日本刑事政策研究会 罪と罰
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受刑者の質的変化と処遇上の課題
小澤 政治


 平成16年版犯罪白書は,「犯罪者の処遇」を特集テーマに取り上げ,成人犯罪者処遇の実情と変遷について,従来余り紹介されたことのないデータも多数取り上げて分析・検討を加えている。本稿では,特集の中から,成人矯正の分野における処遇上の動向を中心に,関連部分の一端を紹介する。本稿における白書の記載を超える部分については私見であることをお断りしておく。

1 受刑者の質的変化
 特集では,過剰収容状態の実情と問題点を紹介し,さらに,過剰収容が生じた背景として犯罪情勢や刑の長期化傾向などを分析した上,受刑者の処遇を考える前提として,昭和48年以降における新受刑者の動向と特質について,11項目にわたって分析している。その概要は次のとおりである。
 @人員については,平成5年以降増加傾向にある。15年の新受刑者は3万1,355人であり,これは,昭和48年以降では,59年(3万2,060人),60年(3万1,656人),57年(3万1,397人)に次いで4番目に多い。
 A年齢については,高齢化の傾向が顕著である。平成15年の新受刑者のうち60歳以上の者の比率は9.3%である(昭和48年は1.3%)。
 B性別については,女子比が一貫して上昇傾向にある。平成15年の新受刑者に占める女子比は6.0%である(昭和48年は2.1%)。
 C国籍等については,外国人(日本国籍を有しない者)の受刑者の増加が顕著であり,平成15年の新受刑者の6.9%が外国人である。加えて,昭和55年以前は,外国人受刑者のほとんどが我が国に定住する韓国・朝鮮人であったが,平成4年ころからは,来日外国人(永住者等の定着居住者,在日米軍関係者及び在留資格不明者を除いた外国人をいう。)の受刑者の増加傾向が著しい。
 D罪名については,覚せい剤取締法違反の増加が顕著である。平成15年の男子新受刑者の20.6%,女子新受刑者の38.0%が覚せい剤取締法違反である(昭和48年は男子の3.8%,女子の5.1%)。
 E刑期については,刑期の長い者が増加傾向を示している。平成15年の懲役新受刑者のうち,刑期1年以下の者は21.3%,刑期3年を超える(無期を含む。)者は20.5%である(昭和48年はそれぞれ49.3%,10.3%)。
 F入所度数については,近年は特に初入者の増加が著しい。平成15年の新受刑者に占める初入者の比率は51.9%である(昭和48年は47.6%であったが,その後次第に下降し,平成4年の36.7%を底に上昇に転じている。)。
 G暴力団関係については,近年,その加入者の比率は低下する傾向にある。新受刑者中の暴力団加入者の比率は,昭和52年から平成3年までおおむね25%で推移していたが,4年以降低下傾向にあり,15年は13.7%である。
 H職業については,無職者の比率が上昇傾向にある。平成15年の新受刑者中の無職者の比率は66.8%である(昭和48年は34.3%)。
 I配偶関係については,離別者の比率が上昇し,有配偶者の比率が低下する傾向にある。平成15年の新受刑者のうち,離別者は32.2%,有配偶者は22.6%である(昭和48年はそれぞれ11.2%,42.3%)。
 J教育程度については,高学歴化の傾向がうかがわれる。平成15年の新受刑者のうち高校卒業以上の学歴を有する者は27.7%である(昭和48年は15.1%)。
 以上のとおり,長期的な傾向として,受刑者には質的な変化が認められるのであるが,近年においてその増加が著しく,かつ,処遇上様々な課題を伴う高齢受刑者,外国人受刑者及び覚せい剤受刑者の問題は,当面の成人矯正の動向を考える上で特に重要であることから,白書では,これらについて更に詳細な分析を加えている。以下,これら受刑者の処遇面に重点を置いて白書の要旨を紹介する。

