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殺人・強盗事犯者の保護観察
西川 正和


 平成15年版犯罪白書は,殺人・強盗の凶悪事犯を特集に取り上げているが,殺人・強盗事犯者の保護観察については,事件数の動向と強盗事犯の少年院仮退院者の処遇に触れているのみなので,この機に,殺人・強盗事犯者の保護観察全体の状況を概観してみたい。

1 保護観察新規受理人員の動向
 まず,殺人・強盗事犯の保護観察対象者数を確認したい。
 殺人事犯者の保護観察新規受理人員は,平成14年には,保護観察処分少年が3人,少年院仮退院者が36人,保護観察付き執行猶予者が24人,仮出獄者が299人,計362人で,仮出獄者が圧倒的に多い(保護統計年報による)。近年,仮出獄者は減少傾向にあり,その他の保護観察種別では大きな変動はない。
 同じく,強盗事犯の保護観察新規受理人員は,保護観察処分少年が532人,少年院仮退院者が546人,保護観察付き執行猶予者が58人,仮出獄者が618人,計1,754人である(保護統計年報による)。保護観察付き執行猶予者は,他の3つの保護観察種別に比べて格段に少ない。近年,強盗事犯の保護観察対象者は増加している。

2 保護観察対象者の状況
 上記の平成14年の殺人・強盗事犯の保護観察新規受理人員について,最も基本的な特性である性別,年齢,居住状況,職業の有無を見てみる。
 表1のとおり,女子は,殺人事犯者では全体の15.7%とかなり高い比率を占め,保護観察付き執行猶予者では3割近くに達する。強盗事犯者では,女子の比率は全体で6.1%と低い。
 年齢構成は,殺人・強盗事犯者ともに,保護観察処分少年,少年院仮退院者,保護観察付き執行猶予者,仮出獄者の順に高くなっていて,全体で「15歳以下」から「65歳以上」に至るまで広がっている。


表1 殺人・強盗事犯保護観察新規受理人員の性別・年齢(平成14年)


表2 殺人・強盗事犯保護観察新規受理人員の居住状況・職業の有無(平成14年)


 表2により,居住状況を見ると,少年である保護観察処分少年と少年院仮退院者で,父母と同居している者が比較的少ない。特に,少年院仮退院者では,父母と同居の者が,殺人事犯者の半分以下,強盗事犯者の6割弱に過ぎない。成人である保護観察付き執行猶予者と仮出獄者では,妻・夫と同居している者が少ない。また,仮出獄者では,更生保護施設に居住している者が,中間処遇(後述する)のために居住する者を含めて,殺人事犯者の40.1%,強盗事犯者の26.9%と多い。全体として,居住状況から見て良好な家庭環境にあるとは言えない者が相当数に上る。
 保護観察開始時の職業は,年齢が若く,長期間の施設収容を経ていない保護観察処分少年を除き,3分の2以上の者が無職である。殺人・強盗事犯者の多くが,保護観察開始に当たり,生活の基盤作りから始めなくてはならないことが伺える。

3 保護観察処遇
 殺人・強盗事犯保護観察対象者は,犯した事件のために厳しい社会的非難を受けざるを得ない上に,資質,家庭環境,生活条件等の点でも問題を抱える者が少なくなく,更生のための課題は多い。これら事犯者の更生を指導・援助する保護観察の実施に当たっては,その特性に応じた処遇をする努力が払われている。

 (1) 保護観察期間
 保護観察期間は,表3のとおり,保護観察処分少年と保護観察付き執行猶予者では,ほとんどの者が2〜5年の間にある。これに対して,少年院仮退院者と仮出獄者では,期間の散らばりが大きい。特に仮出獄者では,(6月を超え)1年以内及び(1年を超え)2年以内の期間の者が多いが,無期の者や「3月以内」のごく短い期間の者もいる。

表3 殺人・強盗犯保護観察新規受理人員の保護観察期間(平成14年)


