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少年非行の現状と刑事政策的対応
―少年法改正後の運用状況を含めて―
太田 達也


I はじめに
 近年、少年犯罪は重大な社会問題の一つとして国民や報道の注目するところとなり、早急かつ適切な刑事政策的対応を求める声が高まっている。件数としては少ないものの、重大な犯罪を犯す少年が一定数いることは確かであるし、事案の軽重にかかわらず、動機や資質の解明に窮するような事案や処遇に困難を伴う少年も増加していると思われることから、少年非行の実態とその要因の分析は刑事政策上最重要課題の一つと言って間違いない。しかしながら、要因分析に耐え得るだけの少年事件の背景や処遇経過に関する情報を大量に入手することは個々の研究者にとって容易ではなく、これまで一般に指摘されているような少年非行の実態についても、説得力のある分析や仮説の提示がなされているとは言えない。そうした中、法務総合研究所が平成17年版の犯罪白書において少年非行の特集を組み、重大事案を中心とした非行少年の資質や処遇の分析を行っていることは非常に意義深いものであり、時宜を得たものと言えよう。本稿では、当該犯罪白書(以下、白書という。)の特集記事に依拠しつつ、少年非行の現状とそれに対する刑事政策的対応の在り方を概観しつつ、若干の愚見を表することにしたい。

II 少年非行の概況
 少年非行における最大の関心事は、やはり、報道が指摘しているような少年の凶悪化や粗暴化が見られるかということを含め、近年の少年非行が数的・質的にどのような状況にあるかということであろう。
 まず、交通関係業過を除く一般少年刑法犯検挙人員は近年16万人前後を維持しており、比較的その動向は安定しているように見えるが、少子化により少年人口が著しく減少していることから、人口比は平成8年ころから増加を始め、実質的に非行少年が増加していることを示している。検挙人員・人口比のいずれも昭和58年を頂点とする少年非行第三の波のころよりは低い水準にあるものの、昭和の末ころに始まる検挙率の低下を考慮に入れると、未検挙者中の成人・少年の比率は明らかでないものの、現在の少年非行の状況は第三の波当時に近いかもしれない。ただ、その事以上に重要なのは、検挙人員と人口比の推移の間に少年人口の減少を背景としたギャップが見られることであり、これは、少年非行第一、第二、第三の波の際には見られなかった現象である。少年人口の減少は、家庭、学校、職場におけるネガティブな競争の緩和をもたらし、少年の育成に「ゆとり」をもたらすことさえ期待されてよいはずであるが、こと犯罪に関しては、非行少年の増加という現象となって現れているとすれば、少年人口が減少する社会のいかなる要因が少年非行にどのような形で負の作用をもたらしているかが検証されなければならない。
 しかし、罪名別に見ると、長期的には殺人、強姦などの凶悪犯や暴行の人口比は減少か安定傾向にあるし、傷害も平成8年ころから平成12年まで著しい増加が見られたが、その後は減少傾向にある。確かに、触法少年や年少少年による殺人は、わずかに多く見られる年があるが、全体の件数から言ってもわずかであり、これをもって少年非行の動向全体を評するのは妥当でなかろう。
 これに対し、増加が見られるのは、強盗、遺失物横領、住居侵入、器物損壊などである。強盗は、平成16年になって減少したとは言え、第三の波当時より高い水準となっている。また、近年、少年による詐欺や放火事件の人口比が高まりつつあるのも気に掛かる。窃盗も、人口比で第三の波や平成10年のピーク時よりは低くなっているのもの、窃盗の検挙率の低下や本来的な暗数の多さ、遺失物横領や住居侵入事件の増加を考えると、余り楽観視はできないであろう。もっとも、検挙事件で見る限り、窃盗で高い水準を占めているのは非侵入盗であって、侵入盗や乗り物盗は減少している。このように、動機や手口などの評価を除いた罪種の量的動向を見る限り、少年非行の凶悪化といった画一的な見方が正鵠を射たものではないことが分かろう。
 また、非行少年の低年齢化ということが言われる。確かに、平成8年以降、年少少年の人口比はわずかに増加しているが、むしろ人口比の増加では中間少年や年長少年の方が大きいし、検挙人員でも中間少年の方が年少少年よりわずかに多くなっている。年少少年の人口比が高いとは言え、非行の低年齢化が特徴であった第三の波のころよりはるかに低く、検挙人員でも大幅に減少している。また、触法少年も人員、人口比ともに、昭和のころよりも低い水準で推移している。これに対し、中間少年は、人員こそ増加率が低いものの、人口比では第三の波当時の水準をしのいでおり、さらに、年長少年は、昭和40年代以降の最高値に達している。年少少年は、検挙人員の3分の1を占め、近年は少年鑑別所入所者に占める割合もわずかに上昇しつつある上、年少であるが故に、より適切な処遇が行われれば更生の可能性も高いことから、刑事政策の重要な問題であることに変わりはないが、数の上では中間少年及び年長少年の非行動向に着目する必要がある。
 さらに、同じ年に生まれた少年集団(コーホート) における一般刑法犯検挙人員の比率である非行少年率の年次変化を見ると、昭和54年生まれまでの少年は15歳に非行少年率のピークがあるのに対し、昭和57年生まれと昭和60年生まれの少年ではピークが16歳に移っている(白書4.2.1.4図)(注1)。しかも、かつて非行少年率のピーク時の値が高い時代でも19歳になるころの非行少年率はかなり低い値まで下がっていたのに対し、19歳までの非行少年率が計算できる最も若い世代である昭和60年生まれの少年が19歳になったときの値は以前よりも高くなっている。
 これまで、我が国では、ピーク年齢の変動はあれ、非行少年率は14歳から16歳までのいずれかを頂点とする山型となり、年長になるに従って同年世代の非行率が減少していく傾向が特徴的に見られてきた。それが少年司法制度の効果を示すものなのか、文化・社会的な事情が影響しているのかは分からないが、非行少年の多くは年長になるに従って非行行動から離脱していき、成人の常習犯罪者へとつながっていく者の比率が相対的に低いことを示している。しかし、近年、15歳・16歳から19歳にかけての非行少年率の低下率が小さくなっているとすれば、年長になって初めて非行を犯す少年が増えているか、年長になっても依然として非行を繰り返す者が増えているかのどちらかであるが、再非行率の上昇を考えると、後者の可能性が高いように思われる。