2 高齢受刑者の処遇
 我が国の受刑者処遇の基本制度は分類処遇制度である。現行の分類処遇制度の下では,高齢ということのみを理由とする特別の分類級は設けられていないが,加齢に伴う身体機能の衰退,疾病等がある場合には,収容分類級 P級(身体上の疾患又は障害のある者)と判定され,医療刑務所又は医療重点施設に収容される。また,P 級以外の判定を受けて一般の行刑施設に収容される高齢受刑者についても,その心身の状況に応じ,処遇分類級 T 級(専門的治療処遇を必要とする者)又は S 級(特別な養護的処遇を必要とする者)と判定され,相応の処遇を受ける。平成15年の出所受刑者2万8,170人について出所時の分類級を見ると,P 級の比率は,出所時59歳以下の層では0.9%,60歳以上では3.5%,65歳以上では5.2%であり,T 級の比率は,出所時59歳以下の層では1.0%,60歳以上では2.6%,65歳以上では3.3%であり,S 級の比率は,出所時59歳以下の層では1.3%,60歳以上では6.5%,65歳以上では11.0%である。
 このように,年齢が高くなるにつれ,P 級,T 級及び S 級の判定を受ける受刑者が多くなるが,このような分類判定を受けない高齢受刑者についても,その心身の特殊性に配慮して,@刑務作業時間を短縮する,A刑務作業の種類として軽作業を課する,B衣類・寝具を増貸与するなどの特別の措置が行われてきたところである。
 しかし,近年,このような特別の措置だけでは十分とはいい難い受刑者が増加している。例えば,基礎体力が低下して歩行,摂食等の日常生活動作の全般にわたって介助を要する者,知的能力・理解力の衰えのために刑務作業その他日常生活上の指示・指導に多大の時間を要する者,動作が緩慢なために食事,運動,工場・舎房間の移動等に関する所内の動作時限に合わせた行動が困難な者である。このような,他の年齢層の受刑者と同一の処遇環境の中に置いて生活させることが困難な高齢受刑者が増加して,一つの処遇集団を形成するだけのまとまった人員となるにつれて,最近では,「養護的処遇」という名称で,通常の処遇よりも一段とストレスの低い環境の中で処遇する行刑施設が増加している。養護的処遇の内容としては,従来からの処遇上の配慮に加えて,高齢受刑者を専門に就業させる軽作業中心の「養護工場」や,高齢受刑者の専用の収容区画を設け,高齢受刑者の起居動作の便宜,転倒による負傷の防止などを考慮した住環境(廊下,居房,入浴場等における手すりの設置,段差の解消等のバリアフリー化)を整備することに重点が置かれている。
 また,それら設備面での対策のほかに,プログラム面でも高齢受刑者の特性に応じた処遇類型別指導を導入する動きが見られる。表1は,平成9年及び16年について,処遇類型別指導を実施している行刑施設の数を,その主要な種目ごとに見たものである。高齢受刑者指導を導入している行刑施設は,2施設から12施設に増加している。現状では,高齢受刑者指導の方法や内容は各行刑施設ごとに様々であるが,おおむね,高齢受刑者に出所後の生活設計に意欲を持って取り組ませるようにするため,健康な体力と精神的充実感を維持させることに目標を置いて,日常的な健康管理上の留意点,心身機能の低下を防止するための運動方法についての指導,年金,介護保険,生活保護等の福祉措置や高齢者の雇用・求人状況についての社会経済動向等に関する情報提供,対人トラブルを起こさずに安定した人間関係を築くことのできる社会的スキルの指導等が,医師等の医療関係者,社会福祉機関の職員,高齢者問題の有識者等の部外の専門家の協力も得ながら実施されている。
 高齢受刑者の急速な増加を考えると,今後,処遇類型別指導としての高齢受刑者指導は一層重要性を増し,高齢受刑者特有の処遇ニーズに応じた集中的できめ細かな処遇プログラムへと高度化・体系化されていく必要に迫られるであろう。高齢受刑者指導には,多方面にわたる総合的な内容が盛り込まれる必要があるところ,行刑施設の職員のみによる指導には限界がある。行刑改革会議の提言においても,人的体制の整備として,医療スタッフ,ソーシャルワーカー等を十分確保することが必要であると指摘されているが,そのことは高齢受刑者指導にも当てはまる。今後,高齢受刑者指導を整備・充実させるためには,そうした社会資源を積極的に活用していく必要があると思われる。



