日本刑事政策研究会 罪と罰
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平成16年版犯罪白書を読んで
岩井 宜子


はじめに
 平成16年版犯罪白書は,全体で466頁であり,平成15年版が502頁で,重すぎるとの批判にこたえて,活字を少し小さくするなどの工夫を加えて,頁を減らした努力の跡がうかがえる。A4版になって,どんどん重量が増え,持ち運びも不便になったのを憂うものであるが,CD-ROM も添付され,グラフも精密で,具体的な統計数字の変化も巻末資料でとれるため,見やすくなった上,非常に利用価値も高まった。
 最近,急激な社会情勢の変化に伴って,犯罪情勢も予断を許さない状況になってきている。その対策の中枢を担う法務省は,犯罪者の訴追から,施設内処遇・社会内処遇,恩赦に至るまで,その処遇の責任を負い,また,全体を把握し得る位置にある。犯罪情勢を正確に分析し,それを国民に伝える役割をこの「犯罪白書」は担っている。
 もちろん犯罪統計には暗数の存在も考え得るため,特に発生件数の増減については,それを現実の犯罪の発生状況を示すものとは即断できないことは自覚しつつ,社会条件の変化も加味して分析する必要があろう。
 我々研究者にとっても貴重な情報源であるこの白書の伝えるものをできるだけ順に読み取りつつ,今後の情報提供についても,希望を述べたい。

1,平成15年の犯罪情勢
 (1) 一般刑法犯
 まず,7年連続して増加を続けていた刑法犯の認知件数が,前年と比べて1.3%減少し,交通関係業過を除く一般刑法犯の認知件数も減少していることは,喜ばしいことである。
 この減少の主要な原因は,ずっと増加していて,認知件数の61.3%を占める窃盗が6.0%減少したことによるという。殺人・強盗等の凶悪犯は依然として増加していて,予断を許さない。窃盗は,乗物盗,侵入盗ともに減少しているが,侵入盗の手口では,いわゆるピッキング用具を使用した事案は大幅に減少し,サムターン回し(ドリル等で出入り口ドアに穴を開けて器具を挿入し,錠を開閉させるためのつまみを回転させて開錠する手口)や燃焼器具を用いてガラス等を焼き切って侵入する手口が目立つようになったという。非侵入盗では,すりはほぼ2〜3万件で推移しているが,急増していたひったくりが街頭犯罪対策が効果を上げたのか,減少している。乗物盗の減少は,オートバイ・自転車盗の減少によるもので,自動車盗は微増している。窃盗の検挙率は,19.4%と相変わらず低いが,前年よりはわずかに上昇した。窃盗の手口もより巧妙化・専門化していくことがうかがえ,対策にも科学的な検討の必要性が痛感される。
 注目されるのは,器物損壊罪の急増である。巻末の資料によると,平成13年から10万件を超え,15年には,23万件を超えている。検挙率も4.8%と非常に低いこの犯罪がどのような内容で,どのような問題性を持つものなのか,分析をお願いしたいものである。

 (2) 社会一般の注目を集める犯罪類型
 通り魔殺人は,最近10年間ほぼ10件以下で推移し,検挙率も高い。
 略取・誘拐は,平成15年は,284件と増加し,かっては90%以上であった検挙率が81.3%と落ちてきているのが懸念される。
 深夜スーパーマーケット強盗が平成10年以降300件を超え倍増していたが,特に15年は,前年の468件から742件と大幅に増加している。検挙率も34.9%と低い。
 カード犯罪は,平成9年の11,714件をピークに平成15年は4862件と低下しているが,検挙率の低下が懸念される。
「オレオレ詐欺」については,平成15年の月別発生件数が示されているが,半ば以降急激に増加しているのがうかがえ,平成16年には,相当の被害が生じていることが報道されている。「交通事故示談金名目」が1位で,「サラ金等借金返済名目」「妊娠中絶費用名目」と続くという。警戒を徹底する手段はないものであろうか。
 児童虐待に係る事件についても,検挙態様が示されており,近年,強姦・強制わいせつという性的虐待も検挙の対象とされ,顕在化が図られていることが認められる。
 平成12年から施行された「組織的犯罪処罰法」違反は,平成15年は,組織的な詐欺の急増により,平成15年は前年の81人から280人へと急激に増加している。
 新手の犯罪への警戒が欠かせないことを物語っている。