III 少年事件の処理―軽微事案の処理と少年の再非行
 家庭裁判所における一般少年保護事件の終局処分を見ると74%が審判不開始となっており、不処分を併せると84%にも達している。長期的には、不処分の比率が低下する分、審判不開始の比率が高まり、また、保護処分について、保護観察処分と少年院送致の比率がわずかに高まっている。白書には統計がないが、こうした審判不開始率上昇の背景には窃盗や遺失物横領などの簡易送致事件の増加があり、今や年間の簡易送致件数は6万件を超え、家裁における一般保護事件の40%近くを占めるに至っている(注2)。一方、殺人、強盗、覚せい剤取締法違反などの重大事案では、近年、少年院送致の比率が高まっており、改正少年法が施行された平成13年以降は、特に傷害致死事件において検察官送致の比率が高まっている。
 このように非行少年に対する少年審判においては、簡易送致事件を始め軽微な事案に対しては審判不開始の比率が高まる一方、一定の重大事案においては少年院送致や検察官送致といった、施設収容を伴う保護処分ないし刑罰の適用傾向が強まるという両極化の傾向が見られる。このうち改正少年法の原則逆送が適用されるような重大事件少年の特質や処分について法総研が特別調査を行い、犯罪白書においても分析を加えているが、一方の少年事件の大半を占める軽微事案については特に詳しい分析がなされていない。
 これら軽微な少年事件は、少年の非行性も軽く、その多くは家庭裁判所の審判不開始や不処分に伴う保護的措置などで非行から立ち直ることができる場合が多いものと考えられる。しかし、白書でも示されているように(4.2.1.10表)、少年一般刑法犯検挙人員の中には過去に検挙歴のある少年が28%おり、そのうちの約50%が前回の事件について審判不開始又は不処分となっていることから、前回の非行時に審判不開始決定又は不処分の処分選択が結果的に適切でなかったか、それらに伴う保護的措置では非行性を解消するに至らず、再犯に至っている者が少なからずいるのである。しかも、警察庁の統計によれば、再非行少年率は、平成9年に最低の21.2%を記録したものの、それ以後、上昇傾向にある上、前回の処分が不処分の者の比率が低くなり、その分、審判不開始の者の比率が高っている(注3)。この比率は少年一般刑法犯に占める比率の高い窃盗の傾向を強く反映しているが、殺人、強盗、強盗致死、傷害致死、強姦などの重大事案についても再非行少年率は高く、それぞれ49%、62%、46%、47%、61%であり、前回処分が審判不開始又は不処分であった比率も14%、35%、20%、50%、40%となっている。これは、前回の非行事実が軽微で要保護性が低いと判断されながら、その後、比較的短期間に非行性を強め、場合によっては重大事案を犯すまでに至ってしまっている事案が少なからずあることを示している。重大事案に対する処分や処遇の在り方を検討することも重要であるが、多数の事件の中に埋もれがちな、一見、軽微な事案の中にも要保護性が高く、非行の初期の段階での適切な介入を怠ると、非行を繰り返したり、時には重大事犯を犯したりする少年がおり、こうした少年に対する刑事政策的対応について十分な検討を加えていく必要がある(注4)。そうした意味で、本年度の犯罪白書が少年の重大事件にのみ焦点を当てていることは残念である。