3 外国人受刑者の処遇
 現行の分類処遇制度の下では,外国人受刑者のうち,「日本人と異なる処遇を必要とする外国人」は F 級と分類され,特定の行刑施設に集めて収容されているが,近年の F 級受刑者の増加に伴い,F 級収容施設も拡大している。昭和53年以降,府中刑務所,横須賀刑務所及び栃木刑務所の3施設が F 級施設とされてきたが,平成8年には大阪刑務所が,10年には8施設(札幌,黒羽,横浜,名古屋,神戸,和歌山,広島及び福岡の各刑務所)が,13年には7施設(福島,前橋,新潟,甲府,静岡,京都及び高松の各刑務所)が,15年には2施設(川越,奈良の各少年刑務所)が,さらに,16年には2施設(金沢及び長崎の各刑務所)がそれぞれ追加され,現在では,男子刑務所21施設と女子刑務所2施設(栃木及び和歌山)が F 級受刑者を収容・処遇している。
 F 級受刑者の処遇に当たっては,従来から,居房や作業の指定,宗教行為や食習慣の尊重などの面で,外国人の特殊性に応じた様々な配慮がなされてきているが,最近の過剰収容の深刻化の中,そうした処遇上の配慮は F 級収容施設にとって重い負担になりつつある。特に,居房の指定については,かつては F 級受刑者は夜間独居とするのが一般的であったが,最近では,それが不可能になっている。例えば,府中刑務所の F 級受刑者540人(平成16年5月31日現在)について,その居房の指定状況を見ると,「夜間独居」341人,「独居房に F 級受刑者2人を収容」76人,「F 級以外の者と共に雑居房に収容」64人,「昼夜独居」56人,「独居房に F 級受刑者1人と F 級以外の受刑者1人を収容」3人となっている。
 F 級受刑者を処遇する上での最大の関門が言語の壁であることは従来も現在も変わりがない。F 級受刑者の使用言語について見ると,平成16年5月31日現在,府中刑務所(F 級受刑者は540人)では29言語,大阪刑務所(同457人)では36言語に上っている。中国語を使用言語とする者が府中刑務所では241人(44.6%),大阪刑務所では235人(51.4%)となっており,最も多い。
 そして,言語の壁を克服する方策の一つとして,府中刑務所(平成7年)及び大阪刑務所(同9年)に国際対策室が設置されている。同室には各種言語の専門職員が配置され,両所に収容されている F 級受刑者の処遇に携わっているほか,全国の矯正施設に対する通訳業務,翻訳業務等の共助にも当たっている。最近における国際対策室による共助の実施件数は,表2のとおりである。共助に係る業務のうち,翻訳共助が圧倒的多数を占めている。平成15年における翻訳共助の言語別内訳を見ると,@中国語(1万6,886件),Aペルシャ語(9,935件),Bポルトガル語(6,311件),Cスペイン語(3,278件),D韓国・朝鮮語(1,539件)の順となっている。
 なお,F 級受刑者を中心とする外国人受刑者について,受刑生活上の困難を除去し,その改善更生及び円滑な社会復帰を促すための施策として,いわゆる受刑者移送条約(平成15年条約第1号)に基づく移送制度が平成15年6月から運用されている。今後,外国人受刑者の送出移送を積極的に推進していく必要があるが,その際に避けて通れない問題として中国人受刑者の存在がある。中国人受刑者は外国人受刑者の中の大きな部分を占めているが(平成16年5月31日現在,外国人受刑者4,593人中1,547人が中国国籍),現在,中国は受刑者移送条約に加入していないため,我が国との間で受刑者移送を行うことはできない。犯罪対策閣僚会議の「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(平成15年12月)でも,中国との間での受刑者移送制度の構築に向けた努力が求められているところであり,その早期の実現が望まれる。



4 覚せい剤受刑者の処遇
 現在,新受刑者の約5分の1,年末在所受刑者の約4分の1を占めているのが覚せい剤受刑者である。このように受刑者の中の大きな割合を占める層について,その再犯の防止を図ることは,刑事政策的観点から見て非常に重要である。しかし,覚せい剤は依存性が高く,一たび依存に陥ると,離脱することは容易でないことがよく知られている。表3は,平成8年以降に出所した覚せい剤受刑者について,覚せい剤取締法違反による再入の状況を見たものである。満期釈放者では40%強の者が,仮出獄者では約35%の者が,出所後5年内に再び覚せい剤に手を出して受刑していることが分かる。
 行刑施設では,覚せい剤受刑者の増加が顕著になった昭和50年代の半ばころから,覚せい剤受刑者に対する特別の処遇が一部の施設で行われるようになり,やがて全国的に実施されるようになった。平成5年4月以降は,覚せい剤乱用防止教育が処遇類型別指導の一環として実施されている。前出の表1で見たように,平成16年4月1日現在,全国の74の行刑施設のうち70施設において覚せい剤乱用防止教育が導入されている。また,平成15年度の実施実績では,68施設がこれを実施し,その参加人員は合計3,562人(支所を含む。)であった。具体的な指導内容は各施設ごとに異なるが,一般的には,1コマ1時間の指導を週1回から月1回の頻度で実施し,全6回ないし12回で1プログラムが完結するというものが多い。指導の担当は基本的に各施設の職員が当たっているが,外部講師を参画させている施設も多く(45施設),精神科医,薬剤師,警察職員,薬物乱用防止に取り組む民間団体のメンバー等を講師として招き,覚せい剤の薬理作用や害悪に関する講話,集団カウンセリング,断薬体験談などを実施している。
 矯正施設における薬物乱用防止教育の充実の必要性は,薬物乱用対策推進本部の「薬物乱用防止新五か年戦略」(平成15年7月)や行刑改革会議の提言でも指摘されているところであり,今後は,特に薬物依存者の治療に関する専門機関や薬物依存からの回復支援に取り組む民間自助団体などとの連携を強化し,その知見も得ながら,既存の覚せい剤乱用防止教育の有効性を検証しつつ,プログラム内容の一層の質的向上を図ることにより,再犯率を目に見える形で下げる努力を続けていく必要があると思われる。



(法務総合研究所室長研究官)

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