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保護司の現状と課題についての一考察
押切 久遠

1 はじめに
 我が国の保護観察処遇は,常勤の専門家である保護観察官と非常勤の民間篤志家である保護司が協働して担っている。年間の新規受理人員が7万人以上に及ぶ保護観察対象者(以下「対象者」という。)を,約千人の保護観察官で処遇し得るのも,約5万人の保護司の存在があってこそである。私自身も保護観察官を務めた経験から,無給で,犯罪者や非行少年の改善更生という困難な仕事に当たる保護司の善意と情熱を,肌身をもって感じてきた。保護司制度は,日本の刑事政策を支える「宝物」のような存在ではないかと思う。
 平成16年版犯罪白書は,その特集の中で「社会内処遇の担い手の変化」(第5編第5章第3節)と題して,保護司に関する比較的詳細なリポートを行っている。本稿においては,そのリポートを中心に紹介し,保護司の現状と課題について考察したい。なお,白書の記載を超える部分は,私見であることを予めお断りしておく。

2 保護司のプロフィールの変化
 現行の保護司制度が発足して半世紀余りが経過し,保護司の属性にも様々な変化が見られる。職業については,図1のとおり,農林漁業従業者及び宗教家の比率が低下し,主婦を含む無職者の比率が上昇している。また,女性保護司の比率が,昭和28年の7.2%から平成16年の24.9%へと上昇している。
 年齢層別構成比の推移を見たのが図2であるが,昭和28年には60歳未満の者が74.3%を占め,平均年齢53.2歳であったのに対し,平成16年には60歳以上の者が69.2%を占め,平均年齢も63.3歳に上昇している。
 保護司のプロフィールの変化をまとめると,主に@無職である者(主婦や退職者)の増加,A女性の増加,B高齢化の進行を挙げることができるであろう。





3 保護司の活動実態と意識
 法務総合研究所においては,「保護司の活動実態と意識に関する調査」 (以下「特別調査」という。)を行った。これは,@全国の保護司82人に対する面接調査と,A全国から無作為抽出した3千人の保護司に対する質問紙調査とを組み合わせたものであり,調査時期は平成16年2月から同年5月,質問紙回答者数は2,260人(回答率75.3%)であった。特別調査の結果を紹介することにより,保護司の現状の一端をなぞってみたい。

 (1) 回答者の属性
 回答者の属性は,男性1,679人(74.3%),女性581人(25.7%)であり,年齢層別では,50歳代22.5%,60歳代45.5%,70歳以上28.4%であった。平均年齢は64.4歳である。職業は,無職(主婦を除く。)22.1%,主婦17.3%,会社・団体役員及び会社員14.4%,農林漁業従業者10.8%,商業・サービス業従業者10.0%,宗教家9.1%の順であった。回答者の属性分布が,保護司全体のそれと近似していることが分かる。
 また,回答者の住居形態を見ると,一戸建てに住む者が82.7%,住宅と店舗・会社事務所が一体となった建物に住む者が9.9%であり,マンション等の集合住宅に住む者は3.3%であった。さらに,回答者の世帯人員は,平均3.52人であり,5人以上の世帯である者は25.9%に及んだ。

 (2) 保護観察対象者との面接の形態
 保護観察における保護司と対象者との面接の形態には,対象者が保護司宅を訪ねる「来訪」,保護司が対象者宅を訪ねる「往訪」等があるが,回答者の77.9%は,来訪中心の面接を行っていた。そのほかに,来訪・往訪半々が17.4%,往訪中心が3.4%であり,保護司の多くが,自宅を保護観察処遇の場としていることが,調査データからも明確となった。
 来訪の長短所について質問したところ,「対象者にとって,約束を守るというしつけになる」(88.7%),「ゆっくりと落ち着いて面接できる」(80.0%),「保護観察は自ら進んで受けるべきものであるという,対象者の自覚を高められる」(78.0%),「対象者が保護司に親しみを持ってくれる」(62.4%)など,積極的に評価する回答が多い一方,「保護司の家族の負担となる」(13.4%),「異性の対象者の場合,面接がやりづらい」(13.6%)など,来訪に伴う苦労も垣間見えた。
 また,往訪の長短所については,「対象者の生活の実態をよく知ることができる」(90.4%),「対象者とその家族との関係を観察できる」(88.9%),「対象者の家族から話をよく聴くことができる」(79.7%)など,こちらも積極的な評価が多いが,「ゆっくりと落ち着いて面接できる」という回答は少なく(20.8%),「対象者の保護観察を受ける態度が受動的になる」(29.3%),「対象者宅に適当な面接場所がない」(28.0%)などの回答も相当数あり,往訪に関する保護司の苦心がうかがわれた。

