最近の犯罪動向の分析」の内容を中心に,白書に掲載しなかった図表も用いつつ,その要点を紹介する。本稿中の記述のうち,白書の内容を超える部分は,いうまでもなく筆者個人の見解である。

2 一般刑法犯の認知件数の動向

 白書では,一般刑法犯の認知件数等の犯罪動向について,戦後最少を記録した昭和48年以降を3期に分けて分析した。
 第T期は,昭和48年から,戦後最多を記録した平成14年に向けての増加開始前の時期で前年と比べてわずかに減少を記録した最後の年である7年までの時期である。第U期は,平成8年から戦後最多を記録した14年までの時期であり,第V期は,認知件数が減少の兆しを見せ始めた平成15年から17年までの時期である。
  
窃盗の認知件数の推移

 一般刑法犯の認知件数の推移を見ると,その増減を大きく左右してきたのは,窃盗である。一般刑法犯と窃盗の認知件数の増減の推移は,おおむね同じであり,平成17年には,一般刑法犯の約76%を窃盗が占めた。
 そこで,窃盗の動向を,その種類別に見ると,第T期の後半に乗り物盗が最も多い時期があったものの,第U期になると,非侵入窃盗が急増しており,第U期における窃盗の認知件数の急増は,非侵入窃盗の増加によるところが大きかったことが分かる。乗り物盗も第U期の後半にピークを示している。また,侵入窃盗は,第U期の最初まではおおむね横ばいであったが,第U期の平成10年以降増加し始めている。第V期においては,非侵入窃盗,乗り物盗及び侵入窃盗のいずれも減少している。 他方,窃盗の手口別の動向は,各期においてかなり異なる。
 第T期においては,車上ねらい,自転車盗及びオートバイ盗が増加し,逆に空き巣は減少傾向にあった。ただし,第T期の後半では,自動販売機ねらいが急増し,自転車盗及びオートバイ盗がやや減少した。
 第U期においては,ほぼすべての手口の窃盗が増加傾向を示した。特に,車上ねらいは,平成7年から14年までの間に約22万件増加しており,同じ期間の窃盗全体の増加分(約81万件)の約27%を占めた。
 第V期においては,車上ねらい,空き巣等,多くの手口で増加から減少へと変化が見られる。ただし,万引きは,平成16年まで増加し,17年にわずかに減少したのみである。
 さらに,これらの窃盗の手口を,主として街頭又は屋外で行われることの多い街頭窃盗(車上ねらい,自動販売機ねらい,部品ねらい,自動車盗,オートバイ盗,自転車盗及びひったくりをいう。以下同じ。)とその他の窃盗に分類し,その認知件数の推移を検討した(図1)。
 街頭窃盗は,第T期においても増加傾向を示していたが,第U期に入ると急増しており,この期の窃盗の増加分のうち約63%を占めていた。
街頭窃盗のピークは,平成13年であるが,15年以降急減しており,14年から17年の間の窃盗の減少分(約65万件)のうち,街頭窃盗は約54万件(約82%)を占める。第T期及び第U期における窃盗の増加,第V期における減少の相当部分が,街頭窃盗の増減によるものであることが分かった。
 こうした第V期における街頭窃盗の減少は,放置自転車対策,車や自動販売機等の各種防犯対策,地域の防犯活動の活発化等,幅広い取組が功を奏したものと思われる。