IV 非行少年の処遇
 1 少年院での処遇
 少年院での処遇については、近年、再び長期処遇対象者が増加しつつあるほか、平成3年に従来の交通短期処遇に代えて設けられた特修短期処遇対象者の減少が著しい。処遇区分は家庭裁判所の処遇勧告に基づき決定されるものであるが、こうした動向の背景には、非行少年の非行内容や資質の変化のほかに、家裁の処分選択の政策変化があるようにも思われる。
 処遇課程について見ると、平成9年に新設されたG3課程の対象者が相変わらず少なく、矯正統計によると、殺人、傷害致死、強盗致死傷などでもV2やH2に分類されていることが多く(注5)、G3課程の適用は極めて制限的に行われていることが分かる。
 一方、指導力に問題のある少年の保護者が増えていることが指摘されるなか、少年院では少年の保護者に対する働き掛けを積極的に進めている。少年の面会に来ない親や養育を放棄してしまっているような保護者の存在は現場の実務家からもよく耳にするが、今回の白書は少年院における入院時保護者会への出席率が77%であるというデータを紹介している。長期処遇少年の家族では若干この数値は下がるものの、比較的出席率が良い印象を受ける。
 外国人少年は、韓国・朝鮮籍の少年の減少もあってここ数年は安定した数となっているが、ブラジルや中国の少年が増加しており、日本語の習得や日本社会への適応に向けた処遇の課題が山積している。
 少年院での在院期間は長期処遇がやや長期化する傾向が見られるほか、少年院法第11条第4項による収容継続の決定が平成に入るころから増加している。これは、長期処遇対象者の増加同様、処遇に期間を要する非行性の進んだ少年や複雑な問題を抱えた少年がわずかずつ増えていることのほかに、非行少年の施設処遇に対する政策変化が現れているように感じられる。
 出院者の少年院への再入状況を見ると、2年目までに1割以上の少年が再入院し、その後は年齢超過もあって少年院への再入者が減る3、4年目辺りから刑務所入所者が増えだし、その後、毎年一定数の入所者が継続して見られる。これは、少年院入院者の場合、一部(9年で約20%) の者は、出院後も犯罪との関係が切れず、さらに成人になっても再犯に至る者がいることを示している。このことから、少年院やその後の保護観察における処遇によって更生する少年が多い反面、一部の少年に対しては、少年院における処遇期間や内容だけでなく、仮退院後の保護観察期間や処遇の在り方についても改めて検討を要するように思われる。