 (3) 面接の曜日,時間帯及び面接時に心掛けていること
 面接を行う曜日については,図3のとおり,回答者の25.3%は,土・日・祝日に対象者との面接を行うことが多い。また,面接を行う時間帯については,図4のとおり,53.0%は,午後6時から午後9時台の夕刻ないし夜間の時間帯を利用することが多い。これは,対象者の都合(就業や就学)に配慮しているため,あるいは,自らも仕事を持っているためと思われる。
 面接時に心掛けていることについて質問すると,「対象者の話をよく聴く」(82.3%),「和やかな雰囲気を作る」(79.8%)という回答が非常に多く,保護司が,受容的な態度で,対象者との関係形成を大切にしながら,継続的に指導・援助を行おうとしていることが分かる。





 (4) 地域とのかかわり,保護司に対する周囲の認識
 回答者のほとんどが地域に長く居住しており,平均居住年数は約46年であった。また,保護司以外のボランティア活動等の経験について調査したところ,93.9%が,現在又は過去において他の活動を経験したことがあると回答した。その種類は,多い順に,町内会役員(63.5%),PTA 役員(55.2%),社会福祉協議会役員(29.2%),少年補導員(19.0%),更生保護女性会員(17.7%),消防団員(16.4%),民生・児童委員(14.8%),少年指導委員(11.4%)である。何種類を経験しているかについては,保護司以外に二つが23.1%,三つが22.8%,四つ以上が29.9%であり,保護司が地域において多様な役割を果たしている存在であることが分かる。
 保護司は,地域との多様なつながりを持つ一方,対象者のプライバシーを守る必要がある。この点,保護司を務める上で重要な要素は何かについての質問に対し,「秘密保持」を挙げる回答者が一番多かった(38.8%)。そのため,保護司であることを地域の人々に知らせているかという質問には,回答者の38.6%が「自分からは全く知らせていない」,58.3%が「積極的にではないが,必要に応じて知らせている」と答えた。また,地域の人々は保護司の活動や役割を知っていると思うかと質問したところ,「知らない人の方が多い」が48.5%,「知らない人が非常に多い」が13.8%という回答であった。
 このような状況について,回答者の77.1%が,「保護司の社会的評価の向上」が大切であり,また,45.0%が,新たな保護司を確保する上でも,「保護司の役割についてもっと広報し,世間に知ってもらう」ことが効果的であると考えている。

 (5) 保護司になった時の気持ち,保護司を続けてきて感じること
 保護司になったきっかけを質問すると,「先輩保護司に勧められて」が70.8%と圧倒的に多く,次いで,「市町村から推薦されて」(16.6%)であり,「自分から希望して」は0.9%にとどまった。
 保護司になった時の気持ちについて質問したところ,図5のとおりであり,自分に務まるだろうかと心配を抱えながらも,社会の役に立ちたい,犯罪者や非行少年の更生に寄与したいという社会貢献の意識や,自らも保護司活動を通じて成長したいという積極的な意識を抱いて,保護司に就任した者が多いことが分かる。
 また,保護司を続けてきて感じることについて質問したところ,図6のとおり,保護司活動を通じて人の輪が広がり自分も成長している,社会や対象者の役に立っている,といった充実感を持ちながら活動に当たっている者が多い。その一方,保護観察処遇の困難さを感じている者も約4割に上る。



 (6) 新任保護司の確保に関すること
 他の人に保護司になってくれるよう依頼して,断られたことがあるかどうかを質問したところ,全体の40.3%(910人)が依頼したことがあり,そのうち75.3%(685人)が「断られたことがある」と答えた。断られた理由としては,「忙しく,時間的余裕がない」,「犯罪や非行をした人に対する指導・援助に自信がない」,「家族の理解が得られない」,「犯罪や非行をした人が来訪してくるのが負担である」の順であった。

4 まとめと考察
 以上に紹介したのは,特別調査の一部であるが,これらを踏まえて,保護司の現状を概観しつつ,今後の課題について若干の考察を試みたい。

 (1) 保護司の就任と活動の現状
 保護司が就任する際の状況・意識としては,@一戸建てなどの独立性の高い建物に居住している,A家族規模がある程度大きい,B地域で様々なボランティア等を行っている,C社会のために役立ちたい,犯罪者や非行少年の更生に寄与したいという意識を持っているなどが挙げられる。
 これに先輩保護司の勧めという誘発要因が加わり,不安を抱きながらも保護司に就任し,充実感と難しさを感じながら活動に当たっている姿が,特別調査の結果から浮かび上がってくる。また,その中には様々な課題も認められる。