 (3) 特別法犯
 特別法犯の検察庁新規受理人員の86.6%を占める道路交通法違反の減少により,総数は減少しているが,廃棄物処理法違反が特に増加傾向にある。
 平成8年に制定された「児童買春・児童ポルノ禁止法」違反は,急増していたが,15年にはわずかに減少し,1,391人となった。「ストーカー行為等の規制等に関する法律」違反,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」違反は,まだ,わずかであるが,増加傾向にある。

 (4) 交通犯罪
 戦後の交通事故の発生状況についてのグラフが示されているが,昭和44年まで急増状態であった交通事故が昭和50年代前半にかけて急減し,その後また,発生件数と負傷者数は増加傾向にあったが,死亡者数は平成5年から減少に転じている様がうかがえ,興味深い。年齢層別死傷者数がグラフで分析されており,死亡者は,いずれの態様でも減少しているのに,負傷者の増加は自動車乗車中が多いこと,死亡者は高齢者に多く,負傷者は20歳台に多いことが如実に見てとれる。ひき逃げ事件の発生件数が増加傾向にあり,平成12年以降急増していることがグラフ化されている。死亡事故の検挙率は90%以上であるが,重傷事故の検挙率が50.3%と落ちてきているのが懸念される。

 (5) 薬物犯罪
 覚せい剤取締法違反の検挙人員の推移のグラフでは,昭和29年を第1のピークとし,昭和45年以降再び増加に転じ,昭和59年をピークとする第2次乱用期から平成6年まで減少したが,再び増加し,平成9年をピークとする時期を第3次乱用期と分析している。平成15年は14,797人と減少しているが,大麻取締法違反,麻薬取締法違反が増加しており,予断を許さない。MDMA 等錠剤型合成麻薬の押収量が飛躍的に増大しているのが注目される。
 暴力団の関与形態が分析されているが,覚せい剤取締法違反検挙人員全体の41.4%,譲渡しでは50.8%を占め,密売への深い関与がうかがえるとしている。

 (6) 銃器犯罪
 けん銃の押収状況の分析において,平成14・15年は,暴力団構成員等以外の者からの押収量が暴力団構成員等からのものを上回っていることが分析されており,その所持が一般に広まりつつあるのが懸念される。

 (7) 暴力団犯罪
 暴力団構成員等の総数は,平成6年以後の分析においても,微増の状況にあることが示されている。指定暴力団の中でも,五代目山口組,稲川会,住吉会の3団体で全体の72.1%を占めるという。平成15年の検挙人員はわずかに減少した。

 (8) 外国人犯罪
 外国人新規入国者数は,増加傾向にあったのに,平成15年はテロの恐怖や SARS の流行等の影響で減少したとされる。来日外国人の犯罪の動向は,平成12年,13年と減少していたのが,平成14年以降また急激に増加の傾向を示していることが注目される。平成11年の入管法改正による不法在留罪の新設が一時的に影響したものであろうか。なお,平成9年5月の入管法改正での集団密航に係る罪の新設が,集団密航事件の減少につながっているという。
 裁判所における処理状況では,通訳・翻訳人のついた外国人事件は増加傾向にあり,有罪人員総数に占める外国人比は,13.8%という。

 (9) 女性の犯罪
 平成15年版から,女性犯罪の節が復活したのは,喜ばしい。しかし,各種の犯罪者の中に入れるのには,少し抵抗があり,やはり,「性差」による分析の項を作っていただけたらと思う。男性の犯罪の特徴も年齢層別に分析する必要を感じるからである。
 女子刑法犯の年齢層別構成比がグラフで示されているが,20歳未満が平成10年まで増え続け,55.2%に達していたのに,その後減少し,平成15年は43.8%になっているのが注目される。少子化の影響であろうか。それに逆比例して,60歳以上の増加が目立つ。
 罪名別では,殺人は,前年よりわずかに減少し,特に嬰児殺が減少している。また,強盗と放火は増加している。

 (10) 犯罪歴のある者の犯罪
 犯罪者の処遇の成否を知るためにも再犯率の分析は重要である。平成15年の一般刑法犯の検挙人員中に占める再犯者率は35.6%で,9年以降増加傾向にあるという。起訴された人員中の有前科者率は45.6%であるという。有前科者率の高いのは,覚せい剤取締法(66.1%),暴力行為等処罰法(63.3%)であり,殺人も41.1%を占めることが示され,執行猶予・保護観察中・仮出獄中の犯行の割合も示されているのは,貴重な情報である。

