日本刑事政策研究会 罪と罰
トップページ > 刑事政策関係刊行物:犯罪白書 > 平成14年版犯罪白書を読んで
  • 刑事政策関係刊行物
  • 犯罪白書
犯罪白書
犯罪白書一覧へ戻る
平成14年版犯罪白書を読んで
荒木 伸怡


1 はじめに
 犯罪白書は,犯罪や非行の動向や刑事法執行の状況を把握するために便利な本であるから,刑事学の講義を担当する年度には教科書に指定して,内容を批判的に検討しつつ解説などを行っている。犯罪白書は,平成13年版からA4版に変更したことに伴い,従前にも増してグラフや図表を多用して読みやすくしたり,CD-ROMを付録に付けたりして,市民への浸透を意図し始めたようである。政府から市民への情報提供という犯罪白書の基本的性格に照らして,その方向性自体は望ましい。しかし,オリジナルである細かな数字の羅列と比較するとグラフや図表には,おおまかな動向や状況しか把握できないことや,ダレル・ハフ著高木秀玄訳『統計でウソをつく法』(講談社)に記されているような解説を加えざるをえない例が,意図的ではないにしても含まれているなどの限界があり,教科書として使いにくくなってきている。
 平成13年版のCD-ROMは,犯罪白書本体と同内容であった。平成14年度前期は教室において,せっかくだからとパソコン画面を拡大して示しつつ講義を行った。しかし,紙媒体である犯罪白書の当該頁を書画装置を用いて示す方が簡便なので,後期はこの方式によろうと考えている。平成14年版のCD-ROMは,どのような内容のものなのであろうか。

2 犯罪の動向
 平成14年版の犯罪白書の副題は「暴力的色彩の強い犯罪の現状と動向」であり,平成13年版ほどは「増加する犯罪と犯罪者」を強調していない。しかし,平成12年と比較すると刑法犯は,認知件数が増加,検挙件数が減少,検挙人員が増加,発生率が増加,検挙率が減少しており,これらの数値のみで把握すると,状況が更に「悪化」しているように見えてしまうので,順次検討することとする。
 認知件数は,暗数を含む意味での犯罪の発生件数に通報率を乗じたものである。認知件数の増加に大きく寄与しているのは,窃盗,器物損壊等,交通関係業過,および横領であり,これらのみで増加数の94.9%を占めている。窃盗および器物損壊等については,発生件数の増加もあるであろうものの,長びく不況の影響により通報率も上昇しているであろうと考えられる。また,横領の多くは,占有離脱物横領すなわち放置自転車に乗っていて認知され検挙された事案であろう。横領罪の検挙率が97.7%でもあることは,このような事情を物語っている。
 交通関係業過は,保険による対応の必要性から,暗数がほとんどなく,検挙率がほぼ100%の犯罪である。また,死亡者数は減少しているものの,業務上過失傷害の認知件数は増大している。それ故,交通事故による死亡者数を減少させることに加えて,交通事故の増加をくい止め減少させる道路交通政策が求められていると言えよう。なお,交通関係業過における検挙件数の増大が,検挙件数の減少を小さめに見せている。
 検挙件数の減少に大きく寄与しているのは,窃盗と詐欺である。認知件数が増加した窃盗における検挙件数の減少が,検挙率を大幅に下げている。認知件数が減少した詐欺でも検挙件数が減少したことを,犯罪捜査能力が衰退しつつあることの表れと考えるべきなのかも知れない。
 検挙人員の増加に大きく寄与しているのは,交通関係業過,横領,窃盗である。交通関係業過は,前述した検挙率に照らして,交通事故数の増加を反映している。横領は,占有離脱物横領について前述した通り,その検挙活動に警察が熱心であったことを示している。窃盗についてマスコミが主に報道しているのは,いわゆるピッキングの被害である。これを検挙できた場合には当然に余罪があり,警察はその解明に努めるであろうから,検挙件数の大幅減少と整合しない。したがって,窃盗の検挙人員の増加は,それ以外の形態の窃盗の検挙人員の増加によるものであろうか。
 認知件数が最大である窃盗の検挙率は,15.7%にまで落ちた。いささか無責任ではあるが,窃盗被害を警察に届け出ても検挙されず,被害の一部回復すら望めないという情報が市民に浸透して届け出がなされなくなり,認知件数が減少し始めるという事態が,将来起きそうな気もしている。
 検挙率が100%である交通関係業過に加えて,上述した窃盗を除く一般刑法犯の検挙率も,44.2%に低下している。ただし,この低下には,器物損壊等の検挙率低下も影響しているであろう。
 犯罪の動向の把握は,総数で行う他に,認知件数が大幅に異なる罪名別に行うことが必要である。その意味で,主要罪名別のグラフは有益である。平成14年版からは,認知件数・検挙件数・検挙人員に加えて,検挙率・女子比・少年比を載せている。検挙率の推移を載せ始めたことにより,捜査方法やその変化をも読み取れるようになり,興味深い。ただし,例年通りではあるものの,件数・人数の尺度がそれぞれの罪名のグラフで異なり統一されていないために,比較が困難であると共に,当該変化の意味ないし重要性について,誤解を生む恐れがある。