 2 保護観察
 少年保護観察対象者では、交通短期保護観察が激減する一方、少年院仮退院者(2号観察) が、一時は3,000人台まで下がったものが、少年院入所者の増加に応じて5,000人台の水準にまで戻っている。
 分類処遇では、1号観察のA 分類率にはほとんど変化がないものの、2号観察対象者のA 分類率が平成に入って以降、一貫して低下してきている。分類処遇は、保護局長通達に基づき、保護観察の種類ごとに評点と一定事項の有無を考慮して決めるものとされているが、A 分類率の低下がいかなる 要因の変化によるものか何らの説明もなく、明らかでない。例えば、類型認定率の推移で見られるようなシンナー等の濫用や覚せい剤事犯の低下が2号観察のA 分類率の低下の一つの要因かもしれない。また、先の少年院出院者の再入院率や刑務所入所率、さらに2号観察終了者の再処分率にかんがみると、2号観察のA 分類率はこの程度辺りなのかもしれない。
 しかし、近年、2号観察対象者のうち窃盗が減少し、強盗、傷害の者が増加する一方、無職者の比率も高まり、分類基準で言うところの「生活全般の安定」のない少年が増えているとすれば、むしろ処遇困難者は増えていると言ってもよいくらいである。白書でも紹介されている少年院教官に対する意識調査でも、処遇困難な少年が増えたとする教官が7割以上に上り、その問題として、少年の資質や親の指導力、家族関係、規範意識などを掲げているとしたら、尚更である。もちろん、更生や社会復帰の可能性が高まったからこそ仮退院されるのであるが、2号観察のA 分類率と少年院での少年や処遇の状況との間に何となくそぐわないものを感じるのは筆者だけであろうか。それを除いても、そもそも保護観察における分類処遇は、分類判定や処遇の内容について疑問な点が多く、処遇「制度」と言うには無理がある。詳細な検討は他稿を予定しているが、分類処遇は発展的に解消する必要がある。
 保護観察の経過を見ると、1号観察については期間満了の者が減少し、保護観察の解除を受ける少年が増加する一方、保護処分取消しも微増傾向にあり、平成13年以降14%台となっている。ただし、これらには交通短期保護観察や短期保護観察対象者を含めたものであり、一般の1号観察対象少年に限ると、解除率がやや下がって、保護処分取消し率が18%弱と高くなる。また、1号観察の期間を考えると、期間満了者も解除を受けられなかったという意味で問題がないわけではないであろう(注6)。また、1号観察少年の再処分率も19%ほどあり、さらに1号観察に付された日から5年以内の成り行き調査でも同程度の再処分率がある。脚注3で指摘したとおり、少年一般刑法犯検挙人員の再非行少年の中にも保護観察中又は保護観察終了者(主として1号観察) が17%いることから、1号観察少年の中に再非行の高いハイ・リスク群がいることは確かであり、重点的な処遇が必要である。その意味でも前述の1号観察対象者の5%というA 分類率は低いのではないかと思われる。また、平成17年の第162回国会に提出された少年法等の一部を改正する法律案の中で、1号観察少年の遵守事項違反者に対する警告制度と家裁に対する少年院等送致決定の申請制度を設けようとしたのも、こうした1号観察の中に問題を有する者が少なくないことを背景としている。
 こうした保護観察中のハイ・リスク群は、2号観察対象者についても、期間満了者を含め認められ、薬物対象者や暴走族などの再非行や無職者への対応が課題である。

 3 児童自立支援施設での自立支援
 白書は、児童自立支援施設の在所児童と自立支援の概況を紹介している。 児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童等を入所させ、自立に向けた指導と支援を行う児童福祉施設であるが、家裁から送致された非行児童も多く、中には重大な犯罪を行った触法少年もいることから、刑事政策的にも重要な施設であり、今回、白書が、厚労省による一般調査結果を中心としたものではあるが、児童自立支援施設を取り上げたことは評価される。
 それによれば、近年、在所児童は低い水準で安定しており、入所経路は3分の2が児童相談所の措置によるもので、家裁による保護処分は17%となっている。児童の年齢は、施設が中学卒業を一応の退所目途としていることもあって、多くが中学生相当年齢で、近年、実父母のいる児童の割合が減り、母のみか実母に養父の児童が増加している。
 施設における自立支援の内容は生活指導と学校教育その他から成るが、伝統的な夫婦小舎制を採る施設は少なくなり、現在は21施設で行われているにとどまる。在所期間は、1年未満と1年以上2年未満がそれぞれ40%強であり、退所先の6割は家庭へ復帰しているとする。しかし、児童自立支援施設の在所児童には保護者からの虐待経験のある者が少なくなく、厚労省の調査でも問題のある保護者が増えている一方、平成9年の法改正で追加された通所指導も必ずしも十分に行われていないことから、これら退所児童の予後と自立に不安が残る。実際、国立武蔵野学院が全国の児童自立支援施設を対象に行った貴重な調査結果によれば、児童自立支援施設からの退所児童の約4分の1が退所後短期間のうちに再非行を犯し、家裁送致になっており(注7)、児童自立支援施設における非行児童の自立支援と退所後の指導の難しさを物語っている。

