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少年の保護観察の現状と課題
押切 久遠


1 はじめに
 平成17年版犯罪白書特集は、「非行少年の処遇」の一環として「少年の更 生保護」を取り上げている。本稿では、その中でも「少年の保護観察の現状 と課題」を中心に、関連部分を紹介する。なお、本稿の記述のうち白書の内 容の紹介を超える部分については、私見であることをあらかじめお断りして おく。

2 保護観察対象者の動向と特徴
 (1)対象者の数
 少年の保護観察対象者(家庭裁判所の決定により保護観察に付された「保 護観察処分少年」及び少年院を仮退院した「少年院仮退院者」をいう。以下 同じ。) の平成16年の新規受理人員は、4万6,253人であり、仮出獄者等の成 人も含めた保護観察新規受理人員総数の約70%を占めている。また、その内 訳は、保護観察処分少年4万817人(うち短期保護観察少年4,575人及び交通 短期保護観察少年1万8,560人)、少年院仮退院者5,436人であった。
 長期的な動向を見ると、少年の保護観察対象者の新規受理人員は、昭和52 年の交通短期保護観察(集団処遇) の導入に伴い急増し、58年から平成4年 まで7万人台で推移していたが、近年は、交通短期保護観察少年の減少に伴 い、減少傾向にある。しかし、交通短期保護観察少年以外の、個別処遇を行 う少年の保護観察対象者の動向を見ると、その新規受理人員は、10年前(平 成7年) と比較して約4,600人増加している。

 (2)対象者の特徴
 保護観察処分少年(交通短期保護観察少年を除く。以下同じ。) と少年院 仮退院者の別に、統計データからその特徴をまとめると、表1のとおりである。



3 少年の保護観察処遇の実情と課題
 少年に対する保護観察処遇には、多くの取り組むべき課題があるが、平成 17年版犯罪白書においては、@処遇に配慮を要する対象者(暴走族対象者、 薬物対象者、中学生対象者及び外国人対象者)、A被害者等を視野に入れた 処遇、B社会参加活動、C就労指導・支援、D保護者に対する働き掛け、E 保護司、F更生保護施設の七つを取り上げた。以下に概説する。

 (1)処遇に配慮を要する対象者
 ア 暴走族対象者
 平成16年末現在、暴走族対象者は、保護観察処分少年の約10人に1人、少 年院仮退院者の約4人に1人を占めている。暴走族対象者には、それ以外の 対象者と比較して、@繰り返し保護観察を受けている者の比率が高い、Aシ ンナー等の薬物使用関係を有する者の比率が高い、B保護観察中に再非行・ 再犯をして再処分を受ける者の比率が高い、C再非行・再犯名としては、道 路交通法違反の比率が高いなどの特徴がうかがわれる。
 保護観察処遇においては、暴走族対象者に対し適切な指導を行う前提とし て、まず対象者の暴走族への関与の度合いや生活実態の具体的把握に努めて いる。そして、個別の面接を繰り返す中で、暴走族からの離脱を強く指導し、 その保護者に対しても、本人への養育態度等について助言している。また、 場合によっては、集団暴走を起こしやすい時期の前に、担当者が暴走族対象 者宅を一斉に往訪するなど特色のある処遇を行っている。
 暴走族対象者の処遇に当たっては、その背後にいる暴力団とのつながりを 絶つことや暴走族そのものを解散・弱体化させることも視野に入れ、関係機 関や地域社会との連携を図ることが効果的であり、そのネットワーク作りに 更に寄与できるよう保護観察の機能をより強化していく必要がある。

 イ 薬物対象者
 薬物対象者の類型認定率は、低下傾向にある(表1の「類型別処遇におけ る類型認定率」の欄参照) ものの、その数は依然として少なくない。薬物対 象者には、それ以外の対象者と比較して、@繰り返し保護観察を受けている 者の比率が高い、A無職者の比率が高い、B解除や退院に至らず、期間満了 や保護処分取消し等で終了する者の比率が高い、C保護観察中に再非行・再 犯をして再処分を受ける者の比率が高い、D再非行・再犯名としては、毒物 及び劇物取締法違反及び覚せい剤取締法違反の比率が高いなどの特徴がうか がわれる。
 保護観察処遇においては、薬物依存の度合いを的確に見定めるとともに、 保護観察官による集中的な初期介入、担当保護司の定期的往訪や保護者との 連絡等による生活実態の把握、交友関係、家族関係、就労等に関する指導・ 助言、薬害に関する教育、関係機関・団体との連携といった多様な方法を組 み合わせながら、個別の働き掛けを実施している。
 また、薬物の再使用を防止する上では、保護者の果たす役割が大きいため、 保護者の悩みや苦しみに耳を傾けながらも、本人に対する接し方を改善する よう助言を行い、保護者を対象とする講習会や座談会を開催するなどしてい る。