 (11) 諸外国の犯罪動向との対比
 この章も,平成14年版から取り入れられたもので,本年は平成14年までのデータであるが,日本は,犯罪発生件数の急増と伝えられながら,仏,独,英,米と比較すると,いまだ最も発生率は少ないことを示してくれている。しかし,他国に比較し,急激な増加率なのが,懸念される。次の章では,日本人の国外における犯罪被害の状況も分析されている。貴重な情報である。

 (12) 犯罪者の処遇
 第2編に平成15年の犯罪者処遇の状況が示されている。検察庁新規受理人員は減少したが,公判請求人員は9年連続で増加している。裁判の章では,平成16年5月28日に公布された「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の簡単な解説もなされ,制度紹介の役割も果たしている。全事件裁判確定人員の表では,死刑は2人だが,無期懲役が117人と100人の大台を超えた。成人矯正では,平成15年12月22日に法務大臣に提出された「行刑改革会議」の提言内容が示され,改革に向けた取組として,受刑者の人間性尊重のため,適正な職務執行を検証するために,保護房収容の際には,終始ビデオ録画を義務化したこと,刑務官の過重負担の軽減のため,矯正管区に職員からの相談窓口を設けたこと,国民に開かれた行刑の実現のために,死亡事案等の処遇関連情報を公表することとしたことなどの改善措置がとられたことが示されている。また,最後に刑事司法における国際的取組の状況の概説があり,犯罪のグローバル化に向けての諸対策が示されている。犯罪者の国外逃亡と逃亡犯罪人の引渡し,捜査・司法に関する国際共助の情報も貴重である。

 (13) 犯罪被害者の救済
 平成14年版以来,第3編としてこの項目が入れられている。平成16年2月に実施された「犯罪被害実態調査」の結果も示されている。依然として,自転車盗が最も多く,乗物関連の被害が多いのが注目される。

 (14) 少年非行の動向と非行少年の処遇
 第4編に少年非行の発生状況と処遇の問題をまとめて記述されている。やはり,少年の問題はまとめて見られた方が分かりやすい。
 少年一般刑法犯は,平成10年をピークとして,いったん低下したが,13年から上昇に転じ,少子化のもと,人口比の上昇は著しい。少年保護事件の総数は減少し,家庭裁判所の終局処理では,不処分とされる者の率も低下傾向にある。少年院新入院者は2.3%減じ,1日平均在院者数も1.4%減じた。少年法改正により,原則逆送制度の影響のもと,少年新受刑者は増加していたが,平成15年は19人減じ,68人であった。やはり,少年受刑者の成り行きが,気になるところであり,インテンシブな調査が行われることを期待したい。

2.特集―犯罪者の処遇
 犯罪白書の特集では,13・14・15年版と増加する犯罪情勢の分析を主題としていたが,今回は,内部の処遇面の実態紹介と問題点の把握に目が向けられたのは,貴重な情報公開であり,透明性の確保のためにも,意味があるものといえる。
 最初に成人犯罪者の処遇の沿革・更生保護の進展から解説されており,全体を知るための啓発書としても有意義である。なお,分析に当たって,現在と比較するための基点として,昭和48年(1973年)を選択している。それは,「わが国の治安は,戦後の混乱を脱した後,経済の発展とともに安定していくが,昭和48年は,高度経済成長が終わりを告げた年であるとともに,一般刑法犯の認知件数及び発生率が戦後最低を記録した年でもある。」という点を根拠としており,犯罪発生を左右する社会的状況にそこに転換点があったかと,一つの視点を示されたものとして意義深い。