V 重大事犯少年の実態と処遇―改正少年法の運用も含めて
 1 重大事犯少年の特質
 白書は故意の犯罪により被害者を死亡させた重大事犯少年278名(女子少年22名、来日外国人5名を含む。) を、集団型、単独型、家族型、交通型に分類して少年の特性や事案の分析を行っており、その結果には興味深いものがある。
 集団型に属する少年は、暴走族などの不良集団に属し、非行歴・保護処分歴のある者が多いのに対し、交通型は保護観察歴はあるものの、暴走族などの不良集団への所属歴は余りなく、年長で有職者が多い。家族型は、嬰児殺や子供のせっかん死が多く含まれている関係で女子少年が多いほか、保護処分歴が余りなく、低年齢で学生・生徒であるものの、家庭環境に複雑な問題を抱えていることが多い。もっとも、離婚、被虐待経験、経済的困窮などの家庭問題は、交通型以外の類型に共通して見られる。
 また、家出歴や不登校歴を有する者がいずれの類型にも多く、無免許運転や万引歴なども見られることから、少年による重大事犯が突然に引き起こされるわけではなく、これらの様々な前兆行動が見られることに注目すべきであろう。俗に言う「いきなり型」という事案が多いわけではなく、これらの前兆行動が見過ごされているか、適切な対応が取られなかったために重大事件へと発展してしまっているのである。特に、集団型と単独型に保護処分歴を有する者が多いことから、一定の処遇が行われているはずである。
 さらに、重大事犯を犯した集団型の少年の中に審判不開始・不処分歴がある者が一定数いることに注意しなければならない。これらの少年は、審判不開始又は不処分の際に取られた保護的措置が適切でなかったか、功を奏さなかったため、非行性の解消に至らないばかりか、その後間もなく重大事犯を犯すまでの非行水準に達していることになる。前にも指摘したとおり、簡易送致事件を含めた審判不開始事案が増加しており、こうした一見非行事実が軽微に見える事件の中にも要保護性の高い少年がおり、警察や家裁における選別機能の見直しと処分の在り方について改めて検討する必要がある。
 これに関連して、平成17年に犯罪捜査規範が改正され、従来、簡易送致対象事件の場合、少年事件簡易送致書を添付するだけでよかったものが、捜査報告書に身上調査表まで添付するものとされることとなった(犯規第214条第1項)。これは簡易送致基準の改正とも関係があるものと思われるが、簡易送致事件においても調査に備えた書類を家裁に送付しておくようにするという趣旨であるとすれば望ましい改正である。しかし、実際に膨大な数の簡易送致事件について調査を行うことが可能であるのか、あるとすればどのような形で選定するのか、またそのための体制作りは行われているのかなどの疑問が残る。

 2 重大事犯少年の意識
 法総研は、重大事犯少年の意識調査を行っている。それによれば、少年院在院者にせよ、刑務所在所者にせよ、30%以上の少年が自己に対する処分を「軽すぎる」と考えているが、「適当」、「重すぎる」、「何も思わない」とする少年の割合が高く、更に注目すべきは、少年の処分認識と処分に対する被害者感情の認識との間に大きなズレがあることである。大半の少年が自分の処分に対し被害者が軽すぎると思っていると認識していながら、多くの少年がこれで「適当」又は「重すぎる」と感じているということである。同調査では、社会復帰後の大切な事項として被害者への慰謝を挙げる少年が75%に及んでいるが、少年が被害者の痛みや気持ちをうまく受け止められていないことをこの認識のズレが示しているとすれば、問題であろう。
 また、事件に対する責任の認識についても、少年院在院者で58%、刑務所在所者で80%が当初から自分の責任ととらえ、さらに、処遇を受けつつある現在では100%近くにまで達している。しかし、現在も共犯者の責任とする少年が極めて多く、被害者の責任とする者も、事件直後から大幅に減っているとはいえ、20%台もいる。しかし、集団で行動し、集団に依存しながら、事件においては集団意識の中で暴力をエスカレートさせ、被害者を死に至らしめた少年が、処遇過程においても共犯者の責任を強く感じていることは、処遇上考慮しなければならない要素であろう。