3 犯罪者の処遇
 既決拘禁者の収容定員が48,911人でしかないのに,平成13年末の収容人員は53,647人,平均収容人員は51,668人にもなっており,刑務所は過剰収容である。その原因は,自由刑の実刑者数の増加,刑期の長期化など,いわゆる厳罰化であろうと推測される。
 刑事法研究者には応報刑論者が多いし,検察官・裁判官にも応報刑論者が多い。しかも,応報刑論は市民の共感をえやすい。しかし,矯正局監修の『喜びと苦しみと』などを読む限りにおいて,刑務所における処遇内容はもちろん刑務官の意識も,社会復帰刑論のように見える。受刑者を重く罰することが,出所後の再犯の防止に有効であるとは思われない。なお,1985年の経験でしかないものの,アメリカのあるジェイルを参観した際に,過剰収容のブロック内における受刑者と看守との緊張度が,受刑者数を定員内に抑えている他のブロックよりもとても高かったことが,思い出される。
 平成8年出所受刑者の平成13年末までの再入率が,満期釈放で59.1%,仮釈放で39.8%であることを,刑務所における矯正教育の失敗と見るのか成功と見るのかは,立場により異なるであろう。なお,過剰収容状態が,すなわち,矯正教育を必要十分に実施しえないであろうことが,この数値を近い将来に変えるかも知れない。
 矯正教育も教育である以上,「衣食足りて礼節を知る」があてはまると思われる。ところが,この点の基本・重要情報であり,平成12年版では成人受刑者一人当たり432.02円であった1日の副食費の額の記載が,平成13年版で消え,平成14年版でも復活していない。厚生省系施設よりも大幅に低い額であることの是非は別としても,受刑者の生活の一端を窺い知ることのできる数値自体は,犯罪白書に載せるべきであると考える。なお,一人1ヶ月平均で4,215円である作業賞与金の金額,同じく5,297円である自己労作収入の金額は,この意味で,犯罪白書に載せ続けるべきである。
 収容分類級とならんで分類処遇制度の柱の一つであるはずの処遇分類級の内訳が,近年の犯罪白書に載せられなくなっている。生活指導を必要とするG級と,経理作業適格者であるN級が多いという,矯正局にとり当然の情報であっても,犯罪白書の読者にとり受刑者の質などを知りうる貴重な情報であるから,掲載を復活すべきであろう。
 平成12年に大幅増加した不服申立件数は,平成13年に更に増加している。それ故,被収容者による権利主張を,情願を中心とする現行制度のみで処理していて良いのか,篤志面接委員や教誨師と比較して辛口の民間協力となるであろう民間人による委員会制度を創設すべきかなども,将来の検討課題の一つであろう。
 行刑施設一日平均収容人員のうち未決拘禁者は11,323人であるから,代用監獄における一日平均収容人員11,554人とほぼ同人数である。したがって,「未決拘禁者は,いわゆる代用監獄に拘禁される場合もある」という記述は,代用監獄廃止要求に配慮したのであろうものの,あまりにも不正確である。代用監獄制度を存続させたいのであれば,「未決拘禁者は,いわゆる代用監獄に拘禁され,起訴後に拘置所へ移送される。逮捕時から拘置所に拘禁される場合もある」と事実をそのままに記載することが,代用監獄制度の存続について市民の理解をえるための,第一歩であろう。

4 犯罪被害者の救済
 犯罪認知件数の増大に伴って,被害者数や被害発生率も増大している。それ故必要なのは,被害者の救済制度の充実である。「刑事手続と被害者」について,検察審査会の運用を含め,簡潔で要領の良い記載がある。しかし,被害者救済のために,刑事手続上の対応はその一部分でしかありない。犯罪被害者給付金支給制度は,実質的な救済策の1つとなりうるものの,支給裁定総額を支給裁定者数で除した平均金額は,遺族給付金で217万円,障害給付金が547万円でしかない。申請者数・支給裁定者数共に少ないのであるから,遺族給付金の金額を自動車損害賠償保障事業の支払額(平均1,998万円)程度に引き上げるべきであろう。
 全国の検察庁に被害者支援員が配置されている。被害者への実質的な救済策としては,被害者支援員の現在の業務以上にきめ細かな支援が必要であると思われる。現在の業務を超える支援は,政府が直接に行うよりも,各地に生まれつつある被害者支援機関・団体に委ねて,必要な費用を補助することが望ましいと思われる。
 国際犯罪被害実態調査の一環として法務総合研究所が平成12年2月に面接法で実施した,「犯罪不安と防犯意識に関する実態」の調査結果によれば,「居住地域における夜間の一人歩き」には約8割が,「自宅に夜間一人でいること」には9割以上が,安全と回答している。しかし,「不法侵入の被害に遭う不安」には3割以上が,あり得ると回答している。防犯意識に関して自宅の防犯設備数は,平均0.6種類であった。これらの回答の国際比較は,例えば回答を点数化して各国の平均値を求めるなども不可能ではないものの,どのように点数化するかに異論がありうる。この意味で,各国の回答を帯グラフで示して判断を市民に委ねた載せ方は,望ましい。日本の防犯設備数の低さは棒グラフから読み取れるし,防犯設備と不法侵入との関連のプロットからも読み取れるが,各国の数値そのものをも示して欲しかった。