 ウ 中学生対象者
 中学生対象者の新規受理人員は、最近10年間で約2.7倍に増加し、平成16 年は2,533人であった。中学生対象者は、低年齢で表現力に乏しく、心情が 不安定になりがちである上、保護観察中に再非行に至る場合も少なくない。 しかし、可塑性に富むこの時期に効果的な処遇が行われれば、改善の度合い も大きいと期待される。
 保護観察処遇においては、本人に対し個別にきめ細やかな指導・援助を行 うとともに、通常、保護観察官及び保護司が、中学校の関係者と連携を密に しながら働き掛けを実施している。
 さらに、個別の処遇において効果的な連携を行うためには、地域社会を基 盤として活動する保護司が、日頃から地域の中学校と交流の機会を持ち、顔 の見える関係を作っておくことが大切である。また、保護司が対象者の処遇 を通じて培った知識や経験は、非行予防活動を始めとする中学生の様々な問 題防止活動にも生かすことができる。そこで、多くの保護司会では、学校担 当保護司を設けるなどして、非行防止教室の実施、サポートチームへの参加、 生徒指導担当教諭との合同研究会の実施等に取り組んでいる。

 エ 外国人対象者
 少年外国人対象者は、平成7年末現在の86人から16年末現在の365人へと 大幅に増加している。16年末現在の国籍等は17に及び、保護観察処分少年、 少年院仮退院者ともに、ブラジルが最も多く(両者合計177人)、次いで、中 国(台湾を含む。同62人)、ペルー(同43人) の順であった。
 少年外国人対象者は、@日本語能力が未熟であることが多く、意思疎通を 図ることが難しい、A就労が比較的困難である、B交流範囲が狭く、多様な 社会的サポートを受けにくいなどの問題を抱えており、さらに、その保護者 の日本語能力が十分でない場合もあり、保護観察及び環境調整を実施する上 で多大な困難を伴う。
 外国人対象者が多く係属する保護観察所においては、外国語による関係書 類の整備、通訳人の確保、関係機関・団体との連携等により、処遇の充実を 図っている。

 (2) 被害者等を視野に入れた処遇の充実
 保護観察においては、対象者に被害者等の受けた痛みを理解させ、罪の意 識を覚せいさせるための指導を行い、時には、保護観察官や保護司が被害者 等への謝罪に同行するなどの援助を通じて、積極的な謝罪や被害弁償を促す 取組が進められている。今後、こうした取組を処遇の中でより重視しつつ、 少年の更生を図る必要がある。

 (3) 社会参加活動の充実
 平成16年度における社会参加活動の実施回数は463回、実施場所数は310か 所、対象者参加人数は1,594人(保護者177人を含む。) であった。また、そ の活動内容としては、「高齢者等に対する介護・奉仕活動への参加」が43.0 %と最も多く、次いで、「創作・体験活動、各種講習等への参加」(20.5%)、 「清掃・環境美化活動への参加」(19.0%) の順であった。
 社会参加活動は、対象者に様々な実体験を積ませることで、共感性を育み、 社会適応能力を向上させる処遇方法の一つであり、今後、この活動をより多 様で意義あるものにしていかなければならない。

 (4) 就労指導・支援の充実
 平成16年における少年の保護観察終了人員の終了事由を就学・就労別に見 ると、無職者において、保護処分取消し等により終了した者の比率が48.8% と際立って高く、同様に再処分の有無を見ると、無職者において、保護観察 中の再非行・再犯により再処分を受けた者の比率が54.3%と著しく高かった。 対象者の成り行きは、就労状況と密接に関連しており、近年、対象者に占め る無職者の比率が上昇傾向にあることから、問題が深刻化している。
 対象者の再非行・再犯を防止し、その社会内における改善更生を促すため には、協力雇用主を確保し、公共職業安定所等の関係機関との連携を強化す るなどの措置を通じて、一層の就労指導・支援の充実を図っていく必要があ る。