(図1)街頭窃盗の認知件数の推移

窃盗を除く一般刑法犯の認知件数の推移

 窃盗を除く一般刑法犯の認知件数の増減は,第T期及び第U期においては,一般刑法犯の認知件数全体の動きに大きな影響は与えていなかった。しかし,窃盗を除く一般刑法犯の一般刑法犯全体に占める比率は,昭和48年18.2%,平成7年11.9%,14年16.7%,17年24.0%と,第V期に入ってから上昇傾向にあり,その増減が一般刑法犯全体の動きに及ぼす影響が大きくなってきている。
 第T期においては,遺失物等横領及び器物損壊が増加傾向を示していたが,粗暴犯(傷害,暴行,脅迫,恐喝,凶器準備集合及び暴力行為等処罰法違反をいう。以下同じ。)及び詐欺は減少傾向にあり,全体的にはおおむね横ばいで推移していた。しかし,第U期後半には,多くの犯罪が増加し始めた。粗暴犯の中では,傷害及び暴行が平成12年以降増加している。また,器物損壊も同年以降急増し,7年の3万1,231件から14年の19万6,018件へと約6.3倍になった。このことから,器物損壊が第U期に急増し,窃盗を除く一般刑法犯の認知件数を押し上げたことが分かる。これらに加え,遺失物等横領,詐欺,住居侵入等が第V期に入っても増加している。
 第U期における窃盗を除く一般刑法犯の急増の主要因となったのが器物損壊であることから,その実態について更に検討した。平成17年における器物損壊の内容別構成比は,被害器物等の半数以上を車両が占め,発生場所も駐車(輪)場と道路上の合計が約50%となっている。窃盗においても,第U期に車上ねらいが急増しており,第U期における一般刑法犯の急増は,車を対象とした犯罪が中心であったことがうかがわれる。
 第V期に入って,これら車を対象とした犯罪は,諸対策の強化によって減少の兆しを見せているが,それ以外の犯罪は,依然として高水準のものが多い。特に,暴行及び詐欺は,平成17年も増加している。

3 一般刑法犯の検挙人員の動向

 だれがどのようにして犯罪に及んだかという側面から犯罪動向を検討することは重要である。しかし,犯罪者の特徴については被疑者が検挙された後でなければ判明しない部分が多い。そこで,検挙人員から見た,一般刑法犯の特徴的な要因の動向について検討する。ただし,犯罪を犯した者すべてが検挙されるわけではないことから,検挙人員に基づいた分析が必ずしも犯罪者すべての特徴を反映したものではない点に留意する必要がある。
 窃盗の種類別検挙人員の推移を見ると,各期とも,非侵入窃盗が最も多く,その増減が窃盗の検挙人員の増減に大きな影響を与えている。さらに,非侵入窃盗の手口別の検挙人員の推移を見ると,平成7年に6万8,932人であった万引きが,14年が10万849人,17年が11万3,953人と急増しており,非侵入窃盗の増加の大部分は万引きの増加による。
 万引きで検挙された者の属性別の構成比を見ると,平成7年は,女性50.5%,少年46.7%,高齢者9.1%であったが,14年には,女性45.4%,少年40.2%,高齢者15.0%となり,17年には,女性44.1%,少年32.0%,高齢者20.4%であった。万引きで検挙された者に占める高齢者の比率が上昇していることが分かる。
 他方,窃盗を除く一般刑法犯の検挙人員の推移を見ると,第T期では,粗暴犯が大きく減少し,詐欺も漸減傾向を示す中で,遺失物等横領が急増している。第U期に入り,遺失物等横領は,小さな増減を繰り返した後,平成13年から再び急増し始めている。粗暴犯もこの期の前半は横ばいであったが,12年に急増している。第V期では,引き続き遺失物等横領が急増し,16年に戦後最多を記録した。粗暴犯はほぼ横ばいであるが,個々の罪名を見ると暴行が増加を続けている。12年に増加傾向が始まった詐欺も,この期においても漸増傾向が続いている。以上から,平成2年以降の窃盗を除く一般刑法犯の増加傾向は,主に遺失物等横領の増加によるものであるといえる。
 遺失物等横領で検挙された者の属性別の構成比を見ると,平成7年は,女性14.8%,少年40.4%,高齢者3.9%であったが,14年には,女性15.7%,少年47.7%,高齢者5.2%となり,17年には,女性15.5%,少年35.7%,高齢者10.7%であった。遺失物等横領で検挙された者に占める少年の比率が第V期に入って低下し,万引きと同様に,高齢者の比率が上昇していることが分かる。