5 少年非行の動向と処遇
 少年刑法犯の検挙人員と人口比が増加している。また,交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員も増加している。しかし,少年比は低下を続けており,平成13年には46.0%となった。なお,共犯者の多い少年非行が件数建てでなく人員建てで示されていることが,少年非行の多発という印象を市民に与えがちである。
 少年刑法犯検挙人員において,窃盗は60.1%,横領は21.2%である。ただし,横領の9割以上は遺失物横領,すなわち,自転車盗などでしかない。少年による凶悪犯の検挙人員の中では,強盗が高水準を続けている。
 平成12年版までの犯罪白書には,同年齢人口千人当たりの検挙人員である「非行少年率の推移」のグラフが掲載されていた。どのコホートにおいても非行少年率が低下して成人を迎えることを示すこのグラフが,副題と合わないためか平成13年版では削られたものの平成14年版では復活しており,学生にコピーを配付しなくて済むようになったと,ほっとしている。
 「非行少年処遇の流れ」の中に,少年法25条2項3号による補導委託先を,少年鑑別所と同様な形式で,載せるべきである。建前としては調査の一環である補導委託先における「処遇」が,少年院への新収容者を減らす関係にあり,載せたくないであろうことは理解できる。しかし,少年鑑別所における「意図的行動観察など」を明記していることとの対比で,これが公正な扱いであるとは思われない。
 いわゆる少年法改正に伴い,殺人および強盗の逆送率が2.0%と3.2%上昇している。逆送少年の罪名別検察庁処理人員の表に,「家庭裁判所に再送致」という項目(少年法55条)があり,交通関係業過が14人,道交違反が10人となっている。私は,故意による被害者死亡事案の原則逆送規定制定に伴い,家庭裁判所へ再送致される一般事案を期待していたが,皆無であった。
 少年院の一日平均収容人員が4,807人にも達しており,新収容人員は6千人台を保っている。それ故,少年院の収容定員は載っていないものの,美保学園や赤城少年院での事件の背景に,過剰収容がありそうに思える。少年院の増設という対処方法よりも,いわゆる厳罰化の風潮に棹さして少年院送致人員を厳選・減少することにより,少年院における矯正教育を成り立たせることが,家庭裁判所裁判官に求められていると考えている。
 少年院における分類処遇過程とその細分を示す表は,掲載されている。しかし,それぞれの課程に分類された人数なり比率なりが掲載されていない。これらをも掲載して,処遇内容を市民が推測しやすくすべきであろう。

6 暴力事犯の動向と対策
 平成14年版の特集は,「暴力事犯の増加,暴力事犯の動向と対策」となっている。すなわち,強盗,傷害,暴行,脅迫,恐喝,強姦,強制わいせつ,住居侵入および器物損壊を,暴力的色彩が強く,住民に不安や恐怖を与え,日々の生活を脅かすとして暴力的9罪種と呼び,それらの増加要因や社会的背景を分析している。窃盗および暴力的9罪種を除く一般的刑法犯認知件数はほぼ横ばいであるのに対し,暴力的9罪種認知件数は急上昇している。しかし,窃盗・交通関係業過に次いで認知件数の多い器物損壊を暴力的9罪種に含めているために,その動向が強く反映しているのであろう。それ故,認知件数の増減の時期を視点に暴力的9罪種を3類型に分けうるという発見と指摘を,以降に記述されている分析の基礎とすべきであったと思われる。また,細かな分析は,それぞれの罪種毎に行わざるをえないであろう。
 暴力的9罪種の犯罪数自体が増加しているであろうことは否定できないものの,認知件数の急上昇を生むであろう警察による検挙方針の変化や,被害者の通報行動の変化すなわち暗数率の減少の影響も,大きいと推測される。したがって,暴力事犯の動向を把握するには,これらの要因の影響を取り除いた分析方法を工夫する必要があると,私は考えている。
 「体感治安の深刻化」に対応しようとした,今年版の特集の方向性は正しい。マスコミ報道を通じてではない「体感治安の深刻化」であれば,近隣地域で起きた連続放火,連続ひったくり,ピッキングなどにより生じるのであるから,地域防犯活動の活性化にも通じうるテーマであろう。この点にも配慮した,市民ボランティアをも巻き込みうる工夫が欲しいものである。

(立教大学教授)

犯罪白書一覧へ戻る