 3 重大事犯少年の処分
 原則逆送事件の少年に対する家裁の終局処分状況については、最高裁判所からも毎年報告がなされているが(注8)、白書でも平成16年までの処理状況を罪名別にまとめているほか、法総研が独自に行った14歳以上の重大事犯少年に対する処分の分析結果を載せている。
 それによれば、検察官送致の比率が90%となっている危険運転致死罪とわずかな保護責任者遺棄致死の事案を除くと、殺人、強盗致死、傷害致死いずれも検察官送致の比率はおおむね50%前後となっている。この比率は少年法改正前より高くなっており、特に傷害致死で上昇率が高くなっているほか、年齢別では、年齢が高くなるほど検察官送致率が高くなるものの、少年法改正前との比較では中間少年(16歳・17歳) ほど上昇率が高まっている。
 また、原則逆送少年に限定した場合でも、若干、検察官送致の比率が高くなるものの、殺人、強盗致死、傷害致死の検察官送致率はおおむね54%から60%の範囲であり、残りが保護処分となっている。つまり、「原則」逆送制度と言われながらも、実際の運用では少年法第20条第2項ただし書を適用し、保護処分決定を行っている場合が40%から半数近くに及んでいるのである。 少年法改正による原則逆送制度の導入によって重大事件における家裁の調査機能の低下を危ぶむ声もあるが、こうした状況を見る限り、一応こうした心配が杞憂なものであるとの希望をもつことができる。
 しかしながら、原則逆送事案において保護処分の適用が半数近くに及んでいるがために、刑事処分と保護処分の分水嶺、言い換えれば、「刑事処分相当性」と「刑事処分以外の措置相当性」(保護処分相当性) の判断がどのように行われているかが問題となる。白書では、危険運転致死罪については年齢(16歳であること)、強盗致死や傷害致死では成人共犯への追従、殺人では嬰児殺の女子少年であること、保護者に問題があること、精神障害が認められること、などが保護処分相当性判断の基準となっている可能性があることを指摘した上で、集団型の原則逆送少年に限って審判結果の更なる要因分析を行い、本人主導性(共犯の主導又は指示)、暴力の程度、年齢、保護観察回数又は少年院送致回数などの保護処分歴が処分決定に大きな影響を与える要因としている。
 しかし、本人主導性については、確かに本人主導である場合に検察官送致の比率が圧倒的に高くなっているが、主導者がない場合や共犯主導の場合においても、なお検察官送致と保護処分の比率は半々であるから、他の要因を含めた総合的な分析が必要であって、これは暴力の程度や年齢、保護処分歴についても同様である。少年法は、「犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮」するとしているのであるから、保護処分相当性の判断基準たる様々な要因について多変量解析を行うべきであったろう。

 4 重大事犯少年の処遇
 原則逆送事案のうち少年院送致を受けた少年の大半が中等少年院送致となっており、特別少年院送致となった者は極めて少ないが、これは重大事犯少年のほとんどは特別少年院に収容するほど犯罪傾向が進んでいないということを意味するのであろうか、処遇区分と重大事犯少年の処遇の在り方との関係でも検討を要しよう。
 家裁の処遇勧告による収容期間については、一般短期処遇の勧告があった少年を除くと、通常よりも長い2年から3年程度とされる者が多く、この期間に応じた個別的処遇計画が立てられている。実際の在院期間も、長期処遇で、少年院長期処遇出院者の平均日数である384日よりも長い、1年半から2年以上の者が最も多くなっている。ただし、一般短期処遇の少年は半年以内で出院している。これに対し、原則逆送事案で検察官に送致され、最終的に刑罰を科された少年の大半が長期3年を超え10年以下の不定期刑を科され、裁判時の成年については、無期や3年を超える有期懲役を受けている。
 処分の性質が異なる上、収容期間にかなりの開きがあることから、保護処分と刑罰を比較することはできないが、少年の更生と社会復帰を目指して処遇を行う点について異なることがない以上、今後、両者の予後や処遇効果について検証する必要がある。既に仮退院や保護観察終了者が出ている保護処分対象者は、原則逆送事案に限定した統計ではないが、おおむね保護観察の経過は良好で、深刻な再非行も少ないようである。白書では、わずかな少年3号観察対象者を含めた保護観察対象者全体の成績のみを掲載するにとどまるが、今後、少年受刑者の3号観察の成績や出所後5年以内の再入率などの検証を行うべきであろう。