 (2) 重大事犯者に対する保護観察
 少年については,凶悪重大な事件を起こして少年院に在院している少年に対する環境調整及び仮院退院後の保護観察の充実が図られている。その基本方針は,
 @ 少年院における矯正教育と保護観察処遇との一貫性を確保する,
 A 少年の社会性を育て内省を深めさせる指導を行う,
 B 対人関係の持ち方を考えさせ,社会適応を促進する,
 C 家族関係を調整し,家族に対する精神的な援助を行う,
 D 少年のしょく罪意識をかん養し,少年及び家族に対して被害者への対応のあり方について助言指導する,
 というものである。これに沿って,少年院在院中の環境調整及び仮退院後の保護観察において,保護観察官による直接的処遇の積極化,保護観察官と担当保護司との連携の強化,保護観察所と関係諸機関との処遇協議の活発化が図られている。
 特に凶悪重大な事件を起こし,無期刑を含む長期刑(執行刑期8年以上)に付された仮出獄者は,「長期刑仮出獄者」として扱われ,できるだけ,仮出獄当初1月ほど更生保護施設で生活訓練を中心とした中間処遇を受けるように仮釈放され,その後においても,保護観察官による直接的な関与が強化された態勢で,被害者等に対する弁償・慰謝の措置についての指導を重視した処遇が実施されている。

 (3) 分類処遇・類型別処遇
 分類処遇は,再犯・再非行のおそれが大きく,処遇困難と認定された者に対して,特に保護観察官による直接的関与を強めて処遇を実施するもので,殺人・強盗事犯の保護観察対象者にも当然のことながら適用されている。
 類型別処遇は,保護観察対象者を類型化して把握し,その類型に応じた処遇を実施するものである。殺人・強盗事犯者についても,表4のとおり,殺人事犯の仮出獄者には,暴力団と関係のある者及び覚せい剤使用歴がある者が,また,強盗事犯の少年院退院者には暴走族と関係がある者及びシンナー使用歴がある者がかなり含まれている。これら暴力団,暴走族と関係がある者,覚せい剤,シンナー使用歴のある者は,類型該当とされ,各類型に設けられた処遇方針に基づいた処遇を受ける。

表4 殺人事犯仮出獄者・強盗事犯少年院仮退院者の不良集団関係・薬物使用歴(平成14年)


4 保護観察の実施結果
 殺人・強盗事犯の保護観察対象者の成行きはどうなのか,表5により,平成14年に保護観察が終了した者の終了事由を受理時罪名別に見てみる。
 殺人事犯者では,全体で,期間満了と解除・退院による終了を併せると,93.1%の者が無事に保護観察を終了している。取消に至った者は,全体で1.0%にすぎない。
 強盗事犯者では,期間満了と解除・退院を併せると,88.5%の者が無事に保護観察を終了していて,取消で終了した者は9.8%である。
 殺人・強盗事犯者とそれ以外の者とを比較すると,どの保護観察種別においても,殺人・強盗事犯者の方が,取消で終了した者の占める比率が低い。この傾向は,殺人事犯者全体と強盗事犯の保護観察付き執行猶予者について著しい。殺人・強盗事犯者の保護観察の成行きが悪くないことを示している。
 表6は,平成14年に保護観察が終了した,受理時罪名が殺人・強盗の者について,非行・犯罪により保護観察期間中に受けた処分の有無,及びその非行・犯罪名を見たものである。
 殺人事犯者では,処分を受けた者が2.8%と少ない上に,処分を受けた非行・犯罪名は,道交法,窃盗,傷害,業過致死傷等で,殺人・強盗はない。強盗事犯者では,処分を受けた者は11.4%で,処分を受けた非行・犯罪名は,窃盗(3.3%),道交法(2.6%),傷害(1.5%),恐喝(1.0%)等と続き,強盗が9人(0.5%),殺人が1人(0.1%)いる。殺人・強盗事犯者が,保護観察中に殺人・強盗を繰り返すことは皆無ではないが,多くはないと言えよう。

表5 受理時罪名別保護観察終了者の終了事由(平成14年)


表6 保護観察終了者(受理時罪名殺人・強盗)の保護観察中の犯罪・非行による処分(平成14年)


5 おわりに
 以上,殺人・強盗事犯者の保護観察の概要を見たが,特に強盗事犯対象者が増加している状況にあって,今後一層これら事犯者の特性に応じた効果的な処遇の実施が望まれる。とりわけ,少年の対象者について,しょく罪意識をどう涵養するか,また,少年,成人の対象者ともに,被害者への適切な対応をどう指導していくかが課題となろう。殺人・強盗事犯者の保護観察の成行きが悪くないことは,そのための努力にとって希望である。

(法務総合研究所主任研究官)



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