 (1) 過剰収容の深刻化
 刑務所収容定員が一定なのに対し,年末収容人員の増加が著しいことが,ここ30年間の対照グラフで了解し得るが,その部分をもう少し拡大した方がより分かりやすかったのではないかと思われる。
 過剰収容に対応するための工夫として,二段ベッドの設置や,独居房に二人入れる等の工夫でしのいでいる様が写真を添えて紹介されており,リアルである。もともと,雑居房の居室はそんなに広くなく,一畳一人なので,布団を敷けば隙間も無くなる。一人多く入れるだけでも大変なことが推察される。
 受刑者の懲罰受罰人員の増加が収容率の増加とほぼ比例していることを示すグラフは,過剰収容がトラブルを引き起こすもとになっていることを如実に示している。
 過剰収容の背景も分析されており,まず犯罪情勢が,実刑が相当とされるような重大事犯が増加していること,また,強盗や生命・身体犯に対する科刑の長期化傾向,累犯傾向の高い窃盗の増加,依然として多い覚せい剤事犯の実刑率が高いこと等が挙げられている。
 私は,科刑の長期化は,処遇期間の確保の意味で望ましいと考えており,むしろ,仮釈放を早期に行うことで対処すべきと考えている。法の上では,三分の一経過すれば可能なのだから,釈放可能なものは早く社会内処遇に委ねる方が更生の実が上がると期待し得る。もちろん,過剰収容は絶対に避けなければならず,ゆとりある施設増設が望まれるが,科刑の長期化がその元凶のようにとらえることは短絡的ではないかと懸念される。

 (2) 受刑者の質的変化
 新受刑者中に占める女子比の上昇(2.0%→6.0%)と外国人受刑者(F 級)の増加,初入者の増加と暴力団加入者の比率の低下傾向,無職者の増加,離別者の増加,高学歴化,高齢受刑者の増加,再入率の高い覚せい剤受刑者が依然として多いことなどが挙げられていて,急速度で,刑務所内の状況が変わってきていることをうかがわせる。特に,覚せい剤等薬物乱用防止教育指導計画も紹介されており,インテンシブな処遇内容も知り得る。

 (3) 我が国の矯正の課題
 外国との比較による職員の被収容者負担率の高さも指摘し,コラムでは,我が国独特の「担当制」も解説されている。PFI 方式による「社会復帰促進センター(仮称)」の計画は,日本の矯正処遇の変化を予感させる。
 また,刑務作業の在り方の見直しとして,作業時間を短縮し,その時間を作業以外の教育的処遇等に充てる施策の試行も紹介されている。
 薬物乱用者対策としては,アジア諸国における強制的処遇の実態が紹介され,参考となる。

 (4) 施設内処遇から社会内処遇への架け橋
 仮出獄の運用状況については,戦後,次第に低下し,昭和57年には,最低の50.8%となったため,法務省は,「仮出獄の適正かつ積極的な運用の施策」を実施し,その後,55−58%で推移しているという。
 満期釈放と仮出獄に分けて,細かい再入状況を示した表を掲載しているのは,得がたいデータで貴重である。再入率の高い覚せい剤事犯と窃盗を除くと,仮出獄者の5年内再入率は22−23%で,保護観察は相応の効果を上げているとしている。
科刑の長期化の傾向があるなら,仮出獄の一層の積極的運用が望まれる。

 (5) 保護観察処遇の動向と課題
 保護観察対象者についても,高齢化,女子比の上昇,貧困・無職者の増加,配偶者と同居する者の比率の低下が見られるとされる。また,特に困難が予測される長期刑仮出獄者に対する処遇の指針が紹介されている。
 「社会内処遇の担い手の変化」として,保護司の無職者の増加,女性保護司の増加,高齢化等が上げられ,「保護司特別調査」の結果が示されている。そこからは,ボランティアとして,積極的に犯罪者の更生を支え,そこに,喜びを見出している姿が浮かび上がるとされ,より,国民の理解を得ることにより,人材確保が大切だとしている。
 また,「更生保護施設」の処遇機能を促進するための諸施策も紹介されている。

おわりに
 今年度の犯罪白書は,コラム欄を設けて刑事政策用語を解説したり,表・グラフも分かりやすくアレンジされていて,我が国の犯罪発生と犯罪者処遇の全体を把握し得るものとなっているとともに,急激に変化する犯罪情勢に対応して,困難な課題を抱えつつ,なされている対応策についても,適切に説明されており,非常に洗練されたものとなっていると評価し得る。
 特に,再入率の数字を詳細に示していることは,貴重な情報であり,研究者にとっても,ありがたいが,科刑の長期化が指摘されながら,満期釈放者の再入率は,仮出獄者に比し有意に高い。ほとんどの者が仮出獄で出られるような運用が望ましいが,そのために,もう少し,細かい処遇グループごとの再入経過などの研究がなされ,提示されることを期待するものである。


(専修大学教授)

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