 (2) 課題その1〜住居形態や世帯規模の変化と来訪という処遇形態
 総務省の住宅・土地統計調査(全国)による住宅の建て方別構成比の推移を見ると,昭和48年には64.8%であった一戸建ての比率が,平成15年には56.5%に低下し,共同住宅の比率が22.5%から40.0%に上昇している。単純な比較はできないが,この数値は,保護司の住居形態の構成比(一戸建て82.7%,集合住宅3.3%)と大きく異なる。
 また,国勢調査による一般世帯の世帯人員の推移を見ると,昭和45年には3.41人であった平均世帯人員が,平成12年には2.67人に減少し,5人以上の世帯の比率も25.6%から11.5%に低下しており,世帯の小規模化が進行している。これに対し,保護司の平均世帯人員は3.52人であり,5人以上の世帯は25.9%である。
 社会一般の住居形態の変化や世帯規模の小規模化が,保護司の処遇活動に与える影響は軽視できない面があると思われる。例えば,オートロック式のマンションなど閉鎖性・集合性の高い建物や,家族がいてくれるという安心感のないところで,対象者を自宅に迎え入れて処遇することはなかなか難しいであろう。現に,保護司に対する面接調査においても,「家族の存在や支えがあったからこそ保護司になり,保護司を続けてこられた」という声が多く聞かれた。
 元更生保護官署職員であり保護司である藤野隆氏は,保護観察の実務で長く自明のこととされてきた来訪中心の処遇方式について,「時代の変化に即応して基本的な検討を試みる時期が到来しているのではないか。保護司宅=処遇の場という基本は維持しつつも,保護司宅でも対象者宅でもないいわば第三の処遇の場を設ける仕組みを検討すべきではないか」との旨を述べている(保護司の地域性再考,更生保護と犯罪予防132号,1999)。特別調査の結果からも,来訪という処遇形態の優れた点が改めて浮かび上がる一方,この第三の処遇の場について検討する必要性が示唆されているように思われる。また,それは「住居を提供することは難しいが,保護司活動をやりたい」という人の就任を促し,新任保護司確保のすそ野を広げることにもつながるものと考えられる。

 (3) 課題その2〜社会意識の変化と保護司の待遇
 前述のとおり,特別調査の結果からは,保護司の精神的基盤となっている意識が,社会の役に立ちたい,犯罪者や非行少年の更生に寄与したいというものであることが分かる。したがって,社会全体の意識の変化が,このような意識に影響を与え,ひいては,保護司の活動や確保に影響を及ぼす可能性がある。
 内閣府の平成16年・社会意識に関する世論調査によれば,約6割の人が,何か社会のために役立ちたいという貢献意識を持っている。ボランティア活動への参加も積極化しており,総務省の平成13年社会生活基本調査によれば,ボランティア活動の行動者率(過去1年間にボランティア活動を行った人の,10歳以上人口に占める割合)も上昇している。
 しかし,ボランティア活動に関する考え方などを尋ねた平成12年度国民生活選好度調査(当時の経済企画庁)によれば,ボランティアについて,「気軽にできることが大切である」と答えた人が79.2%に及んだ。また,内閣府が平成13年に行った少年非行問題等に関する世論調査によれば,20歳以上の人で,社会のために役立ちたいとの意欲を持っている人は多い(80.3%)が,非行少年対策活動への参加意欲を尋ねると,意欲のある人は41.6%にとどまり,その具体的活動も「地域の住民としてあいさつをするなど一声掛ける」というものが一番多く(参加意欲のある人の53.4%),「非行少年に対して,直接,継続的に助言や援助をする保護司や少年補導員などのボランティア活動に参加する」は参加意欲のある人の20.6%であった。
 さらに,近年の青少年の意識調査を見ると,「社会のために貢献したい」という意識は低く,「その日その日を楽しく暮らしたい」,「自分の趣味をエンジョイしたい」といった意識が高いことがうかがわれる(財団法人日本青少年研究所・21世紀の夢に関する調査等)。
 保護司は,民間篤志家であるが,自分の生活の場や時間の一部を割いて,犯罪者や非行少年という難しい対象と向き合う仕事に従事している。そのことを考えた時,地域社会の連帯意識が希薄化し,「自分は自分。他人は他人」という意識が強まれば,保護司の活動や確保にも看過し難い影響が及ぶのではないだろうか。
 現在活動中の保護司は,経験が豊富であり,処遇能力も相当に高いものと思われる。しかし,保護司の再任上限年齢を76歳未満とするいわゆる定年制が平成16年から完全実施され,全体の約7割を占める60歳以上の保護司は,この十数年の間に退任時期を迎える。関係部局においても様々な努力がなされているが,今後,社会情勢の変動や社会意識の変化を更に敏感に読み取り,それに対応して,保護司の待遇の見直し(処遇面・精神面のサポートや経済的手当ての充実等)を進めることの必要性について,活発に議論し検討することがますます重要ではないかと思う。

(法務総合研究所室長研究官)



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