4 社会的背景と国民の意識

犯罪情勢とその社会的背景

  犯罪情勢には,数多くの社会的要因が複雑に絡み合って影響を与えていると考えられる。その時代背景に応じて,国民の犯罪に対する態度,意識も変動するであろうし,不正な方法によって利益を得ようとする一部の者たちも,より手軽な,リスクの少ない手段で,より高い収益を得ようとする方法を次々と編み出し,学習していく。それだけに,犯罪情勢に影響を与える固定的な社会的要因をデータに基づき特定したり,その要因と犯罪情勢との因果関係を明らかにすることは容易なことではない。
 白書では,これらを前提とした上で,犯罪情勢に影響を及ぼしていると思われる社会的要因のうち,失業率を取り上げた。図2は,昭和28年以降の一般刑法犯認知件数及び完全失業率の推移を見たものである。
 多少の変動時期のずれは見られるが,一般刑法犯の認知件数と完全失業率は,かなりよく似た推移を示してきている。特に,両者ともに,平成14年に近年で最も高水準を記録したが,15年以降は低下傾向にある。
 認知件数と失業率の推移の類似性は,不況の影響による失業率の上昇が一般刑法犯の認知件数の大部分を占める財産犯を増加させるなどの影響を与え,同様に,失業率の低下が,犯罪を減少させる方向で影響を与えたものと直接的な因果関係でとらえることもできる。あるいは,我が国の社会的・経済的構造変化が,一方で失業率の高低に影響を与えるとともに,他方で犯罪の認知件数の増減にも影響を与えていると考えることもできる。こうした社会的諸要因と犯罪との関連については,今後,より精緻な統計的分析が必要であろう。
 ただし,一般刑法犯の就労状況別検挙人員の推移を見ると,平成14年から無職者が有職者を上回るようになっている。無職者が有職者より保護観察終了時の取消しの比率が高いことがうかがわれるほか,検挙人員中に占める無職者も増加していることから,犯罪を犯した者等,特定の対象者に対する就労支援等の雇用対策は,犯罪抑止のための有効な施策の一つであることは確かであろう。

(図2)一般刑法犯認知件数・完全失業率の推移

国民の意識の変化

 近年の犯罪情勢の悪化は,国民の社会意識にも大きな影響を与えている。内閣府が平成18年に実施した「社会意識に関する世論調査」では,「悪い方向に向かっている分野」において「治安」を選択した比率が38.3%と最も高かった。「治安」の選択率は前年より9.6ポイント低下したが,調査票の回収率が前年より15.2ポイントも低下していることを考慮する必要がある。国民の治安に対する懸念に歯止めがかかったかどうかについては,今後の調査結果を慎重に見極める必要がある。
 また,内閣府が平成16年7月に実施した「治安に関する世論調査」において,自分や身近な人が被害に遭うかもしれないと不安になる犯罪類型として,殺人,強盗等の凶悪な犯罪より,空き巣やひったくりなどの窃盗,子供ねらいの犯罪,暴行,傷害等の身近な犯罪を選択した比率が高かった。身近で発生しうる犯罪の増加が平穏な日常生活を脅かし社会不安を増大させていることがうかがわれる。
 このように,最近の意識調査の結果から,国民の犯罪に対する意識は,「安全・安心」から「不安」へと大きく変化していると認められる。この意識の変化は,我が国社会そのものの変化という大きな流れの中で生じたものと思われ,急速な犯罪情勢の悪化と相まって,犯罪に対する適切な対策の策定とその実施の必要性が高まっているといえる。

5 おわりに

 犯罪白書に関連して,次のような質問を受けたことがある。「日本は,米国と比較して殺人がかなり少ない。しかし,自殺は日本が多く,米国は少ない。殺人と自殺を合算すれば,同じくらいになるのではないか。米国は攻撃性が他人へと向けられるが,日本では自分へと向けられているのではないか?」
 早速データを確認したところ,2004年における米国の犯罪被害による死亡者数は1万6,611人であるのに対し,我が国は1,397人とかなり少ない。他方,自殺者数は,米国が3万1,647人であるのに対し,我が国は3万2,325人とかなり多く,結局,合算値から人口比を求めると米国が16.4,我が国が26.4となり,我が国の方が高い比率となった。驚いたことに,「攻撃性の総量」は,米国よりも日本の方が高いのである。
 もちろん,「攻撃性の総量」を犯罪被害による死亡者数と自殺者数の合算値だけで代表させることは単純化のし過ぎであるが,国民が安心して暮らすことができるかどうかは,犯罪情勢だけでなく,様々な側面から総合的に評価し,比較する必要があるという指摘は正しい。
 今後の刑事政策を考えるに当たっては,社会全体の犯罪抑止機能を強化するという観点はもちろん重要であるが,高齢犯罪者の増加などの背後にある,我が国社会の構造的変化を考慮すると,家族,地域社会,就労環境の在り方など,国民一人一人が安心して豊かな気持ちで生活するにはどうすればよいかについて,様々な観点から,総合的に考えていくことが重要になってくると思われる。

(法務総合研究所総括研究官)

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