 (5)保護者に対する働き掛け
 法務総合研究所の調査によれば、保護司が経験した対象者の親の困った行 動としては、「対象者に注意や指導ができず、その言いなりになっている」、 「対象者の行動に無関心である」、「対象者の問題行動を他人のせいにする」 といったことが多かった。また、「対象者の行動に関して、隠し事や嘘の報 告をしてくる」及び「対象者のことで相談しようとしても、応じてこない」 が相当数あり、保護司が保護者の協力を得るのに苦慮している様子もうかが われた。
 少年の保護観察処遇を効果的に実施するためには、保護者との協力が大切 であるが、監護能力に問題のある保護者ほど、保護観察官や保護司との協力 を避けようとするとの指摘もある。このような保護者に対し有効な働き掛け を行い、監護責任の自覚を促すことが今後の重要な課題となっている。

 (6)保護司の処遇能力強化
 平成17年1月1日現在、保護司の平均年齢が63.0歳であるのに対し、16年 における少年の保護観察新規受理人員の平均年齢は17.2歳であり、その差は 約46歳となっている。保護司は、経験を重ねるごとに、処遇に関する知見や 技術を深めることができるが、他方、対象者との年齢的なギャップがコミュ ニケーションに影響を及ぼすことも懸念される。
 また、保護司の23.0%は70歳以上であり、今後毎年多くの保護司が定年 (再任の上限年齢が76歳未満。再任後の任期は2年間。) を迎え、退任するこ とにより、処遇経験の乏しい保護司が増加していくおそれもある。
保護観察所においては、保護司に対し、保護観察官が担当事件を通じて個 別に指導・助言するほか、新任研修、地域別の定例研修等を実施している。
 しかし、法務総合研究所の調査によれば、保護司は、更なる処遇能力の向 上を強く望んでおり、今後、これらの要望を踏まえ、更に保護観察官による 処遇指導と保護司研修の充実を図っていくことが重要である。

 (7)更生保護施設の処遇能力強化
 平成17年4月1日現在、全国101の更生保護施設のうち、専ら少年を対象 に保護を行う施設は5施設、成人と併せて少年の保護を行うことが可能な施 設は76施設である。また、平成16年に、新たに更生保護施設に委託された少 年は、保護観察処分少年が81人、少年院仮退院者が227人であった。
 更生保護施設に入所する少年は、親族から引受けを拒否された者が43.0%、 頼るべき親族のない者が29.0%等、保護環境に特に恵まれない者が多い。
 少年専用の更生保護施設においては、付設の自動車整備工場における就労 体験、親子関係改善のための親子キャンプの開催、パソコン教室の開催等、 特色のある処遇を実施しているが、今後更に処遇プログラムの多様化・充実 化を進めるとともに、処遇体制の充実、地域社会との協調等、総合的に処遇 能力の強化を図っていく必要がある。

4 おわりに
 平成17年3月、第162回国会に提出された少年法等の一部を改正する法律 案には、@遵守事項を遵守しなかった保護観察処分少年に対し、保護観察所 長が警告を発することができる、Aそれでもなお遵守事項が守られず、保護 観察ではその改善更生を図ることができないと認められるときは、家庭裁判 所において少年院送致等の決定をすることができる、B保護観察中の少年の 保護者に対し、保護観察所長が指導・助言できるなどの規定が盛り込まれて いた。同法律案は、同年8月の衆議院解散により廃案となったが、今後、再 提出されることが予想され、審議の上、成立すれば、少年に対する保護観察 処遇の運用に大きな影響を及ぼすことは疑いない。
 また、少年による事件ではないが、仮出獄者による幼児殺傷事件や保護観 察付き執行猶予者による少女監禁事件等を契機として、保護観察の実効性に 対し国民の厳しい目が向けられ、平成17年7月には、「更生保護のあり方を 考える有識者会議」が発足し、国民の期待にこたえ得るより実効性のある更 生保護の在り方について議論が進められている。
 更生保護の転換期ともいえる今日、その全貌を視野に収め、様々な問題に ついて制度的観点を含め幅広く検討していくに当たっては、少年の保護観察 の現状を的確に把握するとともに、取り組むべき課題について正確に認識す ることが、今後も欠かせないものと考える。

(法務総合研究所室長研究官)

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