VI おわりに―犯罪白書の将来像
 近年の犯罪白書の充実ぶりには目を見張るものがある。もともと我が国の犯罪統計は精度や充実度から世界最高水準にあると言っても過言ではないが、それに加えて、白書の特集記事における各種の調査は極めて貴重なものであり、刑事政策の研究や実務に資するところが大きい。
 しかし、白書という性格にかんがみた場合、犯罪白書の在り方がこのままでよいかどうかはまた別の問題である。これは詰まるところ、犯罪白書の名宛人が誰であるかということであろう。つまり、犯罪情勢を広く国民に伝え、防犯の知識や刑事政策に関する理解を深めてもらうため国民一般を対象とするものなのか、犯罪学や刑事政策学を研究する研究者や実務家にデータを提供するものか、又は立法や国政を司る国会議員への資料なのかということである。恐らく、どれを対象とした白書の在り方もあるであろうし、現在の犯罪白書は、これらの最大公約数ということなのであろう。
 しかし、どのような内容にしても、一般市民が対価を払って犯罪白書の購入に殺到するということはないであろうし、研究や実務は、結局、特集記事の基になっている研究報告書自体を参照することになろうから、犯罪白書だけで完結することはあり得ない。国政用の資料としても、白書をそのまま利用することはないであろう。現在のまま中庸を維持していく方法も無難であろうが、特集記事が充実すればするほど本の厚みが増し、携帯にもますます不便となる。パソコンと共にCD-ROM を持参する方法はあるが、大学の講義などではLL 教室でもない限り、冊子体を使わざるを得ない。
 以上の点を考慮すると、将来のもう一つの選択肢としては、思い切って特集記事を割愛し、基本統計の部分をもう少し充実させた上で白書とすることも検討されてしかるべきではないだろうか。特集記事まで丹念に読む人は研究や実務のための利用に限られているであろうから、これらはCD-ROM の方にでも収録しておけばよい。更に言えば、特集記事の基になる調査は法務総合研究所の研究報告として公刊されているが、そもそも、こうした政府系機関の報告書は広く国民に接するようにすべきものであり、海外ではほとんどの政府系の研究報告書がPDF ファイルにされて無料でダウンロードできるようになっている。法総研の研究報告書もこのようにオンラインで広く公開し、学生や一般の国民の利用に供すべきである。そのような体制を整えれば、犯罪白書(の冊子体部分) は、基本統計部分となっても余り差し支えないであろう。その場合、現在収録されていないデータの中にも掲載が望まれるものもあることから、こうしたものも含め、基本統計を充実させていくことが望まれる。もちろん、白書は統計書ではないし、特集のテーマ自体が担当官庁の関心や政策の重点を表しているから、これが全くないことが適当でないというなら、短い特集記事を組んで、要約のみ掲載し、PDF ファイル化した関連報告書そのものをCD-ROM に入れておくことを考えればよい。こうした可能性を含め、今後、犯罪白書の在り方を再検討していくことが望まれる。

(注1) 少年非行第三の波のときに14歳を迎える世代(昭和44年生まれ) では14歳に非行少年率のピークがあり、それ以前は15歳で、それより更に以前の昭和32年生まれの世代では16歳にピークがある。法務省法務総合研究所『昭和61年版犯罪白書』(1986) 184頁、同『平成8年版犯罪白書』(1996) 52頁。
(注2) 最高裁判所事務総局『平成16年版司法統計年報―少年事件編』(2005)、最高裁判所事務総局家庭局「家庭裁判所事件の概況(2・完) ―少年事件」法曹時報57巻1号(2005) 103頁。
(注3) 警察庁『平成2年の犯罪』(1991) 〜 『平成16年の犯罪』(2005)。このほか、再非行少年の中には保護観察終了や保護観察中の者も17%おり(仮釈放や仮退院の者を除く)、1号観察の在り方も問題となる。
(注4) 拙稿「警察における修復的司法としての家族集団協議(Family GroupConferencing) の理念と可能性―軽微事犯少年の再非行防止と被害者・地域の立ち直り・回復に向けて」警察政策7巻(2005) 23.29頁。
(注5) 法務省『第106矯正統計年報U平成16年』(2005) 142.143頁。
(注6) 法務省『第45保護統計年報平成16年』(2005) 106.107頁。期間満了者のうち成績良好や普通の者の比率が高いが、これらの少年も1年9月以上保護観察を受けても解除を受けられていない。
(注7) 国立武蔵野学院『児童自立支援施設入所児童の自立支援に関する研究』(2003)。
(注8) 最高裁判所事務総局家庭局「平成12年改正少年法の運用の概況―平成13年4月から平成17年3月」家庭裁判月報57巻9号(2005)。


(おおた・たつや慶應義塾大学法学部・大学院法務研究科教授)

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